30、王都での日々
「うん、悪くないよね?」
ウルークス滞在二日目。宿を出て家を借りてみた。
そろそろ雪が降る時期なのだが、雪があるうちは都市間の行き来は少ないらしい。それならばということで、ウルークスに長期滞在することにしたのだ。
「はい♪ 十分です」
「雨風が防げれば問題ありません」
「家賃もお手頃だと思います」
「……商店街は少し遠いですが、その分静かで良いですね」
こじんまりとした一軒家で、場所は都市の外縁近く。期間は二ヶ月半から三ヶ月くらいの予定だ。
ここでこの世界の暦の話をすると。十日ずつの上旬、中旬、下旬の三十日で一ヶ月。一週間という区切りはないようだ。一年は十二ヶ月なのだが、十二月と一月の間に新年節という祭日があり、これが普段は五日で四年に一回は六日になる。
一日も二十四時間なので(元の世界基準の時計を創ってみたのだが、ズレはないと思う)、一年の長さは地球と変わらないようだ。
(まぁ家については中にシェルターを設置するから、どんな所でも変わらないんだけどね)
最低限の家具は揃っているので、住所不定にならないための偽装としては十分である。
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「フフフ♪」
滞在三日目。オレと腕を組んだアリスが、嬉しそうに笑いながら歩いている。今日はアリスとデートだ。
アリスとは新しいものを一緒に見たかったので、事前情報は無しで出て来た。
そして、朝からウルークス市内をブラブラ歩き、目に付いた食堂で昼食。そしてまた、とりとめのない話をしながら歩く。そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。
夜は、家とは別に宿をとった。
「アキラさんは、……いつか帰ってしまうんですか?」
新たに創った、バス・トイレ付きワンルームの簡易シェルターのベッドの上。一戦交えた後で、ウトウトし始めた頃にアリスが聞いてきた。夢と現の間で、つい気になっていた事が出てしまった感じだ。
「帰るつもりはないって言わなかったっけ?」
「ええ、覚えてます。……でも、白鯨を見た時に思ったんです。アキラさんは、あそこから来たのかもって」
幻の存在とも言える白鯨を目撃してしまったために、神や、その使徒といったものが現実味を帯び、オレの常識の無さや《創造》の能力と結びついてしまったのだろう。異世界から来た、と話した時の説明も悪かったのかもしれない。
「オレの故郷はそこじゃないよ」
「……そうなんですか?」
「うん。それと、もし帰ることになったら、みんなも一緒に連れて行くよ」
「本当に?」
「約束する」
オレの言葉を聞いたアリスは安心したらしい。オレの胸に頭を当てて眠ってしまった。
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「えへへ~♪」
滞在四日目。今日はフェリとデートしている。
……のだが、フェリはやけに嬉しそうにオレと腕を組んでいる。
(そういえば、アリス以外と二人きりってほとんどなかったっけ)
なんだか新鮮な気持ちだ。
フェリとは、ひたすらイチャイチャしながらのんびり散歩する感じだった。
「……アキラさんを失うのが怖い」
やっぱり、ウトウトしている時にはいろいろ聞けるようだ。最近何か不満に思うようなことはないか、そう聞いて返ってきた言葉だった。
「いつか……、私は一人になってしまいます。それまでに沢山の思い出が欲しい」
この世界のエルフの寿命は人間の五倍くらい。何もなければ、確実にフェリが残ることになる。
(オレの感覚で言うと、二十歳前に死んでしまうくらいの感じかね?)
寿命の違いを考えなかったのは、うかつだったかもしれない。
「う~ん……。分かった、みんなでエルフ並に長生きするよ」
魔法で細胞の老化を止めるなど、やりようはあるはず。最終的には若返り薬を創るという手段もある。
「……アキラさんなら、本当に出来そうですね」
その後、オレの腕に頭を乗せて眠りに落ちたフェリの顔には安心したような微笑みが浮かんでいた。
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「……」
滞在五日目。今日はカーラとのデート。
午前中に街を散策して、午後から図書館に来ている。他のみんなでもそうだが、無言でいても苦痛ではないというのはとてもありがたい。
そして夜。例によって、寝入りばなに不満を聞いてみると。
「満足していますよ。……あ、たまにはこんな風に二人きりの時間が欲しいかな」
だそうだ。
「そうだね。たまに二人きりの時間を作るよ」
「はい♪ お願いします」
そう言ったカーラは、オレにギュッと抱きついてそのまま寝てしまった。
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「……この時期はこんなものですよね」
滞在六日目。今日はリリィとデート。
朝から商店街をブラブラしたりしているのだが……。リリィは、並んでいる商品一つ一つを確かめるように見ている。
「商売をしたい?」
真剣な様子なので、そう聞いてみると。
「……いえ。つい昔の癖で」
少し慌てた感じだったので、じっと見つめていると。
「……本当ですよ。ご主人様が遠慮されるのを好まれないことを知っていますし。今は、みんなと一緒に旅をするのがとても楽しいです」
