40、鉱業の町センクト
「アキラさん。ど、どうでしょうか」
トロルを討伐したその日は、初実戦だったヒカリを休ませようと早めにシェルターに入った、……のだが。今現在、ヒカリがデザインした服で他の四人をモデルにファッションショーが開催されていた。
「いや~ん。アリスちゃん可愛い♪」
今のアリスは、花柄のミニスカワンピースに薄手のカーディガンという格好。普段は着ない膝上丈のスカートに恥ずかしそうにしているアリスは、「初めて見た時は天使だと思った」というヒカリの評価も当然だと思える可愛さだ。
しかし。
(やっぱり初戦闘のプレッシャーとかあったのかな?)
それから解放された反動か、いきなりファッションショーを始めたこともそうだが、今もアリスを抱きしめて撫でまわしたりと、ヒカリのテンションは少しおかしい気がする。
(……まぁ、良いか)
きっと騒ぐことで気晴らしになっているのだろうし。
「ふふふ♪ こういうのも悪くないですね」
ロングスカートでお淑やかに振る舞うフェリ。
「さすがにこれはちょっと……」
へそ出しショートパンツを恥ずかしがるカーラ。
「……今までにないものばかりです。商人ギルドへ持ち込めば儲けられそうなんですが」
さらに、シャツにタイトスカートの秘書っぽいリリィ等々、オレも楽しめた。
ーーーーーー
「おぉ、これは……」
トロル討伐から四日目。
ファッションショー後にハッスルし過ぎて翌日ヒカリに怯えられたり(その日優しくするつもりだったフェリと共に、経験が浅いヒカリには気を遣ったつもりだったのだが……)、その後の道中では一日に二、三回魔物に遭遇したりしたが、なんの問題も無くランドロ王国北端の町、山の頂上を中心に広がる鉱業の町センクトが見えた。
「「……」」
「スチームパンク?」
数えきれないほどある煙突から昇る煙。町中を走る様々な太さのパイプと噴き出す蒸気。上下運動を繰り返す謎の筒状装置と響き渡る槌の音。
そこは、この世界出身の四人が言葉を失っている中、ボソッとヒカリが呟いた印象そのままの町だった。
「……聞いていた以上に変わった町ですね」
ようやく再起動したアリスによると、センクトは周辺の山々から集められた鉱物資源を製錬する町らしい。
「私は……、なんだか苦手な雰囲気です」
少し顔をしかめながらそう言うのはフェリ。
(そういえば、鉱毒とか大丈夫なのかな?)
ひょっとしたらエルフの感覚的に自然に優しくないモノを感じ取ったのかもしれない。
と思ったのだが。
(……いや、有っても人に影響が出るほどのモノでは無いだろう)
と思いなおす。
この世界は五千年もの間停滞しているのだ、今現在その手の話を聞かないということは、公害とその対応に関してはすでに終わっているのではないだろうか。
(そこらへんは魔法があると便利だっただろうし)
少しくらい問題があったとしても、指輪に健康維持機能があるので大丈夫だろう。
そんなことを思いながら町の南門へ近づくと、なんだか違和感が。
「おう。お前ら、もしかしてランドロアから来たのか?」
違和感の原因が分からないうちに門番をしているドワーフの兵士に話しかけられる。
「あ、あぁ。そうだけど」
「昨日だが、三日前にトロル三匹を見たっていう商人が大勢引き連れて慌てて戻って来てな。それがあって、町から南への通行は制限されていたんだよ。タイミング的に、お前らが遭遇してもおかしくなかったはずなんだが……」
そこで違和感の原因が分かった。門に行列が出来てなかったのだ。
周辺の集落にも外出制限がかかっているらしい。
(そういえば、センクト側から来る人とすれ違わなくなってたね)
トロル戦後、やけに魔物との遭遇が多いと思っていたら、ちょうどトロルの出現によって活発になった魔物を殲滅しながらの移動、そんな感じになってしまったのかもしれない。
それはともかく。
(さて、どうしたものかな)
トロルはCランクの魔族。対して、オレたちは冒険者ランクDの若造で、討伐証明部位も取っていない。オレたちが討伐したと言っても無駄だろう。
ということで、討伐依頼を受ける冒険者には申し訳ないが。
「ハハハ、どうやら運が良かったみたいでスネ」
誤魔化すことにした。
思わず語尾が怪しくなったが、ギリギリで命拾いしたことを理解して動揺したとでも思ってくれたのだろう、問題無く通してくれた。
「そんなにメジャーじゃない魔物が出るとか、誰かの陰謀かしら」
例によって門番さんに聞いた宿屋に向かう途中、ヒカリがニヤニヤしながら物騒な事を口にするので。
「ちょ! フラグ立てようとしないでよ」
速攻でツッコミを入れる。
ヒカリ的には冗談なのだろうが、オレ的には城塞都市ハルエヌで出会った印象の薄い狂信者の姿がチラついて笑えない。
