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81、革命・その二(罠)

 

 

「……あーあ、やっちゃったか」


 初戦の大勝利から五日。オレたちは食料などを輸送する輜重しちょう隊の一部隊として、馬車で革命軍に同行している。

 革命軍は徴集兵から七千が同行し、都軍千五百にさらに他都市からの千五百が加わり、総数が一万五千となった。その結果、軍の進行は予定よりかなり遅くなっている。


「やれやれ、ですね」

「アキラさんが居なければ効果的だったとは思いますが、まさか本当にやるとは……」


 オレの呟きを聞いて状況を察したようで、オレの両隣に座るアリスとフェリも呆れ顔だ。

 やらかしてくれたのは、先の戦いで敗走した帝国軍。

 オレ自身が『使い魔』を通して視ているのだが、奴らはこの先にある都市で徴発と称して住民から食料を根こそぎ奪い、都市を守らずに立ち去るのみならず、持ち出せる容量を超えた食料には火を放ったのだ。

 確かに、住民を見捨てる訳にはいかない革命軍に対しては、兵站の消耗を強いて継戦能力を奪う良い手段ではあるだろう。ただし、それはオレというチート持ちが居なければ、という話だ。


「食料を奪うなんて許されないことです!」

「……本来国民を守るべき軍の行いとは思えません!」


 カーラとリリィの二人には思うところがあるのか、怒り心頭という感じ。

 帝国軍の行いだが、物資の全てを奪われて敗走する中での苦し紛れの行動ではなく、万が一敗北した場合はそうするようにあらかじめ指示されていたのだ。しかも、その大元は皇帝自身である。

 アーサーたちを助けた昨年秋、そのやり口から帝国には性格の悪い陰険な奴が居るらしいと思ったのたが、どうやらそれは皇帝であるようだ。


「一種の焦土作戦と言えるのかしら。アキラくん並に陰険ね」

「「お姉ちゃん、アキラさんはそんな人じゃありません」」

「ご、ごめん、ヴィナ、ディア、冗談よぅ。本気では言ってないから」

「「ええ、もちろん知ってます」」

「ひ、ひどい。お姉ちゃんを弄んだのね」


 ヒカリと双子が遊んでいるが、ヒカリの言うこともあながち間違いではない。

 帝国軍の横暴を事前に防ぐ手段はいくらでもあった。しかし、オレはこれを利用出来るのではと考えたのだ。

 つまり、あえてそれをやらせることで帝国の権威は失墜し、逆にその状況を軽く乗り越えることで革命軍の存在感は増すだろうと目論んだのだ。もちろん、同じ状況になるこの先数都市の分も合わせて必要となる莫大な食料、それを用意出来ることが前提にはなる。

 本来なら、初戦を勝てたとしても、いずれ食料が尽きて軍を維持することが出来なくなり、そこで革命は失敗となっていたところだ。

 考えつく限りの準備はした(キリッ)。とかやった割には初戦に続いてがっつりチート頼りで、我ながら非常に情けない。が、利用出来るものを利用するのは当然だ。皇帝陛下にはせいぜい深い墓穴を掘っていただこう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「アキラさん、もう残りわずかですよ」


 その日の夜、在庫確認にシェルター内の食料製造区画に入ると、先に入っていたアリスからそんな報告があった。


「あー……、やっぱり?」


 内部の農場には季節なんて関係ないので、休みなく一年に三期作くらいの勢いで品種改良しながら生産されている。しかし、帝国各地に、ラストンの新年節に、膨れ上がった革命軍に、と放出しまくっているのだ、まぁ当然の結果だろう。

 とは言え、ちゃんと考えはある。


「じゃあアリス、一回出ようか」

「はい、分かりました」


 オレの指示に何の疑問も持たずに従うアリス。すっかりオレの行動に慣れてしまったのだろうが、やはり少し寂しい。

 それはともかく、キッチンへと出ると早速、食料製造区画の扉に創り付ける。


「製造速度調節器〜」


 もし創れなかったら、気は進まないが直接食料を創るしかなかったのだが、どうやら問題ないようだ。

 時間を巻き戻したり、過去にタイムリープしたりというのは無理なようだが、アイテムボックスという限定空間内の時間を止められることから、プラス方向への時間操作なら可能なのではと思っていたのだ。


「これは、食料製造区画内の時間の流れを早めることが出来る装置で、その最大加速はなんと五十万倍。つまり、一分ほどで内部時間にして一年分の収穫が見込める優れもの。さらに、内部に人が居ると作動しない安全装置付きである!」

「「おお〜」」


 いつの間にか全員で集まり、拍手してくれる嫁たち。双子もずいぶん慣れたものである。


「では、最大加速でスイッチオン」


 あとは数分放置するだけ。

 ついでにだが、をつけるまで三、四年ほどかかるらしいカカオもこれで収穫され始めだろう。


「これで大丈夫かな。みんなも、明日はよろしくね」

「「了解です」」

「「にゃー」」

 

