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44、譲れないもの

 

 

「「おぉ~……」」


 ムアーレを出発して六日目。小高い丘から見下ろす景色に思わず感嘆の声が出た。

 丘の麓から青々とした草原(これはどうやら麦畑らしい)が広がり、その先に、宝石のように透き通る(あお)く美しい海原が広がっている。


「海は海でも内海というものらしいですよ」


 と、アリスからの情報。


「なるほど、それなら納得がいく……のか?」


 と言うのも、麦畑を抜ける街道がそのまま真っ直ぐ海へと向かい、そこから幅広い橋が、これまた真っ直ぐ水平線の彼方へと延びているのだ。内海で隔てられた南北を繋いでいるという話だが、無駄に規模が大きい気がする。

 そんなことを話しながら丘を下り麦畑を抜け、小さな集落がある橋のたもとに着いた。


「お、おう……」


 幅が広いな~、とは思っていたのだが、近付くとその広さはさらに際立つ。欄干の無いつるんとした橋は、馬車六台が並んでも十分な余裕がありそうだ。その幅は30メール近くあるのではないだろうか。

 さらに、例によってこの橋も五千年以上の歴史があるらしいのだが、ろくに劣化した様子も無い。


「……さすがファンタジーね」


 というヒカリの言葉に、まったくもって同感である。

 やや呆然としたまま馬車を進め、それでもきちんと兵士にカードを見せて橋の上へ。


「さあ、行きましょう。この橋の先に王都があるそうですよ」

「へぇ。王都は北側にあるんだね」

「いえ。南大橋の先です」

「……え? もしかして海の上にあるってこと?」

「はい。王都は海上都市だと聞いていますよ」


 ワクワクが抑えきれない様子のアリスに深く考えずに言葉を返すと、それに対して意外な答えが返ってきた。


(……マジで?)


 改めて目をやるが、橋の先は水平線の向こうへ消え、王都の影も形も蜃気楼も無い。

 さらに話を聞いてみると。クアスル王国の王都クアーシュの場所は、内海西端の中央あたり。海峡が近く、南北の幅が狭くなっている位置ではあるが、それでも南北の大橋を渡るには馬車で二、三日ずつかかるらしい。


(馬車で二、三日ということは、橋の長さは120~130キロくらいかな?)


 碧い海にポツンと浮かぶ海上都市……。オレの中二心をくすぐる感じがする。


「それは楽しみだ」


 たどり着くまでまだ二日。それまでは代わり映えのしない海上の道だが……。


(待っていろ海産物)


 旅路の途中で、お待ちかねの海産物をを入手するつもりだ。暇を持て余すことは無いだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「ふお~……」


 王都クアーシュ。二日間ひたすら真っ直ぐな橋の上を進んでたどり着いたそこは……、まさにファンタジーという感じだった。

 まずパッと見は、区画ごとに分かれ、その間を縦横無尽に水路が通る水の都という感じ。

 下を見ると、橋の高さが海面から10メートルほどで、石を積んで組まれた土台がその高さまであるのだが、土台上部から一階分くらい下までは部屋があるようで、所々に窓や開口部が見える。

 そして正面。灰色の土台の上には白い漆喰の建物が整然と並んでいる。ここまでなら、元の世界でも似たような街並みを見ることが出来たかもしれない。しかし、そこから視線を上げていくとファンタジー感が強くなる。

 まず建物同士の二階、三階部分に回廊で結ばれている場所があり、その様子は美しい蜘蛛の巣が張られているようにも見える。そして極め付けはさらに上、三階建てで統一されているらしい建物の屋上には木々が生い茂っているのが見える。屋上に茂る木々と、そこからはみ出した木の根が壁を伝う様子は、どこかで見たアニメの空中都市を彷彿とさせる。


「何というか……、凄いですね」

「木々の気配が濃い、良い都市だと思います」

「内海は魔物も少ないらしいので、住みやすそうですね」

「……綺麗な都市です。目にする機会を与えていただけたことに感謝します」

「おぉ、ファンタジー……」


 全員がこの都市に驚いたようだが、この光景をあり得ると思うか思わないかの違いだろうか、異世界組とそれ以外とで傾向が異なる気がする。


(まだ元の世界の常識に引っ張られてるのかな?)


 何だか、「あり得ない」という素直に驚けていない感じが損したような気になる。


(郷に入りては郷に従え、だよね)


 この世界をより楽しむためにも、それは大事なことだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……お、おう」


 その日の宿の食堂。当然のように魚料理が出てきたのだが、それを美味しそうに食べる四人を前に、同じ事に思い至ったらしいオレとヒカリは手を出しかねていた。


(郷に入りては、とは言ったものの……)


 この都市のトイレ、その穴からは海が見える。そして、都市周辺は海産物が豊富だという話と、獲れたての魚料理。


(何ヲ食べテ育ッタ魚ナノデショウカ)


 もちろん分かってはいる。郷に入りてはという以前に、元の世界で食べていた物も、この世界でこれまで食べてきた物も、そういう意味において結局は同じようなものだということは。

 だがしかし、こうも直接的に突き付けられると、やはり気になってしまう。

 ……ということで、オレの「今日は魚の気分じゃないナー」という言葉にヒカリも乗り、他のみんなに食べてもらって問題を先送りにした。


(譲れないものってある……よね)


 ちなみに、道中手に入れ、食料製造区画にて養殖を始めたものに関しては、王都から十分な距離があったので問題無いということにする。

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