表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/104

39、初めての……

 

 

「うぇへへ」


 と、背中からオレの首にしがみつき、左手薬指の指輪を見ながらニヤニヤしまりのない顔をしているのはヒカリ。

 時間はまだ夜明け前。ヒカリにも魔力操作などを覚えてもらうため、早朝訓練をしに空を飛んでランドロアへ帰る途中だ。


(もっとこう、キリッとした人だと思ってたんだけど……)


 ヤる事ヤってひと眠りした後、出発前に全員とお揃いの指輪を贈ってからずっとこの調子なのだが、学校で見かけた時との印象の違いに戸惑う。しかし、惚れた弱みか、今のヒカリもまた可愛いと思えてしまう。


(やれやれだね)


 誰が困る訳でもない。もうしばらくこのままにしておこう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「では、出発」


 そう言って王都ランドロアの北門への通路へ。北門は五階にあるのだが、南門のホールに緩やかなスロープがあるので馬車などでもまったく問題無い。

 早朝訓練だが、やはり出来ないという先入観の無さが良かったのか、ヒカリはあっさり魔力操作が出来るようになった。


(まぁ、ラノベなどの知識で、出来るという先入観があった。とも言えるかもしれないけど)


 そのヒカリは今、胴着袴に軽装の鎧、そして腰に刀を帯びた和装な感じで、馭者をしているオレの隣に座っている。

 そして。


「俺たちの旅が、今ここから始まる。って感じね♪」


 なんて、第一部完とか付きそうな事を楽しそうに言う。

 さっきも、指輪のアイテムボックスにメインウエポンの薙刀を何度も出し入れしてみたり、目に映る全ての物に興味を示したり、やたらとテンションが高い。


(解放感……、かな?)


 元の世界にあったしがらみが、よほど重苦しかったのだろう。金持ちというのも大変なようだ。

 そんなことを思いながら北門を出ると。


「……山、だね」

「「……山ですね」」

「……山ね」


 そこに見えたのは、はるか遠くまで連なる山々の景色と、曲がりくねりながらその中へと消えてゆく街道だった。


「これは大変そうだね」


 実際、聞いたところによると、魔の森ほどではないが、危険な動物や魔物なども多いらしい。オレたちは探知のスキルがあるので大丈夫だが、曲がりくねり見通しのきかない街道はかなり危険そうだ。

 しかし、そう言ったオレに。


「ふふふ。楽しみだわ」


 と、ヒカリが返す。

 この世界に来て手に入れた魔力という力を早く実戦で試したい、そんな風に思っているのだろうか。


(気をつけておかいないとね)


 ヒカリが実際に生き物を殺した事は無いと思う。その辺をどう考えているのか、高いテンションのせいでよく分からないのだが、いざという時の躊躇が大きなスキになるかもしれない。


(まぁ、何となくヒカリなら大丈夫そうな気はするけど)

 

 

ーーーーーー

 

 

「ヒカリ、そろそろ戦闘準備を」


 王都ランドロアを出て二日目。早速お出ましのようだ。


「敵ね! 相手は?」


 オレの言葉の意味に気付き、ヒカリがそう問い返した時には、オレより少し遅れてその気配に気付いた他の四人はすでに戦闘準備を終えていた。

 そしてヒカリの問いに。


「気配は三つ。恐らく初めての相手ですね」


 とアリスが答えれば。


「今のヒカリには荷が重いかも」


 とフェリが気配の強さから注意を促す。


「そうなの? えと、どうするの?」


 それを聞いて、この世界に来てすぐの出来事を思い出したのか、やや緊張気味にヒカリが返すと。


「油断しないでって事よ。大丈夫、わたしたちがフォローするから」


 とカーラが答え、リリィがうんうんと頷く。

 それを見て。


「あ、はい! よろしくお願いします」


 ヒカリの緊張も少しはほぐれたようだ。


(まだ少しぎこちないけど、チームワークは大丈夫そうだね)


 もしウチの娘たちの仲が悪くなったら、とてもではないがオレの手には負えない。その場合は、ほとぼりが冷めるまで隠れていることにしよう。

 なんて考えた瞬間。全員がオレを見る。


「……何か?」


 思わずビビりながら聞くと。


「何だか邪な気配を感じました」


 とアリスが言いながらオレに詰め寄ると、他の四人もうんうんと頷きながら近付いて来る。

 ……前言撤回。ぎこちなさなど無い、抜群のチームワークである。


「よし! オレが二匹受け持つ。残りをヨロシク」


 そう言い捨て、馬車を止め飛び出す。

 ちょうどその時、木々が生い茂る街道の50メートルほど先の脇から、身の丈3メートルを超える緑がかっただらしない体型の人型の魔物が現れ、こちらへ突っ込んで来た。

 そう、断じて逃げ出した訳では無いのだ!


(あれは……トロルか!)


 ゴブリンやオークなどとは違い、女性の敵という訳では無いが、メスが確認された事も無いという謎の生態を持つ魔族らしい。


(あと、頭は良くないが、厄介な特徴として高い回復能力を備えている、か)


 ウチの娘たちがオレに少し遅れて馬車から飛び出すのを感じつつ魔物の情報を思い出す。


(確実にとどめを刺すには首を切り落とすんだっけ?)


 頭が良くないせいか全員素手で、腰にボロい毛皮の様な物を巻いている。

 そんな事を見て取りながら一番近い個体を迂回し、二匹目に高速で接近。気配を消していたオレを認識出来ていなかったそいつの右膝を、剣を抜き打ち切断すると。


「まず一匹」


 苦鳴を上げながら右に倒れたそいつの首を刎ねる。

 三匹目が、目の前に現れたオレにようやく気付いた時。


「はぁっ!」


 オレに気付いていない一匹目とウチの娘たちが接敵。ヒカリの薙刀が右脛を浅く傷つける。


(デカい相手に距離感が掴めなかったのかな?)


