表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/104

35、北の交易都市メンヒス

 

 

「お? あれは……」


 荒野の盗賊を殲滅して四日目。視線の先に横たわる山脈が近付くにしたがって緑が増え、もう荒野という感じではなくなってきた。


「エウロスですね」


 そんな中、多数の気配を感じ見に来てみると、そこにいたのは草食恐竜の群れだった。

 短い首と長い尻尾を持ち、背中が盛り上がった体から真っ直ぐ下に足が伸びた四足歩行のトカゲ。オレが思い描く草食恐竜そのものの姿。以前、どこかで荷車を引いているのを見た覚えがある。


「こんな所で生きて行けるものなの?」


 体の一番高い部分は2メートルを超え、頭から尻尾まで4メートルはあるだろう。この辺りの植物の量では、百頭近くいる群れを維持出来るとは思えず、名前を教えてくれたアリスに聞いてみる。


「とても少食らしいですよ」


 とても温厚で飼いやすく、農家で重宝されているらしい。


(うん、こんな所で生きてるんだから、そりゃ小食でしょうね。で、どうやってあの体格を維持しているのかが疑問な訳だけど……)


 と思ったのだが、そもそもこの世界の人たちは、そんなことを疑問に思ったりもしないのだろう。


(おおかた、植物の持つ魔力を効率的に取り込むとかそんな感じだろう。……たぶん)


 そんな会話をしながら、みるみる緑が増えて行くつづら折りの道をのんびりと登り、峠にあった砦を問題なく抜けてランドロ王国に入ったのだが。


「「おぉ~……」」


 思わず、全員でハモってしまった。

 見下ろした先、山に囲まれた広大な平原が、黄色い花で埋め尽くされていたのだ。

 ランドロ王国は内陸国で、その南端にあるこの高原は周囲をぐるりと山に囲まれた盆地になっており、反対側の山が遠く視線の先に霞むほどの広さがある。そして、その山並みを見るに、この盆地は円形をしているのではないかと思う。


(ひょっとしたら、カルデラ盆地とかいうやつかな?)


 ぼんやりと風景を見ていると。


「見事なユハナ畑ですね♪」


 黄色い花の名前を教えてくれたのはフェリ。

 小麦を収穫した後に種が蒔かれ、冬を越して咲く花で、種を搾ると油が採れ、食用にもなるそうだ。

 その話を聞き、改めて見下ろした時、山の中腹から麓まで石造りらしい白い家々が、山の斜面にびっしりと並んでいるのが目に入った。

 が、見た感じ建物は斜面にしかない。斜面より平地を畑にした方が効率が良いのは分かるが……。


(見える範囲の平地に家がないって凄いな)


 その風景に目を奪われながら街道を下り、入った都市はメンヒス。魔の森と荒野に隔てられた北の国々の、交易の要所となる所だ。


(ランドロ王国は鉱物資源が豊富で、ドワーフが多く住んでいるという話だったっけ)


 この世界の住人は今のところ、毛むくじゃらではない獣人や背が低めで華奢なエルフなど、オレ好みのタイプが多い。


(ということは、まだ見ぬドワーフ女性も、ヒゲがあるふくよかなオバちゃんではなく、背が低いだけの綺麗な女性系に違いない!)


 ……そんな期待をしながら歩いていたのだが。


(むぅ……。居ないな)


 大通りを下り、都市入り口の兵士さんオススメの宿屋まで来たのだが。ドワーフ男性はそこら中に居るのに、ドワーフ女性らしき姿を見かけない。


(ドワーフ女性は積極的に外に出ないとか、そんな風習があるのか?)


 首を捻りながら宿屋の扉を開けると。


「いらっしゃい!」


 奥から元気よく出て来たのは、十歳くらいの赤いスカートが印象的な女の子。宿屋の子かな? と思ったが、ふと気付く。


(少し耳が尖ってる?)


