84、決戦・その二
「アキラさん!?」
いち早く気づいたのはアリス。
それからすぐに全員が気配に気づき、それとドラゴンを結びつけて青ざめる。だが、オレとヒカリの異世界組と、この世界出身の嫁たちとでは様子が違う。
(悪い子はドラゴンに食べられちゃうぞ、みたいな感じかね)
この世界ではドラゴンは実在する脅威であり、それを恐怖の象徴として育てられるのだろう。オレとヒカリは気配の強さに危機感を持っただけなのだが、他の嫁たちは明らかに恐怖し、狼狽している。
(これはマズいかな?)
オレと出会い異世界の書物に触れることで、かなり価値観の破壊が進んだ嫁たちですらこれなのだ。遠くに望むどころではなく、それが間近に迫って敵対すれば、革命軍の士気など一瞬で崩壊しかねない。
姿を見せる前に殺っておくべきだろう。
(ドラゴンステーキにでもなってもらおうかな)
と、そこまで考えたところで、ふと思い出した。
(ドラゴン殺しの英雄、か)
もしアーサーがそれを成し遂げれば、これ以上はない功績となるのではないだろうか。
(城塞都市カオルンで聞いたんだっけ)
確か、ドラゴンと人類の間には相互不可侵の暗黙の了解があり、こちら側に来た個体は狩っても良かったはずである。
であるならば、アーサーが討伐したからと言って、ドラゴンがこの国に報復に現れるということはないだろう。
〈アマテラス、お願い〉
〈了解です、マスター〉
ーーーーーー
「アーサー殿、お話が……」
革命軍首脳陣の前にキラキラとした光のエフェクトを発生させ、召喚魔法でアマテラスが分体を作る。
「おお、アマテラス殿。どうかされましたか?」
現在革命軍は、傷ついたゲス軍兵士をその場に残して下がり、救援する帝国軍を見ながら陣形を組み直しているところ。そんな余裕のある状況もあってか、首脳陣は歓迎ムード。
しかし。
「皇帝がドラゴンを召喚しました」
その言葉を聞くと、一瞬の間を置いてその余裕は吹き飛んだ。
「「…………ドラゴン!?」」
「ば、馬鹿な、そのような事が……」
「あ、あ、あり得ん。ドラゴンがこちら側に来るなど……」
実はまだドラゴンと確定した訳ではないのだが、もし違ったらその時にまた考えよう。
「皆、落ち着け! まずは話を聞こう」
やや青ざめているが、落ち着いて見えるアーサー。人を率いる経験によるものか、最近では威厳のようなものが出てきた気がする。
実際、アーサーの一声で首脳陣もとりあえずは静かになった。
「今現在、ドラゴンは急速に接近中です。ですがご安心を、それはこちらで対処します」
「「おお……!」」
あからさまにホッとする首脳陣。
やはり心配していた通りらしい。永く起こらなかった戦争をしてまで変化を望んだ彼らでさえこれなのだ、兵士がどれほど動揺するかは推して知るべしだ。
「我々が望むのは革命軍の勝利。皆様には、そちらに集中して頂きたい」
「おお、そうですな。ドラゴンなど見ては帝国軍と戦うどころではなくなりそうじゃ」
ドラゴンと聞いて思考停止していた首脳陣も、ようやく頭が回り始めたらしく、すぐさま散り始める。
首脳陣が直接説明し、兵士の動揺を減らすつもりのようだ。
「では、よろしくお願いします」
分体を解除し、キラキラとしたエフェクトを残して消えるアマテラス。
これでこちらは問題ないだろう。
ーーーーーー
〈――では、ここで迎え撃つ、と?〉
