62、夏
「ふお~……!」
ムイルイヌ滞在二日目。
朝から街をぶらつき、昼を過ぎてから市場に来ているのだが、その内の一店舗でオレはある物を見つけた。口の開いた袋に入っているそれ、普段食べている米よりも白いあの粒は、探しているもち米ではなかろうか。
(うん、やっぱりそうだ!)
鑑定で確かめると、間違いなくもち米である。
(アレが食べられる)
オレは甘い物が好きだ。そして、たまにどうしようもなく食べたくなる物がある。いわゆる、「おはぎ」と言われる物だ。中でも、母方の祖母が作った「おはぎ」が絶品だったが。
(今のオレなら、問題無いはず)
スキルと能力値の補正がある今のオレなら再現出来るだろう。小豆っぽい物はすでに入手済みなので、今回は材料の不足はない。
「何か良い物があったんですか?」
アリスに声をかけられて我に返れば、奇声を上げてもち米に駆け寄ったオレを温かい目で見守る嫁たち。
「…………てへ」
動揺したためか、余計に傷口を広げる行動をとってしまった。
(おう……、何やってんのオレ)
そして、自己嫌悪で落ち込むオレに。
「大丈夫ですよ。アキラさんのおかしな行動には、みんな慣れていますから」
アリスが追い討ちをかける。
「ぐはっ!」
「……アリスちゃん。それ、フォローになってないわよ」
「あれ? え~と、……てへ」
アリス的には、同じ恥を共有したつもりなのだろうが。
(ちくせう、アリスがやると可愛いなぁ、おい)
顔面偏差値の差が与える印象の違いというものは、これほどまでに残酷なものなのか。
(今夜は啼かせてあげるからね!)
逆恨みだと自覚はしているが、何かを忘れるように決意するオレなのであった。
「ぷぷ、アキラさんの新たな黒歴史」
あと、リリィの背後に隠れて笑っているカーラは泣かす。
ーーーーーー
「へえ~……」
ムイルイヌ滞在三日目。
今日は王城に来ているのだが、起きるのが遅くなってしまったため、時間はもう昼過ぎになっている。
「変わってますね」
王城とは言ったが、堅固な城塞ではない。街の部分よりも密度の高い木々を柱代わりにした、どこかツギハギ感のある箱型の建物だ。しかし、建物だけでなく、王城内もよほど重要な場所でもなければ立ち入り自由だったりと、確かに変わっているのだが、獣人の奔放で鷹揚な感じが出ていて悪い印象はない。
フェリも容赦無い感想を述べたが、そこに悪意はなく、変わっていることを好意的に捉えているのが分かる。
(まぁ、昨夜からずっとご機嫌でもあるけど)
昨夜、早速作った「おはぎ」は当然のように好評で、中でもフェリは「優しい甘さです」と言いながら瞬く間に五つも食べ、さらに食べたがるほど気に入ったようで、ずっとご機嫌なのだ。
「……ご主人様、獣人全てが大雑把な訳ではないのです」
リリィは、王城を目にしてからずっと肩を落としている。自然豊かな街には満足していたようなのだが、リリィ的にごちゃごちゃした王城の様子は許し難いらしい。
「うん、分かっているよ」
獣人全体で見ると大雑把な種族でも、中にはリリィのように細かい気配りが出来る人も居る。それは、わざわざ言うまでもない当り前のことだと思うのだが。
(やべぇ、リリィ可愛い)
犬人族ということもあり、尻尾を垂れてしゅんとする様は、「クゥ~ン」と甘え鳴きする姿が見えるようで、思わず頭を撫でて慰めてしまう。
「いや~ん。リリィさん可愛い♪」
そのリリィの様子はヒカリ的にもツボだったらしく、飛び付いて撫で回し始めた。
「……」
それをいつも通りのニコニコ顔で見つめるアリスだが、今日はその表情に若干複雑なものが見える。
(まぁ、反省はしているが、後悔はしていない!)
昨夜アリスをねちっこくいじめたのは、完全に逆恨みによるものだった。結果、今日起きた時のアリスの表情が、一言で表せば「解せぬ」という感じになっていたのも仕方ないことだろう。ということで、今現在は手を繋いでご機嫌をとっている最中である。まぁ、それだけでかなり持ち直しているので、アリスさんってばマジチョロいっす。
(あっ! ごめんなさい、手を握り潰そうとしないで下さい、お願いします)
ふとよぎった邪な思い、それに反応するアリスを心の声で何とかなだめる。……本当に、どうなっているのか一度じっくり聞いてみたい。
「……ぁふ」
カーラは、アリス以上にねちっこくいじめたのだが、いつもの事なので、少し眠そうにしているだけで通常通りだ。最近では、自分からいじめられに来ているような気さえする。ドMなカーラのことだ、さほど間違ってもいないだろう。
(うん、全て世は事も無し)
こうした他愛ない日常。それが、その言葉に反してなんと貴重なことか。
ーーーーーー
「……」
ムイルイヌを発って三日目。
まだ昼を少し過ぎたくらいだが、森の中を通る街道脇の川に、良さげな広さと深さの場所があり、本日の旅程を早々と切り上げた。
旺盛に茂る木の葉、その間を抜ける事で緑色に染まっているようにすら見える陽の光が柔らかく降り注ぎ。その光と頭上の景色を写し、水面は翠色にきらめいている。
そして、そんな景色をぼんやり眺めていたオレの前に。
「じゃ~ん……。どおかな?」
ヒカリに馬車から押し出され、水着に着替えた嫁たちが姿を表した。
「おぉ……、良いね!」
幻想的な景色の中に、いずれ劣らぬ美女、美少女が現れる。まさに楽園。
「マンガで目にしてはいましたが、実際に外でこういう格好をするのは、やはり恥ずかしいです」
アリスは、薄いピンクのフリル付きビキニ。下はスカート状になっていて可愛らしさをさらに引き立てている。
「ど、どうですかアキラさん。水着エルフですよ~」
フェリは、髪と同じ若草色のホルターネックのビキニ。植物っぽいデザインになっていて、フェリによく似合っている。もし妖精がいれば、こんな感じではないだろうか。
「萌え、でしたっけ?」
カーラはワンピース。……と言うか、いわゆるスク水だ。堂々としているので納得して着てはいるのだろうけれど、ヒカリにはチョップを落としておこう。
「……ご主人様のお眼鏡にかないますでしょうか」
リリィは、真っ赤なチューブトップビキニにパレオを巻いている。スタイル抜群なので、綺麗なお姉さん感が凄い。眼福である。
「痛ーい……、暴力反たーい」
そしてヒカリは、ボーダー柄の普通のビキニ。だが、布面積がやや小さめなのは、初めて水着を着る他の嫁たちに気を使った結果だろうか。
「「いかがですか? マスター」」
そして、セバス、マリー、アマテラスもそれぞれ、黒、花柄、ペイズリー柄の露出が控え目な水着姿だ。
この子たちはいわゆる分身で、その体は『使い魔』である仔猫の体を再構築したものだ。声帯も構築してあったりと、日に日に魔法技術が進化しているのがうかがえる。
「よし、今日は遊びたおすぞー」
「「おー!」」
季節は夏真っ盛り。昼は過ぎているが、日は長いのでかなり遊べるだろう。
そして次の目的地は、ムイルイ獣王国の東に位置するタオロン王国。この世界で最大の国家だ。
(どんな所か、楽しみだね)
オレたちの旅は、まだまだ終わらない。
第ニ章、完。




