80、革命・その一
「よく集まったものだね」
春になり、目の前に広がるのは革命軍五千名の威容。その中には、ネシアス帝国の現状を憂う冒険者ギルドの説得に成功した結果、仕官を狙う冒険者も多数含まれていたりする。
冬の間に訓練され、不揃いな装備ながらも整然と陣形を組んでいる姿は、とても寄せ集めとは思えない。ただの集団ではなく、ちゃんとした軍団になっている。
だがしかし。
「こうして見ると圧倒的ですねー」
「アキラさん、諦めたらそこで革命終了ですよ」
……だがしかし、オレが集まったと言っているのは革命軍のことではない。革命軍と相対するように展開する帝国軍のことである。その総数は一万五千。なんと革命軍の三倍だ。事前に情報を得ていたとはいえ、実際に目の当たりにすると兵力の差は歴然である。
しかし、その一万五千の全てがネシアス帝国の常備軍で編成されている訳ではない。
「まあ、八割方アキラさんのせいよね」
「……その、ご主人様のなされた事を考えれば、予測出来なくはありませんでしたね」
……ネシアス帝国の常備軍は、狡知さで知られる第三軍から二千五百と、苛烈な事で知られる第四軍から二千五百。残りはラストン近隣の四都市から集められた都軍が二千と、各地から連れてこられた徴集兵が八千である。
そして、徴集兵が八千も集まっているというのが、当初のオレの目論見とは違うところだ。
「ぷぷ、アキラくんドンマイ♪」
「「お姉ちゃん、そういう態度は良くないと思うの」」
「ご、ごめんヴィナ、ディア。冗談よぅ」
……まぁ、オレが各地で行った食料支援、それにより多くの人が元気に冬を越した結果、帝国に徴兵され得る人数も増えてしまったということである。あと、近隣都軍の二千という数にも影響を与えているだろう。
(それにしても、分からないな)
無個性狂信者は、いったいどうするつもりだったのだろうか。
冬を越して一息つき、かき集めた糧食での早期解決を望むであろうネシアス帝国側の考えも合わせると、今回の戦闘は回避し得ないものだったと思う。であるならば、どうやってチートなしでこの戦いを乗り越え、泥沼の内戦へと導くつもりだったのか、その方法に全く想像がつかない。
(目的はともかく、無個性狂信者の有能さは素直に羨ましいね)
なんて物思いにふけっていると。
「「みんな今日はおかしいです! 心配じゃないんですか!?」」
双子が本気で不安に思い始めたようだ。
秋から冬と、ラストンで過ごした双子には顔見知りになった兵士も多い。両親を殺された双子的に、知り合いに迫る危険を不安に思う気持ちも分からなくはない。
(双子が仲間になったタイミングの問題かな?)
のんびりしたアリスやネタをぶっ込むフェリ、チクリと嫌味を言うカーラに真面目に分析するリリィ、そしてオレをからかうヒカリ。その五人と不安がる双子の何が違うかと言うと、それはオレへの信頼の度合い、……などではなく、オレがチートを用いてどれほどの事が出来るのか、それを実際に体験しているか否かの違いだろう。
(まぁ、溢れ出る触手ナマコに比べれば、帝国軍一万五千くらい余裕だよね)
涙ぐむ双子を慌てて慰める嫁たちを見ながら、そんなことを考える。
「ちょ、ちょっと! アキラくんとアリスも手伝いなさいよ!」
ちなみに、現在地は革命軍やや後方の空の上。体にではなく周囲を覆う『防御障壁』に『光学迷彩』をかける事で、仲間が見える状態のまま姿を消すことが出来ている。
そして、空の上という事で、例によってアリスはオレにおぶさっていた。
「ごめんごめん。ほら、ヴィナもディアも落ち着きなって。革命軍は誰一人として死なせやしないから」
「「ゔぅ〜、本当に?」」
「ああ、約束するよ」
頭を撫でながら宣言すると、その言葉に縋るように涙をこらえて顔を上げる双子。
