90、砂漠での再会
「おぉ、それらしくなってきたな」
騎獣が踏みしめる地面、その感触から固さが完全に消えたことに気づいて歩みを止める。
山を越えて二日目。昨日はサソリの後にも体長2メートルを優に超える六本足の大トカゲやバランスが悪そうな三頭身のハイエナっぽい獣など数種類の生き物に出会い、植物をまったく見かけないような荒野にも豊かな生態系がありそうなことに驚かされた。
そして今日も引き続き大まかに南下を進めていると、ゴツゴツした岩石砂漠の風景が少しずつ砂っぽくなり。昼を過ぎて間もなく、足下は砂漠という言葉からオレが受けるイメージそのままの砂の海となり、遠くには砂丘も見えるようになっている。
(でも、思ったより早かったな)
昨日ヒカリから聞いた話では、元の世界でこういった砂の砂漠は全体の二割程度しかなく、大半は岩盤がむき出しの岩石砂漠であるらしい。もちろん、この世界でもそうであるとは限らないし、たまたま砂の砂漠が近い所だった可能性もある。そして、寄り道していたとはいえ、人目がないのをいい事にかなりの速度で移動していたというのもあるだろう。だがしかし、それでもまさか岩石砂漠を抜けるのに二日もかからないとは思っていなかったのだ。
「……アキラさんの世界の書物で存在は知っていましたが、まさに砂の海という感じですね」
と、オレの呟きに応えてくれたリリィとしばらく砂漠を眺め、再び歩み出す。
(そういえば、いつ頃からだっけ)
リリィからは長いこと「ご主人様」と呼ばれていた気がするのだが、いつからかヒカリ以外の嫁たちと同じように「アキラさん」と呼ばれるようになっていた。
最初はどこか一歩引いた感じだったリリィだが、革命に協力することになる直前くらいから少しずつその様子が変わり、今日なんて騎獣でオレの前に横乗りになり、胸に頬をつけてしっかりと抱きついていたりする。
頼れるお姉さん的なリリィが、要所要所でしっかり甘えてくれるようになったのは素直に嬉しい。
そんなことを思っていると。
「……アキラさん、どうやら地面の深い所に気配があるようです」
と、甘えつつも索敵は怠っていないらしいリリィからの報告が。
その言葉を受け、地表より上の方へと傾けていた意識を下に向けると、確かに気配があるのを感じる。しかも、強いものではないが、その数はかなりのものだ。
「ん〜? どういうことだろうね」
「……もしかしたらですが、地底に洞窟などがあるのでは?」
最初にリリィが言った通り気配はかなり深い所にあり、少数の活発に動く気配以外は全く動く様子はなく。さらに、動かない気配はいくつかの集団に別れて点在しているのだが、活発な気配の動きを見ていると、その集団の間に壁などがある感じはしない。
「なるほど、地底に広がる大空洞説か、後で潜ってみるのもいいかもね」
「……ふふ、アリスとメアリが特に喜びそうですね」
『防御障壁』で十分な空間を確保し、そのまま魔物の死骸を地中に沈めて処理する要領で潜れば、わざわざ洞窟の入り口を探す必要もない。などと思っていたのだが。
「……アキラさん」
「うーん、どういうことだろうね」
進み始めて間もなく、活発に動いていた気配がこちらへ向かってきた。それなりにばらけて砂漠に踏み入った他の嫁たちの方へも、それぞれ向かっているようだ。
しかし、その細長い気配が『身体能力強化』以外の魔法を発動している様子はなく、緩やかに方向を変えて直前までと同じようにうねりながら昇ってくることから、間に岩盤などの固い地層があるとは考えにくい。どうやら地底大空洞説は間違っていたらしい。
(ということは、あの深さまでふかふかな砂になってるってことかね?)
