27、異変
「魔道具屋、……ですね」
ハルエヌ滞在三日目。
今日は朝から第二城壁内の商店を見て回っていたのだが、怪しげな雰囲気のお店を見つけた。何屋さんなのかを聞こうと、視線を向けた先にいたカーラが答えてくれたのだが……。視線を逸らして明後日の方向を見ている。
「んー?」
「いや、その……」
……聞き出したところでは、どうやらカーラは、魔道具作りを苦手としているらしい。今まで話が出なかったことに納得はしたが、魔法大好きなカーラが、魔法の分野に含まれるはずの魔道具を苦手としているのは意外な感じだ。
ちなみに今日の四人の服装は、ブレザーの学生服っぽいもの。チェックのスカートは膝丈になっており、少し長めだ。
……なんだか修学旅行にでも来ているような気分になる。
(それにしても、魔道具か……)
考えてみればファンタジーの定番アイテムだ。みんなから話が出なかったという程度で思いつかないなんて、我ながら迂闊としか言いようがない。
未知のものにワクワクしながら店に入る。
「魔道具なんて初めて見ました」
「どんなことが出来るものなんですか?」
「派手なことはまったく出来ませんよ」
「……多くの人が必要とするような物はありませんね」
カーラは苦手と言うより、興味がないだけという気がする……。実際、あまりポピュラーなものではなさそうだ。
この世界の魔道具とは、何らかの付呪がなされた物のことだ。付呪は対象とする物に魔法陣を刻む必要があるのだが、必要な出力を得るためにはかなり大きな魔法陣が必要になるという問題があるようだ。
つまり、魔道具屋で売ってあるような物は気休め程度の性能しかないらしい。
(とはいえ、この世界の技術でアイテムボックスとかを再現出来れば、あまり人目を気にしなくて良くなるかもしれないし……)
ぜひとも付呪を覚えたいものだ。
そんな野望を抱きながら商品を見るが……。チョロチョロと水が出る物や、ライター程度の火が出る物などから、少し切れ味の良い剣、少し頑丈な鎧などなど。という感じだ。
(お、おう。本当に微妙な物しかないな……)
しかし鎧などは、その少しの差が命を救うこともあるだろう。まったく無駄ということはないはずだ。
それに、科学知識を応用すれば効果が増すかもしれないし、ラノベなどで空想された技術のアイデアが役に立つ可能性もあると思う。
(と言っても、今のところは学ぶ当てがないけど……)
店主は製作者ではなく、紹介もしてもらえなかった。何やら警戒されてしまったようだ。
ーーーーーー
「……入れないんだ?」
屋台で買った串焼きなどを昼食として食べながら、貴族街も見てみたいという話をしていたらリリィに止められた。
「……基本的に貴族とその使用人しか出入り出来ません。あとは商人など、許可を得た人だけです」
ということだったので、予定を繰り上げることにする。
「じゃあ、仕方ないか……。午後は魔の森に行ってみる?」
「そうですね。何度か行ってみたいですし」
「魔の森、楽しみです♪」
「今日は様子見くらいですか?」
アリス、フェリ、カーラは乗り気のようだ。
本当は『認識修正』でそこにいても問題ない人だと思わせ、こっそり貴族街に入ろうかとも思ったのだが……。面と向かって反対はしないかもしれないが、それは犯罪になることもあり、さすがに四人が嫌がるだろうと思って止めておいた。
とそこで、黙っているリリィを見ると。
「……あの、私は――」
「リリィも一緒に行くからね」
「……よろしいのですか?」
邪魔になるから残る。とでも言いたかったのだろうか? 被せ気味に連れて行く宣言をすると、少し嬉しそうにしている気がする。一緒にいられることを喜んでくれているのだろうか?
ーーーーーー
「おぉ〜……」
「すごい、ですね」
「あぁ……。森の息吹を感じます」
「大きい……」
「……」
都市の北門から出て、高く分厚い防壁を抜けた先に広がる森は……。
(何と言うか、……デカい。としか言えない)
森を構成する木の一本一本が太く高いのだ。森に占める割合が多そうな杉に似た木は、幹周は20メートル、高さは100メートルを優に超えるのではないだろうか。さらに、かろうじて森までの道はあるのだが、高い草が生い茂っており、暗い森の中の様子はここからでは分からない。
「これは、厄介そうだ」
「えぇ、探知がなければ厳しいでしょうね」
思わず漏れたオレの言葉に、アリスが答えてくれた。
(森に入ったら、草のせいで周囲が見えないんじゃないか? ここで活躍する冒険者たちは、探知スキルを持っているのだろうか?)
