78、革命後のための布石
「いかがですか?」
夜の帳が下りる頃、少ない明かりで照らされた薄暗い室内で、相対する老人が渡された目録に目を通している。
「……本当によろしいのですか? これほどの物を」
運び込まれる現物も目にしているのだが、それでもなお信じられないとばかりに頭を振る老人。
「ええ、勿論ですとも。……ただ、例の件はよろしくお願いしますよ」
「え、ええ。その程度のことなら、何の問題もありません。しかし、その……」
さらに、老人的には、求められる見返りが釣り合わないように思えるのだろう。何か悪い事が行われているのでは、と疑心暗鬼になっているようだ。
しかし。
「まぁ、疑問をお持ちになるのは致し方ないかと思います。しかし、とりあえずでも、そちらに損のある話ではないはずですよ?」
「は、はあ」
どれほど考えたところで、ない裏を見い出すことは出来ないだろう。
「では、失礼します。ヴィナ、ディア、出発だ」
「「了解です。アキラさん」」
「ええ!? 今から発たれるのですか!?」
「ははは、大丈夫ですよ。うちの護衛は優秀ですからね」
引き留めようとする村長に別れを告げ、闇に沈む街道へと馬車を進める。
「「アキラさん、ずいぶん楽しそうでしたね」」
振り返って遠ざかる村を見やりながら、オレの左右に座る双子が不満そうに言う。
「うん? 今度、代わりにやってみるかい?」
直前まで居たのは、ネシアス帝国辺境の村。
善良な村長が治める厳しい冬を迎えそうなその村へ、『光速行動』でひとっ走り食料支援に来ていたのだ。その際、オレ的に興が乗ったので、政府転覆を狙って暗躍プレイをしていたのだが。
「「いえ、それは私たちには難易度が高そうです」」
双子には全力で拒否られてしまった。
(……ふむ)
最近いろいろ忙しく、構ってやれる時間が減っていた。そんな中、夕方に目的を告げずに連れ出したことで、双子的にはお出かけ気分になっていたのだろう。
(で、その出かけた先でオレだけ楽しそうにしていたら、そりゃあ面白くないかな?)
十分に村から離れた所で積荷をアイテムボックスに入れ、召喚魔法を応用して作っていた馬車を解除。
「よし、おいで」
と両手を広げて、少し拗ねた様子を見せてくれている双子に呼びかけると。
「「……」」
無言のままではあるが、左右からしっかりと抱きついてくれた。
最近は、双子もずいぶん甘えてくれるようになってきた。
「帰りは少しゆっくり行くから」
来る時は『光速行動』だったが、帰りは普通に飛んで帰ることにした。それなりにスピードは出すが、距離があるので一時間くらいはかかるだろう。
各地への食料支援がひと段落すれば、双子にも手伝ってもらいたい事がある。そういう話もすれば、きっと機嫌を直してくれるに違いない。
ーーーーーー
「これ、美味しいですね!」
思わず、という感じで声をもらすグィネ。
双子とお出かけした数日後。グィネと双子が幸せそうな顔で口にしているのは、濃い茶色の平べったい固形物。
元の世界の一般的な物より甘さ控え目ではあるが、この世界で食べる物としてはちょうど良い。
「美味しいでしょう? チョコレート」
そう、チョコレートだ。数多くある支援先の中で、いち早く先日の辺境村へ行った理由がこれである。
食料支援ついでに仕入れて、さらに増産をお願いして来たのだ。
(村長さん、不思議そうな顔をしてたなー)
そもそも、カカオ(っぽい植物)はあったのだが、極々内輪で果実の部分が食べられていただけだった。そこに、余裕で冬を越せる食料と引き換えに継続的な増産を頼まれ、その上で求められたのが彼らにとっては用途不明な種子の部分なのだから、村長のきょとん顔も致し方ない。
「これを作るための物なら、最優先で開発したいと言うのも納得ね」
そして、最近のオレがラストンでやっていたのが、冬にもやっていたグィネとの魔道具開発だ。主に革命後の産業に役立つ物を目指して開発している。
「チョコレートは、将来の目玉輸出品になる予定だからね」
後は、砂糖の生産もどうにかしたいところ。
(こっちはサミルに相談しようかな)
もう一つの隣接国であるウルーク王国からの流通を復活させるべく、友人の商人に声をかけてある。その際に魔道具の開発をしていることを伝えたら、冬までにはラストンに仮支店を作ると意気込んでいた。
なんてことを考えていると。
「じー……」
グィネが分かりやすい音を発しながら、物欲しそうにこちらを見ている。
「あ、ごめんなさい。主要メンバーにも試食をしてもらわないとですね」
オレが持っていたチョコレートの残りをグィネに渡し。
「うん。じゃあ行ってきます」
「はい、お願いします」
確実に喜ぶ事が分かっているからだろう。アーサー大好きなグィネがルンルンで去って行くのを見送ったが。
「「……」」
今度は、双子が物欲しそうに指をくわえて、グィネが去って行った方を見ている。
「ふふ。はい、ヴィナ、ディア」
そんな双子に渡すのは、アイテムボックスから取り出した5センチ四方ほどのチョコレート。
「「ええ!? まだあったんですか!?」」
「当然だろう」
グィネがアーサー大好きであるように、オレも嫁が大好きだ。そんなオレが、嫁により多くのチョコレートを残していないなんてことがあるだろうか。……いや、あり得ない!
「さてそれじゃあ、他のみんなを喜ばせに行こうか」
「「はい♪」」
当然だが、このあと合流した馬車移動中の嫁たちは狂喜乱舞してくれた。