首脳陣への説明と同時に、こちらでは『思考速度上昇』と『念話』を使った高速作戦会議。
〈うん。で、とりあえずオレが一人で戦って――……っ!?〉
〈それはダメで……!?〉
と、そこでさらに状況が変化する。
いよいよ探知範囲に入ったドラゴンが、多数の気配を引き連れ……いや、引きずって来ているのだ。
〈やっぱりドラゴンだな。あと、これはワイバーンか!〉
とっさに探知範囲の端に作った『使い魔』によって確認すると、それは紛れもなくドラゴンと、魔力の縄を首に巻かれた体長10メートル前後の複数のワイバーン。
そのドラゴンは、ドーベルマンのような引き締まった四足獣の体に長い首と長い尻尾、そしてコウモリのような翼を持ち、全身を赤錆色の鱗が覆っている。頭の先から尻尾の先までは40メートルはありそうだ。
〈レッドドラゴン、って感じかしら?〉
と、ヒカリ。
共有した映像を見ている他の嫁たちは、目の当たりにしたドラゴンに体を強張らせている。
オレのファンタジー知識では、レッドドラゴンは火属性で荒々しい気性をしている傾向にあるが、この世界のドラゴンの詳しい生態は知られていないらしい。
(本来のチート《創造》を駆使して戦うなら、縮小光線銃からの踏み潰しとかやってみたいけど、今回は《無限の魔力》で力押しだな)
そしてワイバーンなのだが、こちらは五十匹。軍なら一匹あたり百人で戦うという話だったので、およそ五千ほどの戦力が新たに加わるに等しい。
ただでさえ戦力差があるのに、対空戦の用意もしていない。これもオレたちが引き受けるべきだろう。
〈……よし。じゃあ、みんなにはワイバーンを、いや、ヴィナとディアは革命軍を手伝ってもらった方がいいか〉
ワイバーン五十匹程度では、一騎当千なオレの嫁全員を相手にするには役者不足だ。その点は大規模戦が初めての双子も変わらないのだが、いきなり空中戦からというのは荷が重いと思う。
防御フィールド・改もあるので傷一つ負うことはないはずだが、より役に立つのがどちらかと言うと、戦力過剰なワイバーン戦よりも革命軍を手伝う方だろう。
〈あとアリスは、ヴィナとディアをフォロー――〉
〈嫌です! アキラさんと一緒にドラゴンと戦います!〉
被せ気味に拒否するアリス。
〈でも空中戦だし〉
高所恐怖症のアリスには厳しいだろう。どう説得したものかと思っていると、ほんの刹那の躊躇いの後、名残惜しそうにオレの背中から下り。
〈……本当は、もう高い所も平気なんです〉
一人で宙に浮かぶアリスの、まさかの告白だった。
〈〈……な、なんだってー!?〉〉
〈い、いつから?〉
〈触手ナマコ殲滅に北壁の向こう側を低空で飛び回った時、あれでかなり慣れました〉
話をきいてみると、けっこう前である。が、オレに背負われたまま寝ていたり、上空でじゃれ合っていたりと、言われて考えてみれば最近は余裕があった覚えがある。
〈なるほどねー〉
まぁ、オレ的にはさほど問題ないのだが。
〈……アリス、終わったら話があるんだからね〉
と言うフェリと、うんうんと頷く他の嫁たちは、背後に「ゴゴゴゴッ」という文字が見えそうな感じである。
そして。
〈むう、致し方ありません。ですが、今回は譲れません!〉
時間がないというのもあるが、最もオレを止め得ると見なされているのか、結局はアリスと一緒にドラゴンと戦うことになり、双子の方はリリィが面倒を見ることになった。
(みんなのドラゴンへの恐怖も吹き飛んだみたいだし、結果オーライかな)
