38、新たな仲間
「な、なんで?」
元の世界のリア充が耳にする「今日は帰りたくないの」という言葉に似ているが、それとは比べ物にならない重大な決断のはずだが、西園寺さんはスッキリと晴れやかな顔をしている。決意は固そうだが、とりあえず元の世界に帰らないと言い出した理由を聞いてみる。
「私の家って古い考え方をする所なんだ。それで、高校入学した頃の話なんだけど……」
どうやら親に結婚相手を決められるという、金持ちの家にありがちな出来事があったらしい。
「高校卒業したら結婚。それが私のためだって言われたんだけど、どうしても納得出来なかった」
何度も決定を覆そうとしたが、親はまったく聞く耳を持たなかったらしい。
「仕方ないから、高校卒業したら家を出るつもりだったんだけど……」
いつかは押し切られるのだろうと半ば諦めていたのだとか。
と、ここまで話したところでいったん区切り。
「ごく最近、すごく大切なものを失って。失って初めて、それが私にとってどれほど大切なものだったのかに気付かされた……。だけど、この世界には失ったと思っていたものがあるの」
と、上目遣いで頬を染めながら言ってくる。
(あれ~? これって……)
これで何とも思わないのは、病的なほど空気の読めない鈍感難聴主人公くらいだろう。
(オレに好意を持ってるってこと?)
思い返してみれば、目覚めてからずっとオレのことを名前で呼んでたりはする。しかし、元の世界のオレは何の特徴も無い平凡な高校生だったのだ。この世界に来てから出会った人ならともかく、西園寺さんのようなスーパーお嬢様がオレに惹かれる理由が分からない。
分からないが。
(そうだというのなら、拒絶する理由も無いよね)
尊敬に値する人であり、元の世界に居た頃の好きな人でもある。
しかし。
「オレの嫁になるってことで良いの?」
もしオレの勘違いだったらいけないので、ちゃんと確認しておかなければならない。
「……あぅ」
オレの問いに、西園寺さんは真っ赤になって固まってしまったが。
(それは嫌だ。って感じでは無いかな?)
拒絶されるのを恐れ、先に相手の意思を確認するようなことをしてしまったのは、男として情けない行いだったかもしれない。
「オレは西園寺さんのことが好きだから、そうなってくれると嬉しい」
なので、今度はこちらから一歩踏み出すと。
「あ……」
目を見開いて絶句。目からポロポロと涙が流れ始めたかと思うと、オレの胸に飛び込んで。
「はい。よろしく、お願いします」
と言ってくれた。
ポンポンと西園寺さんの背を叩きながら他のみんなを見ると、分かってますよ、という感じでうんうんと頷いている。
どうやら仲間が増えることは想定済みだったようだ。
ーーーーーー
「ちょっと付いて来て」
少しして西園寺さんが落ち着いたので、色々やる事がある。
「そういえば、ここってどうなってるの?」
異世界とは思えないんだけど。と西園寺さん。
「《創造》で創ったんだよ。この世界、お風呂が無くてね」
とオレが言うと。
「本当にチートね」
と言った後、ハッと何かに気付いてオレから離れる。
西園寺さんの名誉のために言っておくと、何日も着の身着のままのはずだが気になるような臭いはない。ただ、少し土と草の臭いが付いているくらいだ。
「まずはここ、工業区画。と言っても、まだ服を作る装置しかないけどね」
「……何これ、超スゴイんですけど」
西園寺さんが凄い勢いで食い付いた。今後、みんなの服は任せても良いかもしれない。
早速何着か服を作った後、お風呂へ案内。
「他の娘たちと裸の付き合いをして仲良くなってね」
お風呂に入って来てと言うと、臭くないのに臭いと言ってる感じになるかと思い、気を使ってみた。
その間、オレは夕食を作っておく。
ーーーーーー
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
みんなが上がった後、オレもお風呂に入ってから夕食。少し軽めで、パンとシチューとサラダにしておいた。
「何か聞きたいことはある?」
「とりあえず、大まかなところはアリスちゃん達から聞いた。後は、その時その時で良いと思う。で、今は旅をしてるんだよね。私も……、私も戦う力が欲しい」
危険に満ちたこの世界、元の世界基準の力では足りないと思い知ったのだろう。それはオレの望むところでもある。
「分かった」
そう答えた後、そういえば、と半ば結果の予想はついたが聞いてみる。
「カードって出せる?」
「カード?」
思った通り、西園寺さんはカードを出せないことが分かった。
(やっぱり元の世界の人は持ってないってことか……)
それはつまり、オレの体が元の物とは違うということでもあるのだろう。
(……まぁ、どうでも良いか)
とくに問題はないはずだ。
さっさと気持ちを切り替え、《創造》によって西園寺さんのステータスとカードを創る。
「もう一回やってみて」
「うん。……カード! わぁ、本当に出て来た。……あ、これって」
名前:ヒカリ・サトウ(♀)
年齢:17
出身地:レーフミー地方
犯罪歴:なし
レーフミー地方というのは、王都ランドロアがある辺り。やはり、この世界に来た場所が出身地になるようだ。
そして、ヒカリ・サトウ。西園寺ではなくなっているが、これはお互いがそう認め合うと変わるらしい。奴隷から解放した後に確認したアリスたちのカードにも、サトウという家名が付いていた。
(便利だけど、怖いものも一目瞭然?)
家名を持っていると、嫁の気持ちが離れたのが一発で分かってしまうということだ。
本当に怖い世界である。
「よろしくね、ヒカリ」
「はい……、はい!」
ちなみに、ステータスはこれ。
ヒカリ
レベル:1
体力:30 魔力:10 筋力:18 敏捷:16 器用:13 知性:22 精神:16 幸運:20
スキル:合気(6)、剣術(6)、薙刀(7)、探知(1)
アビリティ:学習能力上昇
……うん。10という数字が並んでいたオレの初期値とは比べ物にならない。しかも、話を聞いて予想は出来ていたが、すでに探知スキルまで持っていたりする。
あまりの性能差に少し落ち込みかけていると。
「あ……、あの」
ヒカリが何だか落ち着かない様子でこちらを見ている。
「ん?」
どうかしたのかと首を傾げていると。
「アキラさん、二人で出掛けて来てもらって良いですか? 今夜は帰って来ないで下さいね」
ヒカリと共に、あれよあれよという間にアリスに追い出されてしまった。
「ごめんなさい。私が我儘を言っちゃって……」
どうやら、ヒカリが初めてを二人きりでと望み、他のみんながそれを受け入れた結果のようだ。
「そっか。じゃあ、行こうか」
ヒカリを連れ都市の外へ。と言っても門からではなく、コッソリと五階の窓から空を飛んで、だが。
「凄い。この世界なら、こんなことが出来るんだ……」
「ヒカリもすぐに出来るようになるよ」
手を繋ぎ、明るい月に照らされた景色が過ぎ行くのを見下ろすヒカリはご機嫌だ。
目的地は西。海が見える辺りまで行ってみようかと思っている。
(海の近くは、まだ魔の森が広がっている範囲内のはずだけど……。まぁ、何とかなるか)
その日の夜は海岸にある高台に、防御フィールドと気配を断つ結界を張り、天蓋付きのベッドなんて物を創ってそこで過ごした。
天気も良く、満天の星空広がる素晴らしい眺めの場所で、大変良い思い出になりました。