「アキラさん、もう少し近づいて下さい。私が二人を撫でられません」
「……いや、アリスが一人で飛べば問題無いんだけど?」
「むう……、あれです、……だが断る! です」
「はいはい」
「よしよし、ヴィナ、ディア」
「「ゔ〜、アリスさ〜ん。アリスさんだけズルいです〜」」
「……あれ?」
「そうね。私も飛んでる時にアキラくんを独占するのはズルいと思うわ」
「「うんうん」」
「あれあれ? アキラさ〜ん、あれです、戦略的撤退を進言します」
「はいはい」
「ほらほらー、そろそろ一人で飛ぼうよー」
「「ほらほらー」」
「きゃー、引っ張らないでー」
オレの言葉を信じることにしたのか、双子も持ち直したようだ。
そんなことをしていると。
「「にゃー」」
オレと双子の頭上から、精霊ズによる注意喚起が。どうやら始まるらしい。
ーーーーーー
「皆、聞けーー!!」
グィネを侍らせ進み出たアーサーが、振り返り革命軍全体へと呼びかけた。
青みを帯びた優美なミスリル鎧で二足歩行の恐竜型の騎獣に跨ったその姿は、目論見通り非常に目立っている。
「敵は強大である! だがしかし、恐れる必要はない!」
その言葉、ただそれだけで革命軍に漂う不安感が薄れた。
共に訓練する中で実力を示し、兵士たちから信頼を得ていたのは知っている。が、三倍もの敵を前にした不安さえも薄れさせるというのは、正直なところ何らかのチートを持っているのではと疑いたくなるレベルだ。
「見よ!!」
と、天へと伸ばされたアーサーの手に光が集まり、真っ直ぐな刀身に翼を模った鍔を持つ美しい剣を形造る。
「これこそが、私が神に賜った剣!」
これもミスリル製で、アーサーに贈る剣ということで銘はエクスカリバーにしてある。
自力で作ることを諦めて《創造》したもので、不壊と斬れ味強化、ほかにも毒殺などを防ぐための健康維持機能と、後の世のための所有者を選ぶ機能も付与してある。
続いて、その剣から光の球が放たれると、それが弾けた上空に翼を持つ美女が大きく映し出され。
「「アーサーを王と認め、力を貸しましょう」」
革命軍だけでなく、帝国軍にも聞こえるように声が響き渡る。
オーバースペックな剣ということで、開き直って神の威光を借りる事にした結果が映し出されたアマテラスの姿なのだが、帝国軍の士気を挫き、奴隷出身のアーサーが王になる後押しとなることも期待している。
「総員進め! いざ征かん! 我らには大いなる力の加護がある!!」
「「うおおおおおおーーーー!!!!」」
再び振り返ったアーサーが帝国軍を剣で指して駆け出し、グィネと革命軍も遅れまいとすぐさまそれに続く。
それを受けて帝国軍も動き出した。間も無く戦端が開かれるだろう。
ーーーーーー
「……一万を超えるですと!?」
間者からの報告を受け、驚愕とする軍師マーリン殿。
これは二十日ほど前、ラストン城内の会議室での出来事。
「アキラ殿」
アーサーがオレに確認してくる。
「そうだね、軍が帝都を発ったという話はこちらでも確認している。途中で合流する分も考えると、もう少し増えそうだよ」
精霊ズからの情報なので間違いないが、対外的には、商人ネットワークから得た不確かな情報ということになっている。
「その内訳は?」
「まずは第三軍から二千五百、第四軍から二千五百。これは確認が取れている。そしてラストン近隣の都軍から、ガウェイン殿が七百、トリスタン殿とパーシバル殿が四百ずつ、それけらモルドーが五百で合計二千。これもほぼ確定。あとは、徴集兵が最終的に八千ほどになる予定かな」
「……八千ですと!?」
再びマーリン殿が叫ぶ。
「あはは、な、何でそんな数になってるんでしょうねー」
「むう。……いや、そのおかげで常備軍の数が少なくなったと考えれば、一概に悪いとも言えませんな。しかし、それも徴集兵八千をどうにか出来れば、という話ですが……」
