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ありふれた異世界転生もの  作者: てきとうな人
ウルーク王国編
21/104

21、凱旋

 

 

「どうする?」


 と、アリスに問う。

 交易都市オルテスを出発して六日目。順調に進む街道から見えるのはナルチ村だ。

 まだ昼を過ぎてさほど時間はたっていない。しかも、今まであえて立ち寄ろうとはしなかった規模の集落である。なのに何故、そこに立ち寄るかを聞いたのかと言うと、そこがアリスの生まれ育った村だからだ。


「大丈夫です。行きましょう」


 アリスは幼い頃に両親を亡くし、村で育てられた。そして今年、飢饉に陥った際に、自らの意志で奴隷として商人に売られた訳だが……。奴隷として村に帰るのは、あまり良い気分ではないだろうと思う。

 そこで、最初のアリスへの問いかけになる。


(まぁ、会いたい人もいるだろう)


 先にも述べたが、ナルチ村は周りを囲む塀もないような小さな集落だ。村人の生活を支えるのは農業なのだが、主要な街道に隣接しているので、宿屋が二軒もあるらしい。 

 そんな話を聞きながらランバーから降り、召喚を解除して集落へと入って行く。


(危機は脱したのかな?)


 村人達は、やや元気がない感じだが、荒れた様子はみられない。


「あちらの宿に行きましょう」


 村の中央にある広場まで来たところで、二軒ある宿屋のうち、アリスが指差した小さい方に入る。

 奥から宿の主人であろう、人の良さそうな細身のおっちゃんが出て来るが。


「おう、いらっしゃ……」


 挨拶の途中でアリスを見て固まった。


(アリスがお世話になっていた人かな?)


 ということで、アリスの背を押して前に出し、黙って成り行きを見守る。


「……お前、アリスか?」

「はい。おじさん、ご無沙汰してます」

「おい、かあさん! アリスが、アリスが帰って来たぞ!!」


 ようやく再起動した宿の主人が店の奥に声をかける。出てきたのは、これまた細身の綺麗なおばちゃん。


「……あぁ、アリスちゃん、おかえりなさい」


 そう言って、アリスを抱きしめ涙ぐむ。


「……ご無沙汰してます、おばさん」

 

 

ーーーーーー

 

 

「……そうか、良い人に出会えたんだな」

「はい♪」


 ここは宿の食堂。宿の主人バイヌさんと奥さんのヒルダさんに、アリスの村での生活を聞いたり、村を出てからこれまでのことを話したりした。

 アリスはバイヌさんたちと血のつながりはないが、両親を亡くした後、宿屋を手伝ったりしていたらしい。その際、宿泊客に旅の話などを聞いて、世界を巡ることを夢見ていたそうだ。


「アリスちゃんが自分を奴隷として売ったと聞いた時は、目の前が真っ暗になったわ」

「すまなかったな。大人が不甲斐ないばかりに」


 娘同然に思っていたアリスを守れなかった事で、かなり落ち込んでいたらしい。

 そんな話をしていると。


(……なんだろう? デジャヴとは違うんだけど)


 この光景は、どこかで見たような気がする。

 と思っていたら。


「アリスちゃんを、よろしくお願いしますね」


 ヒルダさんのこの言葉で気が付いた。


(これはアレか? 彼女の両親にご挨拶的なシチュエーションなのか?)


 それならば迷う事はない。


「はい、お任せ下さい。アリスを幸せにします」


 奴隷の笑顔を維持するのはご主人様の義務だ。

 ……べ、別に照れ隠しとかじゃないんだからね!!


「ご主人様……」


 アリスは真っ赤になってうつむき、フェリとカーラは嬉しそうな少し悲しそうな、そんな複雑な顔をしている。


「おっと。もちろん、フェリとカーラも幸せにするよ」


 フフフ、欲張りなオレがアリスだけで満足するとでも思ったのかな?

