表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/104

54、メンヒスへ

 

 

「いや~、なんだか新鮮ね」


 空が夕日で赤く染まり行く中、ヒカリはずいぶん楽しそうだ。


「まぁ、いつもシェルターだったからね」


 隊商の護衛一日目は何事も無く過ぎ去り、今は野営の準備中。


(こんなのいつ以来だっけ……)


 確か、シェルターを創ったのは、この世界に来て三日目だったはずだ。


(そのあと外で寝たのは、サミルの護衛依頼の時と、チルテ村から北へ山越えした時と……、あとはヒカリがこの世界に来た時くらいか)


 しかし、山越えの時は『防御障壁』、ヒカリの時はそれに加えて『気配遮断結界』もあったからノーカンで良いかもしれない。

 ということは。


「……そもそも、ほとんど野営したこと無いな」


 まさかの事実に気が付いてしまった。


「やれやれアキラくん。街道脇でたき火を囲んで仲間と語らうのは、異世界旅行の醍醐味だよ」

「くっ……。不覚」


 ヒカリの言葉に、がっくりと膝をつくが。


「ふふふ。たまには悪くありませんが、安全であるに越したことはないですよ」

「そうよヒカリ。旅の途中で安心して眠れる場所があるって、素晴らしいことなんだから」


 というアリスとカーラの言葉で復活。


「そ、そうだよね。うん、安全第一安全第一」


 当たり前と言えば当たり前なのだが、危険が多いこの世界に生まれ育った嫁たちにとっては、何よりも安全が大事なのだろう。


「むむ……、形勢不利。フェリちゃーん、助けてー」

「お断りです。外だとアキラさんがあまりイチャイチャしてくれませんし」

「くっ……、助けを求める相手を間違えたわ。とはいえ、リリィも聞くまでもないし。孤立無援……か」


 周囲を見回し、ニコニコ顔で暖かく見守るリリィを見て、今度はヒカリが がっくりと膝をつく。


「ふふ。もうヒカリは外で見張りして、他のみんなはシェルターで良いんじゃないかしら」

「ぐぬぬ、いじられキャラのカーラにいじられるなんて」

「な、いじられキャラって何よ!」


 なんてワイワイやっていると。


「ずいぶん賑やかだな。楽しそうで何よりだ」


 新緑の風のお姉さんが話しかけてきた。


「お疲れさまです。どうかしましたか?」

「まあ、見回りだよ。何も問題は無さそうだね。最近、大きめの隊商が襲われたという話だ、夜も警戒しておいてくれ」

「了解です」


 お姉さんは本当にただの見回りだったらしい。言うだけ言って、さっさと次に行ってしまった。


(ホントにGみたいな奴らだよね)


 少し前にオルテス、メンヒス間の盗賊団を一つ全滅させたばかりなのだが、まだ他にも居たのか新たに現れたのか、盗賊による被害が出ているという(うわさ)だ。まさに一匹見たら三十匹という感じだ。

 と言っても、今回はそれを利用する訳だが。


「……来るでしょうか」

「来てくれないと困るな」


 複雑な表情をしたリリィの言葉に答える。

 そのために、オルテスでその噂を聞いたオレたちは、あえて大規模な隊商の護衛依頼を受けたのだ。せいぜい、オレたちの実力がそこまで突出したものではないと、周囲に見せる役に立ってもらおう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「こんな事もあるんですね」


 珍しい出来事だと思っているのだろう、嬉しそうに空を見上げているアリス。


「ソ、ソウデスネ」


 それに対してぎこちない返答をするオレ。

 オルテスを出発してから七日目。赤茶けた荒野に入ってから五日になるのだが、以前通った時には乾燥していたこの荒野に、昨日から雨が降り続いているのだ。

 ちなみに、雨季という訳ではない。新緑の風のお姉さんたちも、こんな事は初めてだと騒いでいた。


(やっぱりアレかな?)


 気候に影響を与えてしまいそうな出来事に、一つだけ心当たりがある。そう、「北壁」に入った切れ込みだ。

 昨日一日雨が降っただけなら、そんなこともあるさと思えるのだが、この荒野に二日振り続くとなると異常さが際立つ。


(風が通るようになった結果、雨雲が流れて来ている、とか?)


 実際に雨が降っているのだから、それほど外れた考えでもないだろう。

 さらに。


「痺れを切らしたのかな?」


 人の気配が六十ニと、それ以外が四十ほど。隊商の右手にある太い柱のような岩山の前後に身を潜めている。待ちに待った盗賊だ。一昨日から数人ずつ様子を見には来ていたのだが、とうとう雨でぬかるむ中でも襲う気になったようだ。

 しかし。


(今は遠慮して欲しかったな)


