53、出発
「おめでとうございます。ヒカリさんはDランクにランクアップです」
鎧熊討伐から四日。連続で討伐依頼を受け、ヒカリもオレたちと同じDランクになり。
「かなり早いペースでしたが、無理はされていませんか?」
今回はヒカリが、オレたちがDランクになった時と同じような心配をされてしまった。
「……今、Dランクって」
「あの娘は、この前冒険者に――」
そして、最近は大分落ち着いてきて、冒険者ギルドに居てもあまり騒がれなくなっていたのだが、聞き耳は立てていたようだ。周囲のざわめきが大きくなり、その中にオレたちのことを話しているらしい言葉が聞こえる。
さらに。
「いえ、仲間が頼りになるので大丈夫です」
あり得ないハードスケジュールと、それでもなお余裕の笑みを浮かべるヒカリの答えにより、オレたちの実力の高さが窺えたのだろう。
「やっぱり、あの噂――」
「――六人を無傷で無力化した――」
「Dランクの実力では――」
それにより、不良冒険者が捕縛されたのはオレたちの仕業だ、という噂が彼らの中で真実味を帯びてきたようだ。
(……やれやれ)
今回は目立つのが目的なので仕方ないのだが、なんとも居心地が悪い。
「よし、帰ろうか」
「「はい♪」」
妙にご機嫌な嫁たちを促し、そそくさとギルドを後にする。
「おかえりなさい」
「「ただいまー」」
シェルターに帰ると、連絡を受けたらしく、残っていたカーラもリビングに下りてきた。
「どうでした?」
「バッチリ、Dランクになったわ。あと、北壁の話はまだ伝わって来てないみたい」
ヒカリがドヤ顔をした後、真面目な顔で答えると。
「かなり距離がありますからね。人々の口に上るのは、まだまだ先でしょう」
アリスが言葉を継ぐ。
「北壁」からオルテスまで直線距離で1,000キロ以上あるだろう。権力者たちは何らかの通信手段を持っているようなのでその限りではないが、一般人にその話が伝わるには一月近くかかるのではないだろうか。
「ではアキラさん。わたしも次から参加しますね」
「分かった。ただ、もうここにオレたちが居たと印象付けることは出来たはずだから、一日休んで、それからまた北に向かおうと思ってるんだけど」
「……え? 依頼はもう受けないんですか?」
「いやいや、とりあえず北へ向かう隊商の護衛は受けるつもりだよ」
何も知らずに北へ向かう風を装うためにも、ちょくちょく依頼は受けるつもりだ。
それにしても。
「それなら……。あ、でも戦闘が……」
殺る気いっぱいからガッカリして、それから考え込んだり、カーラの百面相は面白い。
「痛たたた」
例によって失礼なことを考えているのがバレたらしい。カーラに頬をつねられてしまったが。
「まあいいです。人前でも使えそうな魔法も考えてます」
思っていた通り、新しい魔法を考えて試したくなっていたようで、すぐに機嫌が直りウキウキしだす。
「みんなもそれで良いかな?」
「はい♪ 旅に戻りましょう」
「アキラさんと一緒ならどこへでも」
「……ご主人様がそう望まれるなら」
「まず目指すのはムイルイ獣王国よね」
他の嫁たちにも確認すると、アリス、フェリ、リリィ、ヒカリの順番に答えが返ってくる。三者三様な返答だったが、みんな賛成のようだ。
「ありがとう、みんな。じゃあ、とりあえずゆっくりしようか」
一日ゆっくり休んだら、また旅の始まりだ。
ーーーーーー
「へえ、お貴族様と一緒かい」
ヒカリがDランクになった翌々日の朝。隊商の護衛依頼を受けて集合場所へと来たのだが……。着いた途端、仕事仲間になるであろう女性パーティから変な呼ばれ方をされてしまった。
「……お貴族様?」
「おや、違うのかい? 凄腕の美少女たちを引き連れた黒髪の冴えない少年……。今オルテスで噂のお貴族様で間違い無いと思ったんだが」