 二人はご主人様を信じきれなかった罪でお仕置き決定だ。


「あ、主様」

「アキラ様」


 ニッコリ笑うオレの笑顔の意味に気付いたらしいフェリとカーラ。今度は嬉しいような困ったような微妙な顔だ。

 その後は他愛のない話になり、そろそろ夕食の準備に入ろうかという時、若い男が慌てた様子で駆け込んできた。


「バイヌさん、緊急事態だ。うちに集合してくれ」

「おお、分かった」


 そこで、若い男の視線がアリスで止まる。


「お前、……アリスか?」

「……ニーク」

 

 

ーーーーーー

 

 

「あの人は苦手です……」


 バイヌさんとニークが出て行った後、そう言ったアリスの顔には、初めて見る嫌悪の表情が浮かんでいた。


「あの子も悪い子じゃないんだけどね」


 そう言うヒルダさんは、少し困ったような顔をしている。

 あまり話したがらないアリスから聞いたところでは、小さい頃から軽い嫌がらせを受けていたようだ。

 アリスの話と、ヒルダさんの発言と表情から考えるに、よくあるアレ。気になる女の子へのちょっかいが行き過ぎてしまった、そういうパターンだと思われる。


(ニーク、……イケメンなのに残念なヤツ)


 アリスは嫌がらせの原因が分からずスッキリしないだろうが、ニークを弁護してやるつもりはない。なぜならば、イケメンは敵だからだ!

 そうこうしていると、苦虫を噛み潰したような顔をしたバイヌさんが、不安そうな顔のニークともう一人、年輩の男性を連れて帰って来た。


「初めまして、村長のニールズと申します」


 村長さんの話では、猟師が村の近くでゴブリンとオーガの足跡を発見したらしい。その数は、ゴブリンが十匹にオーガが一匹。

 ゴブリン十匹程度ならば、村の男全員で挑めば狩ることが出来るのだが、問題はCランクの魔族、オーガの存在だ。

 そこで、オレたちに手伝って貰いたいという話なのだが……。この村長、どうやら報酬を払う気がないようだ。


(オーガが村に来れば、オレたちも戦わざるを得ない。それなら、村に被害が出る前に、オレたちが自主的に出向いて戦っても同じだろう。ってとこかね)


 言いたいことは分かるし、飢饉になり、アリスを売ったお金も食料に消えた事は知っている。だがしかし、それとこれとは別の話。(はな)からタダ働きさせようとするような相手に、親切にしようとは思えない。なにより、無報酬で仕事をするのは、今後の村と冒険者の関係によろしくないはずだ。


(さて、どうしたものかな)


 もうあまり時間がないのだが、厳しい表情のバイヌさんも、村の財政状況を知っているからか何も言えないようだ。


「……あの、ご主人様」


 どうやらアリスも探知で気付いたようだ。村に近づく、人ではない集団の気配に。


「じゃあ、今後この村でのオレたちの宿泊費は村長持ち、ということでいかがですか?」

「……うん、良いんじゃないか? それなら金がある時に俺が村長から貰えばいい訳だしな」


 あまり冴えたアイデアではないが、バイヌさんは乗り気のようだ。


「むう、……仕方あるまい、それで手を打とう」


 渋い表情だが、村長の同意も得られた。


「よし、行こうか」

「「はい!」」


 そろそろ村から見えるくらいの距離のはずだ。早速出発しようとすると。


「おい、待てよ! アリスが行く必要はないだろう!」


 村長の息子のニークが進路を塞いで何か言い出した。


(まぁ、村にいたほんの一月くらい前まで、アリスは戦う力を持っていなかったし。Dランクの冒険者であるオレの仲間として、Cランクのオーガと戦うのは危険だと思うのは理解出来るけど……)


