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ありふれた異世界転生もの  作者: てきとうな人
ウルーク王国編
14/104

14、ジャバウォック

 

 

「よし。みんな、準備は良い?」


 森に着いたのは翌日の昼。

 敵の位置は、森に入る前から探知で分かっている。大きく力強い存在を森の奥に感じるのだ。なんとなく分かるその強さは、まだ一人では及ばないが、全員でかかれば問題ないだろう。


(探知で感じる強さの基準は、おそらく能力値の合計とかかな? まぁ、防御フィールドが問題なく攻撃を防げれば一人で大丈夫な感じがする。でも、状況次第では大丈夫ということは、状況が悪ければ全員で戦っても危ないってことだ。気を付けないとね)


 フェリから聞いた話では、空を飛び、爆発する火の玉を吐くという。


(火の玉はもちろんだけど、空を飛ばれるのはかなり厄介だな)


 そんな事を考えながら真っ直ぐ向かう。

 ヤツがいたのは小さな集落跡。フェリの村があった場所だった。


(……やっぱデカいな)


 聞いていた通り、全長は10メートルほどだろうか。胴が長く、首と尻尾はさほど長くない。体は鱗でも甲殻でもなく、硬質化した皮膚っぽい。顔は、……体を丸めて寝ていることもあり、こちらからは確認出来ない。


「じゃあ、まずはオレとフェリが『爆裂矢』で先制。狙うのは翼。そうだな……、一緒に右の翼の付け根辺りを狙おうか」


 顔を寄せて作戦会議。カーラも上手く気配を殺せている。

 ここまで魔物に出会わなかったこともあり、カーラとは初の実戦。しかも相手はAランクの魔獣だが、オレたちの持つ魔力操作の技術を見せ、自身も出来るようになっているからだろう、戦うことに問題はないようだ。


「その後は、オレとアリスが接近戦で足止め。フェリとカーラが遠距離から攻撃」

「「分かりました」」


 三人の返事が揃い、顔を合わせてクスクス笑う。緊張はしていても、し過ぎてはいないようだ。


「あと、やってみたい事があるから、火の玉を吐く様子を見せたら全力で離れてね」


 そう言って弓を持つと、それを見た三人も武器を構える。


「遅延は十秒で」


 フェリと同時に矢をつがえ引き絞ると、鏃に魔力を伸ばして魔法を発動する。

 フェリがこちらを見て頷くのを確認し。


「三、二、一、射て」


 矢を放った次の瞬間にはアリスと共に走り出す。

 放たれた二本の矢は、狙い違わず右の翼の付け根に突き刺さる。すると、痛みで目が覚めたのだろう、小さなうなり声を上げて顔を上げる。


(顔は、サイを凶悪な面構えにした感じかな?)


 走り寄りながらそんなことを考えるオレとヤツの目が合った瞬間、翼に刺さった矢が爆発。大きく抉れ、翼の骨も砕けたのだろう、右の翼は力なく垂れ下がる。

 狙い通り飛行能力は奪えたはずだ。


(後はボコるだけだ!)


 と思った直後に、向かって右へ大きく跳ぶジャバウォック。

 続けて放たれた矢と、カーラの『火球』がヤツのいた場所を虚しく通り過ぎる。翼はかなりのダメージだったはずなのだが、その動きに影響は見られない。


「アリス、まずは足を」


 巨体の割に、先ほどの動きから予想される機動力はかなりのもの。

 『思考速度上昇』を発動し、さらに『身体能力強化』を一段階上げると、着地直後の、跳躍の勢いを殺すために硬直しているジャバウォックに高速で接近。左前足を斬り払う。


(くっ! 硬い!)