こちらが優勢ならばという前提はつくが、近隣都軍のうちモルドー以外の千五百は寝返ってくれることになっている。とは言え、現状ではそれも厳しく、会議室内の雰囲気は暗い。
〈アマテラス、そろそろお願い〉
〈了解です、マスター〉
オレが念話でGOサインを出すと、円卓の中央にキラキラとした光のエフェクトが発生し、やがて翼を持つ姿でアマテラスが現れた。
もちろん転移して来た訳ではない。これは『使い魔』のラスを再構築して作った分体で、最初から姿と気配を消して室中に居たのだ。そしてタイミングを見て、光のエフェクト後に『光学迷彩』を解除し、気配を解き放っただけである。
「「何者だ!!」」
さすがと言うべきか、誰一人として遅れることなく武器を抜き、戦闘態勢をとる革命軍首脳陣。しかし、そういう役割を演じ続けているせいか、この姿のアマテラスには侵し難い雰囲気があり、即座に攻撃に移ることは躊躇ったようだ。
「控えなさい。こちらは神使様にあらせられる」
そんな中、一人片膝をつき頭を垂れるオレ。
それにより相手を知った首脳陣も武器を納め。
「おお、あなたが神使様でしたか。こうして実際にお会いすれば、それも納得ですな。して、このたびはどのようなご用件で?」
年の功か、いち早く立ち直ったマーリン殿が問いかける。
「主が帝国の現状を憂いておいでです。ですので、今回は革命軍に助力することとなりました」
「な、なんと! それは誠ですか!?」
「ええ。とりあえずですが、問題となっている徴集兵に関しては、こちらで受け持ちましょう。それと、……これを」
差し出されたアマテラスの手に光が集まり、剣を形造った。
「こ、これは……、おおっ!?」
アーサーが受け取ると、剣は光となって形を失い、再び集まった光は指輪となる。そう、この指輪が鞘となっているのだ。
「これは神剣エクスカリバー。アーサーよ、貴方を王と認め、この剣を授けます。貴方と子孫がその志を忘れないかぎり、この剣が力となるでしょう」
「……俺の、志」
「では、いずれまた」
再び『光学迷彩』を発動し、気配を消すアマテラス。
〈ありがとう、お疲れ様〉
〈後でラスを撫でて下さいね、マスター〉
〈うん、了解〉
今起こった事が信じられないように、しばし茫然とする首脳陣。しかし、やがて再起動すると。
「おお。い、今のは現実か?」
「ああ、間違いない!」
「うおおー! これで勝つる!」
「ま、待て待て、油断は禁物だ」
「うむ、そうだぞ。徴集兵と戦わずに済み、都軍が味方についたとしても、こちら六千五百に敵は五千五百。油断すれば足元をすくわれかねん」
一気に騒がしくなるが、アマテラスの言葉を疑う者はなく、やがて籠城ではなく打って出ることが決まった。
そんな心配はないことを知ってはいるが。
(もしこれが神を名乗る悪魔の罠だったら、もう全滅まっしぐらだよね)
などと、どうでも良いことを考えるオレであった。
――とまあ、こんな事があったのだ。
ーーーーーー
「……よし、オレたちも仕事をしようか」
という訳で現在、オレたちの主な仕事は帝国軍徴集兵八千の排除となる。と言っても、今日のところはオレと精霊ズだけで嫁たちに出番はない。
「「にゃー」」
まぁ、オレ自身もほとんど魔力タンクの役割しかなかったりするけれど。
ちなみに、アーサーが掲げた剣から放たれた光球と上空のアマテラスの姿は、オレの魔法による演出である。
「じゃあ、アマテラスからお願い」
まずは、オレの頭上のラスへ呼びかける。
「にゃー〈了解です、マスター。魔力をお借りしますね〉」
そして行われるのは、革命軍五千へ二つの魔法の付与。『身体能力強化(弱)』で攻撃を躱しやすくし、『防御障壁(小)』で致命傷を防ぐ。
