28、決戦
「で、どうされるんですか?」
戦略的撤退をした翌日。体力と魔力が回復したアリスが、殺る気満々で聞いてくる。
しかし……。
「今日はゆっくりします」
「「……え?」」
「……」
オレの答えに、三人が怪訝な顔をする。リリィはいつも通りの無言だが、昨日から何か悩んでいるようで、今日のは上の空なだけだ。
それはともかく、もったいぶる必要もないので、オレの考えを話す。
「各個撃破は、とてもではないけど間に合わない。ということで、決戦は明日。でも、戦うのはオレだけだ」
今回の件は、間違いなく人為的なものだと思う。ということは、比較的足の遅いオークがハルエヌから一番近い所にいたのは、防壁前に同じタイミングで現れるように調整されていたと考えて良いだろう。
魔物の進行速度を考えると、防壁前に到達するのは明日の昼過ぎ。その数は五万を超えると思われる。しかし、一ヶ所に集まってくれるのなら、魔法の範囲を広げて力押し、などの手段で全滅させるのも簡単だろう。
(と言っても、《無限の魔力》を持つオレなら、だけど)
さらに、森への被害は農作物にどんな影響があるか分からないが、防壁の近くでなら、これを最小限に出来るという利点がある。
「ですが、防壁前でそんなことをしたら目立ってしまいますよ?」
「うん。今回は最大限目立つつもり」
心配そうに聞くアリスに答えると、理解出来ないという顔をされた。そこで、さらに詳しく説明して、なんとか納得してもらった。
(我に秘策あり、ってね)
他にも、冒険者ギルドに魔物集団の接近を報告することで、森への一般人の立ち入り禁止と、兵士や冒険者などの戦力の集結をするように誘導してある。これによって、魔物による被害をなくすと共に、オレの魔法に人を巻き込む危険も排除出来たはずだ。
ラノベ主人公のような、「どこの孔明だよ」と言いたくなるような冴えた作戦ではないが、思い付く限りの手は打った。あとは明日だ。
ーーーーーー
「……こんな感じかな?」
決戦の日の防壁西端の崖の上。一人で自分の姿を確認するオレ。
真っ白でモジャモジャな髪と髭で、裾がボロボロなローブを纏い、身長ほどのねじくれた木の杖を持った姿。イメージは、某聖書の海を割った魔法使い。これは幻影を纏ったものではなく、カツラなどで変装したものだ。
四人で戦うと、変装していてもパーティー編成から関連を推測される可能性がある。ということで、オレ一人が魔法のみで戦い、他の四人は、リリィにオレの幻影を被せた状態で冒険者ギルドの召集に応じて防壁の上にいる。
これがオレの秘策。「あの派手に暴れてる人は、私たちとは関係ありませんよ作戦」だ。
(まぁ、四人が防壁の上というのは想定外なんだけど……)
オレ一人で戦う条件として、四人から見える所でなければならない。ということになったのだ。
やれやれ、もとよりそのつもりは無かったが、さらに負ける訳にはいかなくなった。などと思いながら、一つの魔法を発動。
「……『従者召喚』」
召喚したのは身長2メートルの、のっぺりとした人型。そして、『従者』に体積自在コンテナを持たせる。こいつには、ツノ猪を確保してもらうつもりだ。
そうこうしているうちに、魔物たちが姿を現し始める。
(よし、行くか!)
『飛翔』を発動して空へ。防壁上のざわめきを無視して、見せ付けるようにゆっくり飛ぶと、防壁と魔物の中間辺りに下りる。
そして、詠唱して魔法を発動。
「〜〜『炎王召喚』」
大げさな身振りを交えて召喚するのは、身の丈3メートルの炎を纏った真っ赤なゴリマッチョ。それを一度に二体。攻撃もしてもらうが、あまり素早く動く訳にもいかないオレの近接防御担当だ。
そこでようやく魔物たちがオレを認識したらしい、こちらに突撃を開始する。
オーク、ツノ兎、ツノ猪、斧やハンマーのようなクチバシのアックスビークにハンマービークなどなど、それらが数千ずつ。さらに、数は少ないが多頭の大蛇ヒュドラまでいる。
(……まったく、厄介なことを)
詠唱するフリをしながら、そんなことを思っていると。オレと魔力を繋げたままの『炎王』たちが、数え切れないほどの『炎槍』を撃ち込み始める。しかし、津波のように押し寄せる魔物たちの前には、焼け石に水のようだ。
そこで、オレが魔法を発動。
「……『風刃渦』」
複数の魔法球が飛び、着弾地点に『風刃』で作られた竜巻を作る。さらに、いまだ続く『炎王』の攻撃により、竜巻が炎を纏う。炎の竜巻は、切り裂き巻き上げ焼き尽くしながら魔物を防ぐ壁となった。
(……おっと、いい感じで想定外)
次々に残骸が巻き上げられ、気配が消えていく。
左右の岸壁間の距離は10キロ。『風刃渦』はそのほんの一部しか覆ってはいないのだが、暴走する魔物たちは飛んで火に入る夏の虫のごとく、引き寄せられるかのように竜巻へと突っ込んでいる。
これだけで殲滅可能かもしれないが、もう一つダメ押し。
「……『豪雷』」
『従者』がツノ猪を確保して退避したのを気配で確認すると、再び詠唱するフリをしてから魔法を発動。
空へと飛んだ魔法球が、瞬く間に黒雲を作り出し、そこから雨のように雷が降り注ぐ。
ーーーーーー
黒雲と竜巻が消える頃には、生き残っている魔物はほとんどいなかった。
(……『炎王』は、いらなかったかも?)
