31、行動の結果
「さて、何から話したものかの」
冒険者ギルド内の会議室のような場所。そこで、そう話し出したのは冒険者ギルド・カルノー支部長のトーアス氏。黒いとんがり帽子に同じく黒いローブ、そして白くて長い髭を持つ、いかにも魔法使いという格好をした老人だ。
「そうそう、まずはサミルの護衛では世話になったの。ありがとう」
事の始まりは、東の隣国ネシアス帝国が軍備を増強しているという情報だったらしい。その中に、かなりの数の脱走兵が出ているという情報があったようだ。
「本来なら何の心配もないのじゃが……」
脱走兵が国境を越える場合、街道は関所があるため山越えになる。本来なら、獣や魔物がいるため、少人数での山越えは難しく、大人数では追っ手を振り切るのが難しくなるのだが。
「どうやら脱走兵をわざと見逃しておったらしくての。集団でこの国に入って来る可能性が高いと判断したのじゃ」
そして案の定、大人数で山越えしたヤツらにオレたちが遭遇してしまった訳だ。
「お主らが出発した後、脱走兵に手練れがおると聞いて肝を冷やしたが……。お主の敵ではなかったようじゃの」
「いえいえ。こちらを子供と侮ってくれたので何とかなっただけですよ」
例によって、実力は隠す方向で行くつもりだ。
(まぁ、そこそこ強いと思われてるみたいだけど、目立ちたくないというオレの考えを表すことは出来る、……はず)
オレの言葉を聞いた爺さんは。
「ふぉふぉ。まあそういう事にしておこうかの」
と、何だか楽しそうだ。
その後は脱走兵による被害は出ていないらしい。オレとアリスで倒した十二人以外は山越え出来なかったのだろう。
「それで、じゃ。そもそも、何故それほど多くの脱走兵が出たのかを調べさせたのじゃ」
すると、兵の訓練を兼ねて、魔物をこちらへ追い立てていたことが分かったらしいのだが……。
「その追い立てられた魔物に結構な大物がおったらしくての」
「大物、ですか」
「そう。AランクのジャバウォックとBランクのゴブリンロードじゃ。そんな魔物の相手をさせられては、脱走兵が出るのもいたしかたあるまい」
そこで一旦区切り、ニヤッと笑って続ける。
「他にも、Cランクのミノタウロスとオーガも居ったらしいが、この二匹は他ならぬお主らによって討伐及び、討伐の確認がされておるようじゃの」
二つともギルドを通した依頼ではなかったのだが……、ご存知のようだ。笑顔の意味は、いまだにDランクのオレたちに、さっさとCランクに上がれと言いたいのだろう。
「……そうですね。オーガに関しては幸運に恵まれまして」
我ながら苦しい気もするが、笑顔の意味には気付かないふりをして、実力で倒してませんよとアピールする。
「ふぉふぉ。さて、そこで新たな問題として、前の二匹の行方なのじゃが。今のところ全く被害が確認されておらん」
と爺さんは言うが、残っているのはジャバウォック討伐を誤魔化すのに名前を使ったミノタウロスだけなので、ジャバウォックとゴブリンロードの行方が分からないのは当たり前だ。
(と言うか、適当にミノタウロスを選んだが、まさか本当にこっちに来ていたとは……)
しかし、爺さんが疑問に思っていないということは、ミノタウロスによる被害も出てはいないのだろう。
(実は山を越え損なったとか? ジャバウォックは空を飛ぶし、オーガとゴブリンロードは手下を引き連れていたが、ミノタウロスは一匹だけだったらしい。狼あたりに集団で襲われればあるいは……)
狼と言えば、アリスを襲った魔狼も普段ならあり得ない場所という話だった。もしかすると、ミノタウルスを喰った狼が魔狼となり、あの場所に現れたのかもしれない。
(いや、それはさすがに考え過ぎか)
などと考えていると。
「ということで、お主に聞きたいのじゃが。オルテスの冒険者ギルドで多数のゴブリン討伐報酬を得ておるじゃろう。その経緯を教えてもらえるかの?」
と聞いて来た。どうやら、これが本題のようだが……。
「えぇ。確か五十匹分でしたね。東回りの街道で、オルテスまで三日ほどの場所だったでしょうか。数匹ずつ、何かから逃げるように現れるゴブリンを倒していたら、その数になった訳です」
サラッと嘘をついておいた。
「ふむ、なるほど。……ゴブリンロードは見ておらんということじゃな?」
「えぇ。ですが、話を聞いて考えると、ゴブリンロードが率いていた集団の一部だったのでしょうね」
「そうじゃの。実は、オルテスから二日ほどの場所に広範囲を焼き払った跡が見つかっておっての。状況を考えるに、高い確率でゴブリンロードは討伐されたと見て良いじゃろう」
特に疑われた様子はない。
(オレたちが倒したとは思わないってことは、今現在のオレたちの実力がBランクには及ばないと考えている、ってことで良いのかな?)
