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61、結末

 

 

「――という感じですね」


 触手ナマコを殲滅し終わってから十日。

 オレたちは、旧ソーグノ神聖王国に滞在している。そして今、宿に設置したシェルターのリビングで、例の天使さんに報告を受けたところだ。


「ありがとう。お疲れさま」


 と、オレの隣に座り、ちょうど良い感じにこちらに向けられた彼女の頭を撫でる。

 どこでこんな振る舞いを覚えるのかと疑問に思うが、心地良さそうに目を細める彼女を見るとどうでもよくなる。


(これが父性というやつだろうか)


 くすぐったいような、なんとも不思議な感覚だ。

 それはともかく、旧ソーグノ神聖王国なのだが、どうやら健全な運営が行われ始めたようだ。と言っても、彼女が召喚した『使い魔』を城内および城下に多数放って調査し、大々的に不正を取り締まって膿を出し切った結果だが。


「今後も監視は続けますが、あまり口出しはしない方針です」


 「目に余るほど腐敗するようなら、再び粛清に乗り出す」と言ってあるらしい。

 羽虫サイズの『使い魔』を大量に用いて不正を取り締まる手腕は、相手からすれば神がかって見えたはずなので、それによって不届き者の発生が抑えられることを期待したい。


「人々の表情も明るくなってますね」

「街の雰囲気も良い感じですよ」

「スラム化していた場所にも、変化が見られるようです」

「……商品も適正価格になっていました」

「都市への出入りも活発になってたわ」


 嫁たちにも頭を撫でられ、気持ち良さそうにしていた彼女が、ふと思い出したように。


「あ、都市名はアキ・ラス教導国になりました」


 なんてことを言う。


(……アキ・ラス?)


 どこかで聞いたような。なんて、思わず現実逃避しそうになった。


「あー……。それって」

「はい。マスターと(わたくし)の名前からです」


 「それってどうなの?」と、嫁たちに目をやると。ニコニコと言うよりニヤニヤといった感じの笑みを浮かべて、満足そうにうんうんと頷いている。

 どうやら味方はいないようだ。


「お、おう。い、いー名前だね」

「はい♪」


 最後の抵抗に「良い」とは言わなかったのだが、それはそれは嬉しそうに頷かれ、半端ない罪悪感を覚えるはめになった。

 ちなみに、彼女の名前はアマテラス。本来は神様の予定だったので、この名前になっている。

 もう一つちなみに言っておくと、翼は衣装と同じ扱いの魔力で作る物なので、現在は付いておらず、ソファにゆったり背を預けていても何の問題も無い。


(後は……)


 ……現実逃避のネタが尽きた。

 何かを誤魔化すように、無言でアマテラスの頭を撫でていると。


「あと、(わたくし)はあまりこの都市を離れることが出来ません。ですので、もし宜しければ、コレを連れて行って貰えませんでしょうか」


 そう言って、ポンッと茶トラの仔猫型『使い魔』を作って渡された。


「なるほど。これは良い考えだね」


 仔猫を撫でると、アマテラスも気持ち良さそうに目を細める。視覚や聴覚だけでなく、ある程度皮膚感覚も同調させてあるようだ。

 であるなら。


〈二人もどうだい?〉

〈是非〉

〈お願いしますー〉


 拠点に残してあるセバスとマリーに念話で聞いてみると、即座に返ってきた了承とともに、ポポンッと仔猫が二匹増える。黒猫と白猫だ。

 どうやら、念話の繋がりを利用して、こちらで召喚魔法を発動したらしい。


(おぉ……、凄いな)


 自分の魔力という目印があれば、探知範囲外にも魔法を発動出来る。そう考えたことはあったが、まさかこんな事も出来るとは考えなかった。魔力によって作られた存在ゆえか、魔法への親和性が高いのかもしれない。


「では、(わたくし)は戻ります」


 そう言ってアマテラスは出て行った。

 近く大聖堂跡地は広場へと整備され、聖堂も小規模な物が改めて作られるそうだ。普段は姿を消して城内で過ごしているが、聖堂が作られたらそちらに移るつもりだとか。

 