これまた昨日ヒカリから聞いた話では、過去に砂漠だった地層などから推測される元の世界の砂漠の深さは平均2〜300メートル程らしい。しかしこの世界では、最低でも気配がある深さ2キロメートルまでは砂の層があるとみていいだろう。深い所では圧力で固まりそうなものだが、このあたりも魔法がある異世界クオリティということなのか。
それはともかく。
〈アキラさん、どうしましょうか?〉
〈いったん様子見で、明らかに敵対するようなら各個で撃破しちゃって〉
〈〈了解!〉〉
かなり遠くにいるアリスからの念話に応えると、他の嫁たちからも元気な返事が返ってきた。
ひょっとしたら友好的な接触を求めている存在であるかもしれないと考えての消極的な対応だが、先にも述べた通り強い気配ではないので違っていてもオレたちなら問題ない。
「……まぁ、そうだよね」
そして案の定、立ち止まっていたオレたちの真下から喰らいついてくるという、友好的とは程遠いファーストコンタクト。
太さ1〜2メートルほどのびっしりと牙が並んだ丸い口が三つ飛び出すと、全長10〜15メートルほどの乾いた肌色の細長い体が弧を描いて再び地中へと消えて行った。
空中で鑑定してみたところでは魔物の名前は大ミミズで、他の嫁たちの所にも二、三匹ずつ行っている。
「……これは、美味しそうではありませんね」
飛びのいた騎獣の上で相変わらずオレに抱きついたままのリリィは、今回は戦うつもりはないようだ。この程度の相手なら手出しする必要はない、という信頼の表れなのだろう。
「さて、どうしたものかな」
実際、殺るのは簡単なのだが、かなり遠くからこちらを捕捉していたその手段は気になるところだ。目視する前から気配だけで細長いのが分かるくらいにはしっかり『身体能力強化』をしているが、だからと言ってこちらと同じように気配を感じているのかはまた別問題。
ということで。
(オレのファンタジー知識では、地中に潜る系は音で探知してるはず。……『風弾』)
ぱっと見、目にあたる器官はなかった。試しに騎獣の足下から等間隔に、地面に向けて連続して風の弾を撃ちつけてみると、大ミミズは少し迷う様子を見せた後、三匹とも見事につられて十発目の地点へ突っ込んでいった。
〈ふむ、音に反応したのは間違いないと思うんだけど……〉
〈……ええ、視覚を有していないのは確かなようですね。迷いを見せたのは、この距離ならば私たちの心音さえも聞こえてるのではないかと〉
〈なるほど。あとは、食べ残しをなくすために臭いも感じている可能性があるくらいかな?〉
〈……そうですね。そして、それらを感じつつも、結局はより大きな音の方へと向かったのでしょう〉
と、リリィと念話で話しながらも引き続き『風弾』で大ミミズを誘導してみたが、おそらく予想通りなのだろう。さらに、何度空振りしても懲りない様子から、高い知性は持っていないと思われる。
もし気づかなければ、最初に地中からの不意打ちを受けるので厄介な相手なのかもしれない。しかし、探知出来るオレたちにとっては何の問題もないだろう。
(まぁ、こんなとこかな。……『風刃』)
知りたいことは知れたので、無数の風の刃によって三匹いっぺんに輪切りにして戦闘終了。
〈で、何か分かりましたか? アキラさん〉
直後に、その声だけでワクワクしているのが分かるアリスが念話で聞いてくる。
他の嫁たちもだが、調べるのはオレに任せておけばいいと思っていたのか、早々に終わらせてこちらの様子を窺っていたらしい。
〈名前は大ミミズだね〉
〈むむ、さらに環境が厳しくなったので期待していたんですが、やっぱり名前があるんですね〉
例によって、名前がついていたのを残念がるメアリ。
〈で、ほぼ音だけでこちらを認識していると考えて良さそう〉
〈まあ、地中に住む系統としては妥当な感じね〉
そして、先ほどオレが思ったようなことをヒカリが言うと、他の嫁たちも同意するように頷いている。
漫画などによって基本的なファンタジー知識は同レベルになっているので、連想する事も同じだったらしい。
〈まぁ、話し声くらいなら問題ないと思うけど、砂漠にいる間は騎獣の足下に『遮音結界』を張って移動しようかな〉
〈〈はーい〉〉
そんな感じで再出発したが。
