19、交易都市オルテス・その二
「食料製造区画〜」
市場内の屋台で夕食をとってから宿に帰って来ると、すぐに部屋にシェルターを設置して下りる。そして、シェルター内のキッチンに、《創造》した新たな空間へと繋がる扉を設置した。
扉の先は様々な容器が設置された棚が並ぶ倉庫になっていて、扉の正面にはさらに奥へと続く廊下がある。その廊下の両側には扉が並んでいて、その扉の先の部屋は、縦横20メートル、高さ5メートルの独立した空間。
そしてそれぞれの部屋は、その下に広大な空間を持つ構造で、下の空間は農場などになって栽培から採取まで全自動で行われ、それを上の部屋で全自動で加工して倉庫内の状態維持容器に貯蔵するようになっている。
最後の一線として、この世界にない植物は栽培しないつもりだ。……しない、つもりだ。
(……ちょっと暴走したかな?)
交易都市という、物が集まる場所の市場を見たのだが、米や高品質の小麦粉、香辛料などは手に入り難く、味噌や醤油やみりん、精製された砂糖などの調味料は、材料になりそうな物はあるのだが、存在を確認出来なかった。
そこで。
(無いのなら、作ってしまえ調味料)
という結論に至り、創ってしまった。もちろん、調味料の原材料だけでなく、米や小麦粉や野菜などの食材も栽培するつもりだ。
ちなみに、精製、製粉などの装置は指輪から得られる知識を使い、魔法によるものではなく機械的な装置として創った。
(まぁ、個人的なこだわりだね。と言っても、動力源は魔力になるけど)
内部を確認して満足する。
「あの、ご主人様、……ここは?」
三人を代表してアリスが聞いてくる。
「キッチンから来れるようになってるから、なんとなく予想は出来ていると思うけど。食料や調味料、香辛料を作ろうと思ってね」
《創造》の能力で直接創れば良いのに。と言ってはいけないのだ!!
「ほら、以前アリスがスイーツのレシピを聞いてきたよね? 思い出したものを大量に作るには、材料が足らなくて」
「教えていただけるのですね!?」
三人とも嬉しそうだ。
「まぁ、材料が出来るまでには時間がかかるけど」
「「そんな!?」」
見事にハモって絶望する三人に。
(なるほど、これが上げて落とすってやつか)
つい意地の悪いことを考えてしまった。
「ごめんごめん。買った物全てを栽培には回してないし、それ以外の材料で作れる物もあるから」
そう言ってキッチンに戻る。
「では、今日はアイスクリームを作ります」
「はい♪」
答えたのはアリスだけ。フェリとカーラは食べる専門らしく、作ると言った途端そそくさとリビングへ行ってしまった。
(……まぁ、レシピを聞いてきたのはアリスだけだしね)
作るアイスは生クリーム抜きバージョン。
(そういえば、乳製品もないよな?)
生クリームだけでなく、バターもチーズもヨーグルトも無いのだ。これは、生活魔法の中に食料の状態変化を抑えるものがあるからではないかと思う。
放置して発酵したり、輸送中の振動によって分離したり。魔法によってそれらの有用な変化が抑えられてしまった結果ではないだろうか。
完全に状態を維持するのは魔力の消費量的に無理なようだが、にもかかわらずそれらの製品がないのだから、便利な魔法も考えものである。
(卵と牛乳も生産したいな)
取り敢えず雌雄一組ずつ買うとしても、金額的にまだ先になりそうだ。
(……と、もう良いかな?)
いろいろ考えている間にアイスクリームが完成。
新たに創った、二重底に氷と塩を入れ、容器の蓋に付いたハンドルを回すことで、手動で撹拌しながら冷やす事ができる容器から出す。そこから四人分を取り分けると、その残りはこちらも新たに創った冷凍庫に入れる。
ちなみにアイスクリーム製造器で冷やすのに使った氷は、これまた新たに創った製氷機で作ったものだ。
シェルター内で自重する必要はないからね!
「はい、お待たせしました」
例によって、オレが先に一口食べると、三人がおそるおそる口に入れる。
「うん、これも美味しく出来てる」
そして三人を見ると、またスプーンを咥えて止まっている。
またか、と思っていると。やがて再起動し、飢えた獣のように一気に食べてしまう。
「これも、とても美味しいです……」
「アイスクリーム、これもまた素晴らしい」
「はぅ〜」
三人揃って遠くを見ている。
「今回は大量に作ったから、ニ、三日分あるよ」
「「本当ですか!?」」
これまた三人揃って驚愕の表情だが。
(……おいおい、アリスは一緒に作ったから知ってるだろう)
まぁ、三人の幸せそうな顔を見れたから良いことにする。
ーーーーーー
「もう、放っておいてくれ!」
市場を見た翌日、市内を散策している時だった。オレたちの目の前の喫茶店から、大声と共に追い出された人物がまろび出て来る。
それは、一度護衛したことがある商人のサミルだった。
「サミル!?」
意外な人物との出会いに、思わず止まって見ていると、相手も気が付いたようだ。
「やあ、お久しぶり。……何だか、賑やかになったね」
少し疲れたような顔で言ってくる。
「うん、お久しぶり。いろいろあってね。……あ〜、何か困りごと?」
知り合いが困っているなら、助けるべきだろう。……たとえそれが女性でなくとも!!