「お、おう」
依頼は、ここウルーク王国の交易都市オルテスから、北のランドロ王国の交易都市メンヒスまでの護衛だ。昨日のうちに冒険者ギルドに一人で行って受けておいたのだが、そんな噂が流れているとは気がつかなかった。
(でもまぁ、仕方ないか)
考えてみれば、オレ自身の実力はこれっぽっちも見せていない。
(不良冒険者をぶっ飛ばしたのもヒカリだし)
しかし、それだけ噂になっているということは、目立つという目的は果たせているのだろう。
「……おーい。お貴族様ー」
「アキラさんは貴族ではありませんよ。あと、こうなったらしばらく戻ってきません」
「そうなのかい? あんたらも大変だね。で、お貴族様じゃないなら、あんたらはどういう関係なんだい?」
「アキラさんは私たちの夫です」
「……ハーレムってやつかい。やっぱりお貴族様なんじゃないかい?」
「アキラさんは見かけは冴えませんが、とても強いんです!」
少し考え事をしている間に話が進んだらしい。
「……はっ」
アリスの声で我にかえる。
「あはは……。まあ確かに、パッと見と違ってかなり強そうだし、噂とは違う感じはあるね。うん、お貴族様じゃないっていうのは信じるよ」
どうやらアリスが上手く説明してくれていたようだ。目立つという目的はあったが、貴族なんかと間違われるのは嬉しくない。
「じゃあ改めて、今回はよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。あたしたちは、この隊商に専属でついてる新緑の風ってパーティだ」
護衛部隊の隊長でもある彼女は、二十代後半くらいだろうか。ワイルドな感じのお姉さんだ。
(けっこう出来る……)
お姉さんのパーティ全員が、うっすらと身体に魔力を纏っている。このくらいなら、おそらくCランクの冒険者だろう。
今回護衛する隊商は馬車十台の大所帯で、五つの冒険者パーティ、合計二十七人で護衛することになっている。
(迎撃するためではなく、襲われないための武力って感じかな?)
この依頼を受けるためには騎獣を持っている必要があった。つまり、護衛は全員騎乗して馬車の周囲を固めることになるのだ、十分な威圧感があるだろう。
「よし! 全員揃ったようだ! 出発するぞ!」
「「おお!」」
しばらくするとメンバーが揃ったようで、順次出発して行く。
「なんだか楽しみですね」
進み行く隊列を見ながらワクワクした感じで言ってくるのは、オレの後ろに並んでいるアリスだ。
ちなみにオレと嫁たちは、一人ずつでオレが召喚した地を駆ける鳥型の騎獣ランバーに乗っている。ヒカリは、全力で「北壁」から駆け戻った時と違って今回は騎乗を楽しめそうだと、かなりテンションが上がっているようだった。
「そういえば、他のパーティと協力するのは初めてかな?」
「私たちの都合でなかなか出来ませんからね」
「う……。なんか、ごめん」
オレの目立ちたくないというワガママに、嫁たちを突き合わせている自覚はある。
「いえいえ、不満はありませんよ。アキラさんたちの世界の物語で、名声を得ることで酷い目にあう例もたくさん知ることができましたし」
オレの反応が面白かったのか、くすくす笑うアリス。ここでアリスは世界という言葉を使ったが、昨日一日がっつり読書をした勤勉なウチの嫁たちは、とうとう異世界という概念を理解したのだそうだ。
「遠いのだろうとは思っていましたが、通常の移動手段ではたどり着けない場所だとは……」
一足先に理解し、良さそうな作品を他の嫁たちに勧めていたカーラがそんな風に言っていた。
「おっと、そろそろかな」
そうこうしているうちに順番が来たようだ。
「じゃあ、出発!」
「「はい!」」
オレたちは隊商の最後尾。そしてメンヒスまで十日の予定だ。




