68、面倒事
「で、ここでラストなんだけど」
やって来たのはデューロン南区の貧民街。
「けっこう居ますね。それに……」
お嬢様に付けた『使い魔』を目印にして新たな『使い魔』を作り、小男に付けたその『使い魔』を目印にして更に『使い魔』を作る。そうして辿り着いたそこは、闇ギルドと呼ばれているらしい場所。今回、小男がリリィの暗殺を依頼した所なのだが、弱きを助け強きを挫く、そんな物語の中に出てくるような仕事人ではなく、ただの快楽殺人者集団だった。
(知ったからには、放っておくことはないよね)
ということで、お嬢様たちを処理するついでに潰しに来た。
しかし。
「で、あいつらどんな感じだ?」
「いい感じに弱ってますぜ。明日にでもイケるんじゃねぇかと」
「バカな奴らだよ。俺が手ずから育ててやったってのに、今さら殺れねぇとかぬかしやがる。そっちに使えないってんなら、俺たちが使ってやらんとな」
「育ててやった、ってボス。勝手に強くなったと思うんですがね。それに、殺った奴の子供を気まぐれで拾っただけでしょうが」
「そうそう。しかも、仕事で使えても結局は自分で使うつもりだったんでしょう?」
「ま、そうなんだがな」
「「ギャハハ」」
少し離れた所で、『使い魔』が見聞きしているものをアリスと共有しているのだが、どうも雲行きが怪しい。
「弱っている気配の話ですかね」
「だろうね」
頭の悪そうな会話の内容だが、ボスと呼ばれた男とその取り巻きくらいまでは『身体能力強化』している実力者のようだ。
(……とりあえず片付けるか)
面倒事な予感がするが、一つずつ処理していこう。
「じゃあアリス、一応ボスは生かしておいてね」
「分かりました」
と、広間の扉を蹴破って突入。
「ギャハハ……は?」
手近な一人目、油断しきってこちらに気づきもせずにバカ笑いを続けていたそいつの首を刎ねる。
その後も。
「なんだてめ……グッ」
フォークを構える犬人族を唐竹割りにし。
「ここがどこか分かってん……ガッ」
剣を抜こうとする人族の心臓を貫き、と反撃を許さず処理していく。
「「ギャッ」」
「「ゲボッ」」
その間アリスも槍で連続突きを放ち、正確に喉を貫いて命を刈り取っていく。その突きの速さは、数人の断末魔が重なって聞こえるほどだ。
そして、あっという間に残りは一人。
「な……、なんだこりゃあ。ブベッ……ギャー!」
瞬く間に構成員が全滅したのが信じられないのか、茫然としている熊人族のボスを蹴倒し、木材の床を変形させた返し付きの杭で手足を下から貫いて固定する。
「じゃあアキラさん。ボスの様子は私が見てますから、弱ってる気配の方をお願いできますか」
「お、おう」
オレがアリスに頼もうかと思っていたのだが、相手の状態次第では《創造》が必要かもしれないのだからこれで良いのだろう。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
建物の形はロの字形。弱っている気配があるのは、訓練場として使われていた様子の中庭を挟んで反対側の地下。
どこか納得のいかないものを感じながら向かうと。
「「お名前を伺っても?」」
鍵のかかった扉を切り裂いて下りた先、地下牢らしいそこには、そっくりな顔をした二人の少女が鎖に繋がれていた。
(双子かな?)
ハモり具合からそう予想する。まさかホムンクルスということはあるまい。
見た感じはアリスよりも幼い印象。弱っていることもあり、『身体能力強化』出来ていた暗殺者が強いと言い、即座に手出ししないほどの強さがあるのかは確認出来ないのだが。
「えーと、オレはアキラ。……ひょっとして事情は分かってるのかな?」
いきなり名前を聞かれたことから予測して確認してみると。
「「ええ。どうやらボスは生かしておいて下さっているようですね」」
返ってきたのは、どこか会った頃のリリィを思い出させるような平坦な声。しかし、その内容を考えると、かなり詳細に気配を察知しているらしい。
(けっこうなレベルの探知スキル持ちってことだよね)
やはり、かなりの実力を持っている可能性が高い。
鎖を外しながら話を聞くと。ボスが親の仇であることは憶えていて、従順なふりをしながら仇を討つために力をつけていたそうだ。しかし、まだ構成員を全滅させるには力が足りないと思っていたところに一般人を殺してくるように言われ、それを断ったら薬を盛られて鎖に繋がれてしまったらしい。
「「もう少し余裕があると思っていたのですが、考えが甘かったようです。助けていただき、ありがとうございます」」
優雅な所作で頭を下げる二人。幼い頃に攫われてきたらしいのだが、その立ち居振る舞いを見るに、かなり良い所の出だと思われる。
「これを」
背筋を伸ばして立ってはいるが、薬の影響でふらつく二人に状態回復薬を創って渡す。
薬を盛られた二人に薬を飲ませるのはどうか、と渡してから思ったが。
「「おぉ、これは……」」
どうやら助け出したオレを信じてくれたらしく、躊躇なく飲み干す二人。
そして、回復した気配で気づく。
(ドワーフ、か)
ドワーフ成人女性の定番である赤い物は身につけていないが、それだけで子供だと判断しない方が良いかもしれない。
そして。
「てめぇら、育てた恩を忘れたのか!」
悪足掻きするボスに。
「「気まぐれに殴られ蹴られる日々。恩など感じるはずがないでしょう」」
と告げた二人は、あっさり止めをさした。
「「重ね重ね、ありがとうございました」」
とりあえずの目的を果たして茫然としつつも、再び優雅な所作で頭を下げる二人。
「何か当てはあるのかな?」
良い所の出だと思われるので血縁者は居るだろうし、そこまで送るくらいはしてやろうと聞いたのだが。
「「いえ、何もありません」」
との答え。
(さて、どうしたものかな)
と、考えようとしたところで。
「ではアキラさん、しばらくうちで面倒を見ましょう」
アリスのこの提案である。
「え゛……」
思わず変な声が出てしまった。
〈いやいや、色々と問題があると思うんだけど〉
シェルターなどの他人に見られたくない物がたくさんある、と慌てて念話で抗議すると。
〈それなら、他人じゃなくなってもらえば良いのですよ〉
と返ってきた。
(いやいや無理でしょう)
と二人の方を見てみると。
「「あの、よろしければ」」
と、どうやらアリスの言葉に希望を見出したらしい。
「……まぁ、仕方ないか」
いざとなったら、関連記憶を消すような装置でも創って対応しよう。
「決まりですね♪ では、死体を処理して帰りましょう」
ということで、今回も空を飛んでの移動だったため、アリスも含めて三人を抱えて帰ることになってしまった。




