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41、センクト出発

 

 

「「……」」


 センクト滞在三日目の朝、ウチの娘たちは、オレが作った朝食に言葉もなく夢中でかぶりついている。

 今朝のメニューはカリカリに焼いたベーコンを載せたチーズトーストとサラダとコーンスープ。

 食料製造区画にて、ようやくベーコンとチーズが完成したので早速使ってみたのだが。


(みんなが夢中になるのも仕方ない)


 何の変哲も無いただのベーコンチーズトースト、それがとんでもない美味しさなのだ。


「ナニコレなにこれ何これ……。ベーコンもチーズもパンも、メチャクチャ美味しいんですけど」


 目の前にあった三枚を食べ終え、いち早く再起動したヒカリがそう呟く。


(良い所のお嬢様だったヒカリがこの反応か……)


 やはり以前思った通り、この世界の食材は質が高いのかもしれない。もちろん、生産者様方の努力もあるが、魔力の影響がかなり大きいように思う。


「載っている物はベーコンとチーズという物なのですね。お肉と乳に前もって手を加えておいた物なのでしょうか」


 アリスは、新しい物を知れた喜びで、オレにキラキラした目を向け。


「「……」」


 フェリは満足したのか至福の表情でくつろぎ。カーラとリリィは、もっとよこせと無言でこちらを見つめている。


「お、おう。すぐ作ってくるよ」


 これも唐揚げ並に大量に用意するべきだったようだ。オレも後二、三枚は食べたい。

 慌てて立ち上がると。


「あ、手伝います」


 と、アリスが言い。


「……わ、私も手伝います」


 ハッとしたように慌ててリリィが続き。


「あ、私の分も、……じゃなかった。私も手伝うからね」


 さらにヒカリも立ち上がる。

 ヒカリも、この世界に来てから調理スキルを覚えたのだ。元の世界に居た頃は料理などさせてもらえなかったらしいが、好きな人のために料理をするというシチュエーションに憧れがあったとか。


「おう。まぁ、あんまりやる事はないけどね」


 今朝はベーコンとチーズしか使わなかったが、他にハムとソーセージも数種類完成した。それらで食事を作る時には、多めに作ることにしよう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「うげ……」


 今日は武具屋などの様々な商店を中心に見て回ったのだが、日が暮れ始め、宿へ帰る途中に通りかかった広場であまり見たくないものを目にしてしまった。


「「──魔物がその勢力を増しています。この先は神の敬虔な信徒のみが破滅を回避し得るのです!」」


 恐らく存在する、今現在関わりたくないものナンバーワンの狂信者集団。その大元である可能性が高いこの世界最大の宗教、ソーグノ教の宣教師だ。

 まぁ、そもそもの競争相手が白鯨信仰のような民間信仰しか無いのだから、最大と言っても大した規模ではないのだが。

 そんなことを考えていると。


「そういえば、あの国が近いんでしたね」


 とカーラが言い。


「えぇ、ここセンクトから東へ行くとソーグノ神聖王国。そろそろ建国百年を迎える都市国家です」


 その言葉をアリスが補足すると、それを聞いたヒカリが何か聞きたそうにオレを見る。

 そう、五千年間停滞しているはずの世界に存在する建国百年の国。まだ神(?)が知覚し得る変化の範疇に無かったのかもしれないが、間違いなくオレが転生する前に存在した変化の兆しだろう。

 だがしかし、オレ的に宗教と政治が結びつくとろくな事にならないと思う。実際、それを裏付けるかのように、その国の行いはどうにも胡散臭くて仕方ない。


(何というか、観光の邪魔になりそうな気がするんだよね)


 せっかく自然発生した変化の兆し、これをオレが潰すはめにならないように、出来るだけ関わりたくない。

 ということで、さっさと宿に向かおうとすると。


「ねぇ、アキラくん。あの嘘くさい美男美女コンビの国ってどうなってるのかな? 言ってる内容も怪し過ぎるよ?」


 宣教師の、魔物が勢力を増しているという言葉を聞いて、先日自分が口にしたトロル襲撃陰謀説がよぎったのだろう、小声で心配気に聞いてきた。

 ちなみに、宣教師は美男美女の二人組なのだが、ヒカリが言う通り、どこがという訳ではないがその容姿に嘘くささを感じるのだ。


(元の世界で言う整形顏って感じかね)


 とはいえ、宣教師というものの目的上、話を聞いてもらうために美男美女を揃えるというのは有効な手段ではあると思う。

 それはともかく。


「オレ的には出来るだけ宗教関係には関わりたくないかな。もちろん、降りかかる火の粉は払うけどね」


 とりあえずは様子見だ。


「う~ん、分かった。何かあったとしても、この世界の人たちが解決してくれるならその方が良いよね」


 ヒカリも納得してくれたようだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「しゅっぱ~つ!」


 後ろに立ち、オレの両肩に手を置いたテンションの高いヒカリの声を聞きながらセンクトの西門を出る。

 次の目的地はランドロ王国の北西、魔の森の北端に接するクアスル王国。西に向かうのは、反対方向にあるソーグノ神聖王国に行きたくないという理由もあるが、それ以上に重要なのが。


(待っていろ、海産物!)


 クアスル王国が海に面した国だということだ。


「なんだか楽しそうですね」


 ワカメや昆布的な物、鰹節に出来そうな魚などを探し出し、みそ汁を作るのだ!

