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73、再会

 

 

「アニキ、助かったっス」


 ズルズルと、背をあずけた木の根元に座り込むアーサー。


「アキラさん、ありがとうございます」


 対して、疲れ果てフラつきながら、それでも姿勢良く立つグィネ。

 全力でグィネを守り続けた結果だろうか、アーサーの方に先に限界がきたようだ。


「どういたしまして。いろいろ聞きたいけど、まずはここを離れようか」


 嫁たち以外にもこちらへ向かって来る気配がある。状況を見る限り、革命軍ではなくネシアス帝国兵士の可能性が高いだろう。

 ということで。


「まずは、……『従者召喚』。からの、……『石棺」」


 背負子しょいこのような座席がついた、横幅の広いのっぺりとした人型を作り。捕らえた兵士の顔だけ出して、魔法で創り出した石柱に閉じ込める。

 そして。


「わあ」

「きゃ」


 『従者』がその太い腕でアーサーとグィネを優しく掴むと、人ではあり得ない腕の動きで背中の座席に座らせ。

 さらに。


「ひぃっ」


 兵士を閉じ込めた石柱、その背中側に付いた取っ手を持ってぶら下げたところで準備完了。


「じゃあ、出発」

「は、はは。さすがアニキ」

「まったく……、アキラさんはお変わりないですね」


 二人の発言に「やれやれ」という感じがあるのが気になるが、今は嫁たちと合流するのを優先しよう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「――という感じです」


 昨日は移動中に二人が寝落ちしてしまったので、嫁たちと合流後に小規模な人払いの結界を張って野営。しばらくネシアス帝国兵士らしき気配が周囲を捜索していたが、やがて諦めたのか引き上げていった。

 そして今日、アーサーがまだぐっすり眠っているので、先に起きたグィネから話を聞いている。


「なるほどね」


 そのグィネの話では、夏前にはネシアス帝国の都市の一つを味方につけて革命軍を名乗り、つい最近まではとても順調だったらしい。


「それで、なんでまた昨日みたいな状況になったの?」

「お恥ずかしい話なのですが――」


 現在行方不明の味方が囚われているという情報を得て、革命軍のトップでもあるが最精鋭でもある二人が、救出のために敵勢力の奥深くまで潜入。しかし、その情報は敵の罠だったそうだ。

 そして。


「かろうじて、その場は脱出できたのです。しかし、それから三日、休む間を与えられずジワジワと追い込まれてしまいました」


 とのこと。

 春に別れた時点で、二人もかなりの実力を備えていたのだが、それでも数の力には敵わなかったということだろう。


(……と言っても)


 今回動員された人数と一度に相対すれば、アーサーの強さは軍団の士気を挫き、グィネの魔法で統率を失った集団に多大な損害を与え、相手を退却させることが出来たかもしれない。

 今回は波状攻撃が上手くハマり、全力を出す前に疲労で実力を封じられてしまったのだ。


(相手が一枚上手だったってことか)


 おそらくだが、兵士の損耗率的には一度に相対して敗北した方が少ないくらいだろう。つまり、今回の作戦において兵士は使い捨てにされたと見るべきだ。

 宰相が失踪して混乱したという話だったが、まだまだ陰険な人材が居るらしい。

 それはともかく。


「そもそも、なんで革命軍なんてやってるの?」


 春に別れた時点では、まったくそんな素振りは無かったと思うのだが。


「それは……」


 グィネが、自分が話して良いものかどうか、という感じの迷いを見せたところで。


「そこからは俺が話すよ」


 アーサーが目を覚ましたようだ。

 そして。


「まずは、昨日は本当に助かったっス。ありがとうございます」


 居住まいを正し、グィネと共に深々と頭を下げてから出てきた言葉が。


「俺、奴隷の居ない国を作りたいんス」


 であった。

 アーサーも、もともとは闘技場の奴隷闘士だ。そのアーサーが、ただ奴隷の居ない国を望むのではなく、自ら奴隷の居ない国を作りたいと考える。それは、とても良い傾向であるように感じる。

 しかし。


「へぇ」


 湧き上がる喜びを抑えるあまり、オレの反応は少し素っ気なくなってしまった。

 奴隷制度によって利益を得ている者もいれば、それによって救われる人もいる。奴隷制度の廃止は簡単なことではないだろう。しかし、アーサーの革命が成功すれば、それは大きな一歩となるはずだ。

 オレは今まさに、大きな歴史の転換点に立ち会っている。


「その……、そもそもの始まりは、アニキたちと別れた後に出会った奴の言葉だったんス」


 オレの反応が想定を下回ったためか、少し焦ったように続けるアーサーの話では、そもそもはネシアス帝国までの商人の護衛依頼だったらしい。その旅路の中で実力を認められたアーサーに、圧政に苦しむ民のために立ち上がってくれないか、と商人が持ちかけたのだとか。


(旗印となる英雄として求められた、というところかな?)


