82、革命・その三
「――以上です」
早朝の報告を終えた兵士が下がる。
場所は、帝都まで残り僅かの所まで迫っている革命軍、その首脳陣が集まる天幕の中。
「……さすがアキラ殿、ですな」
とマーリン殿。
これは、さきほど兵士からも捕縛したと報告があったが、昨夜食料に損害を与えようとする帝国軍部隊の存在を示唆した件だろう。
「いえいえ、こちらに損害が出なかったのは、マーリン殿の作戦があってこそでしょう」
「なんのなんの、アキラ殿がもたらす情報があってこそですわい」
「「わはははは」」
こうしてノリ良く笑ってくれるし、今も全くそんな気配は感じないのだが、最近マーリン殿はオレを警戒しているそうだ(精霊ズ情報)。
(うん、まぁ仕方ないんだけどね)
ここまで通り過ぎてきた数都市分の食料を賄い。情報を提供しただけではあるが、皇女様の罠と今回の夜襲以外にも、都市の生活用水に毒を流そうとするのを防いだり、革命軍を崖崩れで埋めようとするのを防いだり。近づくにつれ形振り構わなくなる帝国を相手に、少しやり過ぎてしまったのだ。
(最初は、帝国と通じていると思われてたのかな?)
オレの情報源は商人ネットワークだと言ってあるのだが、さすがにマーリン殿の間者が全く掴めない情報の出どころとしては怪しいだろう。
「で、今回も第五軍ですかな?」
「あ、ああ。捕縛されたのは第五軍の小隊で間違いない」
こちらを見ないようにしながら居心地悪そうにマーリン殿に答えたのは、アーサーを助けた時に捕獲した元第五軍大隊長。オレ的にはさっさと粛清した方が良いと思うのだが、マーリン殿的には必要悪であるらしく。この手の輩を上手く使うのも王に必要な資質として、アーサーの下に組み込まれている。
(裏切ろうとしてくれれば、さっくり処分出来るんだけどなー)
なんて考えていたら。
「……ヒィッ!」
不穏な空気を感じたのか、元大隊長がオレをチラ見して怯え出してしまった。
閑話休題。
(それにしても、困ったものだね)
元大隊長の証言や、オレの情報により革命軍には全く被害はなく、ただ帝国側が評判を落とす結果となったことなどから、最初の疑いは晴れたはずである。だがしかし、疑いが晴れると今度はオレの功績が大きくなり過ぎてしまうのだ。その結果、アーサーを敬愛してやまない首脳陣にとって、オレはその地位を脅かす危険人物となりつつあるのだろう。
(そんなつもりはないんだけどなー)
今回は裏方の商人をやる予定だったはずなのだが、どうしてこうなったのやら。
と、オレが一人悩んでいると。
「……やれやれ、ことごとく筒抜けとは。これは最初から勝ち目などなかったのだろうな」
どこか遠くを見ながら呟くのは、皇女ランシー様。
捕まった翌日にはグィネに説得され、皇女様と同腹の妹の命の保障を条件に帰順し、今やすっかりアーサー大好きな首脳陣の一員になっている。
(まぁ、それは納得なんだけど)
もともと伴侶に強者を求めていた皇女様は、アーサーに試合を挑んでボロ負けした後、それはもう見事に手の平を返した。
ただ。
「アーサーが率いてアキラさんが協力しているのです、当然でしょう?」
「ヒィッ! もちろんですお姉様」
いつの間にか、グィネとの間にはしっかりと上下関係が築かれているらしい。いったい何があったのか気にはなるが、怖いので見ていたはずの精霊ズにも聞いていない。
……閑話休題。
(まさか、オレが男というのが最大の問題だとはね)
見事に皇女様を手懐けたグィネの功績、これはアーサーのものになるらしい。グィネが女だから。
アーサーのために、という同じ目的で起こした行動なのだが、男というだけで野望があると見られ、女というだけで尽くしていると取られるのだ。
(まったくもって納得いかない)
そんなことを思っていると。
「では問題も無いようだし、出発しようか」
というアーサーの言葉で。
「「おう!!」」
決戦が近いということで、全員が気合いを入れて行動に移った。
(……まぁ、愚痴っててもどうにもならないか)
幸い、帝国国民と革命軍兵士のほとんどには関係ない。オレの功績を知るマーリン殿を含む一部の首脳陣が、無駄に危機感を抱いているだけではある。
(さて、どうしたものかな)
個人的には、神に選ばれたことになっているだけで十分だと思うのだが。首脳陣的にオレなんて目じゃないと安心出来るくらいの大きな功績、これをアーサーがあげる必要があるのだろう。
となると。
(……本当にどうしたものかな?)
全く良い策が出て来ない。
帝都制圧後は速やかに姿を消すという選択肢も含め、移動中にでも嫁たちと相談した方が良さそうだ。
と、結論を先延ばしにしながら、天幕を片付けるために残って見送っていると。
「あー、アキラ殿だったか?」
皇女様に話しかけられた。
「はい、何か?」
「其方の情報収集能力を見込んで、話しておきたいことがある」
「ほう、聞きましょう」
「父上……」
と、ここで何かを振り払うように首を振って言い直す。
「いや、帝国皇帝なのだが、何か奥の手を持っているはずだ」
「……奥の手、ですか」
「ああ、残念ながら詳しくは知らない。が、話を聞いたらしい皇太子が、国を滅ぼせる力だと、ポロっと漏らしたことがある。もし可能ならば、調べて備えておいてくれ」
「承知しました」
「頼む。……父上には悪いが、民あっての国だ。もうここまでくれば、革命軍が勝った方が良かろう」
最後は、オレに聞かせるつもりはないであろう独白。
皇女様的に色々と思うところはあるようだが、実際に都市の状況などを目にして覚悟を決めているようだ。
それにしても。
(……奥の手、ねぇ)
自称神(笑)が神狼を飼っていたように、強大な魔獣でも居るのか。もしくは自称神(笑)のような存在が背後に居る、そんな可能性もあるかもしれない。
が……。
(ちょっと、事前に調べて備えるのは難しいかな?)
おそらくだが、一子相伝の口伝だと思われる。『使い魔』による情報収集とは相性が悪いだろう。せいぜい、決戦中も目を離さず皇帝を監視し続けるくらいか。