という事にしておこう。
ーーーーーー
「……おお、まさか本当に」
革命軍の誰かが呟くと、そこから波紋のように広がるざわめき。
帝国軍の奥に見える帝都のさらに向こう、澄み渡った青空に黒点が現れ、かなり速度を落としたようだが、それでも数を増やしながらみるみる大きくなる。
「……なんだ?」
ただならぬ様子に帝国軍も振り返り、こちらでもざわめきが広がった。
「皆の者、聞くがよい!」
そして帝国軍のほとんどが振り返った時、皇帝が口を開く。
「あれこそは、帝国の秘儀により我が召喚せしドラゴンである! 我らの勝ちは揺るがぬ、すり潰せ!!」
「「……うおおーーーー!!」」
しばし間を置き皇帝の言葉を理解すると、鬨の声を上げて進み出す帝国軍。
魔法で響かせているようで、皇帝の声は革命軍にまで届いていた。ドラゴンが革命軍の敵であると示して士気を挫きたかったのだろうが、すでに全員が知っていたので今以上に動揺することはなかった。
革命軍の反応のなさを不審がる皇帝も、まさかリアルタイムで見られていたとは思いもしないだろう。
「皆、聞いたな! 神の言葉に間違いはなかった! ならば恐れるものはない! 勝利を我が手に! 進めー!!」
こちらはアーサー。
革命軍は、まだ恐怖を完全には拭えていないようで、ゴーレム部隊を最前列に並べ、静かに進み始める。
帝国軍が半減したとは言え革命軍も半数は体力を消耗しており、油断出来る状況ではない。下手を打てば一気に崩壊しかねないので、ぜひアーサーと首脳陣には頑張って頂きたい。
ーーーーーー
『我らに呼びかけしは貴様か』
配置に着いた嫁たちと情報を共有しながら見ていると、両軍が距離を詰める中、ワイバーンを上空に残して皇帝の上に到達したドラゴンが重苦しい唸り声を上げる。が、よく聞くとそれは魔法語による問いかけだった。
(ドラゴンは魔法語で会話するってことか?)
もしかすると、魔法語の元が竜言語なのかもしれない。
対して。
『kaardよ、kaardよ、これが約束の乙女。今ここに契約を結ばん。我が敵を討ち滅ぼせ』
「……え? お父様?」
第四皇女の背をドラゴンの方へ押す皇帝の方は、話すと言うよりは暗記している言葉を口にしているだけのようだ。おそらく、ドラゴンと会話出来るほどには魔法語を修めていないのだろう。
(……考えてみれば憐れだよね)
オレ的には陰険な印象があるが、それは為政者としては必要な資質でもあるかもしれない。また、圧倒的な強者であるドラゴンを間近にして、少なくとも表面上は平静を保っているのは素直に凄いと思う。
自称神(笑)たちの暗躍さえなければ、今のこの状況はないだろう。皇帝もまた犠牲者であると言えなくもない。
(とはいえ、娘を生贄にしようとするのは、オレ的に全てを台なしにするレベルでアウトだけどね)
そんなことを考えながら見ていると、皇帝の近くに静かに着地するドラゴン。
『……まあよかろう』
「……あ、あぁ」
漏らした言葉を考えると、皇帝との会話が成り立たないことを感じたらしい。何かを悟ったのか青ざめ、絶望の表情を浮かべる第四皇女へ向かい、びっしりと牙の並んだ口を開いて近づけるドラゴン。
(むむ、いかんな)
乙女を捧げるなんて言うから嫁にでもするのかと思いきや、どうやら食べるつもりのようだ。
『光速行動』を発動し、今にもドラゴンに喰い付かれそうな第四皇女の下へ。
(……いちおう大丈夫そうかな?)
