71、城塞都市カオルン
「うん、壮観ね」
北門を入った先の景色に、馬車の中で片手でひさしを作り、もう片手を腰にあてたヒカリが一言。
「「壮観です」」
双子もヒカリの両脇で同じ姿勢をとっているが、その頭上には仔猫が乗っていたりと、あざとさを感じるレベルで可愛らしい。しかし、双子にそんなつもりが無い事は分かっているので、他の嫁たちはその姿にほっこりしているようだ。
昨夜のお酒は、分解後の物質が指輪の毒無効に引っかかったのか、オレを含めて全員に二日酔いなどの影響は残っていない。そのせいか、フワフワした気持ち良さだけが記憶に残っているらしく、機会を見てまた飲もうという話になっている。
(……まぁ、外で飲まなければ問題無いのかな)
潰れられるとその後オレがハッスル出来なくなるので、それも問題と言えば問題なのだけれど。
ちなみに、仔猫のバスとリーが双子につきっきりなのは、特殊な環境で育ったためか若干世間知らずなところがあるため、護衛をお願いしてあるのだ。
(まぁ、念のためだけどね)
閑話休題。
城塞都市カオルンには、高さの違うつるんとした円柱形の塔があちこちに建っている。高さのある塔の側面だけが夕日に赤く染められる姿は、確かにヒカリの言う通り壮観である。
アリスの知る情報によると。
「最初は物見櫓的な物だったらしいんですが、いつしか高さを競うようになり、現在のような姿になったらしいですよ」
とのこと。
今では住居になっていたり、その内部にお店が入っていたりと、様々な形で利用されているらしい。
「お店になってるなら、中も見れそうだね」
「ええ、楽しみです」
何か、アリスが喜ぶ目新しい物があれば良いのだけれど。
ーーーーーー
「やっぱり無いか」
そして、例によって門番に聞いた食事の美味しい宿屋。
「え? どうかされましたか?」
と、オレの呟きを拾ったアリス。
前回の失敗を踏まえて、ちゃんと郷土料理の美味しい所を聞いていた。しかし、当然と言えば当然なのだろうけれど、メニューにドラゴンステーキは載っていなかった。
「んー。いや、ドラゴン――」
「なんだ、兄ちゃんたち冒険者か?」
ステーキが、という言葉を遮ったのは、隣のテーブルの地元住民らしきおっちゃん。
「やめとけやめとけ。たまに兄ちゃんたちみたいな若いのがドラゴン殺しの物語に憧れてやって来るが、ありゃあ人間がどうこう出来るモノじゃあねぇよ」
どうやら、親切心からの忠告のよう。
その後、目をキラキラさせたアリスが聞き出した話では、ドラゴンとの間には東の平原を流れる川を境にした相互不可侵の暗黙の了解があり、もしそこを越えた者が居た場合、その処分については異議を唱えてはならない、という感じらしい。実際、その川を越えることは国によって禁じられてもいるそうだ。
ではなぜおっちゃんはドラゴンを知っている風なのかと言うと、その川まで行けば、ごく稀にドラゴンを目撃することは出来るらしい。それも、標高の低い所を住処としているワイバーンを狩る姿を。
(ワイバーン、ね)
空を飛ぶ恐竜プテラノドンっぽく描かれることもあるが、この世界のワイバーンはぱっと見は腕の無いドラゴンタイプ。表面が鱗ではなかったりと全くの別種らしく、ドラゴンにとっては餌でしかないとはいえ、これを人が相手にしようとすれば百人近く、中隊規模の軍の出番となるとか。
そしてここが重要なのだが、この世界のワイバーンは毒持ちなので、人にとっては食用とならないのだ。
(何て役立たずな!)
実際には皮や骨などが有用で、一匹分あれば一生を働かずに暮らせるくらいの金額にはなるという話だが、オレたちにとってはさほど必要なものではない。
と、オレの思考が脇道に逸れている間に話は進み。
「ま、大昔に何があってドラゴンが川を越えなくなったのかはわからねぇが、ドラゴン殺しの英雄なんてしょせん子供向けのお話よ」
酒を奢られて上機嫌なおっちゃんは話を締めくくった。
おっちゃんはこう言っているが、おそらく神人か魔人あたりと派手にやり合ったのではないか、と、その存在を知るオレは予想する。
(もしかしたら、当時のドラゴンは生きてるのかもね)
元の世界の物語では、大概のドラゴンは長命の種とされている。人間側はともかく、強大なドラゴンがいまだに川を越えないということは、それを許さない存在が居るのかもしれない。
(うーん、残念)
話を聞く限り、川を越えるのはマズそうだ。もちろん、誰にも見られずに越えるのは容易いのだが、その後が問題だ。
防御フィールド・改などで防御は万全のつもりなので、一、二匹のドラゴンなら殺れるのではないかと思う。しかし、それは絶対ではないし、集られるとどこで不覚をとるか分からない。不用意に危険に近づくべきではないだろう。
そもそも、この世界出身の嫁たちもその存在をマンガなどで知っているはずなのだが、ドラゴンに手を出そうなどとは夢にも思わないらしい。
どうやら、ドラゴンステーキは諦めざるを得ないようだ。
「良い話が聞けましたね」
まぁ、アリスが満足そうなのがせめてもの救いか。
ーーーーーー
「忘れ物はないかな」
昨日一日かけて都市内の観光を済ませたが、塔があるという以外はごく普通。さらに、その塔の内部も特に変わった物はなかった。とは言え、ぶらぶらするのを楽しめたので問題は無い。
ただ。
〈……ドラゴンステーキ〉
同じような期待をしていたオレとヒカリの異世界組に、少しだけ悔いが残る結果となってしまった。
〈ねぇ、アキラくん……〉
〈うーん、ごめんね〉
なんとなくだが、食材を《創造》で創ることには抵抗を覚える。何か問題があるという訳ではない、ただの個人的な好みにすぎないのだが、一度口から出した物をもう一度口に入れるような、そんな感覚があるのだ。
〈むう、仕方ない。何かお菓子で手を打つわ〉
〈ありがとう。……そうだなー、煎餅でも作ろうかな〉
〈お、良いわね。楽しみにしてる〉
〈はい、お任せ下さい〉
次に向かうのはネシアス帝国。ちょっとした因縁があり、政情も怪しかったりする国だが、ウルーク王国へ行くついでに少し寄ってみるつもりだ。
ウルーク王国へ行くのは、これまで見て来た景色を全員で共有するために、これまでの軌跡をもう一度辿ろうという話になっているからである。
(フェリとカーラの両親のお墓参りにも行かないとね)
ということで。
「じゃあ、出発!」
「「おー♪」」
冬をウルーク王国の王都で過ごすためには、少し急ぐ必要があるかもしれない。