〈そうなると、今度は地中にある動かない気配が気になりますね〉
〈はい、すごく気になります!〉
アリスとメアリの好奇心コンビは、その後も地中に感じる広く分布した気配への興味を抑えきれない様子だ。
〈ふむ、最初は大ミミズの子供かと思ってたんだけど、捕食されないように動きを止めている他の生物の可能性もあるのかな?〉
〈昼間に大ミミズが活発に動いてたって事は、捕食される側の他の生物は夜行性かもしれないわね〉
オレの推測にヒカリが応えると。
〈あ、それなら今日この後、夜も移動してみるのはどうですか?〉
〈〈賛成〜〉〉
フェリの提案が受け入れられ、方針が決定したようだ。
ーーーーーー
「圧倒されますね」
そして夜。
遮る物のない360度の地平線より上を覆う満天の星は、砂漠の乾燥した空気のせいもあってか手を伸ばせば触れられそうな気さえしてくる。以前、嫁たちと山頂から星を見たことがあったが、その時よりもよほど近くにあるように感じられた。
「いやー、凄いとしか言いようがないね」
今にも降ってきそうなその星空に、オレの前に乗るカーラが先に述べたように、ただただ圧倒されるしかない。
「かなり南下したせいでしょう、同じくらいの季節ですが、以前に山頂で見た時には地平線の向こうだったはずの星空が見えてますね」
意識して見れば違うのが分かるものですね、と騎獣の上でオレに背を預けているカーラ。
羽織っているマントの機能によってかなり緩和されているが、それでも昼間は暖かかった顔に感じる空気が今は涼しいくらいになっている。周囲の気温はかなり下がっているのだろう。
「もっと南下すれば、まったく見たことない星空になるんだろうね」
「ええ、楽しみです」
普段、日中に移動している時には本を読んでいることもあるカーラ。しかし、月が出る前の星明かりだけでもかなり明るく感じるが、さすがに読書ができるほどではなく、今はただただ魅入られたように星空を見上げている。
読書をしていないとはいえ、いつも通りの集中力で星を眺め始めたので、いつも通りすべり落ちないように片手でしっかり抱き寄せて固定。
(やれやれ)
日中は『遮音結界』のおかげか最初の大ミミズ以降は襲われることはなかったが、その代わりに他の生物に出会うこともなく、シェルターでの夕食後に少し休憩してから再出発して今に至る。
〈やっぱり他の気配は夜行性みたいですね〉
〈逆に大ミミズの方は動かなくなっているようです〉
『遮音結界』なしで動きまわっているアリス、メアリのコンビからの報告にある通り、昼間は動いていなかった気配が活発になり、大ミミズがこちらに気づいて上がって来る様子もない。
「んー、でも他の気配が上がって来てくれないと姿を見れませんね」
「むしろ、音を立ててる私たちから離れて行ってる感じよ?」
「むむむ、想定外です」
と、オレを挟んで左右で会話するフェリとヒカリ。
アリス、メアリのコンビ以外は固まって移動中なので、念話ではなく普通に会話している。
「うーん、星明かりに照らされた砂丘の連なりは綺麗ですけど……」
ある程度動き回った後はアリスとメアリのコンビも合流し、結局は全員でひと塊りになって移動することになった。
風も穏やかなため、騎獣の足音とオレたちの話し声くらいしか音がない。圧倒されるほどに美しい夜の砂漠の風景は、無音の状況も手伝ってか、この世界にオレたちだけしか存在しないような、そんな気持ちが抑えきれない。どうやら、アリスとメアリの好奇心も寂しさには勝てなかったようだ。
と、そんな感じで進んでいると。
「……アキラさん、左手に異変です!」
フェリの後ろに乗っているリリィからの警告。
「おぉ……、なんだあれ」
促された先には、はるか遠くから天まで届くような壁が迫り来る様子が見える。
「うわー、砂嵐ってやつかしら。どうするの?」
「あぁ、なるほど砂の壁なのか。どうしようかね」
ヒカリに言われて納得したところで。
「地中の気配が一度に上がって来るようです!」
今度はアリスからの警告。しかしその時には、オレの探知範囲に入った砂嵐のあたりで地中から飛び出す気配に気づいた。
(なるほど、あの砂嵐は飛び出したやつらが巻き上げてる砂で出来てるってことかな?)
