87、思い出めぐり
ちょっと箇条書きっぽくなっておりますがご容赦ください。
「……この辺でいいかな」
旅立ちから二十日。ログルス王国を馬車でのんびり横断し、ウルーク王国に入った。
これからの予定を全員が楽しみにしているようだが、中でも。
「おっと、いよいよね」
「「楽しみです」」
「わくわくしますね♪」
ヒカリと双子とメアリ、そしてニコニコしているだけのリリィの期待が特に高いのが伝わってくる。
(期待値的には、メアリ、双子、ヒカリ、リリィの順番かな)
そんなことを思いながら嫁たちにシェルターへと入ってもらい、『光速行動』を発動。それなりに距離がある目的地にはすでに『使い魔』を送ってあり、この三年の間に『光速行動』の熟練度も上がっているので、迷うことなく一直線に、オレ自身の体感でも数分で駆けることができる。
そして。
「……ここが、始まりの場所なんですね」
まばらに雲が流れる青空の下、見渡す限りの草原の中、真っ先にシェルターから出てきたアリスの感慨深げな一言。
(確かにここから始まったんだけど、その表現はちょっと気恥ずかしいかも)
アリスの言葉が聞こえていたのか、後から出てきた嫁たちも妙に感慨深そうにしている様子から目をそらす。そんなことをしながら見回すここは、オレがこの世界に降り立った場所。優しく吹き過ぎて行く風と、それによって揺れ動く草の様子が、妙に懐かしく感じられる。
「……ほら、そろそろ行くよ」
声をかけ、召喚魔法で地を駆ける鳥型の騎獣を四体作る。
メアリがほとんどログルス王国しか知らず、双子もそれにタオロン王国東部を加えた程度しか知らないし、他の嫁たちも、それぞれと知り合ったタイミングによって見て来た景色に違いがある。そこで、改めて全員で風景を共有するためにも今一度オレがこの世界で辿った軌跡をなぞろうと、まずはここに来た。
(……何があるか、ホントに分からないものだよね)
これはアーサーに出会って革命に協力する前から、ネシアス帝国を通り抜けたらやろうと密かに考えていた事でもあった。それがまさか、その三年後に嫁がさらに一人増えてからやる事になるとは、その当時には夢にも思わなかった。……まぁ、夢にも思わなかったと言うなら、嫁が八人というのが一番ではあるのだが。
(我ながら、こうも惚れやすいとは思ってなかったなぁ)
別にそれを後悔しているわけではないのだが、オレの独占欲のせいもあってパーティ内の男女比に大きな偏りが出来てしまい、男性視点の意見が通り難くなってしまうのが困りものだ。
騎獣に跨がるオレの前にいそいそと横向きに乗り、ぴったりくっつくメアリにほっこりしながらそんなことを思う。
「ふふふ、なんだかアキラさんに助けられた時みたいですね」
「え、えーと……、むぐ」
頰を染めながらメアリが言うのは、ドラゴンに食べられそうになっていたのを助けた直後、お姫様抱っこしていた時の話だろう。当時はただの保護対象でしかなかったのでかなり雑な扱いをしたような覚えがあるのだが、それはメアリの中では美化された思い出にしておきたいらしい。いちおう指摘しようとしたのだが、オレの口を摘むという方法で止められてしまった。
(女心って難しいね)
そうこうしていると、アリスとフェリ、カーラとリリィ、そして前後を双子に挟まれたヒカリで騎獣に乗り分けて準備完了。精霊ズの使い魔は、オレとアリスとリリィの肩の上を最近の定位置にしている。
今回はずっと騎獣で移動する予定で、オレと乗るメンバーは日替わりで交代するらしい。以前そうしていたのは、ジャバウォックを倒した後からリリィが仲間入りするまでの間くらいだったはず。なんだかこれも、妙に懐かしい。
「じゃあ、出発!」
「「おー!」」
拳を突き上げると、同じように拳を突き上げてくれる嫁たち。
これからしばらくはオレにとって二度目の景色が多くなるが、嫁たちがいるというだけでも退屈することはないだろう。
ーーーーーー
まずは西に向かい、街道に出たところで南下。テルミ村で一泊した際に宿屋のゴツいおっちゃんに覚えられていたのに驚いたり、港町カルノーで以前にはなかった魚料理に舌鼓をうったり。
「……うぅ、アギラざ〜ん、末永くよろしぐお願いしまず〜」
「うん、よろしくねカーラ」
カルノーから東へ。
鉱山の町セルエムの外れにあるカーラの両親の墓に参り、していなかった結婚報告をしたり。
「……アキラさん、ありがとうございます。私も、末永くよろしくお願いしますね」
