42、クアスル王国
「ふぉ~。ここが冒険者の街なのね」
門を抜けた先に広がる風景、雑然とした活気ある街並みを見てヒカリが声を上げる。
センクトを出発して十日目。クアスル王国の城塞都市ムアーレに着いたのだが。
「ハルエヌみたいだね」
というオレの言葉に、ヒカリ以外の四人はうんうんと頷いている。
魔の森の北と南という違いはあるが、冒険者が集まるという共通項のせいか、二つの都市はかなり似た雰囲気を持っていた。
「ウルーク王国の城塞都市だったっけ?」
ヒカリが少し寂しそうに聞いてくる。
自分だけ思い出を共有出来ていないことに、疎外感を覚えたのかもしれない。
「冬になる前にもう一回ウルーク王国に行くのも良いかもね」
ハルエヌ周辺の小麦畑など、ヒカリにも見せてあげたい景色が沢山ある。
「それは良いですね。ヒカリに見せたい景色が沢山あります」
どうやらみんなが同じことを思ったらしい。オレの言葉にアリスが続き、フェリ、カーラ、リリィもうんうんと頷いている。
それを見たヒカリは。
「へ、へへ。……おまいら、愛してるぜい」
そうとう嬉しかったらしい。オタクっぽい言葉を口にして女性陣に抱きついた。
なので、当然オレの方にも来るだろうと思って、少し腕を広げて待っていると。
「いや、人前ではちょっと……」
と、辞退されてしまった。
オレも人前でイチャつきたい訳ではないのだが、こういう時くらいは良いのではと思う。
なにより。
(『認識修正』の魔法をかけてあるから、気にしなくて良いのに)
粗野な冒険者が集まる都市という事で、やや強めに『認識修正』を発動してある。平凡な人に見えるどころか、路傍の石並に興味を持たれないはずだ。よっぽど変な事でもしない限り、注目を集めることは無いと思うのだが。
(まったくもって遺憾だ)
シェルターに下りたら、思う存分イチャつこうと思う。
ーーーーーー
「むう。残念」
ムアーレから北へ延びる街道上、オレの隣でヒカリが本当に残念そうに呟く。
結局ムアーレ滞在は一日未満で終了。あまり見るべき所が無く、昼過ぎから夕方までブラブラしただけで十分だと判断したのだ。
だが、ヒカリが残念がっているのは。
「ベテラン冒険者に絡まれたり。撃退して注目を集めたり。イベント目白押しだったのに」
「はいはい。冬になったらね」
ヒカリの冒険者登録を先延ばしにした事だ。
冒険者ギルドには高速の連絡手段があるようで、オレたちが何処でどんな依頼を受けたか、といった情報をお偉いさんが望めば知る事が出来るらしい。それによってオレたちの移動経路などが知られる事を嫌い、長期滞在する予定のウルーク王国に戻るまで我慢してもらうことにしたのだ。
もちろん、知られたら困るようなやましい事をするつもりは無いのだが、探される可能性があるとなると隠したくなるものなのだ。
そして、これらの理由を、ちゃんとヒカリも納得してくれたはずなのだが……。
(むむ、解せぬ)
今回はやけに絡んでくるので、疑問に思っていると。
「仕方ない。夕飯を唐揚げ、デザートにアイスクリームで許してあげる」
どうやらこれが目的だったようだ。
「了解。腕を振るわせて頂きます」
これくらいの可愛いわがままならいくらでも、だ。
ーーーーーー
「これって……」
ムアーレを出発して四日目。北に向かうオレたちの右手にある山、そこに複数の魔物の気配を感じ思わず呟く。
「ロードが存在する可能性が高いですね」
オレの呟きに答えたのは隣に座るフェリ。
「どういうこと?」
どう行こうか、と考え始めたところでヒカリが聞いてくる。
「そういえばヒカリはまだオーガには会って無かったっけ」
「……そういうことね」
その名前を聞いて理解してくれたようだ。同じく会ったことが無かったリリィも納得したように頷いている。
ゴブリン、オーク、そしてオーガもまた雄しか存在しない女性の敵となる魔族で、オレが滅ぼしたいと思っている種族の一つだ。
そして、感じた気配はオーガが三匹。この世界のオーガは、ゴブリンなどを使役することはあるが基本的に群れない。そして、唯一の例外がオーガロードが存在する時。オーガが強化されてオーガロードになると、どこからともなく集まり百匹を超える群れを作るらしい。
(さて、どうしたものかな)
オーガロード率いる群れとの戦闘は、まだヒカリには荷が重いかもしれない。
ならば。
「オーガ三匹は斥候だと思う。それをみんなが殺ってる間にオレが本隊を潰す」
とオレが告げた方針は、オレの肩に手を置いてニッコリ笑ったアリスによって。
「却下です」
アッサリとボツになった。
そして。
「ヒカリをフォローしながら、斥候も本隊も全員で行きましょう」
「「おー!」」
元気よく答えるフェリとカーラに、こちらを申し訳なさそうに見るリリィ。ヒカリは、ドンマイとばかりにオレの背を叩く。
どうやらアリスの方針で行くことに決まったようだ。
「アキラさん。一人で離れて行動するのは駄目だって、前にも言いましたよね」
戸惑うオレにジト目で告げるアリス。
(そういえば、そんなこともあったような……)
いやいや、忘れていた訳ではなく、ただ少しだけ意識の外にあったというかなんというか……。
「ごめんなさい」
オレを心配して言っているのは分かっているので、ここは素直に謝っておこう。
「よろしい。じゃあ、行きましょう」
どうやら許してくれたようだ。
ーーーーーー
「あれがオーガロードか」
斥候を待ち伏せてさっくり処理すると、その位置から群れの気配を察知できた。そして現在、山頂から見下ろす木々の間にオーガロードを発見したところだ。
(賢しげに斥候とか放ったら、そのせいで本隊の位置がバレちゃった訳だけど、ねえ今どんな気持ち?)
ちょっとした八つ当たりで、ついそんな意地の悪いことを考えてしまった。
オーガロードは、2メートルを優に超えるオーガを、さらに一回り大きくした感じだ。気配から感じる強さはオーガの二倍から三倍くらいだろうか。
(よく考えると不思議な気がするね)
狼や猿などの動物が強化されて魔物となり、魔狼や大猿になると単独行動をとるようになるのだが、ゴブリンやオーガなどの魔物が強化されると群れを率いるようになるのだ。
一方は強くなって周囲を従え、一方は強くなったせいで別種として孤立する。そんな感じなのだろうか。
(まぁ、これも考えて分かるようなものではないけどね)
考えて分かることではないのだが、ついつい想像が膨らむ。
そんな無駄思考をしていると。
「今回はどう行きますか?」
オレの隣で伏せた姿勢のままフェリが聞いてくる。
今さらオーガ程度に遅れをとるオレたちではないが、今回はヒカリの実戦訓練なのだ。
ならば。
「気配を消して接近。オレが一ヶ所開けて周囲を土の壁で囲むから、そこでヒカリの左右をアリスとリリィが固めて迎撃。フェリとカーラが壁の上から数を減らして、オレは遊撃のついでにオーガロード討伐。という感じでいかがでしょうか」
「まぁ見える範囲なので良いでしょう」
アリスの許可が出た。
では行きますか。