あまり権力者に気に入られたくはないが、そのくらいに思ってくれているのならまだマシだろうか。
「その焼け跡も、綺麗な円形だったらしくての、どんな魔法か見当がつかん。やはりハルエヌに現れた魔法使い、もしくはそれに近しい者の仕業ということか」
後半は、自分に確認するような呟き。
防御フィールドで囲んで死体を焼き払っただけだが、上手い具合に誤解してくれているようだ。
「この分では、ジャバウォックも倒されておるかもしれんの」
これも、こちらに言った訳ではないだろうが。
「そうですね。ハルエヌで使われた魔法を見ると、それも不可能ではないと感じます」
オレが倒したと思われなければ良いので、ここは乗っかっておく。
「そういえば、ちょうどハルエヌに居ったようじゃの。まったく、……情報を疑う訳ではないのじゃが、信じられん規模の魔法じゃよ」
そう言う爺さんの様子からは、オレたちと魔法使いを結び付ける考えは無さそうに感じる。
「ここからは余談になるのじゃが。例の魔物の暴走はネシアス帝国の仕業らしいが、それを成した者が消息を絶ったらしくての。それがどうやら、宰相として国の実権を握っておった奴だったらしいのじゃ」
どうやら、ハルエヌで戦ったイケメンの情報らしい。爺さん的には余談だったようだが、オレ的には一番聞きたかった話だ。
「それによって帝国は混乱に陥り、今はもう戦争どころではなくなっておふようじゃの」
冒険者ギルドは基本的には戦争反対らしく、回避するために動くそうだが。
「有難いことじゃが、今回は何もせんうちに終わってしまったの」
だそうだ。
個人的には、国家間の争いなどに関わるつもりは全くなかったのだが……。ガッツリ関わってしまっていたらしい。
(まぁ、観光するのには迷惑だし、良いか。それよりも気になるのは……)
冒険者ギルドの情報の速さだ。何らかの伝達手段を持っていると考えるべきだろう。そして、わざわざそれを知らせた感じがある。
(悪さしてもすぐ分かるぞ。って言いたいのかな?)
つまり、悪さしなければ高みに達することが出来ると期待されているのだろう。と、良い方に解釈することにした。
ーーーーーー
「依頼を受けるのは明日からだね」
話が終わった頃には日が暮れ始めていた。
「ふふふ♪」
家に帰るべく歩いていると、アリスが堪えきれないという感じで笑みを漏らし、他の三人も妙に嬉しそうな様子だ。
「ん? どうかしたの?」
心当たりがないので聞いてみると。
「その……。アキラさんのおかげで戦争にならなかったんだって思うと嬉しくて」
「私の旦那様はこんなに凄いんだぞって」
「誇りに思います」
「……さすがご主人様です」
普段無表情なリリィでさえ、良い笑顔でうんうんと頷いている。
「お、おう。左様ですか」
結果的に四人を喜ばせることが出来たのは嬉しい。受け答えはそっけなくなってしまったが、オレの想いは伝わったらしい。四人がオレに寄り添ってくれる。
その時、フワッと何かが視界の端をよぎる。それを目で追うように顔を上げると。
「雪……」
空を舞う白い粒が、次々と数を増やすところだった。
本格的な冬の始まりだ。
第一章、完。
いちおう、起承転結を意識して書いてみたつもりなのですが、どうだったんでしょうね。




