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77、革命準備

 

 

「……そろそろですかねー」


 解放都市ラストンの城への出入りを認められて十日。編成に三日かかったが、無事に派遣してもらえたキャラバンを率いて、デューロンからの最短ルートでネシアス帝国に入った。


「……どんなのが来るんでしょうねー」


 ラストンへの物流が滞るということは、接収するなり商人たちを別都市へ誘導するなりしているのだろう。実際、関所で別都市を目的地だと言うと、絶対にラストン方面には行くなと注意されたりした。

 ということで、分かれ道をラストン方面へと曲がった現在、いつ帝国軍が現れても良いように警戒しながら進んでいるところだ。


(前回通った時は、アーサーたちを追っていた関係で見逃されたんだろうけどね)


 戦争状態であるため、敵方への物流をさまたげるのはごく普通のことであり、それ自体を悪だとは思わない。問題は、それを行う者たちの性質だろう。


(いやはや、無個性狂信者はどうやって物資を通してたんだろうね)


 相手側にソーグノ教の協力者でもいたのだろうか。もしそうなら、教祖は役立たずだったが、その人脈は羨ましい限りである。

 それはともかく。オレたちとしては、どのような相手かによって、話をつけるか排除する必要があるのだ。

 そんなことを考えているオレを他所に。


「……味方が増えると良いですねー、アキラちゃん」


 リリィがぱたぱたと尻尾を振りながらオレの頭を撫でようとする。


「……アキラちゃん言うなし」


 そのリリィの手を避けると。


「……あう」

「ぐ、ぐぬぬ」


 「クゥ〜ン」とばかりに耳と尻尾を垂れるので、渋々リリィの膝の上に座りなおして体をあずけた。


「……ふふふー。良い子、良い子」


 絶賛並列思考強化中のオレは、解放都市ラストンに居る本体で双子とともに色々やりつつ。精霊ズより圧倒的に少なくはあるが、各地に『使い魔』を放ち情報収集。さらに、キャラバンに『召喚魔法』で作ったオレの分体を置いて、今後の革命軍への協力内容の話し合いなどをしている。

 のだが。


「アキラさん、分体増やしませんか?」

「そ、そうですよ。とりあえずあと四体とかオススメです」


 その分体に問題があった。

 慣れないうちは必要な労力が少ない方が良いだろうと、分体のサイズを小さくした。その際そのまま縮小すると気持ち悪いかと思い、サイズ相応の幼い容姿(五、六才くらい)にしてみたのだが、それが嫁たちにクリティカルヒットしてしまったのだ。

 御者をするリリィの後ろから分体の頬をつつき、鼻息荒く分体を増やせと言うアリスとフェリだけでなく、カーラとヒカリもうんうんと頷きながら今にも飛びかからんばかりだ。

 可愛がれる双子が同行していないのもあるだろうが、その根底にあるのは。


(やっぱり子供が欲しいんだろうな〜)


 ということになる。

 全員が旅を楽しんでいるし、そうなると旅を続けられないのが分かっているから口にはしないのだろう。だがしかし、伴侶となった以上、子を望むのは当然の心の動きだと思われる。

 さらにリリィに関しては、マダムのお嬢様が亡くなったということを知り、そのタイミングなどからオレの関与に気づいていると思われるのだが、それに対して沈黙を選んでくれていたりするし。


(何度でも同じようにするし、後悔はしていないんだけどね)


 出来の悪い子ほど可愛いというやつか、ひどく落ち込んでいたというマダム。そこに姿を見せてしまったことで「それまで以上に可愛がられました」と、それはそれは申し訳なさそうに話すリリィに対して後ろめたさを感じるのは仕方ないことだろう。


(失敗したよなー)


 馬車内で分体を作った直後に揉みくちゃにされ、これはマズいと慌ててそのままの姿を縮小したものにするも即座に却下され、中身は変わらないのだと言っても聞いてもらえず、先に述べた事情などから強気に出ることも出来ないまま、今は嫁たちに順番に可愛がられている。


(やれやれ、今日も夜までこのままか)


 夜は分体を解除し、双子を連れて合流している。その際、普通に喜んで迎え入れてくれるのがせめてもの救いだろうか。

 ちなみに、リリィ以外は『認識修正』で男性冒険者に見えるようにしてあるし、オレが可愛がられている有様は認識出来ないようにしてある。

 

 

ーーーーーー

 

 