ほぼ止まった時間の中を動き第四皇女の隣に立つオレを、ドラゴンが認識している様子はない。
(これならいくらでも殺りようはある)
第四皇女を『慣性制御』と『流体制御』で保護して抱えると、魔力で足場を作りながら上空へと駆ける。
『……む?』
「な、何事だ!?」
「……あ、え?」
『光速行動』を解除して気配を解き放つと、すぐさまオレに気づいて見上げるドラゴンに、状況を理解出来ずに茫然とする皇帝と第四皇女。
(さて、どう出るか)
乙女を食べないと契約は成立しない、なんて言われて帰られると困るのだが。
『それを、寄こせーー!!』
そんな心配は無用だった。
空気を震わす咆哮とともに、こちらへ向かって来るドラゴン。第四皇女は良い餌になるらしい。
「あ、あの、貴方は……。 え? きゃあ!」
第四皇女を球形の『防御障壁』で包んで『飛翔』で打ち上げ、それを追ってオレもさらに上空へ。
ちなみに今回は、黒地に金色の縁取りがされた全身鎧のオレと、青地に金色の縁取りがされた戦乙女装備な嫁たちという、触手ナマコ戦の時と同じ姿である。
〈じゃあ、ワイバーンはお願いね〉
ドラゴンを引きつけたところで《無限の魔力》に物を言わせ、大きな六角形を敷き詰めたハニカム模様の『防御障壁』を、水平に空を覆うように上下に二枚展開。高空のオレとアリスとドラゴン、低空のフェリとカーラとヒカリとワイバーン、そして地上のリリィと双子と両軍の三層に分けた。
〈別に、私一人で倒してしまっても良いのでしょう?〉
ニヤリと良い笑顔をしていそうなフェリが応える。
〈ああ、遠慮はいらない。……と言いたいところだけど、後で国の役に立ちそうな素材だから半分くらいは損傷少なめに倒してね〉
〈ふふふ、仕方ありませんね。ご期待に応えましょう〉
『光学迷彩』を解除して姿を現したフェリが弓を引くと、光が集まり輝く矢を作る。そして放たれた光の矢は、瞬時に一匹のワイバーンの胸を貫いて撃ち落とした。
それが開始の合図であったかのように、全てが動き出す。
ーーーーーー
「ぬう。……いや、これは反乱軍に味方する神の戦力を削ったということだ」
飛び立ったドラゴンを呆然と見送った皇帝だったが、すぐさま切り替えたらしい。
「例え相手に神が味方しようとも、負ける訳にはいかぬ。……第五軍、突撃!」
ゴーレム部隊と帝国第二軍歩兵部隊で戦端が開かれるかと思われたその時、皇帝の指示により一定の間隔で鐘が鳴らされる。
すると、帝国第二軍の横から第五軍の騎獣兵が飛び出し、ゴーレム部隊の前を横切りながら薄く当たって通り過ぎて行く。これにより、第五軍にも多大な犠牲が出たが、ゴーレムは元の土へと還ってしまった。
騎獣兵の突撃が正面からならば受け止められたと思うのだが、ただでさえ消耗していたゴーレムは、多数の騎獣兵からの連続攻撃には耐えられなかったようだ。
「……むむ、第十大隊は下がれ。第八大隊は守りを固めるんじゃ」
マーリン殿の指示で、余力のない魔法使い部隊が戦場を離脱。盾と槍の第八大隊が足を止めて守りに入る。
それから間も無く、帝国第二軍と衝突。ドラゴンを味方に迎え、さらにゴーレムを打ち破った帝国軍の士気は高く、ただでさえ一戦済ませた後の第八大隊は、数が少ないこともあって徐々に押され始める。
「……ヴィナ、ディア、参りますよ」
「「はい! 革命軍のみんなは、私たちが守ります!」」
そこに、『認識修正』で誰だか分からないようにしている三人。
第八大隊の盾の隙間から抜け出た双子が、ずらりと並んだ敵の槍をかいくぐって斧と槌をフルスイング。
「な! なんだ!?」
「「ぎゃあぁぁーー!!」」
盾を強打された兵士が周囲を巻き込みながら面白いように宙に舞い、双子に続いたリリィが斬り込み、開いた空間を更に広げて行く。
「開いたぞ!」
「行け! 行けー!!」
そこへ更に第八大隊が突っ込み、更に後続の第九大隊が斬り込んで行く。
ーーーーーー
『矮小な存在が、小賢しい』
