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86、旅立ち

 アキラは十七歳の高校生だったが、事故に遭い死亡。すると、神?が現れ《創造》《無限の魔力》《想像力強化》《世界の理による最適化》《思考からの拡張解釈》というチート能力を貰い、ただ長生きすることを望まれ異世界へ。


第一章。転生した主人公はウルーク王国を巡る中、人間の槍使いのアリス、エルフの弓使いのフェリ、人間の魔法使いのカーラ、犬人族の双剣使いリリィと出会い、城塞都市ハルエヌで正体を隠して魔物の大群を殲滅し、王都ウルークスで冬を迎える。


第二章。雪どけを待ちウルーク王国を発った主人公たちは、ドワーフが治める北の隣国ランドロ王国で同郷の人間で薙刀使いのヒカリを新たな仲間とし、海上都市を持つクアスル王国、獣人が治めるムイルイ獣王国と巡る中で世に混乱をもたらそうとするソーグノ教の暗躍に気づき、これを壊滅。岩山の拠点にセバスとマリー、元ソーグノ教本拠地にアマテラスという精霊を配置。


第三章。タオロン王国で暗殺者集団に育てられたドワーフの双子ヴィナとディアを新たな仲間とし、さらに精霊の仔猫型使い魔三匹を加えて観光旅行中に、ネシアス帝国でアーサーの革命軍に協力することになる。そして、順調に勝利を収めて進んだ最終決戦、皇帝が呼び出したドラゴンをアーサーに討たせて革命成功。国内の問題に対処するため、しばらくとどまることになった。


そして第四章、南半球編。

 

 

「……入るよー」


 ノックをし、声をかけてから扉を開ける。


「……アニキ」

「あら、みなさんでいらっしゃるのは初めてかしら?」


 ぞろぞろと執務室に入るオレたちを出迎えてくれたのは、日が落ちてからそれなりに経つというのにいまだ仕事中のアーサーとグィネ、そして。


「アキラ殿、今日はどんな用件だ?」


 すっかり性格が丸くなり、手順を飛ばして会いに来ても文句を言わなくなったランシー殿。


(やっぱり変わるもんなのかね?)


 革命軍と帝国軍の決戦からすでに三年。

 グィネと一人ずつ子供を産んだランシー殿には、以前にはなかった余裕があるように思う。……まぁ、ただ単に慣れたか諦めただけという可能性もなくはないが、文句を言われないとそれはそれで少し寂しい気がする。


「アニキ、……やっぱり行ってしまうんだね」


 アーサーは、オレが嫁全員を連れて来たことで気づいたようだ。


「んー……、まぁ、ね」


 アーサー王統治の下、首脳陣の働きもあってログルス王国の政情はとても安定している。問題であった不作も、決戦後まもなく開発が始まった豊作の魔道具が一年目でなんとか形になり、二年目に行われた大規模な実証実験で効果が認められ、そして三年目の夏も終わりに近づき収穫間近となった現在、全国的に普及されたそれによって、不作前に近い収穫量が見込めそうだという報告を受けているのでもう大丈夫だろう。

 旅立つには良い頃合いだ。


「そう、なのですね。寂しくなりますね」

「なんと!? アキラ殿はともかく、皆に会えなくなるのは嫌だな」


 と、嫁たちと別れを惜しみあうグィネとランシー殿。

 そのグィネの意向により、城内には大浴場が、城下には公衆浴場が作られ、徐々にお風呂文化も浸透しつつあるようだ。また、風呂に使われたのと同じ水源や浄化の魔道具の他、数種類の新たに開発された魔道具を用い、国内各地に上下水道が整備されて衛生環境なども改善している。


(……例によってやり過ぎたんだよね)


 苦戦していたデスクワークは結局丸々一ヶ月かかってしまったのだが、それによって支払われた革命中に供給した食料代は、それはもう莫大な額になった。しかし、家こそ借りているものの基本的に衣食住に困ることのないオレたちは使い道に困り、嫁たちと相談して派手にばらまく事にしたのだ。その結果が、国の名を騙って行った豊作の魔道具と上下水道の普及である。

 他にも、孤児院に多額の寄付をしてみたり、二年目までの不作で困窮する地方に食料を持ち込んで必要のない物と物々交換したり、ヒカリ主導でチョコレートの生産流通システムを立ち上げてもらい、軌道にのったところで国に丸投げしてみたりと、それはもう色々やらかした。

 もちろん、オレたちがおこなったとは知られないように最善は尽くしたつもりなのだが、たとえ出所不明だったとしても、直前まで困窮していたこの国においてそれほどの資金を持っているのはオレたちくらいしか居なかったわけで……。結果、王の座を狙っているのではないかと、再び首脳陣に不信感を持たれるようになってしまった。


