33、北へ
「おぉ、これは……」
ウルークスを出て二十一日後。予定通りオルテスに着く頃には、すっかり雪は解け、草花が芽吹き始めていた。
そんな中、以前プリンの作り方を教えたタジムさんの喫茶店の様子を見に来たのだが……。
「盛況ですね」
と、嬉しそうにアリスが言う通り、かなり賑わっている。
「心配いらなかったみたいだね」
プリンの作り方を気前よく広めていたようなので、経営改善に成功したのか心配していたのだが問題なかったようだ。
従業員と共に働き、充実した表情を見せる様子に安心していると。
「おう! アキラじゃねえか。メシ食ってくだろ? 好きな物頼め」
タジムさんに目ざとく見つけられてしまったので、ここは素直にご馳走になることにした。
「ありがとうございます」
「よせやい。礼を言うのはオレの方なんだ。ほら、嬢ちゃんたちも遠慮すんな」
「「ありがとうございます♪」」
そして、肉と野菜が乗った主食系パンケーキと紅茶をいただいた後、デザートでプリンが出て来たのだが……。
(まさか自力でこれにたどり着くとは……)
そのプリンには、教えていなかったカラメルソースがかかっていたのだ。
「ほのかな苦みがプリンの甘さを引き立てています。素晴らしいバランスです」
すっかりスイーツ好きになったフェリも満足気だったが。
「やっぱり既存の物か」
こちらの反応を見たタジムさんは何かを感じたらしい。
「あ~……その、黒砂糖で作れるかどうか自信がなかったんで、前回は見送ったんです」
「うん? 砂糖以外の物で作れるのか?」
「いえ……」
この世界で砂糖と言えば、それは黒砂糖のことを指す。そういう常識の違いを感じた。
ならば。
「そうだ! 良い機会なのでこれを買ってくれませんか」
そう言ってオレが取り出したのは、一辺が30センチほどの四角い箱が二つと、同じく30センチほどの高さの樽形の物が一つ。すべて魔道具だ。
その機能は、黒砂糖を砂糖に精製するもの、発酵を促進することで自然発酵でもふっくら焼けるパン種を作るもの、そして、樽型冷凍の魔道具に中身をかき混ぜる装置を付けたアイスクリーム製造機だ。
元の世界では専用の機械で複雑な手順が必要だったり、結構な時間を必要とする変化が、この世界では魔法を利用することで簡単お手軽に済んでしまう。まったくもってファンタジー万歳な感じだ。まぁ、アイスクリーム製造機に関しては、ちょっとだけ便利という程度だが。
「なるほど。確かに、素晴らしい物だが……」
一通り説明を聞いた後タジムさんはそう言ったが、浮かない表情だ。出回っている魔道具とは比べ物にならないほど高性能なため、かなり高価な物なのではないかと心配になったのだろう。
「大丈夫ですよ。今までの魔道具と違ってかなり安いんですよ」
物の表面に手作業で魔法陣を刻む今までのものと違い、魔法で宝石内に刻む方式は、呪文を組んでしまえば後は量産が可能なのだ。
「いや、そんな心配をしている訳では……」
「冬の間に王都で出回りだした物で、すぐにオルテスにも入って来ると思いますよ」
それでも迷いを見せるタジムさんに、周囲の店を出し抜くには今買っておくべきだと強調。まぁ、アイスクリーム製造機は出回っていないが、作るのが難しい物ではないので問題ないだろう。
「分かった分かった、買わせてもらよ。……まったく、ただでさえ返しきれないほどの恩があるというのに」
最後に何か呟いていたが、自力でカラメルソースを作ったタジムさんなら、さらに新しいものを生み出してくれるのではないかと期待出来る。
(この世界の食べ物って、素材は良いからね。後は調理方法の問題のはず)
また顔を見せに来ることを約束して店を出た後は、市場を見て回り、屋台で夕食を食べ、早々に宿へと入った。
明日にはウルーク王国から出ることになる。
ーーーーーー
「やっとお出ましかな?」
ランドロ王国を目指し、 オルテスから北へ三日目。
太い柱のような岩山が点在する赤茶けた荒野は、不毛であるためにどの国にも属さない地域となっている。そこを行くオレたちは、いつもの馬車を中心に、その両側をオレとアリスが地を駆ける鳥型の騎獣ランバーに乗って進んでいる。