焼け焦げた残骸が散らばる惨憺たる有り様を前に、少しやり過ぎた気はするが……。
(まあ良いか)
今回に関しては、やり過ぎるくらいでちょうどいい。
『炎王』の召喚を解除すると、さらに魔法を発動。『光学迷彩』で姿を消す。
(さて、帰るか……)
と思ったところで、オレの探知範囲ギリギリ、防壁東端の崖の上に人の気配があることに気付く。
(なんだろう、……すごく気になる)
姿を消したまま『飛翔』を発動。行ってみることにした。
ーーーーーー
「……バカな」
防壁東端の崖の上。防壁側からは見えない場所にいる二人のうちの偉そうな方。がっしりとした壮年のイケメンが、かすれた声で呟く。
魔物たちの惨状を目にして思考停止していたようだが、気配と姿を消したオレが来たあたりで再起動したらしい。
「何なのだ、あの魔法使いは! ありえんだろう!!」
そこでもう一人、印象の薄い青年が口を開き。
「災厄と言うにふさわしい有り様ですね……」
こちらもかすれた声で呟く。言葉遣いなどから、おそらく従者なのだろうと思う。
その二人の様子から。
(……何だか黒幕っぽい?)
などと思っていたら。
「まぁ良い。魔の森での策にかかった手間は惜しいが、あのような脅威の存在を確認出来た……」
と、イケメンが呟く。
(ん〜。これはアウトってことだよね。やっぱり東の帝国かな?)
こんな所で策を弄するような人間は、最近良い噂を聞かないネシアス帝国の人間ではないかと思う。
(さて、どうしたものかな)
もう少し情報が欲しいと思ったのだが。
「俺は次の手を打つ。お前は、あの魔法使いを調べろ」
と言って、イケメンが踵を返す。
(ぐぬぬ。……ここは姿を見せて様子をうかがうか)
敵を前にしてペラペラと喋ってくれることに期待する。
ということで、イケメンの前で隠密と『光学迷彩』を解除。
「なっ! ……いや、好都合か。あなたとは、ぜひ話しをしたかった」
イケメンはそう言い、何気ない様子で近付きながら、さらに話し続ける。
「もしよろしければ、俺に協力していただけませんか、……ね!」
そして放たれる、抜く手も見せぬ斬撃。
かろうじて逸らせたが、杖は真っ二つになった。
(危なっ! まぁ、杖は見た目だけの雰囲気アイテムだから良いけど……。こいつからは話は聞けないか)
杖を捨て、さらに続く攻撃を躱しながら、アイテムボックスから剣を抜いて迎撃。
……しかし、防戦一方になる。
(何というか、……巧いな)
剣速も、力強さもオレが上。なのに、いつの間にか追い詰められているのだ。
(オルテスで闘士を圧倒出来たから、仲間以外に負けることはないと思ってたんたけど……)
まだまだ強者はいるようだ。
そんなことを考えている間にも、髪と髭、そしてローブがボロボロになって行く。躱しきれなかった攻撃、受けきれなかった攻撃が掠っているのだ。
しかし、その回数は確実に減っている。
「くっ……。バカな」
イケメンが顔を歪ませる。
見る間に拮抗し、攻撃と防御が入れ替わり始める。そのオレの急激な成長に気付いたのだろう。
……長い長い研鑽の末に得た剣技。それを、チートな学習能力向上というアビリティで超える……。
(何だか申し訳ないような気もするけど……。ここは貪欲に、オレの糧になってもらおう!)
そして、ついにオレの剣がイケメンの胸を貫く。
「カハッ! 話が、違う。俺は、大陸の統一を……」
事切れたイケメンから剣を引き抜き、従者へと一歩踏み出すが。
「これは、……困りましたね」
そう言ってスタスタと近付いてくる。先ほどのこともあり、身構えたのだが……。従者が何かを呟いた瞬間。
「おわっ!?」
従者の自爆に吹き飛ばされた。
ゴロゴロ転がり、起き上がったときには、髪と髭はどこかへ消え、着ていたローブはズタボロで服としての用をなしていなかった。従者はおろか、イケメンすら跡形もない。
(まさか自爆するとはね。……防御フィールドがなかったら危なかったかも)
備えあれば憂いなし。などと思いながら、いつもの冒険者装備に着替え、落ち着いたところで従者の最後の言葉を考える。
(「神よ、御元に」……とか。聞きたくない言葉だったな。しかも、一切の躊躇も無かった。あんなのが何人もいるかもしれないってことかね)
いくらでも代わりはいる、ということなのだろうか。狂信者集団とは関わり合いたくないものだ。
そして、イケメンの最後の言葉も気になる。
(「話が違う」って言ってたな。……つまり、狂信者に踊らされて、戦乱を起こそうとしていた、とか?)
二つを合わせると、そんな感じに思える。物語としては、ありがちなストーリーではないだろうか。
(……考えても分からないし、なんか疲れたな)
話を聞けなかったために、情報が足りない。強敵に勝った喜びも、狂信者のせいで台無しだ。
と、思っていると。
「みんなに会いたいな」
なんて呟いてしまった。いつの間にか、かなり依存するようになっていたらしい。
そこでふと、四人から見えない所で戦う羽目になっていたことに気付く。
(……うん、黙っていれば分からないよね?)
ツノ猪を回収して、さっさと帰ることにした。