「俺が、もっとしっかりしてれば……」


 捨てられた仔犬のような目のアーサー。しかし、どれほど哀れな様子を見せようともオレが男に萌えることはないので、旅立ちという決定が覆ることはない。


「いや、アーサーは十分よくやってるよ」


 そもそも、オレは他人のために王になろうなんて考えないし、首脳陣もアーサーだからこそ従っているのだ。オレが政治をやろうとしても上手くいくはずがなく、面倒な事のほとんどはアーサーがやっているのだ。


「いやいや、そもそもアニキたちが居なければ今の俺はないというのに」


 そしてこれ。この国で出会った時に助けたというだけでなく、オレがアマテラスより上位にあって革命中に神様していたのが、どうも結構前からバレていたようなのだ。オレがそれを望まないのが分かっているのか、態度が変わるような事はなく、ごく内輪でのアニキ呼びもそのままだったりするのだが、いったいどこで気づかれたのやら。


「いやいや……、痛たたた」

「いやいやいや……、痛いよグィネ」


 さらに「いやいや」と続けようとすると、それぞれアリスとグィネによって頰を引っ張るという強硬手段によって止められてしまった。


「アキラさん、長くなるようならやめて下さいね」

「ごめんごめん」


 事あるごとに嫁たちに引っ張られた頰は、昔より伸びるようになった気がしないでもない。

 それはともかく。


「アーサー、オレたちは別にこの国を見限ったわけじゃない、ただ単にオレたちがやるべき事はやり終えたと判断しただけだ」

「……アニキ」

「それに、年に一回……、とは言わないが、たまには顔を見せに帰って来るよ」


 頻繁には帰って来ないと思うが、そこはオレ自身の『使い魔』で常に様子は見ているので、例えドラゴンが報復に現れたとしても問題ない。


「分かったよアニキ、いってらっしゃい。俺は帰ってきたアニキをがっかりさせないよう、頑張らせてもらう」

「おう、いってきます。期待してるよ」


 拳を合わせて再会を誓う。

 アーサーは奴隷制の廃止を目標にしているが、それはとても困難な道のりとなるだろう。だがしかし、今のアーサーなら決して不可能ではないと信じられる。

 オレが開発に協力した魔道具も、近いうちに世界中に広がって豊かさをもたらすはず。その中でも特に豊作の魔道具、これは飢える人々を減らすことになるのだが、それはつまり奴隷にならなければならない人々を減らすことになるのだ。そしていずれは、「衣食足りて……」ではないが、豊かさがもたらす余裕が他人を思いやることへ繋がり、人々の間から奴隷制廃止の動きが出るのではないかと期待もしている。

 すべてを丸投げして旅立とうとしているわけではないつもりだ。


「じゃあ、グィネもランシー殿も、またな」

「ええ、アキラさんとの魔道具開発は良い刺激になりますから、ぜひまた」

「……ああ」


 にこやかなグィネと冴えない表情のランシー殿にも挨拶をし、嫁たちを促して執務室を出るが。


「……アキラ殿、少しいいか」


 出てすぐに、ランシー殿に嫁たちから離れた廊下の暗がりへと呼ばれる。


(……ですよねー)


 まぁ、オレにも呼ばれる心当たりはある訳で。


「……いいかアキラ殿、お主の事は認めているし、お主との縁を大事に思えばこそ許しもした! だが、もしも妹を、メアリを悲しませるようなら……」

「分かってますよ。必ず、メアリは幸せにしてみせます」

「確かに聞いたぞ。その言葉、違えるようなら、覚悟しておくことだ!」


 大好きな妹と遠く離れることが堪え難いのか、顔を寄せて凄むランシー殿。そう、メアリもまたオレの嫁になっているのである。


「……呼びましたか?」

「い、いや、そんな事はないぞ。なあ、アキラ殿」

「あー……、メアリの事を幸せにしてくれと頼まれていたところだよ」

「んな!? アキラ殿!」


 オレを脅していたのを知られたくなかったらしいランシー殿。だがまぁ、オレが言ったことも間違ってはいないだろうし。


「お姉様……、私だっていつまでも子供じゃありませんよ。……でも、ありがとうございます」

「うぅ……、メアリ〜」


 メアリに抱きつかれて涙を流すランシー殿だが、その表情からは別れを惜しむだけでなく、妹からの評価が上がった事を喜ぶ様子もうかがえるので問題ない。


(むしろ、ランシー殿はもっとオレを敬ってくれてもいいのよ?)