 この世界、異種族間でも問題なく子を成せるが、いわゆるハーフと言われる中途半端に特徴を備えた子供は生まれない。必ずどちらかの種族になるのだ。

 オレが知る限り、この特徴を持つのはハーフエルフかドワーフ。しかし、この世界には前者は存在しない。つまり、この子はドワーフの子供ということになる。


(子供とはいえ、初ドワーフ女性)


 ありがたい事に男と違ってずんぐりむっくり感はない。これは大人になった姿に期待が持てる。

 なんて思っていると、アリスがその子相手にさっさと宿泊手続きを済ませ、オレを急かして部屋へ。

 そして扉を閉めると真剣な表情で。


「アキラさん。もしかして、ドワーフの女性のことをご存知ないのですか?」


 と聞いてきた。

 その迫力に押され素直に知りませんと答え、話を聞くと。ドワーフの女性は、遅くても十二歳くらいで外見の成長が止まるようだ。


(今思うと、この都市に入ってから女の子が多かったような……)


 その中にドワーフの女性が多く居たのだろう。

 そして、ドワーフたち自身は子供と成人女性を見間違うことはないらしいのだが、他の種族に見分けてもらうために、成人女性は分かる場所に赤い色を身に付ける風習があるそうだ。


(……ということは)


 さっきの女の子は、ドワーフの成人女性ということになる。


(小さいだけでなく、明らかに幼かったんだけど……)


 オレのその考えを読んだのか。


「注意しなければならないのは!」


 と、力強くアリスが言うには、ドワーフ女性は子供扱いされると大変お怒りになるらしい。


「そうなんだ……」


 つまり、危うく宿屋の女将さんを怒らせるところだったようだ。


「ありがとう」


 助けてもらったことに素直に礼を言うと。


「いえ。アキラさんには常識を教える約束ですからね」


 と返すアリスは、何だか妙に嬉しそうだ。アリスのことだから、オレの役に立てて嬉しい、なんて思ってくれているのかもしれない。


(それにしても、常識を教えて貰うって本当に難しいんだね)


 改めてそんなことを思ってしまった。

 ドワーフのことにしても、この世界の人たちにとっては当たり前過ぎる事だったのだろう。オレが知らないと気付き、教えてくれたアリスには感謝してもしきれない。

 

 

ーーーーーー

 

 

「やはり……」


 メンヒスに到着した翌日。朝から宿屋で、ツノ猪肉のニンニクソース焼きというガッツリメニューを食べた後、みんなで街をぶらぶらしているのだが。


(人の女の子じゃなくて、ドワーフの成人女性か)


 昨日は気付かなかったのだが、街行く女の子たちをよく見れば、大半は耳が尖っており、スカーフやバンダナなど、何かで赤い色を身に付けている人も多い。


(むしろ、人の女の子の方が赤い色を避けているんだね)


 そんなことを考えながら歩いていると。


「アキラさん、あんまりジロジロ見てはダメですよ」


 アリスに注意されてしまった。

 いちおう気を使って、視線に気付かれないように気配を抑えて見ていたのだが、アリス的にアウトだったようだ。

 ごめんごめんと謝っていると、フェリが。


「もしや、ああいう感じの女性を好まれるのですか?」


 なんて、とんでもないことを聞いてくるので。


「いやいや、それは無いから」


 即座に否定した。

 好きになってしまえば関係無いのだろうけれど、ぺたんこはオレの好みではないのだ。


(大きいのが好きな訳ではないけれど、まったく無いのは寂しいよね)


 何よりも、ドワーフ女性の外見は幼すぎる。赤色を身に付けていれば、間違いなく成人しているため合法ではあるのだが、十八歳になったオレが手を出すとアウトっぽい感じが否めない。


(そもそも、オレはロリコンじゃないし)


 他にも男の娘とか、ふたなりだとか、オレが理解出来ない業の深いモノはまだまだある。

 ……閑話休題。


(そういえば、十八歳になったんだっけ)