順調に並列思考が強化されつつあるオレだが、まだまだどちらか一つでも三桁の数を個別に付与するのは厳しい。それを精霊ズの処理能力なら余裕で二つを五千行けるのだから、桁が違うどころではない。これからも努力は続けるつもりだが、追いつくのは無理そうだ。
と、そんなことを考えている間に付与は完了。革命軍のスピードが明らかに上がる。
「じゃあ、セバスとマリー、お願い」
次に、オレの両肩に乗るバスとリーへ。
「にゃん〈かしこまりました、マスター〉」
「にゃお〈はい、マスター〉」
ここからが本番。
帝国軍の前面に配置され、盾を、槍を構えて待ち受ける、あるいは今にも矢を放たんとする徴集兵たちが立つ地面、それが水のように支える力を失い、次の瞬間、その姿は地面の下へと消えていた。
範囲内の全てを沈めるだけならオレにも出来るのだが、精霊ズは違う。全徴集兵を個別に沈め、指揮していた帝国軍将校はそのままの場所に残っているのだ。
そして沈められた徴集兵たちは個別に地中を運ばれ、革命軍の進路からは外れた場所に無傷で地上へ戻る。彼らは革命後には国を支える力となるのだから、大事にしないといけない。さらに言うなら、この奇跡によって真実味を増したであろう、アーサーが神に選ばれた王であるという話が、彼らが故郷へ戻ることで各地へ伝わるはずである。
そんなことを考えていると。
「見よ!! 奇跡はなされた!! 進め! 進めーー!!」
「「うおおおおおおーーーー!!!!」」
革命軍の波は残っていた数人の将校を瞬く間に飲み込み、さらに勢いを増して帝国軍へと迫る。
さらに。
「今こそ約定を果たす時! 敵は帝国軍である! かかれーー!!」
「「うおおおおおおーーーー!!!!」」
このタイミングで、帝国軍の両脇に配置されていた都軍千五百が転進。
「ば、馬鹿な……」
「何が、起こったというのだ」
「ヒィッ、し、死にたくない」
「……だ、駄目だ。逃げろー!」
「「うわああぁぁーーーー」」
ただでさえ目の前で起こった奇跡に動揺していた帝国軍は、この半包囲状態で士気が崩壊し、ろくに戦うことも出来ずに潰走。革命軍は追撃に移った。
ここでさらに一手。
「アマテラスはそのまま維持。セバスとマリーは次の作戦を」
「にゃーん!〈お任せ下さい!〉」
「にゃん!〈かしこまりました!〉」
「にゃおー!〈はーい!〉」
返答に気合が入っている。どうやら精霊ズも、この一大スペクタクルに興奮しているようだ。
「あれと、あれと、……あれもお願い」
「にゃん〈はい、あれですね〉」
「にゃーお〈はい。あ、後はあれもですね〉」
帝国軍もゲスい奴ばかりではないし、革命後の事も考えるならあまり被害を大きくしたくはない。だがしかし、革命軍の戦果的には犠牲者が必要である。
ということで考えたのが、逃げる帝国軍の中でも、よりゲスい奴の足止めである。特に、常備軍の軍団長の二人と、都軍を率いるモルドーは確実に殺っておきたい。これは、帝国の膿を出すことにもつながる一石二鳥の作戦なのだ。
ーーーーーー
「「おおおおーーーー!! おおおおーーーー!!!!」」
やがて程良いところで追撃も切り上げられ、勝ち鬨を上げる革命軍。それを見ている嫁たちも興奮はしているようだが。
「集団の持つ力というのは素晴らしいですね。でも、この短時間で失われた人命の数を考えるとやはり、戦争なんてするものではないと思います」
というアリスの言葉が、どこか物憂げな雰囲気が混ざる理由だろう。
「オレもそう思うよ。だから、犠牲は最低限にしたいね」
そして。
「もちろん、味方に犠牲者は出てないよ」
と、呆然としている双子に教える。
「「ほ、本当に一人も死なせないなんて……」」
どうやら、オレの誓いを話半分に聞いていたようだ。まったくもって失礼な話である。
もっとオレのことを尊敬してくれても良いのよ?