「そこの隊商、止まれ!」


 そして昼過ぎ、街道を見回っていたらしい帝国軍の騎馬部隊と遭遇。四十人居るので、小隊なのだろう。


「こちらには来ないように言われているはずだ。今すぐ引き返せ!」


 また、問答無用で襲いかかって略奪しようとするような、許し難い盗賊もどきでもないようだ。

 ならば。


「怪我させずに無力化、ですね」


 と、アリスが確認してきた方針で良いだろう。


「うん、よろしくね」

「……みなさん気をつけて下さい」


 オレはまだそんな絶妙な手加減を分体でするのは無理、リリィは商人役、ということで見学である。


「じゃあ、行ってきます」

「アキラちゃん、見てて下さいね」

「やれやれ、不完全燃焼になりそうですね」

「さて、いっちょやりますか!」


 アリス、フェリ、カーラ、ヒカリと次々に馬車を飛び出し襲いかかって行く。


「ぬう、手向かうか! 総員、討つのは武器を持つもn……ぐふぅっ!」

「「た、隊長ーっ!」」


 まずはアリスが、先頭で何か叫んでいた騎士に槍の石突きで一撃。体の芯を捉えたその一撃は、完全武装の騎士を綺麗に吹き飛ばした。

 その後も。


「くっ、おのれ舐めおっt……ぎゃあ!」


 フェリの鞘に入ったままの小剣で叩き落とされ。


「そ、そんなバカな! がっ! アッーー!」


 カーラに杖で突き落とされた後、したたかに股間を痛打されて悶絶。


「ひぃっ! ち、近づくな! げふぅっ!」


 素手のヒカリに引きずり降ろされ、そのまま投げ飛ばされる。

 という感じで、あっという間に無力化されていった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「お話を聞いていただけますか?」


 そして夜。場所は比較的ラストンに近い別の都市の城、その執務室である。

 無力化した後に『使い魔』に追跡させて分かったのだが、昼に出会ったのは帝国軍は帝国軍でもこの都市に所属する軍の部隊だったのだ。そして、あらかじめ集めていた情報と合わせて、この都市の領主ならば説得出来そうだと判断し、早速その日のうちに話をつけに来た。


「……抵抗は無駄なようだな。話を聞こう」


 昼の出来事や、この場所まで騒ぎにならずに侵入した手口などからこちらの力を理解したのだろう、あっさり聞く姿勢になる領主殿。こちらの期待通り、冷静で頭の良いかたらしい。


「ではアーサー殿、よろしくお願いします」


 と、オレは一歩退がって膝をつき、こうべを垂れる。もちろん、連れて来ているのはアーサー本人だ。


「初めましてガウェイン殿。革命軍を率いているアーサーと申します。不躾な真似をしている自覚はあるが、決して損はさせませんよ」


 この都市に求めるのは、本格的な戦争状態になるまで敵のふりをしながら様々な便宜を図ってもらうこと。武力を見せただけでなく、この都市でも不足しつつある食料や資材など、こちらが用意できる交渉材料はアーサーに伝えてある。

 気難しい所のある領主殿らしいが、アーサーなら大丈夫だろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「「では、よろしくお願いします」」


 固い握手を交わすアーサーと領主殿。思った通り、問題無く交渉成立。


「では、失礼します」


 と『光学迷彩』で姿を消し、入って来た時と同じように『認識修正』で窓の開閉を認識させずに部屋から外に出ると、部屋内の音を遮断していた結界を解除。アーサーにも『飛翔』をかけ、空を飛んで都市を脱出。

 いつでも背後に立てる、裏切るべき相手ではないと思わせるための演出だ。実際、『使い魔』で監視しているのでいつでも背後に立てる。

 

「いや〜、さすがアニキっス」


 球形の『防御障壁』で覆ってあるので、高速で飛んでいても会話に支障はない。


「うん?」

「以前、ガウェイン殿はその生真面目さから仲間に出来ないと判断してたんス。それがアニキにかかればあっという間なんだから、やっぱスゲーっス」

「いや〜、それほどでも。とは言え、これでやっと戦える可能性が出てきたところだ」


 もともと帝国内が混乱していたこともあり、本格的な衝突は冬が明けてからと言われていたらしいのだ。それが、物流が滞り、アーサーが討たれかけ、と危うく冬を越すことさえ出来なくなるところだった。


「ははは。全く、アニキが居なかったら終わってたっス。ただでさえ借りてばかりなんスけど……」

「良いって良いって。全てとは言わないから、多くの人が幸せになれるような国にしてくれよ。オレ的には、それが何よりも嬉しいよ」


 それは世界に変容をもたらし、オレを生かしてくれた神(?)の望みを叶えることになるだろう。


「ありがとうございます、アニキ。俺、頑張るっス!」

「おう! オレもまだ色々やらせてもらうよ」


 これから冬にかけて、仲間になってくれる所には食料などを援助し、ならない所には援助をしない。そうすることで仲間にならない領主の所の住人は困窮し、やがて帝国に見切りをつけた人々は故郷を出てラストンに集まるはずだ。それは敵の戦力を削ぐことになり、そのうちのいくらかはこちらの戦力にもなってくれるだろう。

 オレたちが訓練などを直接することはないが、これが革命の第二段階である戦力の強化につながるのだ。

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