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85、革命は成った

 

 

「「アキラさん! 届きましたよ!」」


 仔猫型使い魔のバスとリーをそれぞれの頭に乗せた双子が、勢いよく扉を開けて入ってくる。


「おう、ありがと」


 届け物自体はセバスとマリーが集めた物なのだが、それをわざわざ双子が報せに来たのは、最近あまりかまってやれないからだろうか。

 もう一匹の使い魔ラスを頭に乗せたオレは、書類から顔を上げて応え。


「ん〜……」


 と、いまだに慣れないデスクワークでこわばった体を伸ばすと。


「じゃあ、早速やってみますかね。二人も休憩にしよう」


 オレと同じように書類とにらめっこしているアリスとヒカリに声をかける。


「はい、疲れていたのでちょうどいいですね。ん〜……」


 こちらもデスクワークが苦手で、休憩の言葉を受けて嬉しそうに伸びをするアリス。


「ふふ、アキラくんもアリスも、頭から煙が出そうだもんね」


 対して、オレとアリスをからかうヒカリはまだまだ余裕がありそうだ。


「むむ、アキラさん、どうやらヒカリは残って続けたいようです」

「わわ、アリスのいけず。私も疲れちゃったなー。さ、休憩しましょうか」


 もともと頭が良く勉強も得意だったヒカリはデスクワークとの相性も良いらしく、その仕事ぶりは驚くほど効率的である。軽くオレの三倍は仕事をこなしているのではないだろうか。


(オレの方はよっぽどデスクワークは向いてないらしい。学習能力上昇の効果とレベルアップで高まったステータス値がまったく発揮されてる気がしないよ)


 そんなことを考えながら、シェルターを設置してある部屋へと移動中。


「……何か分かりますでしょうか?」


 と、不安そうなヴィナに。

 

「大丈夫。ダメだったら、また別の手を考えるだけだよ」


 と返し、バスとリーがオレの肩へと移ったことで空いたヴィナの頭をなでる。

 ここ最近の生活で、双子の中でもお姉さんの方であるためか比較的にという程度だがヴィナには心配性なところがあるのが分かってきた。


(……もう一ヶ月くらいになるのか)


 革命軍と帝国軍の決戦後、ドラゴンとワイバーンの解体に戦後処理にと慌ただしく時は流れ、あっという間に一ヶ月。アーサーは戴冠式を済ませて無事に王となり、ネシアス帝国はログルス王国へとその名を変えている。

 オレ、アリス、ヒカリは解体や戦後処理。夜には合流しているが、フェリ、カーラ、リリィは周辺国諸国に情勢が落ち着いた事を広めるとともに、国内の魔物を間引くべく交易を再開していてここにはいない。


「昼から街に出てたんだよね? 様子はどうだった?」


 こちらは比較的のんびりしているディアにたずねる。


「はい! ご近所の奥さんたちも、パン屋のおばさんも、角のおばあちゃんも、宿屋のおじさんも、みんな少し前までの暗い雰囲気が噓みたいに良くなったって言ってます」


 双子には魔物の間引きを手伝ってもらいつつ、暗殺者集団の中で過ごした不遇な子供時代を取り戻すように、住民に不満がないか調べるという名目で普通の生活をしてもらっている。


「そうか、問題ないよう良かった。引き続き調査を頼むね」


 多くの人に可愛がられていそうな様子に安心し、ヴィナを羨ましそうに見ていたディアの頭もなでておく。


(うん、順調順調)


 元帝国軍は元革命軍とともに新たな王国軍として再編中で、ほぼ全滅したゲス軍が国内の犯罪者を集めてくれていたこともあり、国内の治安は良好。ドラゴン素材は自国で利用するようだが、豊富なワイバーン素材のおかげで国の財源にも余裕が見込まれる。そして、今のところだが、ドラゴンが敵討ちに現れる様子もない。

 今現在、帝都から王都へと変わったここキャメロットで一軒家を借り、一週間ほど前から戦後処理の一環でデスクワーク中なのだが……。革命中に調子に乗って自重せずに供給した莫大な食料、その代金を算出するというデスクワークに終わりが見えないこと以外はいたって順調だ。


(これが終わったら、二度とデスクワークはしない!)


