46、王都クアーシュ・その二
「――という感じみたいよ」
宿に戻ってシェルターの中、みんなで得た情報を報告し合った。
結果。
「財務大臣とそれ以外という感じですね」
とアリスが呆れ気味に言う通り、税を上げ私腹を肥やす財務大臣と、このままではマズいと分かっていながら力で押さえつけられているその他、という構図が見えてきた。
(にしても、どんだけ人望が無いんだよ)
財務大臣の協力者は狂信者一人だけ。「おぬしも悪よのう」的な仲間が居るかと思いきや、王族は街の様子を何も知らず、他の貴族や役人たちは、派閥に分かれて責任をなすり付け合ったり愚痴を言い合ったりしていたらしい。
ぼっち大臣一人で城内を掌握させている狂信者の手腕に感心するべきか、もう少し使い勝手の良い傀儡が居たのではと呆れるべきか迷うところである。
「じゃあ、財務大臣の家で悪事の証拠を探して、それを一番まともそうな派閥に渡すってことで良いかな?」
「付き人はどうされるつもりですか?」
次の行動へ移ろうとしたオレをアリスがジト目で見ている。どうやら、狂信者を一人で処理しようと思っていたのがばれているようだ。
「え~……。ドウモシマセンヨ?」
悪い事をしているつもりは全くないのだが、つい視線を逸らしてしまい、さらに片言になってしまった気がする。
「どう、されるつもりですか?」
そんなオレの逸らした視線の先に、ニッコリ笑ったアリスが移動してくる。
「いや、だから……」
何か良い言い訳を探そうと、再び視線を逸らすと。
「「どう、されるつもりですか?」」
いつの間にか、他の娘たちがオレを囲んでいた。
ーーーーーー
「むう……、解せぬ」
街が寝静まった真夜中、ぼっち大臣の家に行く班と狂信者の処理をする班に分かれた。そして、昼に覚えた狂信者の気配がある方へ向かう途中、いまだにヒリヒリと痛む頬に意識が行き、思わず呟いてしまったのだが。
「……まだ足りませんか?」
どうやら聞こえてしまったらしい。お目付役として付いて来ているリリィが、ニッコリ笑ってオレの頬を撫でてくる。
一人で動こうとしたことだけでなく、狂信者が自爆することも白状させられた後、全員から頬をつねられたのだ。
「いえ、十分です」
狂信者に関しては、ある程度手の内を知っているし、一人でまったく問題ない。そう主張したのだが、聞き入れてもらえなかった。さすがに過保護すぎる気がするが……、言わない方が良さそうだ。
何かを誤魔化すように、オレの頬に伸ばされたリリィの手を取り歩いて行くと。
「おっと。ここみたいだね」
貴族街の北端、狂信者の気配がある屋敷に着いた。
「やっぱりそうか」
「……そのようですね」
さほど大きくない屋敷、その中にある気配は一つだけなのだ。ここに着くまでは、離れた所に使用人などが居る大きな屋敷の可能性も考えていたが、どうやら狂信者の方もぼっちだったらしい。
それはともかく。
「じゃあ、リリィはここで待機ね」
「……仕方ありません」
ここに居るのがハルエヌで会ったのと同一人物だった場合に備えて、相対するのはオレ一人。なんとか、これだけは押し通した。
(それが有効かどうかは分からないけど、わざわざこちらが多人数だと教えることは無いよね)
すでに気配は消しているので、『光学迷彩』を発動して潜入。一、二階の窓には鉄格子があったが、狂信者の居る三階の部屋には無く、簡単な留め金だけだったので、今のオレなら入るのは簡単だった。
(さて、どうなるかな)
狂信者が寝ているのを確認し、ベッドとは反対の壁際まで下がって『光学迷彩』を解除。さらに、真っ白でモジャモジャな髪と髭、そして裾がボロボロなローブを纏った魔法使いという、ハルエヌで変装に使った姿を無詠唱の『幻影』で纏い、隠密も解除。
すると。
「……!? 」
気配を感じて狂信者が目を覚ましたようなので。
「~~『光球』」
詠唱して明かりとなる『光球』を発動。部屋の天井付近に浮かべる。
「くっ! 何者ですか!」
ベッドから飛び起き、眩しそうに目を細めながらもこちらを向き、側にあった剣を抜いて構える狂信者。なかなか鋭い動きだが、気配の強さから分かっていた通り、オレの脅威になるほどではない。
「ふぉふぉ、夜分遅くに失礼。少し聞きたいことがあるのじゃが」
「何者かと聞いている!」
ようやく目が慣れ、こちらの姿を確認したようだが、オレの姿に対する反応は無い。
(ふむ。双子、もしくは同じ顔をした別人?)
魔法がある世界だ、クローンやホムンクルスという可能性もあるかもしれないが、少なくとも同一人物ではなさそう。
ちなみに、しゃべり方は冒険者ギルドカルノー支部長を参考にし、声もしわがれ声に変えてある。
「~~『風槌』」
「かはっ!」
優しくするつもりも必要もないので、弱めた『風槌』を詠唱して発動。狂信者を壁に叩き付けて動きを封じる。
「ふぉふぉ。お主に許されているのは、ワシの問いに答えることのみじゃよ」
「……」
オレの言葉を聞き、おとなしくなったが。
(オレに話させて情報を集めるつもりかな?)