そこで、ふと気付く。その探知に、魔物らしき気配を感じない事に。
「魔物が、……いない?」
「……確かに、気配を感じません」
「鳥もいませんね」
「何か異変が?」
「……?」
探知スキルを持たないリリィはキョトンとしているようだが、明らかに異常事態だと思われる。
その後ざっと、森のごく浅い部分を探索。
高い草は森の入り口までで、奥は薄暗いが視界を遮るのは木の幹のみ。ジャングルのような感じではなく、探知がなくても何とかなりそうなのは分かった。しかし、やはり魔物の姿はく、森に入っている冒険者たちも戸惑っているようだ。
(何かが起こっている……)
そう感じる。
ーーーーーー
「さて、どうしようか?」
宿の食堂にて、朝食後に今日の方針を話し合う。
昨日は森を探索した後、冒険者ギルドに行ってみたのだが。どうやら二、三日前から魔物がいなくなっているらしく、冒険者ギルドでも情報を集めている最中という話だった。
「奥に行ってみるべきだと思います」
「何が起きているのか気になりますね」
「嫌な予感がします。放ってはおけません」
「……」
個人的には、さっさとハルエヌから離れるという選択肢もあったのだが……。三人はそんなこと考えてもいないし、リリィも探索に反対はしない。
「分かった。じゃあ、今回はリリィはお留守番ね」
「……仕方ありません」
「シェルターは置いて行くから、もし危険を感じるような事態になったら、早めに中に避難するようにしてね」
少し寂しそうに見えるリリィを残して出発。
森に入ったところで、他の冒険者に見つからないように隠密で気配を消すと、『身体能力強化』のレベルを一段階引き上げて駆け出す。
ーーーーーー
「……どう思う?」
真っ直ぐ奥を目指して移動したのだが、ようやく魔物の気配を感じたのは昼前ごろ。普通の冒険者では三、四日かかるのではないだろうか。
そして、枝の上から見える先、開けた場所に居るのはオークという魔族一種類だけ。しかし、その数は千を超えている。
この世界のオークはオレが知る異世界ものの物語で定番の豚顔の肥満体ではなく、身長2メートルくらいの緑色のマッチョ。ツルツル頭に、下顎から上に牙の生えた大きな口を持つ厳つい顔をしている。粗末な毛皮をまとい、独特でいびつな形の武器を持っていることから、何らかの文化を持っているのかもしれない。
とはいえ、オスしかおらず、他種族のメスを攫って子を成そうとする(獣相手でも可能なのに人種の女性を好む)という性質は定番通りなので、滅ぼさねばならない種族であることに変わりはない。
そんなオークなのだが、……どういうわけか集団の中心を向いて身じろぎもせずに立っている。
「何かに魅入られているように見えます」
「中心に何かあると考えられるのですが……」
「おかしな気配は感じませんね」
おそらく、他の魔物もここと同じように種類ごとに集まっているのではないかと思うのだが……。原因が分からない。
「中心を確認するしかないか……」
と、その手段を考えようとしたところで、何がキッカケになったのかは分からないが、虚ろな目をしたまま一斉にハルエヌに向かって歩き出す。
「……仕方ない。アリス、足止め優先で! フェリとカーラは樹上から、集団の後ろから頼む! 手加減はいらない!!」
「「はい!」」
飛び降りながら剣を抜き、着地すると、アリスとの間隔を広げながら前へ。
「……『魔刃』」
そして、魔法を発動したところで接敵。こちらを確認したオークは走り出し、襲いかかってくる。その様はまさに暴走と言って良いだろう。我先にと、こちらに殺到してくる。
(残念。無抵抗で狩られてはくれないか……)
十分に引きつけると、集団の後方で複数の爆発が起こるのを見ながら薙ぎ払う。魔力の刃で剣の攻撃範囲を伸ばした薙ぎ払いは、一度で十匹以上の上半身を宙に舞わせる。
大きな爆発はカーラの『火球』、小さな複数の爆発はフェリの『爆裂矢』だろう。その威力は、数十匹ずつをまとめて吹き飛ばしている。
アリスは、と見ると。槍で突き、薙ぎ払いながら、遠くのオークに無詠唱で『風刃』を飛ばしている。
『身体能力強化』をしながら、無詠唱で魔法の発動。最初は《想像力強化》というチート能力なくしては不可能だと思っていたのだが……。最近、アリスは使いこなせるようになってきた。フェリとカーラも、コツをつかみつつあるらしい。
(そのうち、《無限の魔力》の力押しでも勝てなくなりそう……)
張り合って無詠唱で魔法を放ちたくなるが、その気持ちを抑え、オークを薙ぎ払いながら戦況に目を配る。
これまでにない事態、何があるか分からない。小さな見栄のために、ウチの娘たちに迫る危険を見逃すわけにはいかない。
ーーーーーー
「……これは?」
オークを全滅させるのに要した時間は二十分ほど。やはり暴走していたのだろう。逃げ出そうとする奴はいなかったので、全滅させるのは楽だった。
その後、オークが集まっていた場所の中心を確認したのだが、何かを燃やしたような跡があるだけだった。……魔法の爆発した跡と間違えてはいないと思う。
「特定の魔物を惹きつけるお香とか?」
「そんな物、聞いたことがありません」
不自然さに、人為的なものの可能性を考えたオレの推測にカーラが答え、アリスとフェリも聞いたことがないと首を振る。
他に何かないかと探そうとすると。あることに気付き、顔を上げる。
「!?」
三人も気付いたようだ。続々と増える、ハルエヌの方へと向かう魔物の気配に。
「撤退しよう」
「「でも!」」
オレの提案に、どこか苦しそうな表情で異を唱える三人。何とかしたいが、自分たちにあまり余力がないことも分かっているのだろう。
ちなみに、渡してある指輪の隠れ機能に魔力の譲渡があるが、それだけで戦い続けるのは危険だろう。敵の数があまりにも多過ぎる。
「大丈夫、オレに考えがある」
そこで、オレが自信満々に言うと。
「「……分かりました」」
少し悔しそうな様子だが、あっさり信じてくれた。
その無条件の信頼に、オレはなんだかくすぐったいような気持ちになった。