 

ーーーーーー

 

 

「これは……、どういうことじゃ?」


 城内の様子に茫然とするマーリン殿。

 翌日、たどり着いた都市の城内は、ほぼ・・もぬけの殻だった。


(まぁ、当然なんだけどね)


 情報収集してゲスだと判明した輩には、革命が成功した場合には粛清対象になると革命軍側には内緒で教えてある。これは相手に危機感を与え、明確な敵として集まって貰ったところを一網打尽にするためだ。

 そして目論見通り、革命軍が初戦で大勝したことで、焦ったゲスどもは帝都に集結しつつある。


(手柄を立てる機会が増えるし、手柄に対する褒賞としての土地もく。なにより、革命後の統治は邪魔者が居なくてかなり楽になるはず)


 それはともかく。

 この都市なのだが、先の戦いで粛清済みのモルドーが治めていた。そして、トップがゲスなだけあり、部下の役人のほとんども同様な輩だったのだ。その結果、革命軍の進路上にあったこの都市の城に居た者は、役人の家族も含めてほとんどが帝都へと逃げ、城内はほぼ・・もぬけの殻になっているのだ。

 と、そこで。


「おのれ帝国軍め! 姑息な真似をしおって!!」


 部下からの報告を受けたマーリン殿が叫ぶ。

 おそらく、都市に食料が枯渇している状況を知ったのだろう。


「どうなさいました? マーリン殿」


 しらばっくれて尋ねるオレ。


「おお、アキラ殿か。みっともないところを見せてしまったな。

 ……オホン。それがの、帝国軍が住民の食料を持ち去りおったらしい。城内がからなのも、その辺りが原因じゃろう。まったく、都市を放り出して逃げ出すなど、腐った帝国そのものじゃ!」


 無責任な役人の行動がよっぽど腹に据えかねたようで、後半は再びヒートアップするマーリン殿。


「ふむ、それはマズいですね」

「そうなのじゃ。この都市くらいなら何とかならなくもないが、そうすると今度は軍の維持が出来ん」

「なるほど。ですが、ご安心下さい」

「おお! まさか手があると?」

「ええ、こんな事もあろうかと準備は万端です。……ご覧下さい」


 と、オレが視線で指し示す先、窓から見えるのは、城から都市の門、さらにその向こうへと連なる馬車の列。その全てが、シェルター産の食料を積んだ馬車である。

 これほどの数の馬車をどう用意したかと言うと、御者も含めて全て精霊ズが召喚魔法を応用して作ったものだ。嫁たちはアイテムボックスを利用して荷物を積み込んだ後、いちおう護衛として列の中にバラけている。


「お、おお……、おお! あの全てが食料なのか」

「もちろんです。そして、これを革命軍として配布すれば、住民の心も掴めることでしょう」

「なるほど、素晴らしい。すぐに手配しよう。まったく、アキラ殿には世話になりっぱなしじゃの」

「いえいえ、全てはアーサー殿のために」

「おお、そうじゃの。全てはアーサー殿のために!」


 最後は危ない人のセリフのようになってしまったが、満面の笑みで応えるマーリン殿を見ると悪い気はしない。


(やれやれ、本当にアーサーは愛されているね)


 ならば。


「マーリン殿。じつはもう一つ、お耳に入れておきたいことが――」

 

 

ーーーーーー

 

 

