83、決戦・その一
「よく集まったものだね」
と、先日と同じことを呟く。
前回と同様に空中から見下ろすオレたちの足下、遠くに帝都を望む細長く曲がりくねった盆地に革命軍が展開し、その進路をふさぐように帝国軍が待ち構えている。
(戦いになって良かったような残念なような)
アーサーが神に選ばれたという話を信じて降伏してくれれば楽ではあったのだが、そうするとアーサーの功績が増えず、その後の統治を手伝い難くなるので、痛し痒しである。
その帝国軍だが、近衛を含む第一軍が二千、帝都防衛が基本任務の第二軍が三千、第三、第四軍の残りに逃げ帰って来れた三千を加えて八千、策略の失敗によってすり減った第五軍の残り二千、それら全てで常備軍全軍一万五千。そして集まったゲス軍がさらに一万五千で、その総数はなんと三万にもなってしまった。
「戦力比的には前回と変わらないんですけどねー」
対して革命軍は、通り過ぎてきた都市の防衛戦力として徴集兵七千を残して八千となったが、そこに遠方から集まった協力的な都軍二千が加わって総数は一万。
(……ホントに何でこんなに集まってんのかね)
初戦終了後に想定していたゲス軍は五千。最優先粛清対象の千人に、それに従う者四千ほどの予定だった。それが、裏で繋がっていた各地の盗賊や汚い仕事をさせていた傭兵などを掻き集めて最終的には三倍に膨れ上がり、戦力差も前回同様の三倍になってしまっている。
(まったくもう、全然上手く行かない。少しくらいオレの思う通りになってくれても良いのよ? ラノベみたいに。ラノベみたいに!)
と、ひとしきり脳内で愚痴ったが、帝国軍も集まり過ぎてしまったがために、食料の問題で籠城という選択肢を選べなかったのだから、そう悪い事ばかりでもない。むしろ、帝都内でのゲス軍の横暴により現政権への不満が高まっているのだから、後の統治がやり易くなったのではないだろうか。
そして、追い詰められた帝国軍的には、圧倒的な戦力を見せつけて革命軍の士気を挫こうとしたようだが、前回以上に大きく感じる戦力差があってもなお、アーサーに率いられ、半数が神の加護(偽)を実体験している革命軍の士気は高い。こちらの勝ちは揺るがないだろう。
(まぁ、そもそも嫁たちは全く心配していないみたいだけどね)
オレに背負われてのんびり呟くアリスを筆頭に、前回あんなに革命軍の心配をしていた双子でさえ、今回は帝国軍に必要以上の被害が出ることを心配しているらしい。
それだけオレが信用されているということだろう。……たぶん。
(で、後は皇帝の奥の手、か)
自称神(笑)みたいな後ろ盾があるか、もしくは神狼的な魔物でも飼っているのかと予想したが、こちらは全く手がかりなし。
オレ自身も『使い魔』を皇帝に張り付けて観察していたが、それらしい所と連絡を取る様子もなく。精霊ズから、国内で強力な魔物を飼育している様子はないという報告も受けている。
どうやら実際に何かするのを待ち、それから対処するしかないようだ。
(やれやれって感じだけど、いざとなればチートで力押しすれば良いしね)
と、そんなことを考えていると、状況に変化が。
帝国軍の前方に位配置されていたゲス軍が、痺れを切らして動き出したようだ。
ーーーーーー
「動き出したな」
と言うのはアーサー。
今回はすでに、革命軍全員にセバスとマリーによって『身体能力強化(弱)』と『防御障壁(小)』は発動済みで、首脳陣は革命軍後方に控えている。
しかし。
「アーサー、我慢して。まだ出番じゃないわ」
「わ、分かってるよグィネ」
アーサーはそれが性に合わないらしく、今にも飛び出しそうにそわそわしているところをグィネに諌められている。
「ははは、アーサー殿。グィネ殿には頭が上がらぬようですな」
「「わははは」」
その様子をからかうマーリン殿と、その言葉に沸く首脳陣。
神に選ばれた王を戴いていると信じて疑わない首脳陣は、油断しているというほど緩くはないが、圧倒的な大軍を前にしても全く緊張は見られない。
「おっと、そろそろですかな。第九大隊、構え! ……放てー!!」
革命軍の最前列、横に長く配置されていた第九大隊が矢を放つ。
