74、祟る
「――という感じ」
昼食を済ませてから馬車で出発。
御者席で隣に座るアーサーに、春に別れてからのオレたちの旅の様子を話した。もちろん、いくつかのやらかした事に関しては話してはいない。
友人だからと言って包み隠さず話す必要はないだろう。
「イイっスね、旅。俺も行っとけば良かったっス」
「王になってからでも遅くはないさ。まぁ、あまり自由にフラフラは出来ないだろうけどね」
「なるほど。王になれば、あちこち行く機会もあるかもしれないっスね」
「そうそう」
そんなオレたちの背後では、女性陣が話に花を咲かせている。が、女子会的な雰囲気があるので、その内容には意識を向けていない。
……そう、女性陣の包み隠さず語られる猥談なんて聞こえない。
「……アニキ、居心地悪いっス」
「HAHAHA。どうしたんだいアーサー、オレには何も聞こえないyo」
「そ、そうっスね。俺にも何も聞こえないっス。ハ、ハハ……」
そして。
「そ、そうだアーサー。行方不明の商人って、どんなヤツなんだ?」
現実逃避のつもりなど全く無い、たまたま振ったこの話題が。
「あー、アイツっスか。うーん……、改めて考えると困るっスね。それはもう、驚くほど特徴の無いヤツだったっスから」
思わぬ言葉を引き出した。
「……特徴が、無い?」
そう、それは例のホムンクルスを思い起こさせるもの。
〈〈……まさか!?〉〉
〈……マッカーサー!?〉
〈〈え? ど、どうしたんですか!?〉〉
どうやら、女子会をしつつ聞き耳を立てていた嫁たちも、会ったことが無い双子以外は同じ顔を思い浮かべたようだ。
ちなみに、双子にはちゃんと、やらかした事も含めて全て話してある。
「それって、こんなヤツ?」
ふざけたヒカリに無詠唱の空気弾でデコピンしつつ、召喚魔法を応用して作った無個性狂信者の胸像を見せる。
「おお! そうっス、こいつっスよ。どこで会ったんスか? て言うか、これ凄いっスね」
「うわー、こいつか」
であるならば、宰相を操って侵略戦争を起こすのに失敗してしまったため、国の混乱を利用して内戦を起こそうとした、というところか。
(そのままだったら革命は成功しなかった訳ね)
自称神(笑)が混乱を望んでいたことを考えると、狂信者によって決着のつかない泥沼の内戦へと導かれていたと思われる。
(まったく! なんて面倒なヤツらなんだ!)
後々まで迷惑をかけてくれるとは、祟るのだけは神級だったらしい。
「あー、うーん……。どう話すべきか……。そうだな、グィネも聞いてくれる? 二人もソーグノ神聖王国が変わったという話は聞いてると思うんだけど――」
ということで、教祖であった自称神(笑)が悪の錬金術師で、無個性狂信者がホムンクルスであることを話し。オレたちに関しては、現地に降り立った神の使いに請われて手伝った、という感じに話してみた。
(ふむ、友人だからと言って、とは思ったけど……)
ここまで話したのなら、シェルターあたりは神に下賜されたと言えば見せても問題無いかもしれない。
「……そんな、まさか」
とても信じられない、という感じで肩を落として呟くアーサー。
「そう言われてから考えれば、というレベルですが、確かに怪しい所はありましたね。それに、姿を消したのも、ソーグノ神聖王国の話を聞いた直後だったはずです」
対して、グィネの方はなんとなく心当たりがあるようだ。
そして。
(行方不明は話を聞いた後か)
もともと念話的な遠距離の連絡能力は持っていなかったと思うが、当時悪さしていた奴らは通常の連絡手段でも召集はされていなかったらしい。
そこで。
〈アマテラス、そっちはどう?〉
現地に駐留して天使役を担っているアマテラスに聞いてみた。
〈美形タイプ、無個性タイプ共に、その後は確認されていません〉
〈まぁ、そうだよね。ありがとう〉
〈いえいえ、お安い御用です〉
報告が無かったことから分かってはいたのだが、やはり、その後アキ・ラス教導国となった彼の地には姿を見せていない。
(むう、厄介な)
元を正せば、自称神(笑)から人数を聞かなかったオレが悪いのだが、当時かなりの数を殺っていたので、それで全員だと思い込んでしまったのだ。
とはいえ、その存在に気づければ、オレにならどうとでも出来るので問題無い。
ならば。
「まぁでも、アーサーを焚き付けてくれたことには感謝しないとね」
「……え?」
オレの言葉で顔を上げるアーサー。
「始まりがどうであれ、アーサーがやる事に変わりはないだろ?」
「あ……」
ならば、後は落ち込んでいる友人を元気づければ良い。
「そうっス。そうっスね! この国の王に、俺はなるっス!」
王の資質として必要かどうかは分からないが、アーサーの切り替えの早さは好ましいと思う。
ーーーーーー
「で、どうされるんですか?」
そして夜。
なんとなくシェルターの話をし損ない、今日も普通に野営していて、今はアリスと二人で見張り中である。
アリスの問いは、行方不明のホムンクルスのことだろう。
「そうだね、そろそろ良さそうだ」
アリスも分かっているから聞いたのだろうが、アーサーとグィネはぐっすり眠っている様子。
ということで。
「ホムンクルスレーダ〜」
今回創ったのは、手の平サイズの円盤型ディスプレイ。
「これは、ホムンクルスの居場所を地図上に光点で示す、手の平サイズの探知機なのだ!」
「おぉ〜」
声を抑えつつもハイテンションで掲げて説明すると、拍手で応じてくれるアリス。朝にも思ったが、ずいぶんノリが良くなったものだ。
「では早速」
感謝の気持ちを込めてハイタッチを交わし、それからスイッチオン。
「……」
「……」
が、まったくレーダーに反応は無い。
「もう居ない、と?」
「そういうことなんだろうね」
何人残っていようとも、『光速行動』で今夜中に殺ってしまう予定だったのだが、拍子抜けである。
「どういうことでしょうか?」
「うーん……」
自称神(笑)が自らの死を想定していたとは思えないし、タイミング的にも、その死をトリガーにホムンクルスが存在出来なくなる、というようなことはなかっただろう。
となると、そもそもの寿命が短い。または、存在を維持するために、自称神(笑)の作る薬品などが必要だった。といったところではないだろうか。
「もしくは、絶望して自ら命を絶った。とかでしょうか」
「まぁ、手間がかからなくて良かった、ってことで」
やれやれ、と力を抜くと。
「よいしょ」
あぐらをかくオレの足の上に、横向きに腰掛けるアリス。
「お、おう?」
オレが戸惑っていると。
「ふふふ。これからしばらくは、沢山の人と行動を共にすることになりそうですからね。二人きりになる機会も少なそうですし」
と、オレの胸に頭を預ける。
「あはは、確かに。毎度ご迷惑をおかけします」
「いえいえ。いつものことですから」
「「……ぷ、あはは」」
当初の予定とは違ったが、とても有意義な夜だった。