「……今なら大丈夫です」


 そして深夜、城内の一室。一人の兵士が呼びかけると、暖炉の壁が外れ、そこから現れる複数の人影。


「首領は?」

「はい。すでに領主の寝室で休んでいます」

「よし、行くぞ」


 密やかな声でのやり取りの後、薄暗い城内を駆ける人影たち。

 やがて、歩哨の隙をついて一つの扉の前へとたどり着くと、静かに開いて暗い室内へと滑り込む。

 その瞬間。


「かかれ!」


 室内に潜んでいた別の人影たちが襲いかかる。


「なに!? 馬鹿な、待ち伏せだと!?」


 侵入者たちは不意をつかれたこともあり、瞬く間に取り押さえられた。

 そして、室内に明かりが灯り。


「……まさか、貴女様だとは」


 顔を確認したマーリン殿が呟く。


「知っているのかマーリン」


 取り押さえられているリーダー格は、波打つゴージャスな金髪を持つ女騎士。その暗殺者らしからぬ人物に、アーサーも興味津々の様子。


「こちらの方はランシー様。帝国の第一皇女でいらっしゃる」

「「な、なんだってー!」」


 第一皇女ランシー様。最強の騎士を自称する彼女は、その男勝りな性質もあって、自分より弱い者を婿に迎えるつもりはないと主張し、そろそろ行き遅れと呼ばれ出す二十歳。

 そして今回の暗殺未遂は皇帝の指示ではなく、皇族に伝えられる隠し通路の知識を利用した、皇女の独断専行である。


「もはやこれまでか。『爆ぜろ』」


 一気に騒がしくなる中、皇女が魔法語を呟く。

 しかし。


「あ、着火装置付きの油樽は処理済みだから、無駄だよ」

「……な、なに!? そんなバカな!?」


 脳筋な思考回路で首脳陣と心中しようとしたのだろうが、そうはいかない。

 今回、アーサーを確実に討ち、首脳陣は城ごと焼き払うという計画だった。しかし、第一皇女は暗殺を決意する前から精霊ズによる監視対象であり、今日の下着から隠し通路に居る間の部下への小言といったものまで、その全てが把握されている。

 そして最初の兵士。城内に潜り込んでいた間者も、偽の情報で誘導するために泳がされていただけ。

 つまり、全てはこちらの掌の上だったということだ。

 そして、城内に変化が無いことから、オレの言葉が真実であると理解した皇女様からの。


「くっ、殺せ!」


 まさかのくっころである。


〈わー、本当に言う人がいるんですね〉

〈く、くっころ!? くっころですよアキラさん!〉

〈まさか本物を耳にすることがあるとは〉

〈……くっころ〉

(さすがアキラくんね。女騎士からくっころを引き出すなんて〉

〈〈さすがアキラさんです〉〉


 お揃いの指輪の機能を活かして状況を共有する嫁たちが、くっころを受けて一気に騒がしくなった。

 そんなオレも。


〈オレも生でくっころを見るとは思ってなかったよ。ところで、ヒカリ、ヴィナ、ディア、さすがってどういうことかな?〉

〈〈お、お姉ちゃんが言うから〉〉

〈ヴィナとディアに裏切られた!?〉


 と、表面上には全く出さずに騒ぎに加わっていたりする。

 そんなことをしていると。


「……はてさて、これはどうしたものでしょうな」


 本当に困ったようなマーリン殿の声。

 そろそろオレも復帰しよう。


「いやー、怪しい樽に気づいて警戒していたら、まさか皇女様がいらっしゃるとは。……これ、どうしたものですかね」


 実際には、樽だけでなくかめや花瓶などで城内に巧妙に紛れ込ませてあったので、精霊ズからの情報提供がなければ、全てを排除するどころか気づくことすら難しかっただろう。脳筋な傾向にあるが、部下も含めてなかなか有能らしい。


「いやいや、アキラ殿には責めはない。むしろこれ以上はないお手柄じゃ。アーサー殿が暗殺されるとは思わんが、樽に気づけなかったらと思うとゾッとする。しかし、まさか皇女様とは……」


 そしてどうやら、皇女様はひどく扱いに困る捕虜となるようだ。

 帝国側からすると、反乱軍となるこちらへの対処に手段は問わない。暗殺も、褒められたものではないが、悪くない手段のようだ。

 しかし、革命軍側からすると、皇女という身分ある人物を戦場以外で討つのは、後々を考えると外聞的にマズらしく、さらに捕虜にしておくにしてもそれなりの対応が必要とされるとか。


(まさか、そんな困ったちゃんだったとはね)


 飛んで火に入る夏の虫。良い感じに料理してくれるだろう、と密かに処分せずにマーリン殿に話を持ちかけたのだが、どうやら面倒ごとを丸投げする格好になったようだ。


「「う〜ん……」」


 と唸っていると。


「……うん。ここは私が預かりましょう」


 同じく唸っていたグィネが、何か思い付いたらしく手をあげる。


「おお、グィネ殿、何か妙案がおありか?」

「ええ。ここは思い切って、こちら側に引き入れようかと思います」

「むむ、それが出来れば願っても無い。しかし、いったいどうやって?」

「そうですね。手段に関しては、お任せ下さいとしか……」


 なにやら妖しい笑みを浮かべるグィネ。大好きなアーサーのためなら、どんな事でもやり通してしまいそうなところがある。ここは何も聞かずに任せた方が良さそうだ。


「な、なるほど。では、ここはグィネ殿にお任せしよう」


 どうやら、グィネに関することは全員の共通認識らしく、やや引き気味に了承する首脳陣。


(グィネって、アーサーが絡むと怖いからね)


 うんうんと頷いていたが。


「……何か? アキラさん」

「いえ、なんでも」


 慌てて姿勢を正して誤魔化す。


(あぶないあぶない)


 ともかくこれで問題解決だ。

 グィネの考えとしては、皇女様が無事こちら側に付いてくれれば、一定数いるであろう皇帝の血筋に忠誠を誓う層の支持が得られる、という事ではないかと思う。

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