表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/104

47、勧善懲悪

 

 

「悪は滅びたわ」


 クアーシュ滞在四日目。

 朝早く、広場の掲示板にお布令が張り出され、その横で役人が読み上げている。その内容を聞いたヒカリが、どこかで聞いたようなセリフを呟いた。

 昨日は午前中をゆっくり過ごし、午後から再び城に潜入。それから間も無く、貴族や役人たちにとっての脅威であった狂信者が失踪したという情報がもたらされ。その後ようやく、アリスたちが探し出した悪事の証拠の裏付けを取るために動き出し、夜になってぼっち大臣の罷免が決議されたのを確認してから宿に帰った。

 そして今日のお布令によると、税は安くなって、ぼっち元大臣は国の奴隷となり、残りの生涯を奉仕活動で終えることになるそうだ。


(……あの手のクズが反省するとは思えない。さっさと始末した方が良いと思うんだけどね)


 オレ的には、いまいち納得出来ないが。


「せいぜい罪を償っていただきましょう」


 一番怒っていたアリスがうんうんと頷き納得しているようなので、 まぁ良いことにしておこう。


「 じゃあ、出発しようか」


 みんなに声をかけ、馬車へと向かう。


(今回の件では、いろいろと勉強になったよ)


 情報を得るつもりで狂信者に接触したのだが、上手くあしらわれた感じだった。城に潜入した時にあっさりクズを発見したり、これまでが調子良く運んでいたために自惚れていたのだ。


(知りたいと思った情報が簡単に手に入るような気になってた)


 しかしそんなことは無く、狂信者とのやりとりでは、自分自身の経験不足を思い知った。


(まぁ、自分で言うのもなんだけど、まだ十八歳の若僧だし)


 足りない経験は今から積めば良いのだが……。ご都合主義よろしく、自分のやる事は全て上手くいく。何の根拠も無く、そんな勘違いをしていたことに気付かさたのだ。


(まったくもう、ラノベの主人公か! って感じ。穴があったら入りたいよ)


 今のところ、大抵のことは力押しでなんとかなってきた。しかし、いつ力押しが通じない相手が現れるか分かったものではない。


(まだドラゴンとかにも出会ってないし)


 オレの想像を超える危険があってもおかしくない。


(……まぁでも、最悪でも死にさえしなければ何とかなるかな? 何か考えておこう)


 そんなことを考えながら、馬車に乗り北大橋へ。


「また、来ましょうね」


 アリスは後ろ髪引かれる様子。


「そうだね。この都市の本当の姿を見に来ないとね」


 この都市で獲れる海産物の需要は高い。


「……すぐに賑わいを取り戻すと思います」


 税が安くなった以上、リリィが言うように、耳ざとい商人が集まるのに時間はかからないだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「おっ、陸が見えたよ」


 本来なら二日ほどかかるのだが、少し馬車を飛ばし、王都クアーシュを出発した日のうちに北大橋を走破した。


「もう、しばらく海はいらないです」


 と、隣に座ってオレに寄りかかっているフェリが言うように、昼までの行程で「もう海は見飽きた」と全員の意見が一致したのだ。

 海はとても綺麗なのだが、ひたすら真っ直ぐな一本道で変化に乏しい。南北の大橋による違いが無いのも、飽きるのを早めた原因の一つだろう。


「わぁ、見えて来ましたよ」


 そして、陸が近付くにしたがって新たに見えて来たものにアリスが歓声を上げる。

 視線の先、はるか彼方に横たわるのは「北壁」と呼ばれるノーディー山脈。遠い昔には世界がそこで終わっていると信じられていた、いまだ人が越えたことのない山だ。


「と言っても、今は海路で向こう側の陸地が確認されているらしいのですが」


 と、ニコニコ顔のアリスからの情報。


(人が越えたことがない、か)


 少しは起伏があるが、ほぼ横一直線と言って良さそうな山頂が、東西に見える限り続いている。地球ではあり得ない、まさに壁という感じだ。


「何と言うか、ファンタジーな山ね。標高が7~8,000メートル以上あるってことかな?」


 と、ヒカリ。確かそのくらいから上が、呼吸が困難になる酸素濃度だったはず。そのくらいあると、いくら魔法があっても科学知識が無いと登頂は無理なのではないだろうか。


「そういえば、アキラさんの魔法なら越えられるのでは?」


 と聞いてきたカーラは、成層圏まで上った時のことを思い出しているのだろう。


「うん。たぶん問題無いと思うよ」


 『防御障壁』で自らを包んで温度と空気を確保すれば、徒歩でも余裕で越えられるはずだ。


「ですよね。ちょっとそのあたりを詳しく教えてもらっても?」


 いまだ「北壁」を越えた人はいないにもかかわらず、それをはるかに超える高さに軽く行ってみせたオレは何かを知っている、そう思ったらしい。


(カーラ的には、それを知ると魔法の威力上昇に活かせるかも。ってとこかな?)


 確かに、科学知識があると魔法のイメージに広がりが出来たり、戦い方に幅が出る可能性があると思う。


(敵の周囲を真空にして窒息させる、とかね)


 ということで。


「分かった、教えるよ。……ヒカリが」


 決して、……決して! 勉強が苦手だったから教える自信が無いという訳ではない。ヒカリという成績優秀な人間が居るから使うだけ。そう、適材適所というやつだ。


「……私!? まぁ、良いけど」


 成層圏まで上った話はヒカリにもしてある。何を教えるべきかは分かっているはずだ。


「なるほど、アキラさんたちの故郷では当たり前の知識ということですか。興味深いです。ヒカリ、よろしくね」

 

 

ーーーーーー

 

 

「じゃあ、まずは化学からかしらね」


 そしてその日の夜、食事を終えると早速ヒカリ先生の講義が始まった。


「――という感じかしら」

「「ふむふむ」」


 一番最初はカーラしか聞いていなかったはずなのだが、いつの間にかアリスが加わり、フェリが加わり、リリィが加わり、興味深そうにヒカリの話に耳を傾けている。


(みんな勉強熱心だね)


 これで、さらにみんなの仲も深まることだろう。

 なんて、他人事のようにぼんやり見ていたのだが。


「はい、アキラくん。大気中に最も多く含まれる元素は?」


 ヒカリからの唐突な質問。


「え? え〜と……」


 決して覚えていなかった訳ではないのだが(ここ重要)、ど忘れして答えに詰まる。

 

「はい、先生。窒素だと思います」

「正解です。カーラくん、よく覚えていましたね」

「ぐぬ……」


 さらに。


「はい、アキラくん。元素記号Bで表される元素は?」

「び、B? ベリリウム?」

「はい、先生。ホウ素だと思います」

「フェリくんが正解ですね。先生も教えた甲斐があります」

「ぐぬぬ……」


 こんなことが続いている内に。


(ヒカリって、教えるの上手いな)


 面白いと思わせ、興味を持たせるのが(うま)いのだ。オレも、こんな教師に出会っていれば、勉強が苦手になることもなかったのかもしれない。

 なんて、責任転嫁しながら感心していたら。


「――と、こうなります」

「「ふむふむ」」


 いつの間にか、オレも熱心に話を聞いていた。

 他の娘たちに負けないためにも、今後も勉強会に参加せざるを得ないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