 などと考えていたら、アリスがスッとオレの前に出て。


「私はご主人様から戦う力を頂きました。邪魔をしないで下さい」


 そう言うと、ニークに軽く殺気を放って威圧する。


(う〜ん、ステータスというシステムの恩恵はある。それでも、強くなったのはアリス自身の努力の結果だと思うんだけど。アリス的には、オレから力を貰ったという認識なんだね……)


 フフフ、()いヤツめ。なんてバカなことを思いながら。


「う、……ぅあ」


 顔を青くして後退ったニークの横を抜け、宿を出る。


「ご主人様、今回は私に任せていただけませんか? おじさんとおばさんに、私が強くなったところを見てもらいたいのです」

「それならオーガは任せるよ。オレたちも働かない訳にはいかないからね」


 話しながら村外れに向かっていると、斧を持ったバイヌさんとニークが追って来る。


「おい! どこへ行く気だ。お前たちの出番は男たちの捜索でオーガが見つかってからだ!」


 ニークがまた何か(わめ)いている。

 と思ったが、考えてみれば、探知出来ない人からすれば、オレたちの行動は意味が分からないだろう。


「大丈夫だ。オーガは向こうから来てる」


 仕方ないので、親切に教えたのだが。


「何を訳の分からないことを。いいから私の指示に従え!」


 と、アリスをチラチラ見ながら言って来る。どうやらまだアリスの気を引こうと思っているようだ。

 困ったものだと思っていると、正面から猟師っぽい壮年の男が慌てた様子で走って来る。


「ハァ、ハァ……大変だ、オーガが村に向かって来ている」


 な? とニークに目配せしてから走り出すと、すぐにゴブリンとオーガの姿が見えた。


 オーガは2メートルを優に超える朱色のゴリマッチョ。額にあるツノも相まって、まさに赤鬼という感じだ。

 木を折って雑に枝を払っただけの棍棒のような物を振り回し、ゴブリンを後ろから駆り立てている。


「道を開ける。アリスは突っ込め。……『風槌』」


 最近は、仲間にどんな魔法を使うのか分かるように、魔法の発動を魔法語によって行っている。

 発動した魔法によってゴブリンは左右に押しのけられ、オーガは数メートル吹き飛ばされる。これでオーガまでの邪魔がなくなり、オーガとゴブリンの距離が空いたことで連携も断てたはずだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「みんなお疲れさま」


 戦闘は短時間で終わった。

 体勢を崩していたオーガはアリスの相手にならず、あっさり首を落とされ。オレが左右に割れた集団の左のゴブリン二匹の首をはねる間に、フェリが左の集団の残り三匹を弓矢で仕留め、カーラが右の集団の五匹を炎の範囲魔法で焼き尽くした。


(これなら、オーガを吹き飛ばす必要もなかったかな?)


 討伐確認部位であるオーガのツノとゴブリンの耳を五つ(カーラの魔法で焼き尽くされた五匹は回収不能だった)集めると、死体は魔法で地中深くに沈めた。


「ご主人様、ありがとうございました」

「お疲れさま、アリス。念には念をと思ったんだけど、余計だったね」

「私の方が主様より一匹多く倒しましたよ」

「じゃあフェリは、次のプリンを二個食べて良いよ」

「……あぅ、討伐確認部位……」

「大丈夫だよカーラ。ゴブリンの報酬より確実に倒す方が大事だから」


 カーラはしっかりしていると思うのだが、どうも火力でなぎ払おうとする傾向がある。借金を返せなくなった時の失敗も、その辺が原因なのかもしれない。


(まぁ、オレが気を付けておけば良いか)


 なんて考えながら、三人の頭を順番にナデナデしていると。


「……おいおい。お前たちがDランクだなんて冗談だろ」

「アリスの動きが、見えなかった……」


 呆然としていたバイヌさんとニークが再起動したようだ。


「まぁ、こんなもんですよ」


 みんなを促して宿へと帰る。

 今夜は村長の奢りなのだから、バイヌさんの宿で一番高い料理を食べるべきだろう。

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