65、王都デューロン到着
「見えてきましたよ♪」
視界を遮る木々の隙間から覗く物を見て、嬉しそうな顔をこちらに向けるアリス。
急がずのんびりとやって来たが、とうとうタオロン王国の王都、デューロンにたどり着いた。
「四角いのかしら? 何だか今までに無い雰囲気」
と言うのは、背後からアリスに寄りかかって身を乗り出しているヒカリ。
森を出て視界が開けると、そこに姿を現したのは平原の中を北から南へ真っ直ぐ伸びる城壁。高い所から見下ろしていないので全容は把握できないが、おそらくヒカリが言う通り、城壁によって四角く囲われた都市なのではないかと思われる。
「はるか昔に遷都が行われ、何もない平原に明確な都市計画をもって造られたという話ですよ」
と、得意げに左手の人差し指を立てて教えてくれるアリス。
「なるほどね。ちなみに、はるか昔って……」
「ええ、お馴染みの五千年前らしいですよ」
触手ナマコにより被害を受けた都市を捨て、この地に移り住んだ。とか、そんな感じだろうか。
そんな会話をしながら、あらかじめ発動してあった『認識修正』の魔法のおかげで、何の問題もなく都市へと入った。
「碁盤の目のようだ、……という訳ではないんだね」
門をくぐると、王城の城壁まで真っ直ぐな道が伸びている。しかし、内部の城壁は中心を囲んでいるだけでなく、外側の四角い城壁の角とも繋がっている。見えているこちら側だけでなく反対側も同じなら、内部の城壁が対角線を描いて都市を四分割していることになる。
「確か、アキラさんたちの故郷も何度か遷都していましたよね」
と、これはカーラ。寄りかかってオレの頭に顎を乗せるような感じになっているので、そのまま話されると、さらにカーラの頭の上に乗っているラスの重みも相まって頭に振動が。
「そ、そうなんだよね。で、その中でも有名な都市の形が、ね」
今日は読んでいなかったが、普段はマンガかラノベ系の物を読んでいるのしか見ていないので、そんなことを知っているなんて驚いた。
「なるほど、碁盤の目のようになっていた訳ですね」
満足しているようなので別に良いのだが、オレが知らないだけで、ジャンルを問わず片っ端から読んでいるのかもしれない。
「むむ、アキラさん。あの看板、問題ありなんですけど」
フェリが指さす方を見ると。そこにあったのは「元祖プリン」の文字。見回せば、他にも「本家プリン」やら「真祖プリン」やら色々ある。呼び込みの内容を聞く限りでは、正規のものではないと言うと聞こえが悪いが、第一次ブームが去り、元々のレシピに独自のアレンジを加え始めたというところだろうか。
「あれはアキラさんか、アキラさんが直接作り方を教えたタジムさんが掲げるべきものです」
かなりご立腹のようだが。
「まあまあ。オレの故郷も、高度経済成長期には似たようなことをやってたらしいし。いずれ黒歴史になるんだから、大目に見てやりなよ」
ご機嫌なオレは寛容だ。
見回した時に視界に入った商人が、腕輪型アイテムボックスの魔道具らしき物を身に付けているのが見えた。目ざとい商人によって、冬の間に西にあるウルーク王国で開発した物が、夏の終わりには東のタオロン王国にまで待ち込まれているのだ。
新しいものへの食いつきっぷりを見るに、五千年の停滞で知らず知らずのうちに人々の間に鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
(変化が加速している)
それは、良い傾向だと言えるのではないだろうか。
ふと視線を感じると、隣に座るリリィと目が合った。どうやら同じように腕輪に気づいたらしいので、二人で頷きあう。
(まぁリリィ的には、オレが開発に携わった物が有用であると認められたのが嬉しい。とか、そんな感じかな)
と、リリィと見つめ合ってほっこりしていたが、そろそろご機嫌斜めなフェリをなんとかしよう。
「そうそう、プリンと言えば、今日はいつものとは違う感じのを作ってあげるよ」
最近安定生産され始めた生クリームを使えば、今までにない、なめらかなプリンが作れるだろう。
「むう、いつまでも甘い物で誤魔化せると思ったら大間違いですよ」
「おや? それは残念。じゃあ、おあずけかな」
「……誤魔化せないとは言いましたが、食べないとは言ってません」
「そっか。それなら楽しみにしておいてね」
「もちろんです♪」
