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36、王都ランドロア

 

 

「うわ~、凄いですね」


 その光景に、思わずという感じでアリスが呟く。

 メンヒスを出発して二日目。盆地を囲む山の内側をぐるりと西回りに半周、盆地の北端に見えてきたのはランドロ王国の王都ランドロア。そしてそこは、山に埋まった巨大な岩をくり抜いて作られた都市なのだ。


(ドワーフらしいといえばドワーフらしいか)


 ぱっと見は岩壁に規則正しく穴が開いているだけなので、表面付近に部屋があるだけかと思いきや、その穴は通路に開けられた明かり取りの窓で、都市はその巨岩全体に広がっているそうだ。オレ的に鍛冶が得意な鉱山労働者というイメージの、この世界では山人族とも呼ばれるドワーフにぴったりな都市ではないだろうか。


「何と言うか、ドワーフらしい感じですね」


 とフェリが言えば、他のみんなもうんうんと頷いている。どうやら全員同じことを考えていたようだ。


(そういえば……)


 ここでふと、オレが知る物語にエルフとドワーフは仲が悪いという設定があった事を思い出したのだが、フェリの様子を見るにそんなことは無さそうに感じる。


「エルフとドワーフって、仲が悪かったりしないの?」


 気になったので聞いてみると。


「よくご存知ですね」


 ひどく驚かれてしまった。

 話を聞いてみると。エルフの寿命はだいたい五百年ほどなのだが、フェリの村には千歳を超えた長老が居たらしい。そして、その長老ですら聞いた話だというほどの遠い昔、エルフとドワーフの仲が悪かったらしい。


「そうだったんですね」


 と、いろんな話を聞いて知っているアリスが驚いているくらいなので、今はあまり知られていないことなのだろう。


「ドワーフに関する常識を知らないかと思えば、一般に忘れ去られたような事を知っているなんて……」


 面倒を見るアリスは大変ね。と、オレにからかうような視線を向けるカーラ。


「ふむ。どうやらカーラさんは今晩のお仕置きをご所望のようですね」


 ニヤリと笑って返すと。


「ち、違っ!」


 と慌て始める。しかし、カーラはドMなので満更でもないはずだ。他の三人が向ける生温かい視線もそれを裏付けているだろう。

 そんな感じでじゃれ合いながら入市待ちの列に並び、それほど待つこともなく岩壁に設けられた大きな鉄扉の門から都市に入る。


「おぉ……」


 門から10メートルほどの薄暗い通路を抜けると、そこは明るい広大なホールだった。ホールの奥行きは200メートル近くありそうで、上を見ると五階までの吹き抜けになっており、天井全体が明るく光っている。


「意外と明るいんですね」


 岩の中とは思えない明るさに、これまたみんなも同じことを思ったらしい、アリスの言葉にうんうんと頷いている。


「灯りの魔道具とか?」


 天井の灯りについての推測を口にすると。


「いいえ、それが魔道具ではないらしいのです。聞いた話では、ドワーフ独自の技術によって、外の明るさを内部に導いているのだとか」


 とアリス。昔、故郷の村に来た冒険者から聞いたことがあるらしい。こんなに明るいとは思いませんでした、だそうだ。


(何その謎技術!)


 オレ的には、そんな事が出来そうな物には光ファイバーくらいしか心当たりがないが、何か似たような物でもあるのだろうか。

 ついつい天井に多く目をやりながら、とりあえず街の浅い部分を見て回る。


(元の世界の地下街っぽいか?)


 整備された通路は明るく十分な広さがあり、両脇に商店が並ぶ中を多くの人が行き交っている。天井の高さも考えると、地下街というよりアーケード街の方が受ける印象としては近いかもしれない。

 何となく懐かしいような気分になっていると。


「……少し暗くなって来ましたね」


 とリリィが言う通り、天井の光が弱くなって来たようだ。すると、今度は壁にある照明器具に柔らかい明かりが灯り始める。


(そうか、そろそろ日が暮れる時間か。……なるほどね。魔道具でずっと明るいよりも、外の明るさを反映するこっちの方が良いか)


 おかげで岩の中でも昼夜の区別がつくというものだ。


「今日はもう宿屋に行こうか」


 みんなを促し、いつものように都市入り口の兵士に聞いた、ご飯が美味しい宿屋へ向かう。そこはこの国らしいドワーフ夫婦が営む宿で、夕食はガッツリ肉メニューだった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「さて……」


 翌朝、オレはみんなより早く起きてキッチンへ。

 味噌が完成してから無性に味噌汁が食べたくなったのだが、外人さんには不評だと聞いたことがあり、作るのを遠慮していたのだが。

 みんなに食べさせられないなら、一人で食べれば良いのだ!


(我ながら良いアイデアだ)


 満足気にうんうんと頷く。

 ちなみに、昨夜はカーラへのお仕置きついでにハッスルしておいたので、みんなが起きて来るのは遅くなる予定。


「フフフ♪」


 さあ作るか。と思ったところで、ふと気付く。


(……出汁が無いな)


 そう、この世界には昆布も鰹節も煮干しも無いのだ。元の世界の中には鶏ガラからとった出汁で味噌汁を作る家庭もあるらしいが、オレが求めるものはそれではないのだ。

 無いなら無いで、他の食材のようにこちらで用意すれば良いのだが……。


(すっかり忘れてた)


 今から用意しようにも、ここランドロ王国は海から遠い内陸国。さらに、ここまでこの世界にある食材でやりくりして来たのに、今さら《創造》で創り出すのは何だか負けた気になる。


(ぐぬぬ……)


 残念ながら、味噌汁はもうしばらくお預けになるようだ。

 がっくり落ち込みつつも、朝食の準備をしていると。


「どうかしたんですか?」


 やがて他のみんなも起きだし、オレのテンションが低いことに気が付いたアリスがそう聞いてきたので。


「いや、何でもないよ」


 と返す。


(いつまでも落ち込んでいても仕方ないよね。そもそも、食べられなくなった訳じゃないし)


 将来に楽しみな事が出来たのだと、さっさと気持ちを切り替えることにした。

 そして、周りを見ると全員起きて来ているので。


「みんな起きたなら行こうか」


 すっかり習慣になった早朝訓練へ。

 その後、お風呂で汗を流し、朝食をとって出かけるのがいつもの流れとなっている。

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