15、目覚め
「そうか、……全滅か」
村長への報告は、村跡を出発した翌々日の朝になった。
内容は、ミノタウルスというBランクの魔族と相討ちで、村は全滅したとみられる。というものだ。
三人と相談した結果、ジャバウォックの強さを考えると、エルフの村の戦力では相討ちは難しいだろうという話になったのだ。
ジャバウォックの痕跡は消して来たので、後で調べられても大丈夫だと思う。
「村人は埋葬し、魔族の死骸は焼き尽くして来ました」
「そうか。手間をかけたの。最近、ネシアス帝国側からこちらへ魔物が流れ込んでいるという噂があった。信じてはいなかったのじゃが、エルフの村を襲った魔族もおそらくは……」
どうやら、ネシアス帝国は領内の魔物を狩りまくっているらしい。結果、住処を追われた魔物がこちらへ流れて来ているようだ。
「となると、王都へ使者を出し、部隊の派遣を要請した方が良いかもしれんの。
ありがとう。助かったよ」
報酬を受け取り、村長宅を出る。
キナ臭い感じのする帝国からは早く離れたいものだ。
「よし。出発しようか」
「「はい♪」」
次の目的地は交易都市オルテスだ。
チルテ村から北の山脈を越えるルートは、徒歩で十二日。この街道は、険しい山越えの道となる。さらに、オルテスまでの間に集落はおろか休憩所も無いため、ほとんど使われていないらしいが。
(人がいないのはオレたちにとっては都合が良いし、険しい山に関しては考えがある)
村から十分に離れた所で足を止める。
ちなみに、全員オレが新たに創った丈の長いフード付きのマントを纏っている。
これは、完全防水で、内部の温度と湿度を快適に保つ機能を付与したものだ。
山越えするにあたり、必要だと判断した。
「ご主人様、また何かされるつもりですか?」
……アリスからの信用がない気がする。が、実際に何かするので仕方ない。
「ちょっと、ね」
そう言うと、詠唱し、魔法を発動する。
右手の平から飛んだ魔力球が、近くの地面に落ちて膨れ上がる。そして、それが形作るのは、地を駆ける鳥型の騎獣、ランバーだ。しかも、きちんと鞍と手綱も装備している。
「よし、成功!」
一度詠唱して魔法を発動したことで、ある程度は感覚もつかめた。行動のプログラムなどの複雑な部分はあるが、あと数回繰り返せば無詠唱でも発動出来そうだ。
「召喚魔法ですか。魔法語を習い始めてまだ一週間くらいだというのに。……本当に非常識ですね」
カーラがジト目で睨んでくる。が、今は気にしない。
この世界には召喚魔法が存在する。しかし、実際には呼び出すのではなく、魔力で擬似生命のような物を作る魔法だ。作るものの自由度は高いため魔法使い次第で様々なものがあり、オレがランバーを召喚して使役していても何ら問題ない。
「さらにもう一羽」
もう一度詠唱し、召喚魔法を発動。
サイズを大きくすれば四人乗りもいけると思うが、今回は通常サイズを二羽。
(一回で複数召喚できた方が良いかも。まだまだ工夫の余地があるね)
なんて思いながら、召喚したあとに乗りやすくするためにしゃがんでいる二羽を確認する。
本来の色は茶色なのだが、個人的な趣味で明るい黄色にしてある。
「うん。問題なさそうだね。さあ、これに乗って行くよ」
そう言って三人を振り返る。と、三人で集まって何事か話し合っている。
(何事?)