 そんな中、今回セバスとマリーに使い魔を飛ばして集めてもらったのは、国内各地の農場の土である。これは、帝国がウルーク王国への侵略を企てることになったそもそもの原因である大規模な不作、それにソーグノ教の教祖でもあり優秀な錬金術師でもあった自称神(笑)の関与があったと思われることから、有害物質が散布されていないか調べてみようと思ったのだ。

 成分を調べる手段としては、以前、狂信者が爆発する仕組みを調べるために創った分析器がある。


(まぁ、自然に不作だっただけの可能性もなくはないけどね。その時は、……そう、作物の成長を促す豊作の魔道具でも作れば良い)


 ふと思いついたことだったが、有害物質の有無に関わらず豊作の魔道具は作るべきだろう。


(今なら短期間で開発出来るかもしれないな)


 実は、ドラゴン戦で使っていた召喚魔法で作った剣なのだが、今もシェルター内のオレの個室に置いてある。

 魔法で作られた物は存在を維持する魔力が尽きると形を失うのだが、意思を込めて振るった剣は召喚魔法を解除してもその形を失わなかった。しかも、その剣はいまだにドラゴンを傷つけ得る斬れ味を保っているのだ。

 はたしてこの状態が永続的なものなのかどうか、今はまだ個室に置いて経過観察中ではあるが……。


(これは、《創造》というチートを使わずに創造したようなもの)


 レベルアップで高まったステータス値を持つオレたちが本気で意思を込めないと、この「固定化」と名付けた状態にはならなかったので、残念ながらこれが一般的な技術となることはなく、魔道具の核として使うことは出来ない。

 しかし、《創造》によって創られた物は、言うなれば問題と答えしか存在しないようなものだが、対して、チートを使わず意思を込めて固定化した物には、その答えへと至る計算式が存在するようなもの。つまり、今ならば解答例を参考にして研究が出来るのだ。ゼロから研究するより、はるかに早く結果が出せるだろう。


(……まぁ、主に研究するのはグィネなんだけどね)


 前に共同研究した時も、ごく稀にゲームやファンタジー知識から来る発想が役に立つ事があった程度で、九割九分グィネが開発したようなもの。おそらく今回もそうなってしまうと思うが、出来ることなら少しは役に立ちたいものだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……入るよー」


 ノックをし、声をかけてから扉を開ける。


「おや、アニキにアリスさん、いらっしゃい」

「あら、今回はどんなご用事?」


 日が落ちて少し経った頃、城の執務室に居たのはアーサー王とグィネ王妃。

 ……そして。


「アキラ殿! またですか、いい加減にして下さい!」


 何度も『認識修正』などを駆使して手順を飛ばしてやって来るオレに、何度でも飽きることなく文句を言ってくるランシー第二王妃様。


(オレ的にもランシー殿には会わずに済ませたいんだけど、ね。そうするとかなりプライベートな場所に入り込まないとダメになるし、まぁ仕方ない)


 そんなことを考えながら、毎度おなじみとなった二人になだめられてランシー殿が落ち着くのを待って本題へ。


「今日はグィネに相談があってね――」


 農場の土を分析して分かったのは、その中に「魔吸い」と呼ばれるヒルのような魔物を加工した粉末が含まれているということだった。これが魔力を奪い、作物の実りを減らしているようだ。しかし、「魔吸い」という名前から分かるように他者から魔力を吸い取る事が知られている魔物ではあるが、実際に吸い取られるのは極少量であり、なによりもそれを粉末にしただけの物に魔力を奪うような効果はない。まったくもって迷惑なことだが、自称神(笑)が優秀な錬金術師としての腕前を遺憾なく発揮してくれた結果のようだ。


「……なるほど、魔吸いの粉末、ですか。聞いた事もありませんが、それを話しにいらしたということは、期待してもよろしいんですよね?」


 話の流れから、新たな魔道具研究案が示されるのが分かっているのだろう、好奇心を抑えきれないという感じのグィネ。


「まぁ、ね」


 そして取り出したのは、濃い緑色をした拳大の正四面体。オレが召喚魔法を応用して作り、成長の意思を込めて固定化した物だ。


(魔力が奪われるのなら、より多くの魔力を供給すればいいじゃない、ってね)


 まずは有害物質を取り除くことを考えたのだが、魔吸いの粉末も無限に魔力を吸収出来るわけではないようなので、豊作の魔道具を作って飽和させてしまった方が手っ取り早いだろうという結論になった。

 正四面体の効果は、周囲に花などを置いて五日ほど実験した結果、半径2メートルほどの範囲内の植物の成長が促されるのを確認している。

 

「ふむ、これが……。ウルーク王国の魔の森で見つけたんですか?」

「そうそう、そんな物を拾ったことなんてすっかり忘れてたんだけどね。範囲は狭いけど、どうもそれの周りの植物は成長が早いみたいなんだ」


 そして、不思議アイテムの出どころとして用意した言い訳がこれ。しかし、それほど見当違いな嘘でもないのではと思っている。

 と言うのも、魔の森は、そこから漏れ出る魔力によって魔物と植物の成長が促されるという天然の豊作の魔道具状態なのだが、その漏れ出る魔力こそが意思を込めた魔力ではないかと考えているからだ。

