25、リリィ
「はい、到着」
シェルターに着いたことを、お姫様抱っこされているリリィに教えると、あわててオレにしがみついていた手を放す。
今のところ、無表情、無関心な感じのリリィだが、かなりの速度で夜道を走って来たので、さすがに怖かったようだ。
もちろん、こんな感じで力を見せつけたのには意味がある。アリス、フェリ、カーラの三人が、平凡なオレに好意を寄せてくれていることから考えて、魔物などの危険に満ちたこの世界において強さというのはかなり魅力的な要素なのだと思う。
(オレに惚れてイイんやで~)
なんてバカなことを考えながらシェルター内に下りる。
他の三人は、まだまだ深い眠りの中だろう。なにせ、シェルターを出てからまだ一時間くらいしか経っていない。
「……」
シェルターに下りても驚いた様子を見せないリリィを玄関前に残し、オレは右側の扉、工業区画に入る。
リリィは裸にローブを一枚まとっただけ。まずは服を作らなければならない。
ということで、リリィに普段着として与えるのは、古式ゆかしいメイドさんが着るようなロングスカートのエプロンドレス。
(オレ的に、ミニスカメイドは邪道だからね!)
当然だが、尻尾を出せる穴が開いた素敵仕様である。
リリィ本人が戦うことを望むのならば、その時にまた考えるが。とりあえず彼女にはメイドさん的なことをしてもらうつもりだ。
(と言っても、掃除洗濯の必要はないし、料理はアリスが作りたがるから、ほとんどやる事はないはずなんだけどね)
メイドさんを侍らすのは男の夢。
(戦闘要員ではないリリィにメイド服を渡すのは必然なのだ!)
他にも、パジャマや下着などを作ってから渡し(この時、靴も創って渡してある)、部屋をざっと案内した後にリリィとお風呂に入る。
お風呂の入り方を教えるのが、今はオレしかいないのだから仕方ない。決して! 洗うついでに犬耳と尻尾をさわりまくろうと思ったわけではない。
(……この耳と尻尾。確か、シベリアンハスキーがこんな感じだったような。犬人族という話だったが、狼に近い感じがする)
腰まである濃青色の髪と、それと同色のケモ耳とフサフサ尻尾を念入りに洗いつつ。
(それにしても不思議だ、普通の人と違う所に耳がついているということは、脳の形が違うのだろうか? )
生命の神秘に思いをめぐらす。
その後、湯船にしっかり浸かってからお風呂から上がり、下着の着け方を教え、パジャマを着せてリビングへ。
「これはお守りであり、オレのものだという印でもあるから着けておいてね」
と言いながら、フェリとカーラに渡したのと同じデザインのイヤーカフ(位置が分かり、危険に反応して自動で防御フィールドを展開する機能がある物)を左耳の下側に着けてあげる。耳の動きを邪魔しないように、少し小型にしたものだ。
「……」
リリィは無言で、相変わらずの無表情。命令をすれば、その通りに動いてはくれるのだが……。
(さて、どうしたものかな)
などと思っていると。
ク~キュルル……。と、リリィの方から可愛くお腹の鳴る音が。
(そういえば、食べ物を十分に与えられてなかったんだよね)
盗賊から話は聞いていたのだが、自分が夕食を食べた後だったために、すっかり忘れていた。
それならばと、使い方を覚えてもらうためにも、リリィを連れてキッチンへ。そして、貯蔵庫からテリーアの肉を取り出し、サイコロ状に切ってからフライパンで焼いていく。
そこで、ふと動くものに気付き、そちらを見ると。……リリィの尻尾が少し速い感じで揺れていた。
(意外と分かり易いのか?)
無表情なのは変わらないのだが、やはり犬の獣人さんは食いしん坊のようだ。
そして、肉、パン、サラダと、リリィの前に置くと。
「……ありがとうございます」
少し、ビックリしたような表情をして言ってきた。
自分が食べる分だとは思ってなかったようだ。
「お、おう」
どういたしまして。と言いながら頭を撫でる。
(まさか、お礼を言われるとは思ってなかった……)
どれほどオレに反感を持っていても、とっさにお礼の言葉が出てしまうあたり、やはり良い娘なのだろう。
その後、久しぶりのまともな食事を、お腹をこわさないようにゆっくり食べさせると、安心したのか眠くなったようだ。
そこで、ソファーに横にならせると、オレの方を向かせて、太腿にリリィの頭を乗せる。いわゆる膝枕の態勢だ。
もちろん、これにも理由がある。
リリィは犬の獣人さん。つまり、犬っぽいところがあるはずだ。その犬の部分にオレの匂いを覚えてもらうのが目的だ。
決して! 決して!! 犬耳を愛でるためではない。
目を閉じさせ、しばらく犬耳をモフりながら頭をなでていると、静かに寝息を立て始める。まだまだオレに心を許してはいないはずなので、いろいろあった疲れから限界がきて意識を失っただけだろう。
ーーーーーー
「……!!」
オレもいつの間にか眠っていたようだが、ただならぬ気配に目を覚ます。
そんなオレの前には、アリス、フェリ、カーラの三人が「ゴゴゴゴッ」という文字を背負って立っていた。
「あ〜、……おはよう?」
そこで、人間関係を円滑にするための必殺技である挨拶を行ったのだが、……効果はなかったようだ。「ゴゴゴゴッ」という文字が消える様子はない。
「ご主、……アキラさん、お話を伺いましょうか?」
そう言うアリスの後ろで、フェリとカーラがうんうんと頷いている。
奴隷ではなくなったのを機に、呼び方を改めて貰ったのだが。まだ慣れないようで、よく「ご主人様」と言いそうになる。
(そんなアリスもまた可愛い)
などと現実逃避している場合ではなさそうなので、信じて貰えないかもしれないが、ありのまま起こった事を話す。
「……なるほど、そんなことが」
「まぁ、リリィさんのことに関しては問題ありません」
「というか、当然のことですね。むしろ、問題なのは……」
「「一人で盗賊のいる洞窟に乗り込むなんて、何を考えているんですか!」」
アリス、フェリ、カーラと口を開き、最後に三人で見事なハモりを見せる。仲良きことは美しきかな。
まだ寝ているリリィを気遣ってか、小声で怒鳴るという器用なことまでしてくれている。
「ごめんなさい」
リリィに膝枕したまま、ぺこりと頭を下げる。
また心配をかけてしまったようだ。ここは素直に謝っておく。ごまかすことしか出来ない政治家とは違うのだよ!