「うん、もちろんだよフェリ」
セルエムから北へ。
先にエルフの集落跡に立ち寄ってこちらもしていなかった結婚報告をし、それから大きな牧場があるチルテ村へ行ってがっつり肉料理を食べたり。
「「わ〜、高〜い♪」」
「……本当に丸い」
「綺麗……」
山頂に寝転がって星を眺めた翌日、成層圏からの光景に双子がはしゃいだり、リリィとメアリが感激したり。
「高い所が平気だと、こんなに楽しいんですね♪」
成層圏からの帰りに、高所恐怖症を克服したアリスがくるくると楽しそうに飛び回ったり。
「おお! 久しぶりじゃねぇか。今日も食って行けよ? サミルのやつからまた色々と作ってた話は聞いてるぜ」
「やあアキラ、技術の使用料を上げるくらいしか出来ないのが心苦しいけど、おかげで商売は順調だよ」
交易都市オルテスでタジムさんとサミルに会ったり。
「えっと……、アリスちゃん、大丈夫なの?」
「アキラさんは性獣なので問題ありませんよ」
「……それはそれでおばさん心配だわ」
オルテスから西へ。
アリスの故郷ナルチ村で、立ち寄るたびに嫁が増えるハーレムっぷりを心配した宿屋のおばさんにアリスがかなりズレた返答をしたり、その弁明にこれまたかなり時間を食ったり。
「……私も、よろしいのでしょうか?」
「もちろんだよリリィ。末永くよろしくね」
「……はい」
オルテスにあるリリィの両親のお墓と、彼女の父親が亡くなった場所でも結婚報告をしたり。
「ここが、ウルークの大穀倉地帯……」
「すごい……。圧巻ね」
「「綺麗ですー」」
白鯨には会えなかったしメアリは父親が欲したものに思うところがあったようだが、ヒカリと双子が見渡す限りの黄金色の小麦畑に感激したり。
さらに、城塞都市ハルエヌから魔の森の浅い部分にも入り、そこから南下して王都ウルークスへ着いたころには冬になっていた。
ということで、照明の魔道具が使われた街灯など、以前はなかった物に目を引かれつつひと通り王都観光を済ませると、再び『光速行動』で移動。
「マスター、お待ちしておりました」
「お帰りなさいませ、マスター」
冬の間は基本的に岩山の拠点で過ごすことになっている。
「「わ〜い♪ よろしくね」」
出迎えてくれたセバスとマリーに飛びつく双子。拠点化したはいいがなかなか立ち寄る機会がなく、使い魔であるバスとリーの本体に会うことを待ち望んでいたようだ。
ーーーーーー
新年節には王都に繰り出したりしながら年を越し。前回は雪が降る前だったが、今回は春を待ち望むウルークスで嫁たちと個別にデート。
アリス、フェリ、カーラ、リリィとそれぞれ雪景色の王都を満喫した後、ヒカリとは街をぶらぶらと散策。
「みんなと一緒も好きなんだけど、もうちょっと二人っきりの時間も欲しいかな」
「まぁ、不老にもなったことだし、時間は有り余るだろうからね。少し考えてみるよ」
シェルター内に個室を創ってからはそれぞれと二人きりになる時間も増えたのだが、ヒカリ的にはまだ足りないらしい。まぁ、元の世界なら一対一だったはずなので、そう思うのも仕方ないだろう。
「えへへ、父様と母様以外では初ですよ」
「おぉ、それは光栄だね」
翌日はヴィナと街をぶらぶらしたが、一日中ご機嫌だった。どうやら、朝に髪を結ぶ前のヴィナを見分けて声をかけたのがよほど嬉しかったようだ。
「えへへ〜、さすがアキラさんです♪」
「うん、オレも二人をより深く理解出来た気がして嬉しいよ」
それはディアも同じだったようで、こちらもずっとご機嫌。
双子で何が違うというわけではないし後ろ姿からは無理だが、最近なんとなく見分けがつくようになってきた。他の嫁たちもいつかはそうなると思うが、いち早く見分けられるようになったのがなんだか嬉しい。
「……なんだか夢みたいです」
「よしよし」
昼間は楽しそうにしていたメアリが、夜になると泣き出してしまった。
話を聞くと、ふと失った父親たちのことがよぎったらしい。とっくに気持ちの整理はついていたはずなのだが、世界を見て回るという夢が叶い、今が充実しているからこそ、それなくして現状が有り得ないということがどうしようもなく悲しくなったのだとか。
(人生って不思議なものよね)
最悪の出来事が、後の幸せのためには不可欠な出来事だったりする。まったくもって、ままならないものだ。
ーーーーーー
そして春になると、再び王都ウルークスから出発。
いったん東へ進んで港町カルノーに行くと、そこからウルーク王国を縦断し、さらに北へ。