 と言っても、広大な魔の森とその周辺にまで影響を及ぼし得る、《無限の魔力》というチートもなしにそんなことが出来るような強大な魔物がいるとは考え難いので。おそらく、オレが作った正四面体を強力にしたような物が、森とその周辺に散らばっているのではないかと思う。


(まぁ、実際に調べてみないと分からないけどね)


 正四面体がグィネからアーサー、そしてランシー殿へと渡り、再びグィネへと戻ると、もうそれしか見えないという感じなので。


「……じゃあ、よろしくね」


 用件も済んだし、さっさと帰ろう。


「あ、うん。アニキ、アリスさん、また」


 苦笑しながら手を振るアーサーと追い払うように無言で手を振るランシー殿へ、こちらも手を振り返して退室。


「……なんだか申し訳ないですね」


 と、オレを責めるようなアリス。しかし、不作対策は早ければ早いほど良いだろう。これは必要な犠牲なのだ。

 それはアリスも分かってはいるのだろう。


「おや? それならアリスが手伝って来るかい?」

「いえ、それはお断りします。そう、これは必要な犠牲だったのです」


 オレの意地悪な提案に慌てて前言を撤回し、置いて行かれては堪らないとばかりにしっかりとオレの腕にしがみつく。


(そういえば、アレってなんだったんだろうね)


 決戦中、オレにおぶさるために高所恐怖症の克服を隠していたことが判明したアリスだったが、その後いろいろあってうやむやになった。そのいろいろあったというのが、解体や戦後処理の忙しさもあるが、もっとも大きいのは決戦直後に嫁たちが半日ほど体の自由を失ったことだろう。そう、神狼戦直後のオレのように。

 オレの時は無理をした影響かと思っていたのだが、今回嫁全員が同時にということで、それだけでなくレベルアップの影響や敵の強大さとも無関係であるようだ。


(指輪の健康維持機能もあるし大丈夫だとは思うんだけどね)


 過信せず、自分自身でも気をつけておこう。

 アリスとじゃれつつそんなことを思いながら、少し早足で執務室から遠ざかっていると。


「……ああーっ!! おのれ、アキラ殿ーー!!」


 遠くから怨嗟のこもった叫び声が。

 アーサーは気づいていたようだが、ようやくランシー殿も気づいたらしい。アーサーたちもまた終わりが見えないデスクワークに追われる中、新たな研究テーマを得たグィネが役に立たなくなったことに。

 ランシー殿にはぜひとも頑張っていただきたいものだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「アキラさん、アリスさん、こんばんは」


 もうすぐ城を出ようかというところで、オレたちに挨拶をする声。


「どうも、メアリ様」

「こんばんは、メアリ」


 メアリ様はランシー殿の同腹の妹で、元帝国第四皇女様。

 父親によってドラゴンの生贄にされそうになったり国がなくなったりと様々なことがあり、当初はふさぎ込んでいたらしい。


「アリスさん、よろしければまた稽古をつけていただきたいのですが」

「ええ、いいですよ。お任せください」


 しかし今は、冒険者になって世界を見て回るという、以前の自身の立場では叶えることが出来なかった夢へ向け、鋭意努力中のようだ。


「アキラさんも、よろしければお願いしたいのですが」

「ええ、もちろん喜んで」


 稽古を頼まれることから分かるように、どういうわけかオレたちがそれなり以上に強いことがバレているらしく(ふさぎ込んでいることをランシー殿に相談されたアーサーからではないかと予想)、キラキラとした純粋な尊敬の眼差しを向けてくる。しかし、オレはこの眼差しが少し苦手だ。


(ランシー殿に対しては罪悪感なんてないんだけど、……何が違うのやら)


 彼女がふさぎ込んでいた原因の一つなのだが、決戦後に彼女の肉親である皇帝とその血縁の男たちの多くが処刑された。彼らは、あくまでもオレの基準ではだが、革命中に死に追い込んだゲスどもとは違って死んで当然と思うような悪ではなかった。しかしその命は、革命に協力するというオレの決断によって失われることになったのだ。

 所詮は自己満足でしかないが……。


(彼らの命を無駄にしないためにも、この国が良くなる手助けをしたい)


 アリスとメアリ様が楽しそうに話しているのを眺めながら、そんなことを思う。

 どのくらいの期間になるかは分からないが、いましばらくはこの国に留まることになりそうだ。

第三章完。

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