であるならば。
「よし、『防御障壁』を張ってその中から観察しようか」
ということにする。
嫁たちもすぐに砂嵐の中の気配に気づいて納得してくれた。
そして、騎獣は召喚魔法を解除し、下半分に砂を取り込んだ球形の『防御障壁』の中で待っていると。
「……お、おぉ」
「「わぁ……」」
押し寄せる砂の壁にあっという間にのみ込まれ、『防御障壁』の上端にある『光球』に照らされた狭い範囲しか見えなくなる。
(これは……、魚?)
周囲では無数の気配が砂から飛び出し続け、『防御障壁』にも下から複数の気配が当たって行く。そんな中、見える範囲内をキラキラと明かりを反射する体長30センチほどの細いものが多数通り過ぎて行く。
ぱっと見は銀色一色のサンマっぽい。それが砂を巻き上げながら飛び上がり、どこまでも高く昇っているのだ。
〈えーと、名前は短刀砂魚だってさ〉
〈これにも名前があるとは……、手強いです〉
周囲が砂の擦れる音などでうるさいので念話で伝えると、これまた例によって残念がるメアリ。
そんな感じで、ファンタジー世界ならではの一大スペクタクルに感心していると。
(……え? 何これ!)
地中のはるか遠く深い場所から急速に迫りくる強大な気配。
〈みんな! 走れ!〉
〈〈は、はいっ!〉〉
飛び上がる短刀砂魚を防ぐために進行方向の直線上の地中に『防御障壁』を伸ばし、オレの声に即座に反応した嫁たちと砂嵐が進む方向に対してほぼ垂直に全力で走り出す、……が。
(……あ、これ間に合わんな)
その速度も問題だが、気配から感じる実体の想像を絶する大きさから、このままではマズいと悟る。
〈みんな! 止まれ!〉
〈〈はい!〉〉
すでに全員がその気配を感じているはずだが、それでもオレの理不尽な言葉に即座に従ってくれるあたりに最大限の信頼を感じ、こんな状況でも嬉しくなってしまった。
(その信頼には応えないと、ね)
『光速行動』を発動し、嫁たちと精霊ズの使い魔にも『慣性制御』と『流体制御』をかけて環境からの影響を排除すると、使い魔を懐に入れて二人ずつを両脇に抱え、遠い安全地帯との間を行ったり来たり。
そして。
「「――うわっ、と?」」
「ほら、みんな。そろそろだよ」
嫁たちの体感では瞬時に数キロ先まで移動して砂嵐の中から出ているので、そんな擬似的な空間転移に驚き慌てる嫁たちに指し示す。その先には、砂漠を突き破って現れ、砂嵐そのものを飲み込むかのように高く高く飛び上がる雄大な姿。
「「わぁ……」」
巻き上げられた膨大な量の砂が星明かりに照らされてキラキラと輝きながら舞い落ちる中、数キロ離れていてもなお視界の半分近くを占めるほどの巨体が砂嵐の上端を飲み込んだところで身を翻し、その大きさゆえに妙にゆっくりに見える動きで再び砂漠の中へと消えていく。
「……白鯨」
砂の滝が奏でる轟音が消えて再び訪れた静寂の中、誰ともなくこぼれた言葉。
つい今しがた目撃した巨体。平たい涙滴型の体の丸い方に大きな口があり、その口から尾の方まで丸みを帯びて縦線の入ったお腹。ぱっと見は、横に広がったシロナガスクジラという感じ。
そう、それは以前に一度、はるか高空を悠然と泳ぐ姿を見たことがある白鯨に間違いない。
「ど、どういうことですか!?」
「え? え? 砂漠が住処なの?」
「あ、あわわ」
「……あれが、白鯨」
「おぉ、ファンタジー……」
「「すごい……、綺麗……」」
「あぁ……、これで夢がまた一つ」
嫁たちは興奮のあまり、誰が何を言っているのか分からないくらいに騒がしい。
それはともかく、今のは間違いなく白鯨の食事シーンだったと思われる。そして、オレたちが魔物を地中に埋める際に使っている魔法に近いものを発動していたようだが、砂漠の中から現れて再び砂漠の中へ消えていったということは、この砂漠の中が白鯨の生息域であることも間違いないのだろう。
そして、オレたちが確認したのは短刀砂魚と白鯨だけだが、きっと他にも様々な生物が砂中に生息しているに違いない。この砂の海は水の海と同様、その内に豊富な命を抱えているのだ。
