55、秘密基地・拠点化
「じゃあ、これな。お疲れ」
オルテスを出発してから十一日目に、荒野の雨で予定より一日遅れてメンヒスに到着。都市の門を入ったところで、お姉さんから依頼達成証明書を貰った。
「世話んなったな。お前らが居なかったら大損を出していたところだった。何か困った事があったら頼ってくれ」
先頭の馬車の御者席からそう言うのは、隊商を率いる大店の若旦那。そして、お姉さんの旦那さんでもあるそうだ。
(まぁ、納得だよね)
そうでなければ、お姉さんから「馬車は盾にして捨てても構わん」という言葉は出ないだろう。
「なんだい、何か文句でもあんのかい?人こそが財産だって教えてくれたのはあんただろう」
「はっはっは、すまんすまん。おまえの指示に文句は無いさ。いつもありがとう、感謝しているよ」
「……う。あたしの方こそごめんよ。いつも好き勝手やらせて貰ってるってのに」
少し思案している間に、痴話喧嘩を始めたかと思うと二人の空間を作ってイチャイチャしだした。
「あー……。では、縁があればまた」
若旦那とお姉さんは聞いているかどうか怪しかったので、他のメンバーにも声をかけて別れる。
「むう……。イチャイチャしている他人が、ああもウザいものだったとは」
成功報酬を貰いに冒険者ギルドへ向かう道すがら、フェリがポツリと呟く。お姉さんたちの様子を見て、思うところがあったのだろう。
「うん、まったくだ。オレたちも他人の迷惑にならないようにしないとね」
所構わずイチャイチャしたがるフェリには悪いが、オレは他人に見られて喜ぶ趣味はないのだ。
「確かに、気をつけないといけないみたいです」
「そうそう」
神妙な顔で頷くフェリ。どうやら分かってくれたようだ。
……と、思ったのだが。
「だが断ーる♪」
背後から飛びつき、首のあたりに頬ずりをしだす。どうやら、このセリフが言いたいがためのフリだったらしい。
「しょうがないなあ」
と、ため息と共に無詠唱で『認識修正』を発動し、周囲にはイチャイチャしていると思われないようにする。
(まぁ、想定の範囲内だからね)
図書館を創って以降、ヒカリ以外の嫁たちも、漫画などで仕入れたネタを放り込んでくるようになってきた。きっと、この世界出身の嫁たちには理解出来ないオレとヒカリのやり取りを、内心では羨ましく思っていたのではないだろうか。
「ふふふ、さすがアキラさん。そうしてくれると信じていましたよ」
魔法の発動を察知したフェリの言葉に。
「はいはい。御心のままに」
と答えつつ。
〈フェリちゃんマジエロフ〉
ヒカリが不穏な単語を嬉しそうに念話で飛ばしてくるので、その頭に軽めのチョップを落とす。
〈変な知識は教えなくて良いんだからね〉
〈またまた~、好きなくせに~〉
ニヤニヤ笑いながらフェリの頭越しにオレの頬をつつくヒカリに、もう一度無言でチョップを落とすと。
「暴力反たーい」
可愛らしく舌を出してヒカリは離れて行く。
好きか嫌いかと言うなら、もちろん好きだ。しかし、嫁にそうあって欲しいかというと、それはまた別の話だと思う。
(そもそも、フェリはエロフにはならないよね。だって貧にy……)
「アキラさん」
「何かな、フェリ」
「……いえ、何でも」
ほんの一瞬、フェリからジト目で見られた。毎度の事ながら、思考が読まれたらしい。
(……何がとは言わないけど、気にしなくても良いのに。そのままのフェリが好きなのだから)
「ふふふー♪」
……もはや超能力レベルの読まれ方をしている気がする。
きっと、ステータス上には無い嫁というシークレット称号には、読心術というシークレットスキルが付いているのだ。そうに違いない。
ーーーーーー
「じゃあ、ここからは飛んで行くよ」
明けて翌日。
南門から出て十分に離れると、人目が無いのを確認してから街道を西へ外れ、さらに街道からも十分に離れる。
「どこに行くの?」
「まぁ、楽しみにしててよ」
荒野の中の盗賊が居た岩山、そこを秘密基地にするために水源を設置したのは一月以上前。今日は、そこを知らないヒカリを案内するついでに、様子を見に行こうという訳だ。
「では」
空を飛ぶということで、それが苦手なアリスが、当然のようにオレの首に手を回す。
(そろそろ慣れて欲しいけど、これ結構好きなんだよね)
頼られている、という感じがする。
オレの胸に頬を押し付けるアリスを見ながら、そんなことを思っていると。
「じゃあ」
「それなら」
