43、オーガロード
「……『土壁』」
山の森の中、オーガたちを囲むように幅3メートル高さ10メートルの壁状に大地が盛り上がる。
「「かかって来なさい」」
オレの魔法が発動した後、アリス、リリィ、ヒカリが気配を解き放つとともに壁が途切れている場所に姿を見せ、フェリとカーラは気配を消したまま壁の上に駆け上がった。
アリスたち地上組を認識したオーガは、何事か吠えると醜く顔を歪めて襲いかかる。
(女だー! って感じかね?)
まぁ、ヒカリの良い経験値になってくれ。と、オレは反対側へ回り込んで壁を越え、ウチの娘たちの方へ向かおうとするオーガの群れの背後へ。そこからオーガロードへと向かう道すがら、気配を消したままオーガの肩を跳び渡りながら首を刎ねて行く。
(ウチの娘たちは、と)
心配はしていないが、木々の向こうの気配に意識を向ける。案の定、問題無いようだ。
アリスは風を纏わせた槍で縦に横に真っ二つにしながら残骸を吹き飛ばし、リリィは自身に風を纏い、縦横無尽に双剣を振って細切れにしている。そんな二人の間で、ヒカリも一体ずつ確実にオーガを討伐しているようだ。
一方、カーラとフェリは、気配を消したまま壁の上から不可視の『風刃』を放ち、唐竹割りにしたり首をはねたりと危なげなく地上組に近づく数を調整している。
「おっと、残念」
もうすぐオーガロードという所で、背後のオーガが倒れる気配を感じたのだろう、振り返ったオーガロードに視認されてしまった。
隠密スキルで気配を消しているので、さらに『光学迷彩』で姿を消しておけば良かったのだが、そうすると今度は、ウチの娘たちにオレの場所が分からなくなってしまう。これは、オレの隠密レベルが、ウチの娘たちの探知レベルを上回るためだ。
(オーガロードの気配察知能力が分かってれば、ギリギリ見つからないように微調整もするんだけどね)
残念ながらそんな情報は持っていなかったので、全力で気配を消しての行動となった。
(まぁ、小細工なんか必要ないし)
と、そのまま真っ直ぐ突っ込み、オーガロードの首を狙って剣を振るうが、躱されて首の皮膚に浅い傷を作るにとどまる。
そこで、まさかの出来事が。
「オノレ、エサゴトキガ!」
なんと、オーガロードが喋ったのだ。
(オーガロードにそんな知恵があるなんて……。しかも、まさかの餌発言)
人種の男は餌、女は繁殖の道具という程度の認識なのだろうか。やはり、どう考えても分かり合える生き物ではないらしい。
「まぁ、知ってたけどね」
空中のオレを狙って、周囲のオーガも巻き込みながら振るわれる反撃の棍棒(雑に枝を払った丸太のような物)を、その振るわれる腕の付け根を蹴って躱し、地上へ下りると。
「ガァ!」
オーガロードの叫びと共に魔力の流れを確認。その場から横に跳ぶと、足下から土の槍が突き出した。
(こいつも魔法を使うのか)
以前見たゴブリンロードの回復魔法もそうだったのだろうと思うが、魔法語の詠唱は無い。そして、これはこの個体特有のものでは無いはずだ。そうなると今までも目撃されて来たであろう無詠唱の魔法が、人の世に広まっていない理由が分からない。
(……いや、今にして思えば、ジャバウォックの吐く火球も魔法だったのでは?)
つまり、ゴブリンロードやオーガロードの魔法も魔物の特殊能力だと思われているのかもしれない。
(やれやれ、固定観念恐るべし)
さらに突き出す土の槍を躱してオーガロードを観察していると、うっすら身体全体に魔力を纏っていることに気付く。効率は悪そうだが『身体能力強化』もしているようだ。
(まぁ、これもオレたちだけのものという訳ではないしね)
気付きさえすれば出来ない事ではない。本能的にやっているのだろう。
(ん? ひょっとして……)
もしそうなら、固定観念のせいで無詠唱は無理でも、無意識のうちに『身体能力強化』を出来る人はいるのかもしれない。
(いや、きっとそうに違いない)
そう考えれば、ステータスという強化手段を持たない人たちが、Cランク以上に討伐依頼が出るような魔物と戦えるというのも納得が出来る。……ような気がする。
冒険者ギルドのカルノー支部長の爺さんが、オレたちの実力をCランク相当と判断していたのも、オレたちが『身体能力強化』していたのを感じてのことなのではないだろうか。
そんなことを考えながら、次々と生み出される土の槍を躱していると。
「シネ!」
突き出たまま視界を塞ぐ土の槍、それごと薙ぎ払う棍棒での攻撃だった。
……どうやら棍棒の間合いに誘導されてしまったらしい。
(脳筋なオーガに行動を操られるとか……。へこむわー)
まぁ、舐めきって考え事などしていたのが悪いのだが。
棍棒と、さらに後退を妨げるように背後から突き出してくる土の槍を後方宙返りで躱し、さらにしょうもない事を考えようとする頭を切り替える。
(あまり長引かせると、ウチの娘たちに遊んでると思われかねないよね)
『思考速度上昇』を発動し、さらに『身体能力強化』を一段階上げて突撃。
緩やかに動く世界の中、棍棒を振り切ったオーガロードの厳つい顔に浮かぶ驚愕の表情を見て、少しだけ気が晴れた。
(必殺のつもりだったのだろう? 残念だったね)
勢いのまま跳び上がり、オーガロードの顔とすれ違う。
高くはね上ったオーガロードの首には驚愕の表情が浮かんだままだった。おそらく、『身体能力強化』で強化された自身の頑丈さに相当の自身を持っていて、こんな華奢に見える剣の一撃で致命傷を負うとは思っていなかったに違いない。
ーーーーーー
「お疲れ様。大丈夫だった?」
オーガを殲滅し、土の壁を元に戻してみんなと合流。
「はい、怪我人は無し。ヒカリとの連携も問題無いようです」
アリスがニコニコ顔で答え、ヒカリも手応えを感じたのか満足そうにしている。
「じゃあ、後片づけして撤収」
「「はーい」」
大量にあるオーガの死体(残骸?)を魔法で地中深くに沈めて処理し、街道に戻る。
(にしても、オーガロードか……)
聞いたところによると、オーガロードの発生は稀らしい。
(狂信者たちの陰謀とか?)
怪しいと思い始めると、全てが怪しく見えてしまう。帝国の陰謀にも知らないうちにガッツリ関わってしまっていたのだ、気のせいだとは思えない。
(まぁ、なるようにしかならないけどね)