 

ーーーーーー

 

 

「おぉ……」


 そしてさらに十日後、オレたちはムイルイ獣王国の王都に入った。


「素晴らしい都市ですね!」


 そこは、元の世界で物語によってはエルフの都として描かれそうな、森と一体化した都市。地面の上だけでなく樹上にも沢山の家があり、その家同士を吊り橋が結んでいたりする。

 森人族とも言われるエルフのフェリが興奮するのも分かる、森都(しんと)ムイルイヌの名に恥じぬ都市だった。


「見た事の無い獣人の方もいますね」


 街中は賑わっており、兎や馬や熊などの耳と尻尾で見分けられる獣人さんが居るかと思えば、羊や牛などのツノを持つ獣人さんも居る。

 アリスが言うように、オレもツノを持つタイプの獣人さんは初めて見る。


「やっぱり獣人の方は凄いですね」


 と、カーラが言うのは、木々の間を、吊り橋と吊り橋の間を、身軽に跳び回る人影があるからだろう。結構な距離や高さがあるのだが、周囲の人も驚く様子は無いので、これが普通なのだろう。


「……珍しい物が沢山ありそうですね」


 と言うリリィからは、獣王国では米が作られているという情報も教えて貰っている。オレ的には、もち米があるのではないかと期待しているところだ。


「人は多いけど、慌ただしい感じじゃないわね」


 「北壁」の切れ込みや触手ナマコなど、この国でどのような扱いになっているのか分からない。しかし、ヒカリが言うように、それが人々から余裕を奪っている様子は無さそうだ。


「とりあえず、一安心だね」


 ホッと一息ついて、頭の上の茶トラを撫でる。

 子猫たちは、茶トラがオレの頭の上、黒猫が右肩、白猫がマントのフードの中を移動時の定位置に定めたらい。そして、それぞれの呼び名は、ラス、バス、リーに決定した。

 その子猫たちも、興味深そうにキョロキョロと辺りを見ている。


「じゃあ、冒険者ギルドに行ってみよう」

「「はーい」」


 おそらく、触手ナマコと対峙していた獣王国軍には、冒険者も動員されていただろう。ということで、まず初めに情報収集に向かう場所としては、そこが適当であろうということになったのだ。

 そして、その冒険者ギルドでオレたちは。


「ふぉふぉ。ここで待っておれば、お主らに会えると思っておったよ」


 ここに居るはずのない爺さんに出会った。


「……ご無沙汰しています」


 今、この爺さんは何と言っただろう。


(オレたちに会いに来たのか?)


 確かに、そう聞こえた。


「知り合い?」


 そう言えば、ヒカリは初対面か。


「こちらは……」


 こっそり鑑定して名前を確認。


「……トーアス氏。冒険者ギルド・カルノー支部長さんだ」


 ちなみに、人を鑑定して知ることが出来るのは、カードに記載されている情報程度。なので、他人の名前に興味が無いオレは、基本的に人に使うことはない。


「ふぉふぉ、少し話があるのじゃが。場所を移そうかの」


 そしてやって来たのは会議室っぽい場所。


「どのようなお話でしょうか?」


 さっさと終わらせようと、話を促すと。


「ふむ、そうじゃの。まずは謝っておくことがある。こちらの管理が甘く、お主らには迷惑をかけてしもうた」


 話を聞いてみると、どうやらAランクチャラ男のことのようで、冒険者ギルドが基本的に戦争反対の立場をとる中、戦争を起こそうと暗躍していたらしい。


(まぁ、ソーグノ教の手先だし、納得の行動だね)


 なんて思っていると。


「密かに調査しておったのじゃが、そ奴がお主らに声をかけたという報告があっての。手は尽くしたつもりなのじゃが、結局はお主らに処理を任せる形になってしもうた。本当に申し訳ない」


 深々と頭を下げられてしまった。


「い、いえ。降りかかる火の粉を払っただけですから」


 その(いさぎよ)い態度に動揺し、思わずどもってしまった。


(権力者ということで避けているけど、良い爺さんなんだよね)


 何だか、こちらこそ申し訳ない。

 しかし。


(問題は、次かな?)