 そしてそれは、以前からくすぶっていたアーサーの想いに、明確な形を与えることとなった。


「もちろん、奴隷制度廃止に関してはまだ誰にも話してないっス。まず国を盗って、それからじっくりやるべき事っスから。と、それはともかく、やるって決めてからはトントン拍子に事が進んだっス」


 もともと評判の良い領主でもあったらしいが、その商人の口利きであっさり一つの都市の協力を取り付けることが出来たそうだ。それからは、その都市を中心に評判の良い領主から協力の約束を取り付けたり、小競り合いに勝ったりと順調だったとか。


「けど、一月くらい前っス。その商人が何の前触れもなく姿を消しちまったんスよ」


 それ以降、物資が滞りがちになったり情報が入って来なくなったりと、少しずつ歯車が狂い始め。


「そして今に至る、ということっス」

「なるほどね」


 グィネの話に出てきた現在行方不明の味方というのが、その商人のことなのだろう。どうやら、縁の下の力持ち的な出来る男であったようだ。


「それで、その……。アニキ! どうか俺に力を貸して欲しいっス!」


 地に手と膝をついて深々と頭を下げるアーサー。


「奴隷制度廃止はオレも賛成だし、じっくりやるつもりだというのも、しっかり考えているというのが分かる……」


 それに、数少ない友人に頼られるのも悪くない。


「……じゃあ!」

「だが断る!」

「「えぇ〜!」」


 オレの返答にポカーンとするアーサーとグィネ。対して嫁たちは、少し双子が遅れたが、全員が見事にずっこけている。何ともノリの良い嫁たちである。


「……え、なぜ?」


 いまだに信じられない様子で、かすれた声で問うアーサー。

 だが、オレの返答にもちゃんと理由がある。決して、そう決して「だが断る」と言いたかった訳ではない。


「アーサー、お前は王になるのだろう?」

「あ……」


 オレの問いは最低限。しかし、それでもちゃんと言いたい事は分かったようだ。


「アキラ、どうか俺に力を貸してくれ」


 立ち上がり、真っ直ぐにこちらを見るアーサー。そこには確かに、威厳と呼べるものが芽生えていると思う。

 ならば応えよう。


「王よ、微力なれど我が力を御身のために」


 片膝をつき、こうべを垂れて誓う。

 アーサーなら、きっと良い王様になってくれるだろう。そのための助力は惜しまない。

 ……だがしかし。


「まぁ、アーサーを王にするまでは、ね」


 すっくと立ち上がりそう告げるオレ。


「「えぇ〜!」」


 再びポカーンとするアーサーとグィネ、そしてずっこける嫁たち。

 だって仕方ない。なぜならオレは欲張りだから。


「……ぷ、あはははは。やっぱりアニキっスね」

「おう、人前では気をつけないとな」


 つまり。アーサーは王にする、だがオレは友人を失うつもりもない。そういうことだ。

 そして。


「ということで、少し寄り道することになった」


 と嫁たちに告げると。


「ネシアス帝国を見るのにちょうど良いです」


 と、キラキラした笑顔のアリス。


「アキラさんと一緒なら問題ありません」


 と、オレに抱きつくフェリ。


「相手にとって不足なしです」


 と、気合を入れるカーラ。


「……ご主人様の御心のままに」


 と、静かに微笑むリリィ。


〈個人的には、アキラくんが王様でも良いのよ?〉

〈それは無理。そもそも、オレがやりたがると思う?〉

〈いいえ、まったく〉

〈でしょ〉

「……仕方ないわね」


 と、少し不満そうなヒカリ。


「「みなさんが居れば、何の心配もありませんね。楽しみです」」


 と、ウキウキした様子のヴィナとディア。

 ノリだけでなく、物分かりも良い嫁たちである。

 そして。


〈〈私たちも協力しますよ〉〉


 と、精霊ズも申し出てくれた。


(さて、ネシアス帝国、どう料理してくれようか)


 ちなみに、昨日捕らえた兵士だが、まだ石柱の中である。うつ伏せの状態で放置しっぱなしだが、生きているようなので問題無い。……まぁ、その内部がどうなっているのかは考えたくないが。

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