「う〜ん、……そうだね、話を聞いてくれるかい?」
場所を変え、屋台のある広場の一角でテーブルの一つを占拠し、昼食をとりながら話を聞いた。
「――ということなんだよ」
サミルが追い出された喫茶店の店主はタジムさん。サミルの奥さんの父親で、ある貴族のバカ息子に嫌がらせを受けていたそうだ。
(まさかサミルが結婚していたとは)
そもそもの原因は五年前、娘のクミスさんがバカ息子に目を付けられた事だ。それに気付いたタジムさんは、即座に知り合いがいる港町カルノーへ娘さんを逃がした。
(ここでサミルと出会った、と)
クミスさんが居ないことを知ったバカ息子は、タジムさんの喫茶店への嫌がらせを開始。
二年後に娘さんと結婚したサミルの援助もあり、タジムさんの奥さんとの思い出が詰まった喫茶店を守ってきた。
(タジムさんは、奥さんと10年前に死別しているのか……)
そして一昨日、そのバカ息子が自殺するという事件が発生。それによって嫌がらせは無くなったのだが、五年に渡る嫌がらせによりすっかりお客様は離れ、タジムさんもやる気を失っているそうだ。
(貴族のバカ息子が自殺か。……どこかで聞いたような?)
面白い偶然もあったものである。
「お義父さんには、ぜひ元気になって欲しいんだけど……」
「なるほどねー」
現在は飲んだくれの一歩手前らしく、早急にお客様を呼び戻さないといけないらしい。
ということで、サミルは少しでもヒントとなるものが欲しいようだ。
(さて、どうしたものかな。……お客様を呼び戻せる目玉商品の当てはあるが、問題はこの世界に与える影響か? ……まぁ、今さらな気はするけど)
串焼きや焼き魚などを美味しそうに食べるウチの子たちを眺めながら考える。
(そもそも、神(?)からも何もするなと言われている訳ではないんだよね)
考えても答えが出ないなら考えない!!
「サミル、お客様を呼べる良い物があるんだけど――」
ーーーーーー
「お義父さん、紹介したい人がいるんだ」
趣味の良い小綺麗な感じの店内だが、お客様の姿はない。
「あ〜?」
端の方から気怠げな声がした。
(本当に飲んだくれの一歩手前だな)
声の調子から、タジムさんが客席でお酒を飲んでいたらしいことが分かる。
「こんにちは」
挨拶するが、ぼんやりした目でこちらを見るだけ。
(やれやれ、これでは話にならない)
そこで、詠唱して魔法を発動。淡い光がタジムさんを包む。
「な、何事だ?」
タジムさんの目に光が戻る。
使ったのは『状態異常回復』の魔法。そう、酔いを覚ましてあげたのだ。
「ちょっと見て欲しい物があるんですけど」
「お、おう、何だ?」
はて? こちらを見るタジムさんとサミルの目に怯えがある気がする。
問答無用で魔法を使ったくらいで怖がられたりしないだろう。……しないよね?
(まぁ、おとなしく話を聞いてくれるのなら問題ないか)
そして、厨房を借りてプリンを作る。
冷やすことに関しては、生活魔法に氷を作るものがあったので問題無かった。
……製氷機? 何のことやら?
「……な!?」
「……アキラ、これは!?」
プリンを食べた二人は驚愕の表情だ。
ちなみに、オレの後ろでウチの娘たちもプリンを食べて幸せそうな顔をしている。
「これはすごい。食の革命ですよ!」
「良いのか? こんな物を教えてもらって。オレにはお前に返せる物がない……」
どうやら、タジムさんのやる気が出てきたようだ。
「気にする必要はないですよ。これだけで何とかなる訳でもないでしょうから、後はタジムさんの頑張り次第です」
「しかし」
「それでも気になるなら、他の人に親切にしてあげて下さい。それは巡りめぐって、いつかオレに返ってくるでしょう」
ニヤリと笑ってから背を見せる。が、ちょっと格好つけ過ぎたようだ。顔が赤くなるのを感じる。
オレの顔が赤いのに気付いたのだろう。クスクス笑う三人を促して店を出た。
「アキラ! ありがとう! いつか借りは返すよ」
店から出てきてそう言うサミルに、赤い顔を見られないように、振り返らず手だけ振って返す。
……たまには格好つけるのも悪くないよね?




