67、王都デューロン出発
「次はカオランですね」
デューロン到着から四日目。入ってきたのとは逆側の東門から王都を出るべく、馬車で列に並んでいる。
隣に座るアリスは、すでに次の目的地へと思いを馳せているらしい。キラキラと輝く瞳は、目の前の門を越え、遥か遠くを見ているようだ。
「甘い物があれば良いんですけどね」
辛い物は食べ飽きました、とフェリ。昨日の激辛料理がそうとう堪えたらしい。
「わたしは辛い物も大丈夫ですけどね」
とカーラは言っているが、昨日の様子を見た感じでは、さほど得意そうではなかった。ドMなので、辛い物に耐えるプレイにでも目覚めたのかもしれない。
「……辛い料理は、ある意味贅沢な物なのですよ」
そこに使われる香辛料の多さが気になるらしいリリィ。その表情は、昨日のマダムに出会ってからずいぶん柔らかくなった。それだけでも、この都市に来た甲斐があったというものだ。
「ま、どんな物があるかは、行ってからのお楽しみよね」
最後に纏めたヒカリの表情もまた、次の都市への期待に溢れている。
そんな次の目的地は、先にもアリスが言っていた城塞都市カオラン。現在確認されている限りでは、人類圏の最東端であるらしい。
(ドラゴン、見れるかな?)
まだまだ先へと続く大陸の上で、なぜそこで人類の進出が止まっているのか、その理由がこれである。城塞都市カオランの先に横たわる火山を含む山脈。そこに数多のドラゴンが生息しているという話だ。
そうこうしている間に、『認識修正』もあってスムーズに門を抜けた。そこに広がるのはまばらに木が生える平原。
「じゃあ、出発!」
出来ることならドラゴンステーキなんて食べてみたいものだが、ドラゴンが意思疎通出来る存在であった場合はどうしたものか。
ーーーーーー
「アリス、起きて」
そして夜も更けた頃。一人起き上がると、アリスに呼びかける。
嫁たちはみんなぐっすり眠っているが、アリスには手加減したので起きてくれるはず。
「……ん」
案の定、目をこすりながらもすぐに起きてくれた。
……と思ったのだが。
「あふ……アキラさん。……ふふ、まだするんですか?」
そう言ってキュッと抱きついてくるアリス。とても嬉しいのだが、今起こしているのはそのためではない。普段は口に出さなくても察してくれるのだが、どうやら寝ぼけているらしい。
「ちょ……アリス、違うから。目を覚ましてー」
流されそうになる気持ちとアリスをなんとか振り払い、先にリビングへ。
ちなみに、寝てるところを起こしてまで致したことは無い。
「どうしたんですか?」
そこへ澄まして入って来たアリスだったが、寝ぼけて口走った内容が恥ずかしいのかその頰は赤い。
それはともかく。
「ちょっとリリィのことで、ね」
と、お嬢様と小男の話をし。
「――という感じ。生かしておいたら、これからも被害者が増えそうだというのもあるけど、まず何よりもオレが許せない」
今から殺りに行きたいのだが、とアリスに伺いを立てる。
「そうですか、そんなことが。……都市を出てからにしたのは、それをリリィに悟らせないためですね」
「……まぁ、リリィはそれを望まないだろうからね」
オレに手間を取らせるのを嫌うだろうし、自身でマダムの血縁者に手をかけたくはないはずだ。
「……分かりました、私も許せません。殺りましょう」
アリスの許可が出た。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
では、と素早く動いて単独行動しようとしたが。
「もちろん、私も行きます」
「……やっぱり?」
「ええ」
にっこり笑うアリスに阻まれてしまった。
用事はその一件で終わらないので徹夜になりそうなのだが、まぁアリスにも付き合ってもらおう。
ーーーーーー
「どうも、こんばんは」
場所はお嬢様の部屋。
「な……、誰か! 侵入者よ!」
まだ起きていたお嬢様に声をかけると即座に大声を出されたが、もちろん内部の音が外に漏れないようにしてある。
「無駄だよ、どんなに騒いでも誰も来ない。さっきまでよろしくやってた男も含めてね」
このお嬢様、実家での立場を確立するべく、体を使って男性従業員を籠絡したりしていたのだ。
二十歳を過ぎても縁談も用意されず、疎まれながらも血縁者であるという理由で生きることは許されていた。そんな状態から抜け出したかったのだろうけれど。
(あんたは道を間違えたんだよ)
羽虫サイズの『使い魔』をくっ付けっぱなしだったので丸わかりなのだが、情報収集のためとはいえ、他人が致しているのを聞いているのはかなり苦痛でもあった。
「おのれ、名を名乗りなさい!」
自らの浅ましい行為を指摘され、それを屈辱と感じたのか真っ赤にした顔を歪めたお嬢様。
「オレの名前は知らないだろうけど、リリィの旦那だって言えば分かるかな?」
そう告げると、これ以上はないほど赤かった顔の色が更にその色を深め、ドス黒く染まる。
「あの下賤な獣人の関係者? そんな愚か者が何用です!」
その言葉から感じるのは、ただただ憎しみのみ。
マダムも、自身の姿を見せて改心して欲しいと思って連れ歩いていたようなのだが、それも全て無駄だったらしい。
「あんたと会話するつもりは無いよ。それでも正体を明かしたのは、なぜ自分が死ぬのかを理解させたかったからさ」
と、魔法を発動。
その効果は心臓の血流を止めるもの。相手の体内で魔法を発動するということで、『身体能力強化』をしていない一般人相手にしか使えないが、今回はこれで十分だ。
「あ、が……」
力無くくずおれるお嬢様。その瞳から光が失われるまで、そこから憎しみの色が消えることは無かった。
「これほどの憎しみがリリィに向けられたのに、その時気づけなかったなんて、不覚です」
『光学迷彩』を解除してアリスが姿を現したのは、相変わらずのオレの左隣。かなり悔しそうにしているので。
「まぁ、仕方ないさ。オレにしか見えない角度で、ほんの一瞬だったからね」
とフォローして次の小男へ。
汚れ仕事担当だったのだろうが、マダムはリリィの件を望まないはず。そして、より上の主人の意向を汲めないほど頭は悪くなさそうだった。ということで、それが仕事ではなく悪意によるものだと判断したのだ。
一晩のうちに二人が同じ死に方をするのは怪しいだろうということで、小男の方はさっくり地中深くに沈めて行方不明になってもらう。過去には魔物などの死骸を処理するため、今回と同じように沈めていたので手慣れたものだ。