「……ふう。いやー、すごいものを見たね」
嫁たちだけでなく、オレ自身も少し落ち着いたところで声をかける。
「本当に、まさかこんな所で出会うとは思いませんでしたね」
「空を泳いでいる以外の姿を見た人は、きっととても少ないはずです」
その旺盛な好奇心が満たされたのか、アリスとメアリはとても嬉しそうだ。
それからも、わいわい騒がしく全員で意見を交換していると。
「でも、ここに住んでるのなら、どうして空を飛んでるんでしょうね」
「あ! ここ以外にも砂漠があるんじゃないかな? それで、そことここを行ったり来たりしてるんだよ!」
ぽつりともらしたフェリにヒカリが答え。
「おぉ! それなら、恋人に会いに行ってるのかも!」
「「きゃ〜」」
さらなるフェリの発言に他の嫁たちが嬌声を上げる。
そのノリにオレは少し置いて行かれた気がするが、ヒカリとフェリの推測はなかなか説得力があった気がする。
(ふむ、竜の領域の向こう側か、もしくはここ以外に知られざる大陸があるかもしれないってことかな)
であるならば。
〈セバス、マリー、アマテラス、少し手伝ってくれる?〉
〈〈ええ、喜んで〉〉
壮大な白鯨のロマンスを妄想し合ってさらに盛り上がる嫁たちを横目に、使い魔を通して精霊ズに声をかけると、オレ自身を含めて現在地からそれぞれ四方向を担当して無数の小さな使い魔を放射状に飛ばす。
(さて、何が見つかるかな)
精霊ズだけでなくオレもだが、各国の情報収集や治安維持などにも使っているので今回の調査にそこまで多くの使い魔は放っていない。しかし、十分な時間をかければ、他の砂漠や新大陸などの大きなものを探すことは可能なはずだ。
(まぁ、オアシスはないだろうけどね)
今現在の情報から予測されているこの砂漠の広さくらいなら詳細に調べられるはずだが、白鯨の食事シーンを考えると砂地の場所に水が溜まったり植物が繁茂したりする余地はないと思われる。
(ということは……)
過去の南下部隊はオレたちと違って水の運搬量に限りがある上に、オアシスなどがなければ途中で水を補給することは出来ないのだから難易度が跳ね上がる。
そして、たとえ白鯨にそのつもりがなくとも、食事に巻き込まれた場合、飲み込む範囲は直径で1キロ近くあった上、普通ならば砂嵐と地中から飛び出す生物に足を止められているのだ、まず逃げることは出来ないだろう。
(やれやれ、そりゃ南下が成功するはずないよね)
しかしそうなると、シェルターを設置する場所も何か考えないといけないのではないか。もし運悪く白鯨に丸呑みされてしまった場合、体内から排出されるのを待つべきだろう。さらに、もしも排出されるのが地中だった場合、そこから地上を目指すことが出来ないということはないが、それはとても面倒くさそうである。
それならば、久しぶりの《創造》の出番だ。
(あー、そうだな。……オレのアイテムボックスのアビリティの亜種、か)
通常空間に無形のマーカーを残して別の空間への入り口を作り、時間停止がない代わりに生物の出入りが出来る感じだろうか。あとは、その中から通常空間の様子を知ることができて、ある程度そのまま移動できるようにしておけば問題ないだろう。
(うーん、アビリティの名前はマイルームでいいかな)
そして《創造》完了。
他人を一時的に中に入れる場合も考え、広大な内部空間を好きに区切れるようにもしておいた。
「よし、じゃあそろそろ出発するよー」
「「はーい」」
まだそれほど夜遅くはないので今からシェルターで休んでもいいのだが、全員が興奮しているので眠るどころではない。それならば、当初の予定通りに移動した方がいい。
……と思っていたのだが、そのあとは嫁たちがオープンチャンネルの念話で引き続き語り合うロマンチック妄想を延々と聞き流すはめになり、精神的に寂しい思いをしながら南下することになってしまった。




