70、城塞都市カオルンへの旅路
「……むう」
双子が朝食に感動したり、服を作る装置に驚いたり、シェルターをアイテムボックスにしまうオレの姿を見て絶句したりと色々あったが、朝の訓練をしなかったこともあっていつも通りの時間に出発。
しかし。
「「乗り心地の良い馬車ですね。それに、暑くもなくて快適です」」
オレは、仔猫型使い魔のバスとリーをそれぞれ抱いた双子の声がステレオのように左右から聞こえる、つまり、御者席で双子に挟まれて座っているため、いつも通りとはいかなかった。
〈どういうこと?〉
と念話で聞くと。
〈大丈夫ですよ。お風呂で話を聞いたんですが、ヴィナもディアもアキラさんに好意を持っていますから〉
オレの両肩に手を置き、ラスを頭上に乗せて寄りかかるアリスから返ってきた答えがこれ。双子の意思を無視してオレの隣に座らせている訳ではない、と言いたいようだ。普段キープしているオレの左隣を双子に譲ったのは、オレの背中を押すのが目的だろうか。
(そういえば、そういう世界だったっけ)
危険の多いこの世界では、強さというのは大きな魅力たり得る。気配を察知できる双子は、暗殺者集団との戦いの様子や気配そのものからオレたちの並外れた強さが分かるし、特にオレの持つ《無限の魔力》というチートを大きな力だと感じるのだろう。そしてアリス的には、甲斐性を持つ者がより多くを養うのは当然、といったところか。
〈ヒカリはどうなの?〉
と、同郷人に聞くと。
〈郷に入りては郷に従え、よ。というか、早く私にもこのかわい子ちゃんたちを愛でさせなさい〉
いちおう嫁の中では新参ということで遠慮していたらしいが、後輩(しかも年下)ならば思う存分可愛がれる、ということらしい。
……今までも好き勝手やっていたように思うのだが。
〈何か?〉
〈いえ、なんでも〉
しかし、それならば双子との距離感で迷う必要もなさそうだ。
(まぁ、ちょっと可愛らし過ぎる気はするけど)
そういう種族なのだし、見た目で差別するのは間違いだろう。
ならば。
ヴィナ
レベル:1
体力:120 魔力:65 筋力:47 敏捷:28 器用:40 知性:20 精神:24 幸運:13
スキル:槌術(13)、魔法(3)、探知(10)
アビリティ:学習能力上昇
ディア
レベル:1
体力:120 魔力:65 筋力:47 敏捷:28 器用:40 知性:20 精神:24 幸運:13
スキル:斧術(13)、魔法(3)、探知(10)
アビリティ:学習能力上昇
かなり強さにも自信が出てきたので、そうせずとも守ることは出来ると思う。しかし、きっと双子は戦いたがるだろうとステータスを創る。
(……本当に強いな)
ステータス適用直後のレベル1の状態では、過去最高ではないだろうか。さらに、さすが物作りが好きな筋肉ダルマのドワーフと言うべきか、体力、筋力、器用はレベル20の時のオレに迫る能力値だ。
一人で感心していると。
「ふふふ、ありがとうございます」
と、何かを感じたらしいアリスが後ろから抱きついてくる。
「……何のこと?」
とぼけてみたが、オレが双子を嫁として受け入れようと決めたのはバレたようだ。
油断しないようにということで、ステータス関連の話は誰にもしていない。しかし、力を授けてもらった、という感じの認識はしているらしい。
(まぁ、なぜバレるのかはまったく理解出来ないんだけど)
今朝の寝ボケっぷりが嘘のような鋭さである。と、ふと頭をよぎった姿だったが。
〈……ギ、ギブ〉
それは忘れろということか、オレの首に回されていた腕が、気づいた時には曲げた腕の内側で挟み込むように首を絞めていた。
まさかのスリーパーホールド。アリスも着実にマンガなどから知識を蓄えているようだ。
ーーーーーー
「もうここから見えますね」
双子を拾ってから五日。
最初の一日以外は変わらずオレの左隣をキープするアリスが見ているのは、いまだ遠い丘の木々のさらに上。そこに見えるのは乱立する塔の上部。
塔の都市とも呼ばれる城塞都市カオルンまで、あと一日と言ったところだろう。
「「あそこがカオルン……」」
暗殺者集団に攫われて以降、王都から出ることが許されなかったという双子は感慨深そうだ。
