56、転機
「ソーグノ神聖王国に行こうと考えているんだけど」
どう思う? と、館でマリーが用意してくれた夕飯を食べた後、まったりしている嫁たちに問う。
(あいつら目障りなんだよね)
狂信者たちの暗躍は、教義の流布や民の救済などではなく、世界に混乱をもたらすことに重きを置いているようにしか見えない。そしてそれは、世界を観光して回っているオレたちにとっては邪魔でしかないのだ。
「それがどの様な結果をもたらすかは、考えておいでなのですか?」
真っ直ぐにオレの目を見て問うアリス。
オレが何をしに行くつもりなのか、分かってくれているようだ。
「あの国が無くなる可能性はあるだろうね」
狂信者の言う神、それが王なのか教祖なのか、あるいは別の誰かなのか、今はまだ分からない。しかし、そいつを潰せば、その宗教の名を冠した国が混乱するのは間違いないと思う。
過激な考えかもしれないが、行くと言っただけでアリスが察し、他の嫁たちもそれを疑問には思っていないのだ、狂信者の行いに関しては全員思うところがあるのだろう。
「分かっておいでならば、私から言うことは何もありません」
オレのブレーキ役をお願いしたアリスの許可は得られたようだ。他の嫁たちは、と見ると。
「アキラさんが何をしてくれるのか楽しみです」
フェリはワクワク。
「お城を壊すなら任せて下さい」
カーラはソワソワ。
「……ご主人様がなさるなら事なら間違いありません」
リリィはニコニコ。
「ま、アキラくんのお手並み拝見かな?」
ヒカリはニヤニヤと。
若干あやしい内容もあった気がするが、全員が賛成してくれたようだ。
ーーーーーー
「で、真っ直ぐには向かわないのね」
翌日、どこか呆れたようにヒカリがつぶやくのはメンヒスの冒険者ギルド前。
「むむ、これも作戦の内なのだよ」
これからソーグノ神聖王国で事を起こす予定。ということで、いつものように無関係を装うためにも、そこ以外に向かう依頼を受けておくべきではないかと思ったのだ。
(目立つのは、今はそれを狙っているから仕方ない。だけど、せめて権力者に目を付けられるのは避けたいからね)
冒険者ギルドへ入った途端に集まる視線を感じながらそう思う。
「とりあえず、ランドロアまで行く依頼かな」
「「はーい」」
王都ランドロアからさらに北へ行くと鉱業の町センクト。そこから東へ行くとソーグノなので、ランドロアを通り過ぎてセンクトまで行く依頼でも、さらにセンクトも通り過ぎて、西のクアスル王国方面まで行く依頼でも良いかもしれない。と、依頼掲示板へ向かうと。
「よお、お前ら。久しぶりじゃないか」
ざわめく待合室から、一人の男が進み出てきた。
(む? こいつやるな。だけど……)
歳は三十前後くらいだろうか。ややチャラそうなイケメンなのだが、その強さは新緑の風のお姉さんより数段上だと感じる。
しかし。
〈……これ誰?〉
困ったことに見覚えがない。
こっそり念話で嫁たちに聞いてみると。
〈アキラさん……〉
カーラが、表情を変えずに念話でため息をつくという器用な真似をする。
〈わたしたちが出会った時、セルエムに滞在していたAランク冒険者ですよ〉
ウルーク王国の鉱山の町セルエムは、フェリとカーラに出会った町だ。しかも、カーラと出会うきっかけとなった出来事に少しだけ関わりがあったらしい。
(いやいや、そんなの覚えてる訳ないじゃん)
と思ったのだが。
〈そういえば、ガラの悪い冒険者に絡まれた時にも近くに居ましたね〉
〈そうですね、アキラさんに賭けて儲けていたような〉
アリスとフェリは覚えていたようだ。
何度か同じ場所で依頼を受けていれば、そこを拠点にするBランク以上の冒険者くらいは分かるようになるものらしい。Aランクの冒険者なんてものが滞在していれば、それを知らないなんてあり得ないそうだ。
〈ほらね〉
〈ぐぬぬ。カーラは後でイジメる〉
〈うぇえ!?〉
再び、表情を変えずに驚愕を表すという器用な真似をしてくれた。しかし、その頬は少し赤みを帯び、ドMなカーラがイジメられるのを期待しているのが分かる。
そう、これは教えてくれたご褒美。けっして八つ当たりではない! けっして八つ当たりではないのだ!!
「良いところに来たな。ちょっと手伝ってもらいたいんだが」
軽い『思考速度上昇』を併用して高速で念話を交わしているオレたちに、Aランクチャラ男が無駄に親しげに近づいてくる。
「はあ……、手伝いですか」
「なに、ちょっとした荷物をソーグノ神聖王国まで運ばなきゃならないんだが、ほぼ確実に襲撃がありそうなんだわ」
どうにも、この手の輩は好きになれない。そのうえ、まさかのソーグノ行きである。
「はあ……、襲撃ですか」
「数が多そうでな、俺一人だと面倒臭い。お前らが協力してくれれば助かるんだが」
全力で気が乗らない雰囲気を出しているつもりなのだが、ニヤニヤした軽薄な笑みは変わらず、撤回してはくれないようだ。
〈普段なら、速攻で断って逃げ出すんだけど……。これ、どうしようか?〉
Aランクという超一流の冒険者、その誘いを断って良いものかどうか判断しかねる。
そもそも、普段なら『認識修正』でオレたちだと認識され難いため、話しかけられもしないはずなのだ。なぜ今この時に現れるのか、迷惑なことこの上ない。
〈普通の冒険者なら、喜んで受けるでしょうね〉
これもカーラが答えてくれた。
Aランクという高位冒険者に声をかけられる、それだけで名誉なことらしい。手伝いを依頼されるということは、実力を認められたということになるそうだ。断るなんて、これまたあり得ないらしい。
〈仕方ないか〉
〈残念ですが〉
ランドロアまでの依頼を探すという話をギルド内でしてしまっている。もし聞かれていたら、他に用事があるという言い訳はマズい。そして、大した理由もなく断るのは、ソーグノに行くのを嫌がったという印象を与えそうで、これまたマズいだろう。
「分かりました。ご一緒させていただきます」
人目を忍んで現地に行く必要がなくなった。そういうことにしておこう。
(作戦も変える必要があるよね)
当初の予定では静かに事を起こすつもりだったのだが、いっそ派手に行くのもありかもしれない。
「はっはっは、よろしく頼むよ。じゃあ行こうか」
「今からですか?」
「何か問題でも?」
「……いえ」
他人と行動を共にする予定ではなかったため、その準備をしていなかったのだ。
(問題は食料なんだけど……、なんとかなるかな?)
護衛依頼で野営道具を買っておいて良かった。
後は……。
〈今夜は無しですか〉
ちょっと残念そうなカーラをどうしたものか。