「……失礼します」
「えっと、こうかな?」
フェリが、カーラが、リリィが、ヒカリが、次々にオレに抱きついて来た。
「お、おう?」
レベルアップで上昇した身体能力を、さらに魔力で強化している現在、この状態でも全く問題無く動ける。そして、『飛翔』で空を飛ぶのにも支障は無い。だがしかし、何か間違っているような気もする。
「えっと……、空を飛ぶのは楽しいよ?」
「「今回はこれで」」
「あ、はい」
もはや何も言うまい。
大人しく『飛翔』と、念のために『光学迷彩』を発動して空へ。もともと、航続距離的にオレが全員に魔法をかけるのだ。ひと塊りだろうがバラバラだろうが、たいした違いはない。
(さて、どうなっているのかオレも楽しみだ)
あっという間に荒野に入ったが、雨は止んでいるようだ。そして、降り続いた雨で空気中の埃が洗い流されたのか、抜けるような青空が広がっている。
「おー、気持ち良いねー」
「……うぅ」
「はい♪」
「はわー♪」
「……素晴らしいです♪」
「本当に、気持ち良いね♪」
アリス以外は楽しんでくれているようだ。バラバラで好き勝手に飛んだ方がもっと楽しめると思うのだが……。
(いや、今回はこれで良いのだった)
キュッとわずかに締まる首に、慌てて考えを改める。
そんなこんなで、一人を除いて空中散歩を楽しんでいると、やがて目的地が見えてくる。
(おぉ! 思惑通り、かな?)
岩山とその周辺は、うっすらと緑に覆われているようだ。
「「うわー♪」」
さらに近づくと、岩山から流れ落ちた水が都市跡の水路を巡り、その後、都市の南に出来た湖に流れ込んでいるのが見える。きっと、はるか昔の都市が賑わっていた時にも、この湖があったのだろう。
(これは、ひょっとしたら……)
水源にした魔道具と同じような物が、はるか昔にもあったのかもしれない。そうとしか思えないほど、今の水が溢れる景色はしっくりくる。
「よし、到着」
そして、たどり着いた岩山の上は、以前の廃墟っぽさが全くなくなり、神秘的な遺跡になっていた。
「緑があるだけで、こうも違うものなのですね」
地に足をつけて復活したアリスも感動しきりだ。
さらに、気になることもある。
(まぁ、人払いの結界だしね)
なんと、周囲に小動物の気配があるのだ。いったいどこから来たのか、生き物の逞しさには感心するしかない。が、後で結界は少し修正しておこう。
「すごいね! 何なの、ここ?」
一通り見て回ったヒカリがテンション高く戻って来た。
「ここは、はるか昔の都市跡。盗賊の拠点になっていたから、オレたちで使うことにしたって訳さ」
そのヒカリに、ここにたどり着いた経緯や水源の設置なども含めて説明し、みんなを呼び集める。
「では、拠点化を進めようか」
ということで、まずは住居。
「お風呂はもう少し広くしたいです」
「トイレの数を増やしましょう」
「二階にルーフバルコニーが欲しいです」
「……主寝室はもっと広い方が」
「窓は大きくしようよ」
《想像力の強化》というチートによって、オレの脳内に精密に描かれた建物のイメージを、指輪による繋がりを利用して共有。
それぞれの意見を取り入れ修正すると、そのイメージを《創造》で実体化。魔法で綺麗に均した城跡だった場所に設置する。
「「おぉ~!」」
オレだけで創ったらこうはならなかっただろう。
出来上がったのは、神秘的な風景に調和する、石造り二階建ての洋館。もちろん、内部は魔力発電のオール電化。そして、自動修復&自動洗浄機能付きのメンテナンスフリー仕様だ。ただし外側に関しては、時間の経過が良い味を出してくれる事を期待して不壊だけにしてある。
「うん、良いね」
次に、嫁たちを館の確認に行かせると、オレは「護衛です」と譲らないアリスを連れて、麓の都市跡の掃除と水路の補修へ。
この辺りもかなり雨が降ったらしく、以前は乾いた砂に覆われていた遺跡が姿を現している。
「よし、こんなものかな」
都市跡に残っていた砂を洗い流し、水路の詰まっている場所を通し、最低限水漏れしない程度に補修する。幸いなことに、橋には補修が必要なほど壊れている所は無かった。
「なんと言うか形容しがたいのですが、素敵な場所になりましたね」
「う~ん。オレたちの故郷で、わび、さび、と言われる感じが近いかな?」
次に、人払いの結界の修正。
南側にある、左右に滝が流れ落ちる麓の入り口から洞窟に入り、上り坂の中程で魔法を発動。
(こんな感じで良いかな?)