 待ちに待った盗賊だったのだが、今のオレはこの雨のせいで混乱している自覚がある。考える時間が欲しかったが、盗賊相手にそんなことを言っても仕方ない。


「誰も気付いた様子は無いですね」


 そろそろ前後に潜む盗賊の中間あたりだが、アリスの言う通り、今のところオレたち以外に敵に気付いた様子は無い。


「Cランクでは、それほど気配に敏感ではないってことかな?」

「得手不得手があるのでは? アキラさんの強さを少しは感じていたようですし」

「なるほど。それが苦手で専属護衛という可能性もあるか」


 街道を行く隊商の護衛は、基本的に襲われるのを迎撃する受動的なものだろう。広い範囲から獲物を探すほどの探知能力は必要ないかもしれない。

 なによりも。


(むむ、困ったな)


 Cランク冒険者が出来る事を見て、今後の人前での行動の参考にしたかったのだが、混乱が継続しているのかいまいち考えがまとまらないのだ。


「おっと」


 盗賊が姿を見せる前に、隊商の進行が止まった。ようやく気付いたらしい。

 隊商の先頭と盗賊の集団の一つとの距離は100メートルほど、探知スキルだとレベル5くらいの時の範囲がこのくらいだっただろうか。


「気付かれたか、なかなかやる奴が居るじゃねえか。大人しくしてるなら、この後の扱いを考えてやっても良いぜ」


 岩山の陰から一人だけ姿を現したのは、ヒゲもじゃの大男。魔力は纏っていないし、本気のオレたちなら問題無いが、その巨体から予想される膂力は侮れないと思う。


「はっ! 笑わせるんじゃないよ。盗賊ごときの言葉に聞く価値は無いね」

「~『火矢』」


 お姉さんの合図で、小声で詠唱していた魔法使いさんが『火矢』を放つが、距離があったために簡単に躱されてしまった。


「ふん。生き残ってたら可愛がってやるから、せいぜい頑張りな」


 ヒゲもじゃが手を振り下ろすと、背後の集団に動きがある。


「ちっ! 挟み撃ちか、こざかしい。……なん、だと」


 ヒゲもじゃの視線から動きを悟り、振り返ったお姉さんが驚愕に目を見開く。

 後方の岩陰から姿を現して突撃して来るのは、魔獣のツノ猪。その数は三十ほど。体高150センチほどのそいつらは、一匹一匹の強さは大したことは無いが、距離のある状態から集団で突撃して来られると十分な脅威となる。


(騎獣かと思ってたら、まさかの突撃要員かよ)


 オレたちにとっては脅威ではないとはいえ、人の気配と数が合わなかった時点で、その可能性も考えるべきだったかもしれない。


(それにしても魔獣、か。まさかね)


 どうにも頭が働かない。「北壁」に関しては今さらどうしようもないのだ、さっさと頭を切り替えよう。


「くっ! 後方、何とか耐えろ! 最悪、馬車は盾にして捨てても構わん! 新緑の風、突撃! 前方を蹴散らせ!」


 どうやら、前方の盗賊は街道を塞いで守りを固め、ツノ猪が蹂躙するのを待つつもりらしい。


「アキラさん、ここはお任せを」


 スッと前に出たのはカーラ。


「お、おう。行けるか?」

「ええ。最小限の力で最大効率です。……『泥濘』」


 自信満々で殺る気を見せるカーラが魔法を発動。ただでさえ雨でぬかるんでいた地面が、さらに深くぬかるみ、粘性を帯びたようだ。ツノ猪たちの突撃速度が目に見えて遅くなり、ついには完全に動きが止まる。

 マンガから得た閃きだけでなく、ヒカリから学んだ化学知識も活かされているように思う。


「おお! ナイスだカーラ。じゃあ、ツノ猪はオレとフェリが弓矢で処理。他のみんなは前方の援軍に行ってくれ。プランCで命は大事にしてくれ」

「「はい!」」


 プランCで命は大事に。これは、オレたちはCランク相当の力で戦い、味方は命さえ無事なら良いという指示だ。

 魔法があるこの世界。部位欠損しても金を積めば何とかなる。とはいえ、ウチの嫁たちのことだ、味方が負うのは軽傷程度だろう。


(まぁ、余計なお世話かもだけど)


 他のパーティも数人はツノ猪の処理に加わり、残りは前方へ向かっている。

 前方の盗賊は五十ほど。しかし、新緑の風一パーティでも無傷で相手取っているのだ、これに援軍が加われば余裕を持って蹴散らしてくれるだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「クソッ! 引け、引けー!」


 思った通り、ほどなく戦闘は終了。残りわずかとなった盗賊たちは、ほうほうの体で逃げ去って行くが、追撃はかけないようだ。まぁ、護衛依頼には盗賊の殲滅は含まれないのだから当然か。

 だがしかし。


(……『使い魔召喚』と、……『光学迷彩』)


 こっそりと召喚魔法で鳥を作ると、それに『光学迷彩』をかけて盗賊の後を追わせる。


(盗賊を見逃すとか、オレ的にあり得ないからね)


 もちろん、溜め込んでいるであろうお宝的にだ。


(あと、少し確認しておきたいこともある)


