51、知らんぷり・そのニ
「ここから、私の冒険が始まる!」
やけにテンション高く、「ズバンッ!」とでも効果音がつきそうな勢いで冒険者ギルドの扉を開くヒカリ。
(まぁ、分からんでもないけど)
オレも初めて冒険者ギルドに入った時は、少しテンションが上がっていたように思う。
(ただ……)
と、見やるヒカリは、扉を開けた状態で微動だにしない。
(それも中を見るまでだったけど)
すぐに再起動して振り返ったヒカリだったが、その顔はとても悲しそうだ。
「思ってたのと違う」
「役所みたいな感じだって言ったじゃん」
「聞いてたけど、こんなに綺麗にしてあるなんて……」
どうやら、オレが知る異世界ものの物語と同じ薄暗く荒れた感じを期待するあまり、せいぜい受け付け周辺のみが役所的な感じなのだろう、とそんな風に思い込んでしまったらしい。
「それは残念でした。でも、冒険者ギルドと言えば、のテンプレイベントは起こると思うよ」
「そうなの?」
あまりにも悲しそうな顔をしているのでフォローすると、途端にキラキラした表情に戻る。
建物に入った瞬間から、ウチの嫁たちのおかげで多くの視線を集めているが、そのほとんどから好ましくない雰囲気が漂ってくる。
(今頃ここに居るような奴らだしね)
時間帯は昼過ぎ。大抵の冒険者は朝に依頼を受け、夕方に帰ってくる。つまり、この時間に食事や酒が出る訳でもない冒険者ギルドの待合室にたむろしているのは、ろくに仕事をしない不良冒険者がほとんどだ。
(まぁ、これも分からんでもないけど)
今なら分かるのだが、たむろしている奴らは『身体能力強化』が全く出来ていない。おそらく、冒険者ランクが上げれず、行き詰まってしまったのだろう。
とはいえ、低ランクの依頼でも、真面目にこなせば十分に稼げる。ここに居る奴らのように、ふてくされて悪意を撒き散らすような奴らに同情してやるつもりは無い。
「冒険者登録をお願いします」
考え事をしているうちにカウンターまでたどり着き、ヒカリが要件を告げる。
「新規の方ですね。他のみなさんもでしょうか?」
「いえ、私だけです」
「分かりました。では、カードをよろしいですか?」
今のところ、どこのギルドでも変わらない素敵な笑顔のおばちゃんにより、滞りなく登録が終わる。さらに、オレのアイテムボックスに死蔵されていたゴブリンの耳により、Eランクにランクアップ済みだ。
「よし。じゃあとりあえず、ヒカリをオレたちと同じDランクに上げようか」
「アキラくんたちがDランクとか、酷い詐欺よね」
ということで、Dランク討伐依頼の鎧熊狩りをする事にした、……のだが。
「……で、何もなかった訳だけど?」
ヒカリのジト目が痛い。
絡まれる事なく冒険者ギルドから出て来てしまったのだ。
「……何もありませんでしたね」
オレのせいではないのだが、思わず敬語で返してしまう。
(間違いなく絡まれると思ったんだけどなー)
良からぬ事を企む悪意に満ちた視線だったのだが、行動には出なかったようだ。
(……と思ったら)
後からギルドを出て来た六人が、こちらに視線を向けて付いてくる。
「嘆かわしいですね」
他の嫁たちは、呆れ顔のアリスの言葉にうんうんと頷いているが。
「これは、来たってこと?」
ヒカリは期待に満ちた顔になる。
「思ってた以上に落ちぶれてたみたいだね」
絡む程度ではなく、強請りたかりの類いだったようだ。
ーーーーーー
「待ちな、お前ら」
人気の無い路地に入ると、背後から声をかけられる。こちらの誘いにあっさり引っかかってくれたようだ。
現れたのは、チンピラ風の三十前後の大人たち。逃げ道をふさぐために、半数は走って前方に回り込んできた。
「何か御用で?」
ゆっくり振り返りながら尋ねる。
一応、念のために、悪意の確認をしておきたい。
「痛い目にあいたくなければ、金と装備を置いて行け」
「なに、都市内でも油断してはいけないということだ。良い勉強になっただろう? これは、それを教えた俺たちへの謝礼というやつだ」
「おお! それ良いな。謝礼だよ謝礼」
「「ぎゃはははは」」
主に喋っているのは、最初に声をかけてきた方の三人。回りこんで来た三人は、バカ笑いしているだけ。
そして、当然のようにアウトだったのだが。
「良く今まで捕まらなかったな」
あまりにもバカっぽい。
「あぁん? ガキが、舐めてんのか?」
「まあまあ、落ち着け。良い事を教えてやろう。このくらいじゃ死罪にはならん。つまり、衛兵に報せるなら覚悟しろってことだ。分かったか?」
「覚悟しろよ」
「「ぎゃはははは」」
この手の奴らにありがちな、嫌らしいしつこさの持ち主のようだ。
「ああ、分かった」
ウザくて面倒臭い奴らだということが。
「ヒカリ、やっちゃって」
「お望みのままに」
おかしなテンションのヒカリからおかしな返事が返ってきた瞬間。
「「ぐぺ!」」
「「がぺ!」」
よく喋るチンピラ三人が吹き飛び、その次の瞬間にはバカ笑いするチンピラ三人が吹き飛んだ。
「ふう、満足した」
テンプレイベントを処理したヒカリは満足そうだ。
それはともかく。
「次は無いよ」
「ヒィッ……」
倒れて呻いているリーダー格っぽい髭面の顔の横に拳を振り下ろし、30センチほどのクレーターを作ってから忠告すると、快く理解してくれたようだ。勢い良く何度も頷いてくれた。
ーーーーーー
「気持ち悪いのに絡まれたのに、ヒカリはずいぶん機嫌が良いですね」
バカなチンピラどもを問題なく衛兵に引き渡して宿へ帰る道すがら、鼻歌まじりに先を行くヒカリを見てフェリが聞いてくる。
「オレたちの故郷には沢山の物語があったんだけど、その多くに今回と似たような出来事が描かれていてね」
「なるほど、物語でよくある出来事をテンプレイベントというのですね」
「そうそう」
「今度、その物語を聞かせて下さいね」
「え? う〜ん……」
フェリの無茶振りに詰まっていると。
「あ! フェリだけズルい。私も興味あります」
「もちろん、私も興味がありますよ」
カーラとアリスも乗ってきて、リリィも興味があるのだろう、ニコニコ顔でうんうんと頷いている。
(さて、どうしたものかな)
知識の指輪を利用すれば、漫画やラノベの再現も難しくはないだろう。しかし、ヒカリのように どハマりされると、オレが大変な気がする。
(……まぁ、なるようになるか)
異世界というものの存在を理解出来るようになるかもしれない。
「分かった。長い話だからオレが語るのは難しいけど、なんとかしてみるよ」
「「よろしくお願いします♪」」
創るのは、異世界出版マシンといったところだろう。