マーリン殿が持っているのは通信の魔道具で、他にも革命軍の中隊長以上が持っている。この冬にグィネと共同開発した物の一つで、回路が魔道具なだけで仕組みも見た目もほぼトランシーバーである。まだまだ効果範囲は5キロほどしかないが、今回使う分には問題ない。
そのマーリン殿の指示と時を同じくしてゲス軍からも矢が放たれ、雨のような矢による応酬が始まる。
「「おお……!!」」
革命軍の第九大隊千に対して、ゲス軍の矢を放つ歩兵は三千。本来なら圧倒的に不利なのだが、アマテラスによりゲス軍の矢の全ては失速して届かない。これ幸いと次々に矢を放つ革命軍とは逆に、一方的に矢を受け倒れたゲス軍は慌てて盾を頭上に構えた兵士の所まで下がって耐える。
こちらの消耗を待つつもりなのか動きがないが、これで背後に控える帝国常備軍にも矢を放つという選択肢はなくなったことだろう。
「撃ち方やめ! 第八大隊前へ!」
五、六射したところで再びマーリン殿の指示が飛ぶと、下がって剣を抜いた第九大隊と入れ替わり、盾と槍を構えた第八大隊が前に出る。
矢が飛んで来なくなったゲス軍も、盾と槍を構えた兵士を先頭にして再び前進。距離が詰まったところで、帝国軍盾兵の背後にいる魔法使いが詠唱を開始した。
「第十大隊! 起動じゃ!」
第十大隊は魔法使い部隊。
その兵士が手に持つ、水晶の魔道具回路がゴテゴテと付いた大きめの杖に魔力を流すと、最前列の第八部隊のさらに前の地面が盛り上がり、あっという間に高さ三メートルほどのずんぐりとした人型が並んで壁となる。
これも冬にグィネと共同開発した物の一つ、ゴーレムの杖だ。召喚魔法の応用で、体を魔力で作らない事で消費魔力を抑え、制御術式を杖に組み込む事で迅速な発動と術者の負担の軽減が出来ている。
戦いに必要な強度にすると結局は消費魔力が大きくなってしまったり、まだまだ細かい作業は難しかったりと改善点は多い。しかしいずれは改良され、戦争用ではなく建築重機や危険箇所での作業用として役に立ってくれることを期待している。
「「な、なんだあれは!?」」
動揺しつつもゲス軍から魔法が放たれるが、それらはゴーレムの表面で虚しく弾けて消えた。
「第八、第九大隊! ゴーレム部隊! 前進じゃ!」
戦場は近接戦へと移行。
ゴーレムが槍を弾き、盾を押し退けて突き進むと、その隙間を第八大隊の槍が埋め、討ち漏らしを第九大隊が処理して行く。
「第六、第七大隊! 突撃じゃ!!」
第六、第七大隊は都軍の騎獣部隊。
しかし、指示で動いたのはその二つだけではない。ゴーレムがいくつかの集団を作ると、その動きを合図に第八、第九大隊がゴーレムの後ろへと動いて道を開けたのだ。
騎獣部隊はその道を加速しながら悠々と抜けて行く。
「「うおおおおーーーー!!」」
その突撃は、あっさりとゲス軍歩兵を抜き、速度を落とすことなく後方のゲス軍騎獣部隊へと襲いかかった。
受け手に回り、加速出来なかったことで騎獣の利点を失ったゲス軍騎獣部隊七千は、第六、第七大隊に縦横無尽に蹂躙され、瞬く間にその数を減らして行く。
ーーーーーー
「馬鹿な……」
呆然と呟く皇帝。
革命軍がその半数の戦力で、あっさり三倍のゲス軍を食い破る。そんなあり得ない事態に理解が追いつかないようだ。
もし動くとしたらこのタイミングだろうと注視していると。
「まさか本当に神に選ばれたと言うのか? いや、たとえそうだとしても、我は認めぬ! 我が代で帝国を終わらせる訳にはいかぬのだ!」
やがて再起動した皇帝は、狂的な熱のこもった瞳を傍らに向ける。
「お父様?」
そこに居るのは第四皇女。守る約束になっている、ランシー殿の同腹の妹でもある。
戦いが得意そうには見えないが、鎧を纏って皇帝とともに出陣していた。
「……すまぬ、娘よ。お主は尊い犠牲となるのだ。
『kaardよ、kaardよ、今ここに我が血縁の乙女を捧げる。我が召喚に応じよ。我が敵を討ち滅ぼせ』」
魔法語の詠唱。しかしそれは魔法を発動し得るものではなかった。
(最初の単語は何だ? 詠唱の内容を考えると、呼びかけた相手の名前か何かだろうか)
悪魔でも召喚するのか?
と、そこまで考えた時だった。
(な……に!?)
北東の方角に、探知範囲の外からであるにも関わらず、急速に接近する強大な存在の気配を感じる。
(まさか、ドラゴンか!?)
方角と、神狼すら超える気配から予想されるものは、オレが知る限りその一つだけである。