と、少し表情を緩めて言ってきた。本当に昔の癖でやってしまっただけのようだ。慌てた感じだったのは、自分のその行動に驚いてしまったからだとか。
「そっか。まだまだいろんな所に行くから楽しみだね」
「……はい♪」
その夜、オレの首の辺りに顔を埋めて眠るリリィは、とても幸せそうに見えた。
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「ア……キ……。アニ……」
ウルークス滞在八日目。
昨日はみんなでのんびり過ごし、今日は昼から冒険者ギルドへ向かっている。そろそろ働こうかと思い、依頼を見に行くのだ。
「……ニキ……。アニキ~」
盗賊から頂戴したお金があるので数年は遊んで暮らせるのだが、どんな出費があるか分からない。稼いでおくに越したことはないだろう。
(魔道具の作り方を学べる場所も聞いてみたいし)
なんてことを考えながら、みんなと歩いていると。
「アニキ~。無視するなんてひどいっスよ」
目の前に、にこやかなイケメンが回り込んで来た。
気配で誰もいないのは分かっているのだが、思わず背後を振り返って確認。
「……」
やはり誰もいない。
どうやらオレに話しかけているようだが、心当たりがない。
「アキラさん。ほら、オルテスの……」
首をかしげていると、アリスが耳打ちしてくれた。
(……? ……おぉ! あの闘士か)
交易都市オルテスの最強闘士で、出発する際に決闘したヤツだ。しかし、……こんなキャラではなかったと思うのだが。
「忘れてたんスか? ひどいっスよアニキ~」
「いや、……うん、すまん。というか、そんなヤツだったっけ?」
そもそも、二十代と思われる年上の兄ちゃんにアニキ呼ばわりされる覚えはない。
「いやはやお恥ずかしいかぎりっス。以前の自分はどうかしてたんスよ。アニキのおかげで、自分がどれほどちっぽけだったか分かったっス」
決闘後、強くなるためにオルテスを出ようとした時に、周囲の人々が手のひらを返したらしい。
「そいつらは俺自身ではなく、オルテスの最強闘士という看板を見てただけ。ってことっス」
そう言って、晴れ晴れとした笑みを浮かべる闘士。名前はアーサーというらしい(これもアリスに教えてもらった)。
「その瞬間は超ムカついたんスけど、同時に気付いたんス。強さに驕らず、超失礼な態度だった俺に、根気よく付き合ってくれたアニキはスゲーって」
だから最大の尊敬を込めてアニキと呼ぶことにしたらしい。
「いや、そんなこと言われても……」
こちらも、自分の強さを試すという思惑があったりしたのだが。
「年を食ってるってだけでは尊敬はしないっス。逆に言えば、俺より若くても理由があれば尊敬することをためらったりしないんスよ」
何か誤解があるようだが……。オレの後ろで四人もうんうんと頷いているし、まぁ良いか。
「分かった。それで良いよ」
むしろ、間違いを認め、自分を変えることが出来たアーサーの方が尊敬に値すると思うくらいだ。
「それに、大事なものにも気付くことが出来たっス。だから、アニキにはひたすら感謝っスよ」
そう言って、チラッと背後を見る。そこには、魔法使いっぽい女性が控え目に立っている。
「はじめまして。グィネと申します。昔のアーサーに戻ってくれたのは貴方のおかげと聞きました。感謝申し上げます」
幼い頃、奴隷商の所にいる時に知り合ったそうだ。そして、違う所に売られたのだが、奴隷から解放された後に再会し、アーサーが調子に乗っている間も見捨てないでいてくれたのだとか。
「魔道具を作る才能があって、俺より早く奴隷から解放されてたんスよ。最近流行ってる冷蔵櫃ってのもこいつが作ったヤツっス」
と、嬉しそうに語るアーサー。さらに、魔法使いとしても優秀らしい。
(……お、おう。なんて好都合な)
ということで、早速、ウルークス滞在中に魔道具の作り方を教えてもらう約束を取り付ける。代わりに、アーサーの剣の訓練に付き合うことになったが……。
(願ってもない)
思わずニヤリと笑ってしまった。
アーサーの気配は以前より力強くなっているように感じる。ステータスの恩恵がないにしては驚くべき成長速度だと思う。……いわゆる天才というやつなのだろう。つまり、これはオレにとっても良い訓練となるのだ。
(まぁ、天才って言ってしまうのは失礼かもね……)
きっと死ぬほど努力しているはず。それを天才の一言で片付けてしまうのは、人によっては侮辱されたと思うかもしれない。
「アニキ、よろしくお願いするっス。いや~、王都で待ってれば会えるかもって思ってたんスけど。お礼を言えただけでなく、稽古もつけてもらえるなんて嬉しいっス」
「こちらこそよろしく。おかげで冬の間、退屈しないですみそうだ」
アーサーたちは、ウルークスに来て一週間くらい。昼まで冒険者ギルドでオレたちを待ち、それから軽い依頼をこなすという感じだったそうだ。これから軽い依頼をこなしに行くということだったので、住所を教えて別れた。
「じゃあ、オレたちも軽い依頼を探そうか」
そんな話をしながら冒険者ギルドへ。
ちなみに、王都の冒険者ギルドの規模は今までで最少だ。これは、王都周辺は騎士団が頻繁に見回っているので討伐依頼が少ないためらしい。
(言われてみれば納得。って感じかな)
そして、あれが良いこれが良いとワイワイやっていると、聞き覚えのある声が話しかけてくる。
「ふぉふぉ、ちょうど良い所に来たの。少しワシと話をせんか?」