オレを中心にして追い付かれないように第四皇女を飛ばしていると、ようやくオレを邪魔者と認識したドラゴン。
ホバリングしてこちらを睨むが、その安定性に相応しくない緩やかな翼の動きから、飛ぶのに魔法を利用していると思われる。
〈弱らせるんですよね?〉
〈そう、くれぐれもとどめを刺しちゃダメだからね〉
オレの左後ろに居るアリスと念話で打ち合わせ。
〈とりあえず、一撃入れてみるか〉
〈了解です〉
『光速行動』ほどではないが、そこそこ加速して移動。オレは背中側へ回り込みながら召喚魔法で作った無骨な大剣を振り下ろし、アリスは槍を構えて腹へと突っ込む。
今回は目の前を通ったオレの動きをドラゴンは認識していたようだが、どういう訳か躱そうとする気配はない。
しかし。
〈何だこれ!?〉
〈くっ、固いですね〉
オレとアリスの一撃はあっさり弾かれた。まるで、分厚い鋼鉄の板をペーパーナイフで斬りつけたような感触。
躱そうとしなかったのも納得だ。よほど傷つけられない自信があったのだろう。
(オレの纏う魔力が気体だとしたら、ドラゴンのは液体か固体か、って感じだな)
鱗自体の固さもあると思うのだが、それを強化している圧倒的な密度を持つ異質な魔力。
だが。
〈アリス〉
〈ええ、こう在る事が可能なのだと、知ることが出来ました。問題ありません〉
《無限の魔力》を嫁たちにも繋げてあるので、高い『身体能力強化』を維持出来るオレたちの方が速度は速い。攻撃を食らわないように気をつけていれば、いずれその高みにたどり着き、傷つける事が出来るようになる。
ーーーーーー
「ちょっと、わたしたちにも残しておいてよ?」
連射は出来ないようだが、順調に矢を放ち続けるフェリに危機感を覚えたのか、カーラが口を尖らせる。
ワイバーンも向かって来てはいるのだが、このままではカーラの射程に入るまでに半数は堕とされそうだ。
「むー、しょうがないなー。じゃあ、これで最後ね」
と放った矢は、射線上に重なる二匹を貫き堕とす。これで残りは四十匹。
「ふふ、ありがとう。じゃあとりあえずコレから、……『消滅光砲!』」
カーラが放った魔法は、ワイバーンを飲み込むほどの光の柱。
その効果時間はほんの一瞬だったのだが、まともに食らった一匹は翼の先を残して跡形もなく消え去り、後ろを飛んでいた一匹も半身を消し飛ばされた。
「「……カーラ?」」
「あら? 思ったより太かったわね。じゃあ次は、……『追尾爆裂散弾!』」
問いかけるフェリとヒカリを無視して放たれた魔法は、バレーボールほどの大きさをした無数の光球。
擊ち出された光球は、躱そうとした五匹のワイバーンを追尾して着弾。一発ごとに大きく抉り、ワイバーンを粉々にして行く。
「「……カーラ!」」
「ふむ、思ったより脆いわね。今度は、……『獄炎!』」
次の魔法が発動すると、唐突に三匹のワイバーンを含む空域が黒ずんだ炎に包まれ、再び跡形もなく消し去った。
「いい加減にしなさい! 最低半分は綺麗に斃す予定なのよ!」
「痛い痛い! まだ半分以上残ってるわよ!」
「私の分が無くなるでしょうが!」
話を聞かないカーラの両頬を、焦れたヒカリが引っ張って伸ばす。
こちらは何の心配もいらなそうだ。
ーーーーーー
「第三、第四軍、突撃!」
リリィと双子が斬り込み、帝国軍が薄くなった場所へ帝国軍騎獣部隊の一部が突撃。合図を受けて左右へ割れつつあった第二軍兵士さえも巻き込みながら駆け、三人に数十騎を吹き飛ばされながらも革命軍へ殺到した。
革命軍兵士は『防御障壁(小)』で守られているのだが、それは致命傷を受けない程度でしかなく、帝国軍の突撃により脱落者が急速に増えていく。
「……なかなか、厄介ですね」
「「このー!」」
強敵だと認識されてから、帝国軍に避けられ出したリリィと双子。帝国軍騎獣部隊に追い縋りながら武器を振るうが、出来るだけ殺さないようにしているせいもあって突撃を止める効果は薄い。
「まだまだ甘い! 第二から第五大隊、突撃じゃ!」
冬に訓練を施した革命軍のほとんどを動かすマーリン殿。