 そのチャラ男と共に向かった先で、ソーグノ神聖王国崩壊の騒動が起こったのだ。チャラ男に関して何かを掴んでいたのなら、そこからオレたちと騒動との関連を疑うことも出来るのではないだろうか。

 と、身構えていると。


「うむ、話はそれだけじゃ」


 肩透かしを食らってしまった。


(え?)


 嫁たち含めて全員で呆然としていると。


「ふぉふぉ。あとはそうじゃの、少しこの爺の無駄話を聞いてくれんか」


 と、話し出す。


「ワシは神というものを信じておらんかった。じゃがここ最近、立て続けにその気持ちを揺るがす出来事が起きての。ハルエヌでの暴走する魔物の駆逐に始まり、ソーグノ教大聖堂の消滅に、ムイルイ獣王国を襲った怪異の殲滅。と、とても現実に起こった事とは信じられん」


 いやはや困ったものじゃ、と爺さん。

 確かに、オレたちが自重せずにやらかしたそれらの事態は、知らない人から見れば神の行いのように見えるのかもしれない。


〈〈たち(・・)、じゃありませんけどね〉〉


 オレの明確な言葉にならない思考に、嫁たち全員から念話でツッコミが入ったが、ここは華麗にスルーして爺さんに続きを促す。


「北壁に切れ込みが入る直前には、災害と称される魔獣、神狼の目撃情報もあったが、その後は存在を確認出来んことから、おそらくこれも討伐されたのじゃろうの。信じられん事ばかりじゃが、ソーグノの大聖堂跡地には神使(しんし)も降臨したというしの。実際に起こってしまえば、神というものを信じざるを得まい」


 と、ここで言葉を切る爺さん。どうやら、「北壁」の切れ込みは神狼がやったと判断されたようだ。

 そして、いよいよ本題に入るらしい。


「そこでふと、ハルエヌでの出来事の前に出会った冒険者。あの者は、神の目の役割を負っておるのではないかと、そう思ったわけじゃ」


 そう言い、悪戯っ子のような笑みを浮かべてこちらを見る爺さん。

 「これで合っているのだろう?」そう聞いているようでもあり、それでいて、オレの答えを聞きたいとは思っていないことも、何となく分かった。

 こちらとしても、神の使いだと思われるのは、オレたちがやったと思われるよりはマシだろうか。


〈〈たち(・・)、じゃありませんけどね〉〉


 再び入る嫁たちのツッコミを、再び華麗にスルー。だって、触手ナマコの時はみんなもやったじゃない?


「ふぉふぉ。まあ、何が言いたいかというと、もし神へ言葉を届け得るのなら、感謝の言葉を。と、そう思ったわけじゃ」


 全ての出来事に関して、人が解決出来なかったとは思わない。しかし、その場合は、それはそれは莫大な犠牲を伴っただろう。だから感謝を。

 だそうだ。


「……もしそんな存在に出会うことがあれば、そう伝えておきます」


 冒険者ギルドを見送りに出てそう言うと。


「ふぉふぉふぉ。そうじゃの、よろしく頼む」


 爺さんは楽しそうに笑って答えると、召喚した巨鳥の騎獣に乗って飛び去って行った。

 何らかの関係があることには気付いた。しかし、干渉するつもりは無い。そういうことのようだ。


「ふぅ……。よし! 観光に戻るか!」

「「はい♪」」


 爺さんからは、触手ナマコ襲撃のその後の話も聞けた。


(自然も人も逞しいね)


 失われた森は、植樹することで緩やかな回復が見込まれ。北の大地は、気候が穏やかになる兆候があるため、新天地として開発が進められるらしい。

 とりあえず、今回の騒動は決着したと見て良いだろう。

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