 と、そんなことを思いながら待つが、ランシー殿がいっこうにメアリを離そうとしない。

 そこで。


「メアリ、そろそろ行くよ」


 と促すと。


「はい、分かってるんですけど……。お姉様、そろそろ離してください」

「あぁ、メアリ〜。嫌になったらすぐに帰ってきていいからな」

「はいはい」


 力ずくで脱出された上にさらっと流されたランシー殿に、ぐぬぬ顔で睨まれてしまった。文句を言われないと寂しいなんて思ったが、やはり気のせいだったようだ。


「すいません、アキラさん。さあ、行きましょう」


 対してメアリは、脳筋なランシー殿と姉妹だとは思えないほど素直ないい子である。ひたむきに強くなろうと教えを請う姿にすっかりやられて、この三年の間にどころか一年目には口説き落として嫁に迎えてしまった。


(なんだか守りたくなる感じなんだけど……)


 優しい雰囲気の彼女は、耳の上から後ろ向きにくるんと曲線を描くツノを持つ羊人族。最初に見た時に戦いが得意そうではないと思ったのも彼女が草食系の獣人だったからなのだが、今ではメイス系の打撃武器を愛用し、盾を使って最前線で攻撃を受け流してくれる欠かすことの出来ないメンバーだ。

 

(にしても、改めて考えると不思議だよね)


 他の嫁たちの下へ向かう中、メアリのふわふわの頭を撫でながら思う。

 種族的なハーフが存在しないとは聞いていたが、こうしてランシー殿とメアリという姉妹で種族が違ってしまっている実例を目の当たりにすると、改めてファンタジーな世界なのだと実感する。


(……まぁ、そのファンタジーが旅立ちを決めた一番の理由なんだけど、ね)


 と言うのも、オレと嫁たちが半日ほど体の自由を失った件だが(メアリも二年目に魔物の間引きを手伝う中で経験している)、どうやらそれが魔人化の前兆だったようで、オレたちはすでに不老となっているらしいのだ。そして、不老化の弊害と言うか、種族的なものもあってほぼ容姿が完成していたフェリと双子、そしてリリィは問題ないのだが、オレを含む他のメンバーが、その年齢にしては若すぎるのである。


(とはいえ、ちょっと急な旅立ちではあったかもね)


 《創造》や魔法を使って成長した姿を見せたりして誤魔化すことは出来るが、日々少しずつ成長しているように見せるのはなかなか難しい。そのため、タイミング的にも色々と都合が良かったこともあり、人のいる所には長く留まらず、たまに知り合いに顔を見せる程度の旅暮らしへ移行しようという話になった。


(旅を続けたその先がどうなるかは、まだ分からないけど……)


 不老になっていると思われる件を嫁たちと相談したのはつい先日のことだが、それが自分たちにどんな影響をもたらすのか、とりあえずエルフの寿命である五百年ほどは様子を見ようという話になっている。そして五百年後に、それからどうするのかを改めて話し合うのだ。《創造》があれば元の種族に戻ることだって出来るはずなので、取り得る選択肢は多いと思う。

 もちろん、それまでにどんな事が起こるかは分からないので、安全については最大限に気を配る所存。


(それにしても、だいぶ慣れたつもりなんだけど、この世界出身の嫁たちとの考え方の違いに、いまだに驚くことがあるとはね)


 とりあえず五百年を生きる。これはオレとヒカリは不老であるということに実感がないだけだと思うが、他の嫁たちにとっては悩むほどのことではないらしい。それどころか、エルフみたいに若く長生き出来るなんて、なんて素敵なことなんでしょう、くらいの感じのようだ。

 と、そんなことを考えながら嫁たちと合流したところで。


「どうかしましたか? アキラさん」

「いや、なんでもない」


 不老について話し合ったことを思い出していたせいで、ついまじまじとアリスを見てしまった。

 アリスとメアリは同い年の十九歳。魔人化したのはアリスの方が一年半ほど早い十七歳の時なのだが、その一年半という開き以上に、メアリと比べてアリスの外見は幼い。おそらくオレと出会う前、飢饉で飢えた経験が影響しているのではないかと思う。


(やっぱり、成長する機会を奪ったことになるのかな?)


 不老の件を相談した後、こっそり自分の胸を揉んでため息をつくアリスを見てしまった。以前聞いた話では母親は大きい方だった記憶があるという話なので、自分もいつかはそうなると期待していたのだろう。実際、もう二、三年成長出来ればそうなっていてもおかしくはないと思うが、それ故に、不老を歓迎する雰囲気の嫁たちの中、唯一アリスだけが密かに不満を持っているように思える。


(永く共にいられることは喜んでくれていたみたいなんだけど、ね)


 オレたち自身も徐々に成長しなければ変化した姿に違和感があると思うので、それで問題が解決するわけではないのだろうけれど、アリスには成長した姿になれる「変化へんげの指輪」でも創ってあげよう。


(まぁ、どうするべきかは、おいおい考えればいいか)


 わいわいと楽しそうに明日からの旅について話す嫁たちと、城内をのんびり過ごし歩いて行く。

 出発は明朝。刺激の多い旅に出れば、アリスが思い悩むような時間はなくなるはずである。

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