もともと期待はしていなかったが、ペラペラと都合良くしゃべってはくれないようだ。
ということで。
「お主らの神は何を望んでいる?」
お前らが何者か知ってますよ、と匂わせ反応を見ると。
「ほう。我々の事をご存知なのですか。これは……、困りましたね」
ヨロヨロと立ち上がり、こちらの隙をうかがう狂信者。
(おや、失敗したかな?)
想像を上回る反応。自爆カウントダウンという感じだ。
「おっと、それ以上近付かないでくれるか」
「……なるほど。ハルエヌに現れた魔法使いですか」
さらに、自爆を警戒したオレの反応から推測されてしまったらしい。
(……まぁ、最終的に排除出来ればオレの勝ちだし)
たいした情報は得られなかったが、少なくとも頻繁に自爆してはいないらしいと分かったのだ、問題ない!
「あなたには、ここで消えてもらいます」
ほんの少しだけ後悔している間に狂信者が立ち直ったらしい。何かを足下に叩き付けたかと思うと、そこから煙が立ち上り、あっという間に室内が真っ白になる。
(……なるほど)
そして、一目散に遠ざかる気配。こちらに自爆を警戒させて動きを封じ、その間に姿をくらますつもりだったようだ。しかし、残念ながらその作戦は、高いレベルの探知スキルを持つオレには通じない。
(自爆が効かないと判断し、情報を持ち帰ることを選んだ。ってところかな?)
そんなことを考えながら、外に出てリリィと合流。
「……お考えを聞いても?」
なぜ逃がしたのか、ということだろう。
「え〜……。夜中に大きな音を出したら周辺住民に迷惑だよね。ということで、街から離れてもらおうと思ったわけデスヨ」
ただ単に逃げられただけ、そう言うのが恥ずかしくて吐いた嘘だったのだが。
「……なるほど。明日の夕御飯は、ご主人様が新しい肉料理を作って下さるということですね」
あっさり嘘だとばれたらしく、口止め料を要求されてしまった。
最近はリリィも可愛い我儘を言うようになってきた、それを少し嬉しいと感じる。
「はい、お任せ下さい」
確か、ウスターソースも完成したはず。明日はトンカツでも作ろうかな。
ーーーーーー
「おー、居たいた」
狂信者の行き先は南北大橋のどちらかだろうと思っていたら、まさかの手漕ぎの小さな舟での脱出だった。
「……どういうつもりでしょうか」
王都クアーシュから陸地までは、最短でも120〜130キロ。小さな舟では厳しい距離だと思う。
ちなみに、今のオレたちは『光学迷彩』で姿を消し、『飛翔』で空中から追跡中だ。
「いったん海に出てから橋に向かう。そうすれば橋の出入り口を通らずにすむから、かな?」
「……なるほど。足取りを追わせないつもりだったのですね」
おそらく、そんな感じだったのだろう。探知スキルが無く、見失っていれば上手くいったのかもしれない。
「よし、そろそろ行くよ」
嘘として口にしたが、実際、街の近くで自爆されるのは迷惑だろうということで、ある程度離れるのを待っていたのだ。
(情報を聞き出すのは難しそうだし、仕方ない)
記憶を探る装置を創ったり、魔法を作ったりするにしても、まずは自爆を封じないと話にならない。そして、魔法で廃人にしてしまうと、おそらく情報が得られない。
ということで。
(こいつには実験台になってもらおう)
まずは、気付かれないように気配を消したまま近付き、先に創っておいた魔法発動阻害シールを狂信者に貼る。これは、貼られた対象が使おうとする魔法の発動を阻害する物で、他者から対象に向けて使われた魔法は阻害しないように創ってある。
そして、再び離れて『光学迷彩』と隠密を解除し、無詠唱で『麻痺』を発動。
「逃がしはしないよ。その体を調べさせてもらおうか」
と、普通に声をかける。一目散に逃げる様子から、遠距離通信の手段は持っていないと判断した。もう、こいつ相手に演技の必要は無いだろう。
(さて、自爆出来るかな?)
と、見ていると。
倒れ、転がった狂信者の視界にオレが入った瞬間、あっさり自爆されてしまった。まぁ、十分離れて風の障壁も張っていたオレには全く影響は無かったが。
それにしても、人を見る目の無さが台無しにしているが、判断の速さ、思い切りの良さは驚異的だと思う。
(……魔法による爆発では無く、麻痺していても発動可能、か)
今回も、最初にあっさり自爆しようとしたことから、まだまだ同じ顔をした狂信者が居るのだろう。
(次は不発シールでも創って試してみるか)
纏っていた魔法使いの幻影も解除し。
「よし、帰るか」
「……はい」
オレの近くに来ていたリリィの手を取り、ゆっくり飛んで王都へ。