 この世界では誕生日ではなく、新年節の終わり、つまり一月一日に歳をとるらしい。オレは九月生まれなのだが、カードも十八歳に更新されているのだ。

 なんて、取り留めの無いことを考えていると。


「良かった……」


 ホッとした様な呟きをもらしたのはカーラ。ウチの娘たちの中では胸が大きめ、そんな共通項を持つリリィと二人で自分の胸を触ったりしている。いつもあれだけしっかりと揉んでいるというのに、今さら何を心配しているのやら。


「はいはい、この話は終わり」


 ドワーフ男性は、その縦よりも横に大きい様に感じる見た目通りだが、ドワーフ女性もまた、見た目にそぐわない怪力の持ち主だ。遅まきながら、こんな街中で子供扱いしていると取られかねない会話を続けるのは危険、と会話を打ち切る。

 改めて街並みを見ると、建材である石の色によって白く染まる家の造りは、ドワーフが多いためか無骨な印象が強いように思う。さらに特徴的なのは、背の高い建物が無いことだ。緩やかとはいえ北側の斜面に位置するため、あまり日差しを遮らないようにということだろうか。

 ぼんやりと、見下ろす家々の屋根を見ながら歩いていると。


「面白い街並みですね」


 話しかけてきたのはアリス。


「うん。土地によって色々と違って面白いね」


 と返すと。


「はい♪」


 まだ見ぬ土地への期待からか、嬉しそうな返事が返って来て、他の三人も横でうんうんと頷いている。

 全員が楽しめているようで何よりです。

 

 

ーーーーーー

 

 

「おぉ……」


 街をぶらぶらしてから市場なども見て回った後、そろそろだという予感があったので、夕方になり宿屋に帰ると、早々にシェルターに下りて来た。そして案の定、完成していたのだ。……味噌と醤油が。一番大事なのはその二つだが、他にも酢、みりん、さらにお酒も出来ている。


(うん、味も問題なさそうだ)


 作り始めて4カ月ほど。すべて機械任せではあったが、あえて魔法的な処理を挟まなかったために時間がかかってしまった。しかし、これで一気に作れるものが増える。

 ということで。


「今日はオレが作るよ」


 と宣言する。

 今日は唐揚げだ! 下味に醤油を効かせた鳥の唐揚げを食べるのだ!!


「一緒に作らせてもらっても?」


 と、いつものようにアリス。その後ろには、アリスを手伝うようになり、最近料理を作る姿が板に付いてきたリリィもいる。


「良いよ。作り方は簡単だけどね」


 そう言って取り出したのは、ノンオイルフライヤーの魔道具。大量に揚げることを想定した大型の物だが、熱風を閉じ込め循環させるなんて、魔道具にするのにうってつけのシステムだ。作っておかない訳がない。

 そして出来上がったのは、香り高い大量の鳥の唐揚げ。もちろん、ご飯も炊いてある。


「いただきます」


 例によって、オレが食べるのを待っているみんなの前で一口。外はカリッとして中はジューシーな申し分ない出来。調理スキルと高い器用値が、今回も良い仕事をしたようだ。

 そこで、他の四人を見ると。


「これもまた、今までにない美味しさです」

「唐揚げもまた正義なのですね」

「……」

「……今まで食べた物の中で一番美味しいです」


 当然だが、全員が気に入ってくれたようだ。アリスは一つ一つ嬉しそうに食べ、カーラは無言で唐揚げをおかずにご飯をかき込み、リリィは涙を流しながら凄い勢いで食べている。……フェリは言っている意味がよく分からないが、間違いなく美味しそうに食べている。


(いつものことだけど、これだけ美味しそうに食べてくれると作った甲斐があるよね)


 今回、唐揚げにつけるために用意したのは、おろしポン酢とコショウと塩だったが、次に作る時までにはマヨネーズも用意しておきたいものだ。

 ちなみに、オレは唐揚げにレモンはかけない派だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