 表皮にごく浅い傷しかつかない。そして、剣を振り切った直後に、今度はオレが後ろへ跳ぶ。

 鋭い鉤爪のついた右前足が、オレのいた場所をなぎ払う。その右前足が戻るのにあわせて再び近付くと、先ほど付けた傷に重ねるようにもう一度斬る。しかし、少し深くはなったが、まだまだ表皮は厚そうだ。

 このままでは、肉まで到達するのに時間がかかり過ぎる。


(マズいかな?)


 アリスは右後ろ足を攻めているが、刺突でも攻撃が通り難そうだ。穂先を短剣状にした分、貫通力が下がっているのかもしれない。

 その間に、矢が一本と『火球』が当たる。

 右肩あたりに刺さった矢は爆発することで肉をえぐるが、『火球』は胸のあたりの表面を少し焦がした程度。

 その攻撃により、矢の方が危険だと判断したのだろう。フェリのいる方を向くと、火の玉を吐くために口を開く。

 望んでいた行動。だがしかし、フェリに向けられるのはマズい。無詠唱で矢に魔法を乗せているフェリは、『身体能力強化』を発動していない。つまり、火の玉を躱せない可能性が高いのだ。防御フィールドがあるとはいえ、絶対に大丈夫とは限らない。

 今からやることを失敗するわけにはいかなくなった。


「全員退避!!」


 指示を出すと、自らの顔の前に魔力を伸ばして魔法を発動。大きく飛び退る直前に、視線に乗せて射出する。

 爆発する火の玉が形成されつつあるヤツの口内へ放ったのは、直径1メートルの『水球』の魔法。前回の、ゴブリンの上半身を吹き飛ばした『水球』の失敗を活かし、形を維持するイメージもしてある。……ただし、維持するのは、ヤツの口内で大きさを増している火の玉の中心まで。さらに言うと、『水球』と呼ぶのは間違いかもしれない。なぜなら、その球を形作るのは沸騰直前の熱湯だからだ。


(さて、どうなるか……)


 『思考速度上昇』のおかげで、ゆっくり流れる時の中で『水球』の行方を追う。

 結果は、狙った以上の大爆発。

 爆風に吹き飛ばされゴロゴロ転がり、慌てて起き上がったオレが見たのは…。下顎と全ての牙を失い、横向きに倒れたジャバウォックの姿だった。


(水蒸気爆発、……狙ったとはいえ、やり過ぎたか?)


 防御フィールドがなかったら大怪我していたかもしれない。

 なんとか立ち上がり、同じく吹き飛ばされたらしいアリスが、無事に起き上がるのを確認して安堵する。

 ヤツの方はというと、目を回しているようだが、まだ生きているらしい。


「フェリ、カーラ、胸の中心を狙え。アリス、首を落とすぞ」


 探知により鼓動を感じた場所をフェリとカーラに任せ、オレは前から、アリスは後ろから首の切断を試みる。

 が、やはり浅くしか斬れない。


(埒があかんな。……よし、あれを試そう)


 このままでは、復活するまでに致命傷を与えられないと判断し、ファンタジー知識の引き出しから、あることを試す。


「アリス、『身体能力強化』の延長で、武器にも魔力を巡らせてみよう。武器も身体の一部だと思えば大丈夫」


 魔力を剣に伸ばすのではなく、剣の柄から剣先へと通し、また柄を通して身体へ帰すイメージ。


(これは、オレの手の延長……)


 試みながらも斬撃を繰り返していると、剣の中を滑らかに流れるようになった途端、刃がスッと通り、表皮どころか肉までも斬る。


(よし、上手くいった)


 ほぼ同時にアリスも出来るようになったらしく、すぐに首の切断に成功した。

 その時には、胸側の攻撃も心臓に達したのだろう、鼓動を感じなくなっていた。


(ミッションコンプリート、ってね)

 

 

ーーーーーー

 

 

「ご主人様」

「主様」

「アキラ様」

「「お話があります」」


 やり遂げたことで人心地ついていると、三人が「ゴゴゴゴッ」という文字を背負って話しかけてきた。

 忘れていた訳ではないが、水蒸気爆発の威力を見誤ってアリスを吹き飛ばしてしまった件だろう。フェリとカーラは離れていたので大丈夫だったはずなのだが……。言い訳にもならない。


