34、秘密基地
「おぉ……、これは」
盗賊の本拠地は、襲撃地点から西へ急行して一時間ほどの所にあったのだが……。気配の位置から予想はできていたとはいえ、実際に見ると改めて驚いた。なんと、直径500メートルくらいありそうな、ひときわ大きな円柱形をした岩山の上にあったのだ。
(どうやってあんな所に?)
気になったので、偵察がてら調べようと思ったのだが、時間はまだ昼過ぎ。隠密行動には向かないだろうということで、『光学迷彩』の魔法で姿を消して『飛翔』の魔法を発動し、岩山の周囲を一周してみた。
結果、登りの洞窟が南側の麓から北へ岩山を貫いており、それが中腹にあるちょっとした広場に出て、後は岩山を削った階段が西側をぐるりと半周して上に行けるようになっていることが分かった。
(盗賊のやる事にしては手間がかかってるな……)
そんな風に思いながら高度を上げ上部を見ると、北側の端の方に城の廃墟らしきものがあった。さらに、戻る途中に地表をよく見ると、岩山の周囲には建物や石畳の道の痕跡があるようだ。
つまり、ここは都市の跡なのだろう。
「何か知ってる?」
と、みんなに聞いてみるが。
「いえ、聞いたことがありません」
と答えたのはアリス。しかし、その様子はどこか嬉しそうだ。きっと、思いがけず出会った未知のものに好奇心を抑えきれないのだろう。
他の三人を見回してみるが誰も知らないらしく、そろって首を振っている。
「……何千年という単位で昔なのだと思います。きっと当時はこの辺りも緑に溢れていたのでしょうね」
そう推測するのはリリィ。この世界は五千年も停滞しているという話だったので、ひょっとしたら、そのくらい前のものなのかもしれない。
そこで改めて周囲を見回し。
「良いな、ここ……」
思わず声がもれてしまった。
規模は大きいのだが、漂う秘密基地感がオレのツボに入ったのだ。
(幸い、利用している人はいないし、ここはオレの物にしてしまおう)
ちなみに、盗賊は人ではなく狩るべき獲物でしかない。よって、利用している人はいないのだ。これに関しては異論は認めない!
「……ご主人様?」
「あ! かなり久しぶりですが、アキラさんはたまにこんな感じになるんですよ」
ふと我にかえると、リリィが心配そうにこちらを覗き込み、カーラは胸をはってドヤ顔をしていた。
「ん? まぁ、良いや。とりあえず、あそこを掃除してしまおう」
「「はい!」」
問題なく殲滅出来るとは思うが、油断は禁物。ということで、奇襲するために魔法で全員に『光学迷彩』を施す。
「光を曲げる、……でしたっけ? 何度見ても不思議です」
そう言いながら、フェリは手をかざして見ている。
『光学迷彩』で姿は消えていても、オレたちが持つ探知スキルによってお互いの場所が分かるのだ。一番最初は音を捉えることから始まった探知スキルなのだが、相手が『身体能力強化』で身体中に魔力を巡らせていると、なんとなく体の形も分かるので、今では魔力も感じているのだろう。
「全滅させて良いけど、破壊力が高いのは無しで」
岩山が使えなくなると困るので、そう言って駆け出すが、高くなった隠密スキルによって音がしないだけでなく、砂煙も上がらない。
下の洞窟内には馬の気配のみ。人の気配は四十で、全員が上に居る。弱っている気配はないので、囚われているような人はいないのだと思う。
(上にしか居ないなら……)
と、岩山の表面を数度蹴り、200メートルほどの高さを上へ登り。
(さて、どうしたものかな)
と思案する。
どうせ奇襲するなら、一人で先走るより同時に攻撃を始めた方が良いだろう。
そう考え、外周を回って反対側へ向かっていると、他のみんなも続々と壁面を登りきり。オレの行動の意味を察し、それぞれが盗賊を囲むように散って行く。
〈配置に着きました〉
全員が動きを止めたところで、お揃いの指輪に付与してある念話の機能を使ってアリスが報告して来た。
チャンネルは全員と繋がっているようなので、そのまま告げる。
〈じゃあ、お掃除開始!〉
〈〈了解!〉〉
なんとなく戦闘開始とは言わなかったが、実際に戦闘にはならなかった。
剣を片手に気配を消したまま、近い順にひたすら突き殺していくという作業を終え、再び全員集まるまで五分かからなかっだろう。この際、珍しくフェリが剣を使っていたが、高威力の魔法を放ちたがるカーラが、『氷矢』という派手ではない魔法を使っていたことにさらに驚いた。
「わたしだってこのくらい出来ます」
オレの驚きが顔に出ていたのだろう、カーラがジトッとした目を向けて来るので。
「ごめんなさい」
素直に謝ると。
「むう……、良いでしょう。許します」
あっさり許してくれた。チョロいものである。……なんて思ったら。
「アキラさん!」
なぜかバレたようだ。カーラが頬を膨らませて詰め寄ってくるので。
「そうだ! 後片付けはしておくから、みんなで周辺と城跡の探索をお願い」
慌てて次の行動を指示して逃げ出した。
カーラは頬を膨らませたままだが、他の三人はニコニコ顔で見守っている。後でもう一回謝っておけば大丈夫だろう。
ーーーーーー
「やれやれ……」
盗賊たちの死体を完全に灰になるまで焼いて吹き散らした後、オレも探索に加わったのだが……。今のところ見つかったお宝は、あちこちに隠してあった金貨のみ。しかし、その数はなんと百八十七枚。金貨一枚が百万円くらいと考えると、とんでもない金額だ。
(いったいどれ程の犠牲者を出して貯め込んだのやら)
なんて思っていると。
「こんな物もありました」