 そんなことを考えていたら、いつの間にか頬が緩んでいたらしい。オレの左に座るアリスが、自分自身も楽しそうにオレを覗き込んでいる。


「いやいや、大したことじゃないよ。次の国への期待がね」


 まぁ、嘘は言ってないのだが、ごまかし方が微妙だったためか。


「あ! 次の国は海があるのよね。アキラくん、何を期待してるのかな~?」


 なんてヒカリが言ってきた。

 その言葉にみんなの水着姿が思い浮かぶが、今はまだ春。


「いやいや。まだ泳げる時期じゃないからね」


 冷静に否定したつもりだったのだが。


「あれあれ~。私は泳ぐなんて言ってないけど?」


 まんまと乗せられてしまったようだ。


「ぐぬぬ」


 自爆と言われればそうなのだが、やられっぱなしは気にくわない。


(今夜は容赦しませんからね!)


 密かに復讐を誓っていると。


「なんだか楽しそうですね」


 少し前にアリスが言ったのと同じ言葉と共に、オレの右脇からフェリが顔を出した。

 この機会に話題を変えようと思ったのだが。


「あ、フェリちゃん。どうやらアキラくんは、みんなの水着姿が見たいらしいわよ」


 どうやらヒカリはまだ続けるらしい。


(おやおや、ヒカリさんは更に罪を重ねるつもりらしい)


 今夜はどうしてくれようか、なんてことを考える。


「ん? なんで水着なんですか?」

「あ、こっちの水着は違うのかな? 今着けてる下着みたいな形の物があるのよ」

「え~、それはさすがに……。アキラさんだけならともかく、人前では遠慮したいかな」


 ……少し考え込んでいる間に話が進んだらしい。

 気がつくと。


「わ、私もアキラさんの前だけなら」


 ニコニコ顔で話を聞いていたはずのアリスが、その顔を真っ赤にしていた。


「お、おう?」


 どういう流れでそんな言葉が出て来たのか分からず戸惑っていると。


「アキラくん、愛されてるね~」


 ヒカリがニヤニヤしながらオレの頬をつつくが、もはやオレの心は動じない。


(フフフ、調子に乗っていられるのも今のうちだよ)


 今夜のヒカリは気絶決定なのだ。オレは、頬をつつくヒカリを温かい気持ちで見つめ返す。

 すると。


「あれ? え~と……。ちょっとやり過ぎちゃったかな~、なんて」


 何かを感じたのか、ヒカリの目が泳ぎ始める。


「ヒカリ、手遅れよ。今夜は覚悟しておきなさい」


 ニヤニヤ笑いながらそう告げるのは後ろに座っているカーラ。その横ではニコニコ顔のリリィがうんうんと頷いている。


「えぇっ、そんな! 夜の魔王様、お手柔らかにお願いします」

「誰が夜の魔王様か!」


 まぁ、「やめて」ではなく「お手柔らかに」と言うあたり、ヒカリもそういう事が嫌いなわけではないのだ。


(オレも、本気で嫌がる様な事をする気はないからね)

 

 

ーーーーーー

 

 

「やっぱり多いね」


 センクトを出発して七日。クアスル王国に入って二日になるのだが、明らかに魔物の数が多い。


(まぁ、話を聞けば納得なんだけど)


 と言うのも、クアスル王国は魔の森の北端に接しているのだが、ウルーク王国とは違い壁で遮られてはいないのだ。森から出た魔物の大半はもっとも近い集落である城塞都市ムアーレに向かい、そこで討伐されるのだが、他所に向かう魔物もそれなりの数はいるらしい。


「敵は一匹。強くはないわね。私に任せて」


 殺る気満々なのはヒカリで、その言葉の後に姿を見せた魔物はアックスビーク。嘴が斧状になった体長1メートルほどの鳥型の魔物で、その亜種にハンマービークがいる。ひどく好戦的なのだが群れることがなく、討伐難易度はEランクだ。


「〜〜『理力の槍』」


 御者席に座ったまま詠唱し、魔法を発動したヒカリの手の平から純粋なエネルギーの槍が飛ぶ。その煌めく槍は、瞬く間に距離を詰めアックスビークを貫いた。


「よしっ!」


 拳を突き上げるヒカリの指にはもう翻訳の指輪は無い。あっという間にこの世界の言葉を覚え魔法も使える様になったのは、学習能力上昇の効果もあるが、もともとの頭の良さも大きいと思う。


「良い感じでしたね」


 カーラがキラキラした目で言うのは魔法の話。ヒカリが放った魔法の「理力」という部分、これは今まで存在しなかった魔法語なのだ。


「ふっふーん。どんなもんよ」

「ヒカリ様と呼ばせて下さい」


 ヒカリとカーラが何か言っているが、実際に新しい魔法語が分かったのはヒカリのおかげ。「翻訳の指輪で魔法語に翻訳しちゃえば良いじゃない」というアイデアを活かした結果だ。

 もちろん、魔法語が分からなくても無詠唱で魔法を使う分には関係無い。しかし、詠唱して魔法を発動することでイメージをつかむ事が出来るし、なによりも、様々な魔法語が分かると作れる魔道具が増えるのだ。

 ちなみに、《創造》でこの世界版の知識の指輪を作れば良いだけだと気付いたのだが、ヒカリと一緒に魔法語を探すのが楽しかったので、この案は封印することにした。


「ふははははは。崇め奉るが良い」

「「きゃー。ヒカリ様ー」」


 いろいろ考えている間にバカをやっている人数が増えた気がするが、仲が良いのは良い事だ。

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