 ……まぁ、生かしておいたことで後に出る被害を無くすためというのも少しはあるが。


「いやー、やるじゃないか。助かったよ」

「いやいや。嫁たちのおかげですよ」

「ははは、頼りにしてるよ。よし、出発だ!」

「うへへ」


 カーラがオレに頭を撫でられて、だらしなく笑み崩れている。

 ウチの嫁たちは、新緑の風未満くらいの力でそつなく戦ってくれた。

 ただ。


(今後カーラをからかう時は気をつけよう)


 と言うのも、カーラの戦い方が、1メートルほどの『土柱』を勢いよく地面から飛び出させ、盗賊たちの股間に痛撃を与えるというものだったからだ。


「アキラさんには使いませんから、安心して下さいね。使い物にならなくなると困りますから」


 例によって、考えが読まれたらしい。股間がヒュンとなった。


「……あはは、よろしくね」


 本当に気をつけようと思う。

 

 

ーーーーーー

 

 

〈やっぱりこいつか〉


 場所は、岩山の麓に作られた粗末な小屋。逃げられても困るので、その日の夜にこっそり野営地を抜け出し、盗賊たちの住み処にやって来た。そして『光学迷彩』で姿を消し、忍び込んだそこには、案の定、特徴のない狂信者が居た。


〈本当に同じ顔ですね〉


 今回も単独行動は許してもらえず、アリスがついて来ている。


(さて、どうしたものかな)


 以前より魔物の制御が出来るようになっていたように感じる。とはいえ、こいつは何も喋らないだろう。


(これだけ試すか)


 化学的な爆発が起こらなくなる不発シールを《創造》で創り、狂信者に貼り付ける。


〈よしアリス、一旦出るよ〉

〈はい〉


 ここにあるお宝はすでに回収済み。あとはこいつらをサクッと処理するだけである。

 ちなみに盗賊たちは、狂信者を入れて総数十三。「お前の魔獣が役立たずだった」とか「次はどうすれば良いのか考えろ」とか、現在進行形で馬鹿っぽく狂信者に詰め寄っている最中だ。


「〜〜『分子分解』」


 後片付けも込みで、狂信者一人を残して建物ごと塵に帰す。

 この『分子分解』だが、魔力の消費が半端ない。今のカーラの全魔力でも、直径1センチの球形くらいだろう。ではなぜこんな魔法を使っているかと言うと、莫大な魔力を使う練習だ。


(レベル10の『身体能力強化』と『思考速度上昇』を速やかに発動するためには、ってね)


 狂信者の場所だけ除外するという魔力の精密操作を行うのも、それを助けるためのものだ。


「……なっ!」


 唐突に外に放り出され呆然とする狂信者の前で、オレだけ『光学迷彩』を解除。


「やあ、ソーグノ教徒さん。あんたらが何をしたいのか、聞いても良いかな?」

「……何を、とは愚問ですね。我々は神の御意志を遂行しているだけですよ」

「神の御意志とは?」

「それは神のみぞ知ることです」


 念のために聞いてみたが、話が通じないことを再認識できただけだった。


「……はぁ、まぁ良い。その体を調べさせてもらおう」


 剣を抜き打ち、狂信者の足を切り飛ばして逃走を防ぐと。


「神よ、御元に。……これは、何が」


 例の言葉を口にした後、驚愕の表情を浮かべた。


(ふむ、自爆失敗したか)


 となるとやはり、自爆は化学的な爆発ということになる。


(この世界的に考えると、やはり錬金術師が絡んでるってことか)


 そして、この同じ顔をした狂信者たちは、ホムンクルスということになるのだろう。


「ありがとう、いろいろ分かったよ」

「おのれ、私に何を――」


 首をはねてとどめさすと、血液と腕の一部をサンプルとしてアイテムボックスに入れて死体は『分子分解』で処理。サンプルに関しては、帰ったら分析器を創って調べるつもりだ。


「さて、帰ろうか」

「はい」


 相変わらず飛ぶのが苦手なアリスが、ギュッと抱きついてから『飛翔』を発動。


「……オレが間違ってると思ったら止めてね」


 帰る途中。いまだに降り続く雨が、球形に張った防御フィールドを叩くかすかな音が聞こえる中、ふとそんな言葉が出た。


(さっきの最後のオレの言葉、少し意趣返し感があったな)


 クアーシュで出会った狂信者に一方的に情報を取られたのが心に引っかかっていたのだが、さっきの狂信者の表情を見て溜飲が下がるのを感じた。

 今回は問題無かった自信があるが、チートで何でも出来るからと言って、何をしても良いという訳ではない。知らないうちに、今の自分が嫌うような人間になっているのではないかと怖くなった。


「……アキラさんがそれを望むなら」


 オレを見上げる瞳に見えるのは、ただ絶対の信頼のみ。

 しかし。


「よろしくお願いします」

「はい♪」


 いつものようにオレの考えを読み、正しく理解してくれたのが分かる。


(ありがたいことだね)


 アリスが止めてくれるということは、思うままに突っ走って良いということなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