13、ファンタジー万歳
「おはようございます」
翌朝、カーラの爽やかな挨拶で目を覚ました。
何だかすっきりした顔をしている。昨夜は流れで両親のことを聞いたが、良い結果を生んだのではないだろうか。
「うん、おはよう」
簡単な朝食を済ませた後、今日もプリンをデザートで出す。
アリスと一緒に作ったものだが、昨日よりも出来が良い気がする。
「あぁ、この味です……」
「プリン、相変わらず素晴らしい」
「はぅ〜」
昨日よりマシな気はするが、やはり心ここに在らずという感じになった三人を連れて出発。
安全な街道をのんびり行くと、昼を過ぎたくらいから左手に広大な草原が広がり始める。
チルテ村では、この広大な草原で大規模な牧畜が行われているのだ。
(……この草原、オレが最初に居た場所か? あの時、反対方向に歩いて行けばこっちに来て、アリスに出会うことはなかった訳か……)
さらに言えば、その後の行動も変わり、フェリとカーラにも出会うことはなかったのだろう。
(不思議なものだよね)
運命という言葉は嫌いだし、世界の在り様を知った今となっては、そんな物は無いとも思う。しかし、人と人を繋ぐ縁というものは、確かにあると感じる。
「ご主人様。あの、……ありがとうございます」
「ん?」
「ちょうど草原を挟んで反対側くらいですよね、ご主人様に助けて頂いた場所」
「そうだね」
どうやら、アリスも同じようなことを考えていたようだ。
「奴隷になって、覚悟はしていたんですが、とても不安でした。そして、魔狼に襲われた時、……楽になれると思ってしまったんです。……でも! 今はとても楽しいです! だから、ありがとうございます」
そう言うアリスは極上の笑顔だ。
「どういたしまして。でも、こちらこそありがとうだよ。お世話になってるし、これからも迷惑をかけそうだし。これからもよろしくね」
「はい♪」
「主様、私も、ありがとうございます」
「アキラ様、わたしも感謝しているんですよ」
「うん、どういたしまして。でも、フェリはもう少し後に取っておいた方が良いんじゃないかな? これからジャバウォックを倒しに行くんだから」
「う、……そうですね。では、その時に改めて」
そんな会話もありながら、のどかな景色を楽しみながら進む。すると、草原の中、頭の横に雄々しい一対の角を持つ、四足歩行のごつい獣がチラホラと見え始める。その獣がテリーアらしい。
(うん。見た目はバイソンって感じだね)
盛り上がった背中の高さは、おそらく2メートルを超えるだろう。首まわりに鬣のようなフサフサな毛があって威圧感がハンパないが、見た目とはうらはらに大人しい草食動物らしい。
そして、さらに進んだ小高い丘で、群れをなしているそいつが見えた時、オレは我が目を疑った。
「あれは、……まさか」
それは、空ではなく大地を飛ぶように駆ける大きな鳥。
ダチョウより一回り以上は大きい身体、太い首に大きな頭、力強さを感じさせる太い脚を持っている。
「ファンタジーな世界だから、もしかしたらと期待はしていたが……」
感動に震えていると。
「ランバーがどうかしたのですか?」
アリスの問いかけで名前が分かった。
どうやらプリンの材料に使った卵は、あれが産むらしい。
「あれって乗れるのかな?」
「ええ、乗れますよ。ご主人様の故郷には居なかったのですか? 馬のように荷を引くことはありませんが、速度と走破性には優れています」
アリスの故郷を訪れる冒険者が、まれに騎獣として乗って来ることがあったらしい。
(乗れる! あれに乗れる!! ファンタジー万歳!!)
もはやテンションマックスである。
「ただし、一羽あたり最低でも金貨二枚はしますね」
ここで衝撃の事実。
(ぐはっ! 金貨二枚!?)