第八、第九大隊を突破した帝国軍七千騎が、正面に捉えたアーサーを目がけてさらに突撃。しかし、その長く伸びた横面へ、マーリン殿の指示で弧を描いて視界から外れていた革命軍騎獣部隊の突撃が喰らい付いた。
初撃で帝国軍は大きく数を減らし、ほぼ同数となった騎獣部隊同士の混戦となる。
「くっ、……致し方ない。全軍突撃!」
皇帝は、第一軍と第五軍の残りを合わせ、自ら率いて突撃。
革命軍第八、第九大隊と帝国軍第二軍の歩兵部隊同士、革命軍第二から第五大隊と帝国軍第三、第四軍の騎獣部隊同士が争う二つの戦場を迂回し、革命軍本陣を狙うようだ。
「アーサー殿、我らも行きますぞ!」
「ああ! 全軍、突撃ーー!!」
首脳陣を含む第一大隊と消耗した第六、第七大隊を合わせて敵集団とほぼ同数。普通にやり合うと、やや分が悪いかもしれない。
地上は最終局面へと移る。
ーーーーーー
「私から行かせてもらうわよ」
危険を感じて散開し、さらに速度を上げて接近するワイバーンへ、薙刀を振りかざしたヒカリが突撃。瞬時に長大な魔力の刃を形成して横薙ぎに一閃し、二匹の首を同時に刎ね。
「ちょっと固いわね」
と一言。
ドラゴンほどではないようだが、やはり今まで戦ってきた魔物に比べると『身体能力強化』のレベルが高いのだろう。
しかし、 問題があるレベルでもないらしく、噛みつき、爪を振るい、毒針付き尻尾で薙ぎ払ってくるワイバーンの攻撃をかいくぐり、次々に首を刎ねていく。
そして。
「そろそろ私も行こうかしら」
小剣を抜いたフェリが加わり。
「最低半分……、わたしは遠慮しなくて良さそうね。……『雷光螺旋弾!』」
再びカーラが魔法を放ち出す。
三人の攻撃で瞬く間に数を減らしていくワイバーン。殲滅するのに時間はかからないだろう。
「「カーラ、ズルいわよ!!」」
……半数、素材として利用出来る形で残るかどうかは怪しいかもしれない。
ーーーーーー
〈うーん、難しいな〉
こちらも加速して振るわれるドラゴンの爪や尻尾を、それでも余裕を持って躱し、攻撃を通すべく試行錯誤しているのだが。
〈もう少し、という感じなんですが〉
とアリスが言うように、あと一歩、何かが足りない。
そうこうしていると。
『ええい、鬱陶しい!』
口から炎を吐きながら首を振り、広大な空間を薙ぎ払うドラゴン。
(……あぶねぇなー)
これも余裕を持って躱したのだが、試しに展開してみた『防御障壁』は何の抵抗も出来ずに焼き尽くされた。
だが、間接的にとはいえドラゴンの攻撃する魔力に触れて分かった事がある。
(これは、防御フィールド・改でも危ないかもしれんな)
そこに込められていたのは、只々純粋な焼き尽くす意思。その前には、こちらの防御力など関係なさそうだ。
おそらくドラゴンの牙に貫けぬ物はなく、爪は全てを引き裂き、例えその温度が数百度しかなかったとしても、吐き出す炎はあらゆる物を瞬時に焼き尽くすのだろう。
〈アリス〉
〈ええ、足りなかったのはドラゴンの防御を上回る貫く意思〉
そして、その純粋な意思こそが、『光速行動』中の全力の斬撃によって起こるシステム外の超破壊ではなく、この世界のルールに則ったドラゴンの殺し方なのだ。
〈行きます〉
静かに宣言するアリス。
爪を躱して突き入れられた槍の一撃は、早くもドラゴンの鱗に浅い傷をつける。
やはり、この世界に生まれ育ったアリスの方が素直というか、魔力に意思を乗せるのは得意なようだ。しかし、アリスが成功させたことで、指輪によって精神的な繋がりがあるオレもコツが掴めた気がする。
(こう……、だな)
凝縮した魔力を巡らせ、召喚魔法で作った大剣を振るう。
(オレに斬れない物はない!)
巡らせる魔力に意思を込めてドラゴンの腹部を薙ぎ、鱗を薄く傷つける。
少し格好つけようとする邪念が混じったようだ。
(……斬る!)
振り上げた一撃が、首筋の鱗の欠片を飛ばす。
斬ろうと意識しようとする、その意思が邪魔をする。
そして。
――斬る!