 反撃に右拳が振り下ろされるが、その途中、カーラの『炎槍』の魔法で肘から先が焼滅。さらに、アリスとリリィが軽い攻撃で気を引いてターゲットを分散させる。

 その間、オレは三匹目の放った蹴りを躱して背後に回り込み、軸足である左足の膝を裏から蹴り抜く。


「二匹目っと」


 強力な膝カックンをくらい、なす術もなく後ろに倒れたそいつの首を刎ねてオレの分は終わり。余裕を持ってウチの娘たちの戦いを視界に収める。


「はぁっ!!」


 今度はきちんと距離感を修正したらしい。ヒカリの横からの一撃がそいつの右ふくらはぎを半ばまで断つ。

 体勢を崩し右膝をついたが、体を支える右腕が無く、そのまま身を投げ出すように倒れる一匹目。その左腕をアリスが、左足をリリィが切り飛ばしたところで、ヒカリがそいつの頭側に移動。二度の斬撃で首をはねて決着した。


(うん。みんな仲良くやって行けそうだね)


 なんて納得していたら。


「……あれ?」


 矢をつがえたまま、フェリが呆然としていた。どうやら、出番が無かったらしい。


(今夜はフェリに優しくしてあげよう)


 そんなことを思いながら。

 

「大丈夫?」


 初めての戦闘を終え、自ら殺したトロルの(かたわら)でボンヤリしているヒカリに話しかける。

 サイズが大きかったとはいえ、人型の生き物の命を奪った事を実感し、ショックを受けているのではないかと心配したのだ。


(そこらへん、この世界の人たちは強いよね)


 ヒカリに気を遣ったのか、一番遠いトロルの死体から片付け始めた四人を見ながらそんなことを思う。

 まぁ、弱肉強食なこの世界では、悩むほどの事ではないのかもしれないが。


「あ……。うん、大丈夫。ただ、自分で思ってた以上に動揺が無くて……」


 とヒカリ。


(そういえばオレも別にショックは受けなかったか)


 当時はグロ耐性が付いたという程度にしか考えなかったが、これもレベルアップで高まった精神値の影響かもしれない。

 そう思い。


「大丈夫。それも手に入れた強さの一環だと思うよ」


 と伝えると。


「……うん、きっとそうなんだろうね」


 と言い、さらに何かを確認するように小声で続ける。


「大丈夫、ゲーム感覚で軽く考えてはいない。それに、私の命は他の命を奪った上にあるということ、それは元の世界と何も変わらない」


 どうやら覚悟が完了したようだ。


(真面目な人は大変だね。何か後でフォローしておくべきかな?)


 なんて思いながら見ていると。


「もう大丈夫。心配してくれてありがとう」


 オレに笑顔を見せ。


「そういえば、私たち以外にこの世界に来てる人って居ないのかな?」


 と聞いてくる。

 昨日の今日だが、朝の訓練だけで元の世界に居た頃とは比べ物にならないくらい強くなった実感があった。しかし、それでも現段階では一人では勝てない、ということもまた実感したらしい。


「元の世界の住人がチート無しで生き残るのは不可能だと思うの。だから、もし他にも居るのなら、きっと助けを必要としているはず」


 オレの後にヒカリが来た事を考えると、オレたちの知り合いが来る可能性が高いのではないか、という話だった。


(異世界という考え方が人々の間に無いし、今までこの世界に来た人は居なかったと思うんだけど)


 では、なぜヒカリがこの世界に来てしまったのか。


(この世界に転生したオレに引き寄せられたとか?)


 もしそうなら、オレの知り合いが来るという話も納得出来るかもしれない。

 ならば。


「異世界人レーダー」


 と言いながら、懐中時計の形をした物を創った。


「これは、もちろん懐中時計としても使えるが、切り替えることでヒカリのように異世界転移してしまった人の居場所を地図上に光点で示す、手の平サイズの探知機なのだ!」


 それを高く掲げ、力強く説明を言い放つと。


「おぉ~」


 ヒカリがパチパチと軽い拍手で応えてくれる。


(……おや? 何だろう、今までにない感覚が)


 思えば、今までノッてくれる人がいなかった。


(オレは今日、この世界に来て初めての共感者を得たのだ!)


 まぁ、あくまでも悪ノリなので、今までノッてくれなかった事に不満がある訳ではないのだが。

 ……閑話休題。

 早速レーダーを確認すると。


「これは……」


 レーダーに反応は一つ。しかし、至近距離のこれはヒカリのものだろう。


(そして、オレの反応は無しか)


 今のオレの体はこの世界用に作られた物だ。それを考えると仕方ないのかもしれないが、やはりあまり良い気分ではないようだ。


「アキラくん?」

「あ、ごめんごめん」


 ヒカリの声で我に帰る。


「どうやら、今のところオレたち以外には居ないみたいだ」

「そっか、一安心だね」

「うん。今後は、この世界に新たな転移者が来たらコレが知らせてくれるようになってるから」


 そして、懐中時計をズボンのポケットに入れ。


「よし! オレたちも片付けようか」

「はい!」


 作業に取り掛かった。

 と言っても、魔法で死体を地中深くに沈めるだけなので、すぐに終わってしまったが。

 そこへ他の四人が近付いて来て。


「こちらも終わりました」


 とアリス。


「おう、お疲れさま」


 ヒカリが転移してしまった原因や、オレの体のことなど、いろいろ思うところはあるが。


(今さらどうしようもないしね)


 どうにもならない事は、悩むだけ無駄なのだ。


「じゃあ、出発しようか」

「「はい♪」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