「おぉ……、かなり雰囲気が違うな」
交易都市オルテスの北、以前は赤茶けた荒野だったそこは、「北壁」に切れ込みが入って以降は定期的に雨が降っているのか、今では緑萌ゆる大地へと変わっていた。豊富な水がある拠点付近と同じように、太い柱のように点在する岩山だけがかろうじて昔の面影を残している。
「これは……、周辺国の動きが気になりますね」
「あー……、自称神(笑)はもういないし、酷いことにはならないんじゃないかな」
荒野であった時は、どこの国にも属さない土地だった。アリスはこの土地の争奪戦が起きることを心配しているのだろう。しかし、もともとのこの世界では争いは極めて少なく、世に混沌をもたらそうとしていた存在はいなくなったのだから、そうそう愚かな選択はしないことを期待したい。
それから陸路で拠点に寄ってさらに北上。ランドロ王国に入ると、黄色い花で埋め尽くされた盆地に歓声を上げ、盆地北端の巨岩をくり抜いて作られた王都に歓声を上げ。
「またここに来るとは、ね」
「ふふ、私とアキラくんの思い出の地だもん、みんなにも知ってもらわないとね」
王都ランドロアには十日ほど滞在。その間、王都内を観光したり、ヒカリと一晩を過ごした魔の森の海が見える高台へ嫁たちそれぞれと行ってみたり。
「「アキラさん、これからもずっと一緒です」」
「ああ、もちろんだよヴィナ、ディア」
精霊ズによって探し出されていた双子の実家、残念ながら血縁者は残っていなかったが、その両親が眠る墓へ参り、例によって結婚報告。
そしてさらに北上し、蒸気が立ちこめるスチームパンクな鉱業の町センクトを経由して西のクアスル王国へ。
「これが本当の姿なんですね。聞いていた通りです」
魔の森北端の城塞都市にも立ち寄り、再び北上。内海を縦断する大橋の半ば、以前来た時は狂信者の暗躍でさびれていた海上王都クアーシュだったが、今では賑わいを取り戻している。通りに溢れる商人や冒険者たちの様子にアリスも満足げだ。
そしてさらに北上。
「「すごい……、おっきいです」」
視界を埋める「北壁」の威容に、初めて見る双子とメアリは呆然。
そこから東へ進んでムイルイ獣王国へ入ると。
「「……これを、アキラさんが」」
「北壁」に入った切れ込みを見て、再び双子とメアリが呆然。話には聞いていたものだったが、実際に見ることでその異常さを実感したようで、その後しばらくジト目で見られてしまった。
それはともかく、切れ込みの手前には町が出来始めており、「北壁」の向こう側にも植樹が行われていたりと開発は順調な様子。なんというか、人の逞しさを感じる。
「マスター、ようこそおいで下さいました」
「アマテラス、いつもありがとうね」
切れ込みから南下して内海の東端、旧ソーグノ神聖王国である都市国家、アキ・ラス教導国へ。
街中は以前と比べて綺麗に整備されていて、新たに聖堂なども建立され、オレが創った金属のモニュメントは観光と癒しのスポットとして狙い通りに機能しているらしい。
さらに南下し、再びランドロ王国へ。春には黄色く染まっていた盆地が、初夏になり青々とした麦の穂で鮮やかな緑色に染まっているのを見てから、南下したのとは別のルートで北上。
「ご無沙汰してます」
「いらっしゃい。メアリはちゃんとしてるかしら?」
「お母様、心配は無用ですぅ」
再びムイルイ獣王国に入ると、王都である森都ムイルイヌでメアリの母親に再会。
ネシアス皇帝の第三王妃であった彼女は元々は獣王国の貴族の娘で、メアリを嫁に迎えた翌年にはこちらへ帰って来ていたのである。母親を相手にするメアリが少し子供っぽくなるのが、なんだかとても可愛らしい。
そこから南東へ下り、タオロン王国へ。
王都デューロンで辛い食べ物に再チャレンジしてみたり、塔の都市カオルンで塔巡りをしてみたり。
「アニキ! おかえりなさい」
「みなさん、ご無事でなによりです」
「メアリ〜、よく帰って来てくれた」
そしてログルス王国へ帰り着き、再びアーサーたちにこっそりと会いに行ったのは、王都キャメロットを出発して一年ほど経ったころだった。
「ただいま。まぁ、顔を見せに寄っただけだから、またすぐ出発するけどね」
「うん、分かってる。でも、本当に帰って来てくれるんだってホッとしたよ」
短時間ではあるが雑談を交わし、国内が安定していることと、農作物が例年並には収穫出来そうだという話を聞いて出発。
「いよいよ、ですね」
わくわくが止まらない様子のアリス。
いよいよ次は新天地である。