元の世界のお金で、だいたい二百万円くらいだろう。新車の大型バイクを買うようなものだと思えば、卵を産んでくれる分、お得なようにも思えてくる。
しかし。
「……金貨二枚か〜」
所持金が足りない。
がっかりしていると。
「も、申し訳ありません。わたしのせいですね」
なんてカーラが言ってくる。
どうやら肩代わりした借金の金額を気にしたようだ。
(おっと、マズいな)
……これは気を付けてフォローしなければならない案件だ。
「うん、そうだね。カーラのせいだ」
と言って、カーラを抱きしめて……。
「だから、今夜はたくさんしようね」
と耳元で囁く。
「あ、あぅ、……が、頑張らせていただきましゅ」
カーラは真っ赤になってしまったが、まんざらでもない様子だ。
(どこのスケベオヤジだよ)
思わず自己嫌悪しそうになるが、チラッと見たアリスとフェリは微笑ましいものを見るようなニコニコ顔。どうやら問題なさそうだ。
(ふ〜、やれやれ。人間関係は難しいね)
ランバーは買えない。だがしかし、買う以外の方法でどうにかする目星は付いている。
大地を駆ける鳥に乗って移動するのは目立ってしまうのでは? という心配がなくなったことが重要なのだ。
「ご主人様。何だか楽しそうですね」
「フフフ、ま〜ね〜」
そんな会話をしながらさらに進むと、集落が見えてくる。どうやらチルテ村は塀で囲まれてはいないようだ。
大量に飼育されているテリーアやランバーたちが魔物を近付けないらしい。大人しい性質だが、魔物を寄せ付けない強さを持っているのだろう。
「チルテ村、到着だね」
「はい♪ それにしても、途中で見たテリーアもランバーも沢山いましたね」
「主様。この地では、卵も乳も安く手に入るんですよね?」
「ということは、……プリンが沢山?」
フェリとカーラがキラキラした顔をこちらに向ける。しかし残念ながら、黒砂糖を使い切ったのでプリンは作れない。
(うーん、絶望されそうなのでこれは黙っておこう)
夕食は宿の食堂で、分厚いテリーア肉のステーキ。ジューシーで柔らかく、肉の旨み溢れる最高の肉だった。これが一人銅貨五枚(五百円くらい)なのだから、かなり安いだろう。
(さすがは産地)
そして夜は、約束通りカーラが気を失うまでたくさん致してから眠りについた。
その最中、イヤーカフを渡した時の態度が気になっていたので聞いてみると、どうやら最初のうちは「身体はともかく心までは渡さない」という思いがあったらしい。……のだが、たった二日だが一緒に過ごしてオレを知り、今では心もオレのものなのだそうだ。
……ククク、チョロいな(照れ)
ーーーーーー
「今日は情報収集しながら村を見て回ろうか」
宿の食堂で、そんな会話をしながらの朝食。メニューはランバーのモモ肉の照り焼き。程よい噛みごたえの風味のよい鶏肉の味だった。
美味しい食事に満足していると。
「冒険者の方とお見受けします。どうか依頼を受けて下さらんか?」
話しかけてきた好々爺は、チルテ村の村長だそうだ。
村長の話を聞かない訳にもいかない。
「実は、この村では東の森のエルフの村と、細々とじゃが取り引きがあっての。ところが、最近そのエルフの村と連絡がつかんらしい。冒険者様は、見たところお仲間にエルフの方がいらっしゃる。何かあったのか、様子を見に行って欲しいのじゃ」
情報収集が終わってしまった。
どうやらフェリの村の出来事は伝わっていないらしい。つまり、フェリ以外の生存者はいない可能性が高いということか。
(さて、どうしたものか)
というのも、元々はこっそり倒しに行く予定だったからだ。
ジャバウォックは討伐依頼が出るならAランク。そんな魔獣をDランクの冒険者が倒すのは目立ち過ぎるだろう。
チラッと仲間に目線を送ると、オレに任せます、という感じに小さく頷いてくる。
(見に行った時にはすでに倒されていた。という事にしておけば良いかな? 後から調べられることはないと思うが……)
案ずるより産むが易しだ。
「分かりました。行って来ましょう」
簡単な契約を交わし、すぐに出発することにした。