「ごめんなさい。想定していた以上の威力でした」


 即座に全力で土下座した。

 身に覚えがある以上、迷う必要はない。


「そうではありません。もう少し慎重にお願いします。一番近かったのは、ご主人様ではありませんか。……どうかご自愛ください」


 見上げると、アリスもフェリもカーラも、相変わらず「ゴゴゴゴッ」という文字を背負っているが、その目には怒りではなく涙をたたえている。


(あれ?)


 どうやら本気で心配させてしまったらしい。よく考えたら、防御フィールドのことを知っているのはオレだけ。

 知っているオレが、吹き飛ばされたアリスを見て肝を冷やしたのだ。知らない三人が、より爆心地の近くにいたオレを心配するのは当然のことだったのだろう。

 ちなみに、三人に秘密にしているのは、防御フィールドを過信して無謀な行動に出るのを防ぐためだ。

 ……まぁ、オレが無謀な行動に出ていては話にならない気もするが。


「ごめん。気をつけるよ」


 立ち上がって三人いっぺんに抱きしめて頭を撫でる。

 正直な話、女子に泣かれるとお手上げなのだ。


「「ゔぅ〜……」」


 なのだが、泣き出されてしまう。

 オレが死ぬかもしれなかったという状況が、それだけショックだったということだろう。


(ここは自惚れて良いよね)


 しばらくそのまま頭を撫で続け、落ち着いたところで三人を解放する。


「主様。改めまして、ありがとうございます。主様のお力添えで仇を討てました」


 少し照れたような表情で言ってくるフェリと、同じく照れたような表情でうんうんと頷くアリスとカーラ。


 どうやら、なんとかなったらしい。


(やれやれ、ジャバウォックと戦う方がまだ楽だったね)


 ……なんて思った直後に。


「アキラ様。もう一つ、お話があります」


 と、真剣な顔でカーラ。


(ヒィッ! 心を読まれたのか!?)


 やましい事があっただけに、ついつい疑心暗鬼になったが。


「アキラ様の使われた魔法の説明をお願いします。わたしの魔法は、ほとんど効果がありませんでした。何か秘密があるのなら、是非」


 ……違ったらしい。

 今のカーラは、研究者の顔をしている。。


「オレは、沸騰直前の熱湯の球を放っただけなんだけど。爆発したのは、水蒸気爆発という現象だね」

「水蒸気爆発? ですか……」


 聞いたこともありません。なんて呟いている。


「まぁ、今はそこらへんは置いといて。後片付けしようか」


 ジャバウォックの屍体は、とにかくデカい。元の世界でも疫病の原因となりかねないが、ここがファンタジーの世界であることを考えるに、放置すると瘴気とかを産みそうな気がする。


「分かりました。後で詳しく話してもらいます」


 オレとアリスがジャバウォックを解体し、フェリとカーラが集落跡の片付けをすることにした。

 フェリに片付けをさせるのはどうかと思ったのだが。本人がそれを強く望んだのだ。

 フェリ自身が、ケジメをつける為に必要だと感じたのだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「行こうか」


 結局、解体と片付けに二日かかった。

 ジャバウォックの皮や骨は何かに使えるかもと思い、アイテムボックスに入れ、肉や内臓などは魔法で焼き尽くした。

 ちなみに、皮や骨をアイテムボックスに入れる際、小さな入り口に、とてつもない大きさの物が吸い込まれて行くさまは圧巻だった。


「……」


 いつまでも集落跡を見ていたそうなフェリの手を引き出発。かける言葉は浮かばなかった……。

 アリスとカーラもフェリに寄り添う。

 後悔しないために、失わないために、気をつけなければならない。

 改めてそう思う。

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