と思ったのだが、……何だか近寄りがたい雰囲気のせいで、何を話し合っているのか分からない。
「ここは、奴隷になった順番的に私で良いと思います」
「いえいえ。年長者である私に譲って頂きたい」
「一番背の低いわたしが、アキラ様の前に乗るのには適していると思います」
しばらく離れた所で見ていると、少し前に教えたジャンケンを始める。
……どうやらアリスが勝ったようだ。
「お待たせしました。さあ行きましょう♪」
「お、おう」
どこか悲しそうな表情のフェリとカーラが気になったが、アリスに急かされてランバーに乗った。
後ろに乗ったアリスが、ギュッと抱きついてくるのを確認してランバーを立ち上がらせる。
するとどうだろう、視点が高くなっただけなのだが、見える世界が全く違う。
(これヤバい。超テンション上がるわ)
時速100キロくらいは余裕で出せるように作ったが、別に急ぐつもりはない。
「ゆっくり景色を楽しみながら行こう」
「はい♪」
「「……は〜い」」
山に登ってから見える景色が今から楽しみだ。
ーーーーーー
「「は~、……広いですね~」」
三人が感想をハモらせる。
ここは半径200メートルの半球状をした広大な空間。シェルターと同じ原理で創った扉の中だ。その扉は、シェルターの梯子を降りた六畳ほどのホール、部屋への玄関を正面に見た左側に設置した。
魔法などの実験を周囲の目を気にせず行うためにはどうすれば良いか、それを考えた結果がこれ。実験場としてだけではなく、訓練場としても使う予定だ。
ちなみに、真っ白な壁では空間を把握しづらいと思い、一辺2メートルの黒線のマス目で壁を覆ってある。
(我ながら冴えてるね)
オルテスへの旅路の一日目。ランバーに乗って移動したおかげで、徒歩二日かかる山の麓まで半日しかかからなかった。
そのまま山を登っても良かったのだが、急ぐ旅ではない。カーラと約束していた水蒸気爆発などの説明のついでに、魔法の威力向上に取り組もうと思ったのだ。
「じゃあ、まずは『火球』の威力を高める方法を考えてみようか」
「……『火球』の威力、ですか?」
三人ともぴんと来ないようだが、これに関しては考えがある。
「カーラ、あれに『火球』を当ててみて」
一通り説明した後、離れた場所に創っておいた、一辺が2メートルくらいの四角い鉄の塊を指差す。
「……分かりました」
そう言ってカーラは詠唱し、直径50センチほどの『火球』を放つが、その威力は鉄の塊の表面を少し焦がした程度だ。とはいえ、人に対して使えば十分な威力があると思う。
「じゃあ、見てて」
そして今度は、オレが詠唱して直径30センチほどの『火球』を放つ。
それは見事に鉄の塊を溶かし、穴を開ける。
「よし、成功!」
カーラの『火球』の呪文の中には、「火」という魔法語は入っているが、その温度に関する魔法語は入っていない。魔法使いたちには、火の温度が違うという考えがないようだ。イメージが威力に直結する無詠唱がない事の弊害かもしれない。
(ただ困ったことに、「高温」という魔法語が無いんだよね)
必要とされなかった結果、その魔法語が見出されていないのだろう。
ということで、呪文に「高密度」という魔法語を加えてみたのだが、それが上手く行った。
ちなみに、魔法で最低限消費する魔力は、呪文の長さに比例する。そこからさらに魔力を込めることで、放つ魔法のサイズが大きくなる。
(化学的には、供給する酸素を増やしたいところだけど……)
そもそも、酸素と魔力が反応して燃えているわけではないだろう。
(ひょっとしたら、他に良い魔法語があるかもしれないけどね)
とりあえずは十分だ。
今はまだ知られていないが、どこかの家庭で受け継がれている生活魔法の中に、「高温」の魔法語が存在する可能性はあると思う。
なにはともあれ。
(消費魔力は増えるけど、魔法語を足すだけで威力が上がるのは、詠唱して発動する利点でもあるよね)
三人の方をうかがうと、穴の開いた鉄の塊を見て、アリスとフェリは素直に感心しているが、カーラは何か考え込んでいるようだ。
「アキラ様、もう一度標的を用意していただけますか」
しばらく考えたあと、カーラが言ってくる。その顔を見るに、どうやら何かをつかんだようだ。
「つまり、こういう事ですね」
そう言ってカーラが放った『火球』は、鉄の塊を跡形もなく消し去った。
「アキラ様、どうですか?」
未知であったものを受け入れ、すぐさま応用してみせる柔軟さは素晴らしい。
しかし、とても嬉しそうにこちらを振り返るカーラのキラキラした瞳には、破壊力を追い求める危険な光が見える気がする。
(……これは、マズい事を教えちゃったのかも)
カーラの頭を撫でて褒めながらそんなことを思ったが、後の祭りだ。
「……なるほど、ということは」
などと考え出したと思ったら。オレに、的となる鉄の塊を複数用意させ、次々と高威力な魔法を放ち出す。
後に残ったのは、貫かれ、爆散し、粉砕され、細切れにされた残骸だけであった……。
(あなおそろしや)
……味方が頼もしくなった。ということだよね!?