どの国にも属さないこの荒野、本来なら魔物や盗賊に襲われないために大規模な隊商を組む事が推奨されている無法地帯なのだが……。
(オレたちにとっては、盗賊狩りのチャンスだよね)
ということで、護衛二騎で高価な物を極秘に輸送している、という演出中だった。
そして今日、荒野に入って二日目にして、岩山の陰に隠れるそれっぽい気配を感じることが出来たのだ。
「アキラさん、わたしが殺って良いですか?」
その岩山まで残りわずかという所でそう聞いてきたのは、馬車の手綱を握るカーラ。遠距離から範囲攻撃魔法で殲滅するつもりなのだろう。
「まだ盗賊だと決まった訳じゃないからダメだよ」
「むう……。分かりました」
気配のうち人の数は三十ほど、全員が騎乗しているようだ。
(まぁ、殺気も感じるし、ほぼ間違いなく盗賊だとは思うんだけど……)
以前、似たような事があったチルテ、オルテス間の寂れた街道と違い、けっこうな数の人が利用しているのだ。先行していた隊商が、こちらを怪しんで警戒しているという可能性がなくはないだろう。
(微レ存というやつだね)
この世界では通じないネタに、一人うんうんと頷いていると。
盛り上がった岩山の麓に姿を現し、五人ほどが矢を射かけて来ると同時に。
「「ヒャッハー!!」」
と雄叫びを上げながら、残りが駆け下りて来る。
……まさか、この世界でリアルヒャッハーを聞くことになるとは。
「女が居たら生かしとけよ!」
なんて台詞も聞こえるし、盗賊確定で良いだろう。
「……『風壁』。みんな、攻撃開始! 話を聞くから最低一人は生かしといてね」
「「はい!」」
オレが魔法で作った風の壁が山なりに飛んでくる矢を横に吹き飛ばす中、フェリと二人でその下を直線の軌道で応射。瞬く間に矢は飛んで来なくなる。
本来なら不利になる下から上への応射であったが、高性能な弓をさらに魔力で強化した結果、矢の軌道に明らかな違いが出て、一方的な蹂躙になってしまった。
(この威力なら、『風壁』の中も真っ直ぐ射抜けたかもしれないな)
そんなことを思っていると、カーラの魔法が発動。
「……『土槍隆起』」
無数の太い土の槍がバラバラな方向に高く突き出し、突撃してくる盗賊の後ろ半分を貫き、すり潰す。
(お、おう。エグいな)
空中に縫い止められて即死しそこなっている数人の盗賊を、ほんの少しだけ憐れみながら、馬車からオレの後ろに飛び乗ったリリィを連れてアリスと前進。
「……『槍召喚』」
騎乗したまま攻撃するならと、魔法で槍を作る。
冬の間のことだが、召喚魔法で鞍や手綱などの道具付きで召喚獣を作れるなら、道具だけでも作れるのではないか。つまり、魔法で武器を作れるのではないだろうか。そう思って試したら出来たのだ。
(カーラにこれを見せたら、魔法使いは接近戦なんかしないから思い付かなくて当然です、って怒られたっけ)
当時のことを思い出して口元を緩めていると。
「……『突風』」
今度はアリスが魔法を発動した。
正面から吹き付ける強風で馬が棹立ちになり、盗賊たちの突撃が止まる。どうやら、魔法で全滅させないように気を使ったようだ。
そして、足が止まった盗賊にこちらから突撃。オレとアリスは騎乗したまま槍で突き殺し、リリィは盗賊の馬の背を飛び渡りながら首を刎ねていった。
(リリィは大丈夫そうだね)
冬の間は雑用系の依頼しか受けなかったため、初の実戦となるリリィを心配したのだが、まったく問題無かったようだ。
そうこうしているうちに、あっという間に戦闘は終了。
「ヒィッ!」
残ったのは、アリスの『突風』で馬から落ちた一人だけだった。
「やあ。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
ランバーから降りて、槍を突き付け尋ね――。
「そう。ありがとう」
快く答えてくれた礼に、苦しまないように首を刎ねてあげてから後始末に参加。生き残った馬から馬具を外して解放し、死体は魔法で地中に沈めた。
すべてが終わると。
「西に本拠地があるってさ」
みんなにそう言って出発。
大規模な盗賊団らしく、まだ半分残っているらしい。貯め込んでいるであろうお宝が楽しみだ。