……うん、テンションがおかしい。まだ寝ぼけているようだ。
「アキラさんは強いです。ですが、油断は禁物です」
「私たちも強くなってます。足手まといにはなりません」
「ということで、アキラさんには誠意を見せていただきたい」
最後の発言に、アリスとフェリが「それだ」みたいな顔でカーラを見る。
「え? え~と、……何をお望みで?」
「「膝枕をお願いします!!」」
「あ、はい。その程度のことで良ければ」
どんなことをするのかとドキドキしたが、またまた三人でハモって同じ要求だった。どうやら膝枕されているリリィが羨ましかったらしい。
(言ってくれれば膝枕くらいするんだけどな。……もっと欲張りになっても良いのに)
際限なく強欲になられても困るので、あえて口にすることはないが。
「う、……ぅん」
少し騒ぎ過ぎたのか、リリィが目を覚ましたようだ。
「……」
目を開きこちらを見上げるリリィは相変わらず無表情だが、どこかホッとしている気がする。
(ここが盗賊の洞窟ではないことに気付いたからかな?)
そうだと良いのだけれど。
「おはよう、リリィ。オレの仲間を紹介するよ……」
リリィも含めて、みんな良い娘たちだ。すぐに仲良くなれるだろう。
ーーーーーー
「さて、どうしたものかな」
朝食を食べ、さあ出発。となったのだが……。
悩んでいるのは移動手段だ。というのも、どうやらリリィが本調子ではないらしい。再生回復薬で体は完全に回復しているはずなので、おそらく精神的なものなのではないだろうか。
ということで……。
「高性能幌馬車〜」
早速《創造》。
「これは、四輪独立懸架で路面の影響を受け難くなっている。さらに、エアカーテンのような風の結界により、内部の温度と湿度は快適に保たれ、最高の乗り心地を実現しているのだ!」
この幌馬車、チート能力《世界の理による最適化》により、想像を超える性能を有しているはずだが、見た目はオレ好みの平凡な感じになっている。付いているはずのサスペンションは、どこにあるのか全く分からないくらいだ。
他にも、自動修復機能付きなのでメンテナンスの必要がなかったりなど、いろいろ詰め込んである。
(馬車で旅をするなら幌馬車じゃないとね♪)
個人的に、箱馬車では雰囲気が出ない。
「「へ〜」」
「……」
三人は慣れたもののようだし、リリィは無反応。……残念です。
と思っていると。
「リリィさん、アキラさんのすることは非常識なことばかりです。気にしない方が良いですよ」
一歩前に出て、どこか嬉しそうに言うカーラと、その後ろでうんうんと頷くアリスとフェリ。
無反応に見えたリリィだが、実は絶句していただけらしい。オレには分からなかったが、女性同士通じ合うものがあったのだろうか。
まぁ、男が鈍いのは仕方ないのだ。
「……『馬召喚』」
気持ちを切り替え、次の段階へ。
四足歩行の恐竜のようなのが引いているのも見たことはあるが、オレ的に馬車は馬が引くもの。ということで、召喚魔法で馬を作る。
ちなみに、召喚魔法で作ったものは込められた魔力で動くわけだが、後から魔力を補充することも出来る。そして、作られたものが強力であるほど、消費が大きくなるのだ。と言っても、無限の魔力を持つオレには、あまり関係ない。
つまり何が言いたいかというと、いちいち召喚したり解除したりしなくても、馬車に繋ぎっぱなしで問題ないということだ。
ということで、早速乗り込む。
「そーれ、いっちばーん」
「あっ、じゃあ二番です。ご主……アキラさんの隣です」
「あぁっ、三番。アキラさんの後ろで我慢しますぅ」
「あぁぁ、出遅れた。四番です。ほらリリィさん、手を貸します」
「……あ、ありがとう、ございます」
荷台の後部にはカモフラージュ用の荷物が少し。荷台の前半分と御者席には、ふかふかのマットが敷いてある。
御者席にはオレとアリス。オレと背中合わせにフェリ、アリスの後ろにカーラ。そして、リリィは横たわってもらっている。
四人乗りランバーと違い、評判は悪くないようだ。
忘れ物がないことを確認して準備完了。
ナルチ村を出発して六日目の朝。まだまだハルエヌまでの行程の半分を消化したに過ぎない。
「では、出発!」
「「おー!」」
「……」