その双子だが、今は耳に防御フィールド・改を付与したイヤーカフを着け、指には全員とお揃いの様々な機能を付与した指輪が光っている。つまりはそういうことだ。
武器はそれぞれ両手槌と両手斧で、魔力操作も無事習得し、双子の身長を優に超える巨大な武器で魔物を薙ぎ倒す姿は見ていて爽快ですらある。
「楽しみだね」
そう言い双子の頭を撫でているのはヒカリ。
「「うん、ヒカリお姉ちゃん」」
この通り、前々から妹が欲しかったらしく「お姉ちゃん」と呼んでもらって溺愛している。
「うぇへへ」
その緩みきった顔を見るに、確かにアリスたちに遠慮していたようだ。
(まぁ、双子も嬉しそうだから良いんだけどね)
失った家族の代わり、と言う訳ではないが、ぜひ甘えられなかった分を取り戻して欲しい。
そんな感じの順調な旅路の夜。
「「生命の水の匂いがします」」
双子がそんなことを言い出したのは、夕食の準備中だった。
「……え? これ?」
双子がキラキラした瞳で見つめるのは、オレが持つ料理酒が入った瓶。
(そう言えば、ドワーフって酒飲みなんだっけ)
今まで誰も飲まなかったし、双子からも特に要望は無かったのですっかり忘れていた。
「ごめんね。ひょっとして我慢させてたかな?」
自身の気の利かなさを申し訳なく思いながら、カップに注いで渡す。
(まぁ、大丈夫だよね)
料理酒ではあるが、元の世界の売り物とは違って塩などは入っていない。ただ、料理に使った場合には有用となる雑味があるだけである。
ちなみに、この世界では十五歳で成人というのもあるが、そもそも未成年の飲酒を禁じられていないので飲ませても全く問題は無い。
「「あ、いえ。必要不可欠という訳ではなく、あくまでも嗜好品として大好物であるという程度ですから」」
とは言うが、その視線はカップに釘付けになっているので、それほど単純なものでもなさそうに感じる。
「ほら、飲んで良いよ」
「「う……、でもご飯の前ですし」」
「ドワーフにとっては水みたいな物でしょう」
「「そ、そうですね。……いただきます」」
始めはチビチビとだったが、すぐにカップを傾けてグビグビと飲み干す双子。
「「美味しい……。少し雑味が強いですが、こんなの初めてです」」
「まぁ、米から作ったお酒だから、この世界では珍しいかもね」
まだまだ短い付き合いだが、その中でも一番嬉しそうな顔。お酒に負けるのは正直悔しいが、こんなに喜んでくれるなら飲む用のお酒も色々と作るべきだろう。
(ワインとかなら、そのまま料理にも使えるしね)
そして食後。
「ちょっとオレも飲んでみようかな」
双子がそれはそれは美味しそうに飲み続けるので、少し興味が湧いてきた。
すると。
「あ、それなら私も」
とアリスが言い出し。
「そう言えば、お酒は飲んだことないなー」
「わたしも飲みたいかも」
フェリとカーラが乗ってきて。
「……では、私も」
「そ、そっか、この世界なら問題無いのよね」
最終的には、全員で飲んでみることになった。
そして一口。
「……何だろう、薄っすらとリンゴっぽい風味があるような」
とオレが言えば。
「確かに、不思議な感じですね」
「意外と美味しいかも」
「うん、悪くない」
アリス、フェリ、カーラと続き。
「……これは良いですね」
「あ、結構イケるわね」
リリィとヒカリにも好評だった。
「「ですよね。とても美味しいです」」
大好物を共有出来たためか、双子もさらに嬉しそうだ。
そして気づけば。
「――だからアキラさん、もう少し自分を大事にですね――」
延々と絡むアリス。
「……プリン、……むにゃ」
酒瓶を抱えて眠りこけるフェリ。
「うう、シクシク」
飲みながら泣き続けるカーラ。
「……クスクス」
これまた飲みながら笑い続けるリリィ。
「うぇへへー、アキラくーん」
誰彼かまわずキスをするヒカリ。
そんな光景が広がっていた。
(油断してたな)
指輪に毒無効や健康維持の機能を付けてあったのだが、急性アルコール中毒になるくらいの飲酒でないと問題無いと判断されたようだ。
「「まあ、飲み過ぎですね」」
オレと双子が正気なのがせめてもの救いか。
ということで。
「……よし、寝るか」
「「……そうですね」」
フェリ以外も横にしたらすぐに眠ってくれたのでさほど手間はかからなかったが、以降お酒には気をつけようと思った。