(狂信者集団の陰謀とか関わりたくないよ。どうかフラグが立っていませんように)
思わず、居ないはずの神に祈ってしまった。
そして、ドワーフ経営の宿屋恒例となったガッツリ肉メニュー、それを美味しくいただいてシェルターへ下りると。
「窓が欲しいな」
ヒカリがそんなことを言い出した。
「窓?」
「ほら、閉鎖空間に長期間滞在すると色々問題があるって聞いたことない?」
「あ~、そういえば聞いたことあるかも」
「ということで、窓が欲しいな」
シェルター内は2LDK。オレ的にはまったく問題無い広さなのだが、ヒカリ的には息苦しさを覚えるくらい狭く感じるのかもしれない。
(さすがお嬢様)
基本的な生活水準の高さを感じる。
とはいえ、大は小を兼ねる。狭いより広い方が良いだろう。
ならば。
「箱庭~」
LDKのリビング側の端。廊下から見て左側の壁に全開放型の掃き出し窓を創る。
窓の外は四角い建物を中心に半径20キロの球状空間が広がっている。その空間の上半分の壁には空が映し出され、下半分は木や草花に覆われた大地で、山や川もある自然豊かな感じだ。
ちなみに、アイテムボックスには生物は入れられないのだが、別空間であるためかシェルター内に存在する分には問題無いようだ(食料製造区画を創った後に気付いた)。さらに言うと、シェルター内の時計に狂いがないことから、状態固定も関係無いらしい。
「こんな感じでいかがでしょうか」
窓を開け、テラスに出ながらドヤ顔で振り返るが。
「お、おう。私的には風景を写す窓があれば良かったんだけど……」
それを望んだ本人に微妙な反応をされ。
「アキラさん……」
「相変わらず、とんでもない事をアッサリやりますね」
アリスとカーラに呆れられてしまった。
だがしかし。
「濃い緑の香りがしますね。落ち着きます」
「……さすがご主人様です」
フェリとリリィには好評なようなので良いことにする。
(……傷付いてなんか、いないんだからね!)
ーーーーーー
「これって何なんでしょうね」
翌朝、町をぶらぶらと回っていると、アリスがそんなことを聞いてきた。その目が見ているのは、規則正しく上下運動を繰り返す筒状装置。
(……言われてみれば、何なんだろう)
まさか蒸気機関などではあるまい。
「……さあ?」
まったく想像がつかず、全員で首をかしげて見ていると。
「おう、なんだい兄ちゃんたち、この町は初めてかい?」
通りかかったドワーフのおっちゃんが話しかけてきた。……髭のせいでおっちゃんと言ったが、ひょっとしたら若いのかもしれない。ドワーフは、男性も女性も見た目では年齢が分かり難いのだ。
「え、えぇ。そうなんですよ」
「ワハハ、そうだろうそうだろう。この町に来たばかりのヤツらは全員同じ反応だからな」
やけに楽しそうなおっちゃんによると、炉の余分な熱を集めて工場の動力とする魔法的なシステムの一部らしい。さらに、過去の教訓から排ガスや排水は魔法的なフィルターで無害なものになっているとか。
「五千年もの間維持されてきたこの町の誇りよ」
と、おっちゃんは胸をはる。
「五千年、……すごいですね」
誇らしげなおっちゃんの手前そう言ったが。
(五千年維持してるのは確かにすごいが、その間進歩してないのはどうだろう)
なんて思ってしまった。
魔法による便利さの弊害なのかもしれない。
「五千年……か」
おっちゃんに礼を言って別れた後、カーラは何か考え込んでいたようだ。
「ん?」
「あ、うん。五千年維持してきたという事は、逆に言えば五千年間変わってないって事よね」
どうやらカーラもオレと同じ様な事を考えたらしい。
「わたしの知る限りなんですが、魔法もそのくらい変わってなかったんです」
「へえ、そうなんだ」
初めて聞く話だったが。
(まぁ、そうだよね)
さすが五千年の停滞。なんて思いながら、先を促す相づちを打つと。
「そう、変わってなかったんですけど……」
と、ジト目でこちらを見上げ。
「アキラさんがアッサリ変えてしまったんですよね」
やれやれという感じで言った。
その言葉に。
「「あぁ〜」」
アリス、フェリ、リリィが納得した感じで頷き。その変化、魔力操作などの知識がラノベからのものである事を知っているヒカリは、それが役に立ったのが嬉しいのだろう、一人微笑んでいる。
「お、おう」
その様子に、思わず言葉につまると。
「どうやらヒカリもアキラさんと似たような考えのようですし。ますます二人の故郷である異世界という所に興味が湧いて来ました」
と、キラキラした目を向けてくる。
「ハハハ、いつか帰ることがあれば連れて行くよ」
苦笑しながら返すと。
「約束ですよ」
念を押されてしまった。
世界を巡り終わったら一度行ってみるのも良いかも。そう思ったことはあったが、どうやら行かないという選択肢は無くなったらしい。