予定調和のごとく、フェリの機嫌が直った。
しかし。
(……)
ここで「フェリさんマジチョロいっす」とか思ってはいけない。そう、無心になるのだ。オレは何も考えていない。
(……だからごめんなさいカーラさん。顎で頭頂部をグリグリするのをやめて下さい)
とまあ、こんな感じで向かった今日の宿は、少しお高めな所。
「さてさて、何が出るかな」
「楽しみね」
いつものように門番さんに美味しいご飯の宿屋を聞いたところ、それはまあ美味しい物が出ると評判の宿屋をオススメされたのだ。
そして、さすがは高級宿ということか。馬はともかく、普段は雨ざらしな馬車を入れる小屋があるらしい。ということで、興味本位なオレとヒカリで馬車をとめに来た。
「ね、ねぇアキラくん」
理解したのは小屋に入ってから。
小屋の中の気配には気づいていたが、オレたちのように馬車をとめようとしているのだと思っていたのだ。しかし、入ってみるとそこには馬車は無く、粗末な服を纏った男性が三人居るだけ。
〈うん、奴隷だね〉
奴隷という単語が本人たちに好まれない可能性を考え、念話で返す。
ちなみに、元の世界の言葉を使うことも考えたのたが、理解出来ない言語を使うより、ぱっと見無言な方がこの世界の住人に与える違和感は少ないと判断した。
〈あんまり見かけないから忘れてたけど、やっぱり居るんだよね〉
この世界ではそれが罪になることはない。しかし、それでも奴隷の扱いが酷いのは外聞が悪い。なので、その手の輩はあまり奴隷を外に出さないのだと思われる。結果、虐待されている現場を見るということはまずないだろう。実際、この場に居る三人は、不健康なほど痩せてもいなければ、怪我などもしていない。良い主人に恵まれたということだ。
さらに言えば、リリィは一応まだ奴隷のままなのだが、本人が望んでいるし、何よりオレの嫁だ。そして、ヒカリ自身も奴隷として売られそうになっていたのだが、ヒカリの場合は言葉が通じず訳が分からないうちにオレに助けられた。ということで、いまいち奴隷というものに実感がなかったということだろう。
〈難しいね〉
召喚魔法で作った馬を外したりしている間、なにごとか思い悩んでいたヒカリだったが、結論が出たらしい。
〈そうだね。出会った全ての奴隷を解放して回ったとして、その後はどうするんだ、ってなるしね〉
基本的な人権が保証されていないなど、この世界の奴隷システムには欠点が多い。しかし、それでも最悪ではない。それによって命が助かる人も確かにいるのだから。
〈うん。……って、アキラくんは奴隷賛成派でしょう。アリスちゃんとの出会いとか、聞いてるわよ〉
さっさと切り替えたヒカリは、オレをからかうことにしたらしい。
〈まぁ、確かに反対派とは言い切れないかな〉
なにせ、嫁全員との出会いがそれありきなのだから。
と言っても、それがなくてもオレ自身が奴隷解放のために行動を起こすということは無いだろう。
〈うーん、何と言えば良いかな。外から来た違う価値観の持ち主が「それは駄目な事だ」と言うのは違う気がするんだよね〉
もちろん、限度はある。
しかし、例えば食文化に関して、「そんな可愛い生き物を食べるなんて何事だ」なんて言われても、そういう文化だから、としかオレは返せない。
もしそれが間違っているというのなら、それを肯定する価値観の中で育った者が気づき、立ち上がるべきだと思う。
と、からかうヒカリに真面目な調子で返してみた。
〈うわー、意外と考えてるのね〉
さらっとディスられた気はしたが、意表を突けたようなので、オレの勝ちで良いだろう。
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「ぐぬぬ……、不覚」
そして楽しみにしていた夕食。
(そうだね。確かに、今現在この世界に旋風を巻き起こしてる食べ物だろう)
そのメニューは、白いフワフワのパンに挟まれたサンドイッチだった。この宿屋の主人が、オレたちに馴染みのある商人サミルの経営する商会を通して、発酵促進の魔道具とともにタジムさんが提供するレシピをいち早く手に入れたそうだ。
「アイテムボックスの魔道具を持つ商人が居たのですから、その時点で気づくべきでしたね」
というリリィの言う通りだろう。
もちろん、十分に美味しい物ではあったのだが、コレジャナイ感が酷かったという話である。