もともとは半径1キロだった人払いの範囲を、半径10キロに大幅アップ。さらに、人だけでなく、魔物と大きめの生物も近づけないように設定。
「範囲を広くされたのですね」
「そうそう。南に出来た湖も入れたかったからね」
それが終わると洞窟を上りきり、右手を滝が流れ落ちる出口から、西回りの上り階段で頂上へ。
館に入ると、他の嫁たちが出迎えてくれた。
「「おかえりなさい」」
「ただいまー。中はどうだった?」
「「大満足です♪」」
そして最後は、館の管理人だ。
(まずはコレ)
と、直径5センチほどの黒い球体を二つ創る。
「これは?」
「召喚を永続化させるための核だよ」
最近やっとその存在に気づき、認識出来るようになった大気に満ちる魔力。それによって召喚魔法を維持し、さらに、学習し、成長する人工知能的なシステムも組み込んだ物だ。今回は《創造》に頼ったが、遠くない未来には魔道具によって同様の物が実現可能だと思う。
好奇心いっぱいの嫁たちを代表して聞いてきたアリスにそう答え、召喚魔法を発動。
《想像力の強化》と《無限の魔力》を総動員し、心臓部の核を中心に骨格を、内蔵を、筋肉を、そして魔力を血液に見立てた血管を作る。
内蔵を作ったのは、食事からも魔力を得られるようにするためだ。
「「おぉ!」」
出来上がったものは、二体の人型の存在。それは、魔力で膨らんだ風船人形のような、これまでの召喚獣とは明らかに違うもの。
「……ふぅ。そうだな、精霊ってとこかな」
「「精霊……」」
人でも魔物でもない新たな存在だ。妥当な名称だろう。
そうこうしている間に存在が安定したらしく、二体が起動。その体に魔力で作られた服を纏うと。
「「ご命令を。マスター」」
「「喋った!?」」
それぞれに合った見事な礼でこちらを伺う。
「まずは、君がセバスで」
執事服を纏う、凛とした栗色短髪の女性型。執事ということで、おじいちゃんタイプにしようかとも思ったのだが、たとえオレが作ったものでも、あまり男の姿をしたものに嫁の世話をされたくなかったのだ。
「君がマリーね」
そしてこちらは、栗色おさげのメイドさん。
二体とも知識の指輪から得た情報を入れてあるので、すぐに仕事を始められるだろう。
「君たちには、この館およびその周辺の維持管理を頼みたい」
「「かしこまりました」」
早速、仕事に取り掛かる二体。
まだロボットっぽい無機質な感じがあるが、経験を積み成長すれば生き物らしい温かみも出てくるだろう。……たぶん。
「いろいろ学びましたし、そろそろアキラさんに驚かされることも無くなっただろうと思っていたんですが……。やっぱりアキラさんはアキラさんですね」
ようやく、といった感じでアリスが言うと、他の嫁たちもうんうんと頷く。
(あれ? なんか呆れられてる?)
ここは、「凄〜い」と恐れ戦かれる場面だと思うのだが。
「痛たたた」
嫁全員の手がオレの頬をつまんで引っ張る。
「なんだかイラっとしました」
というアリスの言葉に、再び他の嫁たちがうんうんと頷く。
「暴力反たーい」
と主張してみたが、ニコニコ顔でしばらく弄ばれた。