振り下ろした斬撃が、ドラゴンの額を割った。
『なん……、だと』
ドラゴンが何か言ったようだが、全く気にならない。
振り払おうとする腕の爪を斬り飛ばすと、続けて腕そのものを斬り落とす。
『ギャアァー! おのれ、下等生物が!!』
吐かれる炎さえも斬って突っ込み、すれ違いざまに何の抵抗もなく腹部を斬り裂く。
〈アキラさん!!〉
そのアリスの声で我に返る。危うく殺ってしまうところだった。
〈ごめん、入り込みすぎたみたいだ〉
〈いえ、アキラさんの暴走を止めるのは私の役目ですから〉
そんなに暴走したことはないと思うのだが、そう言うアリスは妙に嬉しそうだ。
〈お、おう?〉
〈下もちょうど良い頃合いのようですよ〉
〈……お、そうだね。じゃあ仕上げだ〉
ドラゴンも浮いてはいるが、意識朦朧という感じ。
『ば、馬鹿な。長老の言う通り、こちら側は我らの破滅に繋がるというのか?』
漏れ出る独白は、ドラゴンと人類の争いを抑制する存在を匂わせるもの。
(ふむ、ますます好都合)
可能ならば色々と聞きたいところ。しかし、あからさまにこちらを見下していたし、何より今は時間もない。
(感謝する。おかげでさらに強くなれた)
今度は飲まれないように深い衝撃の意思を魔力に込め、ドラゴンを殴り落とす。
ーーーーーー
「はあーーっ!」
アーサーの一撃が、帝国軍近衛騎士を吹き飛ばす。
リリィと双子は、再び押され始めた第八、第九大隊の救援へ向かい。革命軍第一、第六大隊と帝国第一、第五軍の戦いも、敵味方入り混じる接戦となっている。
アーサーとグィネの実力は抜きん出ているのだが、皇帝も然る者。二人には積極的に仕掛けず、足止めに重きを置いて対応することで戦局を優位に進めているようだ。
「くそっ、皇帝はどこだ!? みんなは無事なのか?」
「落ち着いて、アーサー。マーリン殿から無事だという連絡は受けているわ」
焦るアーサーをグィネがなだめ。
「お前たち、帝国はもう終わる。無駄な抵抗だぞ」
ランシー殿が、周りを囲む帝国近衛騎士に呼びかけているそこへ。
『――ァァアアアア!!』
上空の『防御障壁』を突き破って巨大な何かが落ち、大きな地響きとともに砂埃が舞い上がる。
「な、何事だ!?」
「「……ひいっ! ド、ドラゴンだー!!」」
そして視界が晴れると、そこには傷ついたドラゴン。明らかな異常事態に、戦場全体の視線が集まる。
『契約の、乙女を。……我は、さらなる力を』
さすがと言うべきか、かなりの衝撃だったはずだが傷が増えた様子はなく、ヨロヨロと起き上がろうとするドラゴン。
「アーサー殿、とどめを」
アマテラスが極小サイズの『使い魔』でアーサーだけに声を届け、それに合わせてアーサーの持つ剣に斬る意思を乗せたオレの魔力を巡らせる。
「こ、これは。……そうか、そうなんだね、アニキ」
アーサーの視線は、弱点となっているドラゴンの額の傷へと向き。
「はああぁぁーー!!」
ドラゴンの頭上にまで飛び上がって突き下ろされた剣が、額を割って脳を抉る。
『ギャアァァーー! ァ、ァア……』
地響きを上げて倒れ伏し、やがて動きを止めるドラゴン。
しばらく静まり返った戦場は、次の瞬間。
「「うおおぉぉーー!!!!」」
「「……あ、あぁ」」
武器を突き上げ勝ち鬨をあげる革命軍と、武器を落として膝をつく帝国軍に分かれた。
「馬鹿な……、ドラゴンが人に討たれるなど……」
皇帝もまた地面に膝をついて呆然としているところを、何の抵抗もなく取り押さえられ。
「開門せよ!」
革命軍は何に妨げられる事もなく帝都へ入った。