そう言ってアリスが持って来たのは水が出る魔道具。不毛の地となってしまったこの場所で暮らすためには必要だったのだろう。しかも、以前に魔道具屋で見た物と同じタイプの物で、大した量の水は出ないため複数個持ち込まれていたようだ。
そこで。
(ふむ、拠点にするのに水は必要だよね)
と思う。
魔道具を作れるようになった今なら、アリスが見つけて来た魔道具が、空気中の水分を集めて水を作る物だということが分かる。しかし、それではオレが必要とする量にはまったく足りない。が、これも魔道具を作れるようになった今なら、《創造》の能力を使わなくても何とかなるのだ。
(《創造》でしか創れないような物を残すと、後世の争いの原因になりそうな気がするからね)
アーティファクトなどと呼ばれ、奪い合われてはたまらない。ということで、普段アイテムボックスに入れているような物以外は気を付けた方が良いのではなかと思う。
それに何より。
(チートで創るより、自力で作る方が楽しいからね)
そんなことを思いながら、アイテムボックスから取り出したのは直径20センチほどの水晶球。それを掲げて、呪文を詠唱して魔法を発動する。
水晶球に刻むのは、グィネと共同で開発した魔法陣の一つ。そして完成したのは、際限なく水が湧き出る魔道具だ。
(この魔法陣には、かなり苦労させられたけど……)
召喚魔法で分かるのだが、魔法で作ったものは魔力が切れると存在を維持出来ない。つまり、魔法で水を作っても飲み水にはならないのだ。ということで、ああでもないこうでもないと色々やった挙句、遊び半分でラノベかゲームで聞いたような覚えがある、「水の領域への接続」というものを試した結果、それが成功してしまった。
水の領域……。海のことかと思いきや、出て来る水は海水ではなく、飲んで美味しい軟水なのだ。水の領域とはいったいどこの事なのか、とても気になる謎なのだが、これに関しては考えるのを諦めた。
それよりも問題なのは、魔道具によって二点間を繋げることが出来るということだ。
(夢が広がるよね)
カーラの両親が失敗したように、自由自在な空間転移は無理でも、設置型の転移門のような物は実現可能かもしれない。
そんなことを考えつつ、中心部にある元々貯水池だったらしい窪んでいる場所の真ん中に魔道具を固定。
「何をされてるんですか?」
と聞いてきたのはアリス。他のみんなと集まってこちらを覗き込んでいるが、その顔は明らかに他の三人より好奇心で溢れている。最後まで見守ってから聞くかどうか、迷ったあげく我慢できなかったらしい。
「うん。ここを拠点の一つとして利用出来ないかと思ってね。次に来る時のために水が出る魔道具を設置したところだよ」
と、縦横50メートル、深さ3メートルほどの貯水池から出ながら答え。みんなと合流したところで魔道具を発動。
「なるほど。これなら、この辺りにも緑が芽吹くかもしれませんね」
そう言うフェリは、かなり嬉しそうだ。勢い良く貯まっていく水を見てオレの意図に気づいたのだろう。
この貯水池からは東西南北に水路が伸び、そこから下に流れ落ちるようになっているので、岩山の上部だけでなく周囲にも緑が広がってくれると思う。
「そっちは? 城跡には何かあった?」
と、今度はオレが聞くと。
「残念ながら。地下に宝物庫や隠し部屋のようなものもあったのですが、何も残っていませんでした」
と返ってきた。
(隠し部屋なんか良く見つけられたな)
なんて一瞬思ったが、答えたのがカーラだったので、そういうのを調べる魔法があるのかもしれない。
「そっか。まぁ、かなり昔のものだし、放棄された感じだから仕方ないよね」
と、何かがあることを期待していた訳ではないと伝え、しょんぼりしているカーラの頭を撫でる。
(さて、後は……)
ここでやっておきたい事は残り一つ。
「じゃあ、出発しようか」
みんなを促し、外周の階段を下りて洞窟内の馬を解放した後、洞窟の中心あたりで再び呪文を詠唱して魔法を発動。
今度は、宝石内に刻むのと同じ要領で、岩山の内部にその直径に迫る大きさの魔法陣を刻む。これは、岩山そのものを風化侵食防止の魔道具とするもの。王都ウルークスの城に施された、城が建つ岸壁を守っているものを参考にしたものだが、この魔法陣にも苦労させられた。
(城を直接確認出来れば簡単だったんだけどね。まぁ、あれやこれやと試したのは無駄にはならないだろうけど)
さらに、今この岩山に刻んだ魔法陣は少しだけだが立体化してあり、これによって半径1キロに人払いの結界を張っている。これは、『認識修正』の魔法を応用したもので、特定の意匠を施したカードを持った人には効果がないという高性能なものなのだ!
「……なるほど。確かにご主人様はこうなられるようですね」
ふと気付くと、ウチの娘たち全員がうんうんと頷きながらこちらを見ているのだが……。なんだかその視線には憐れみが含まれているような気がする。
「ん? どうかした?」
と聞いてみると。
「いえいえ、大丈夫ですよ。みんなアキラさんのことを信じていますから」
とアリスが笑って答え。他の三人も笑顔でうんうんと頷いている。
「お、おう。左様ですか」
面と向かって信じているなんて言われ、思わず照れると……。そのオレの様子を見ていた四人の笑みが深くなる。
その瞬間。
(今オレ、チョロいと思われた?)
なんとなくだが、そう確信する。
(ぐぬぬ……。今夜は容赦しませんからね!)
どうやら明日の出発は、かなり遅くなりそうだ。




