12、至高
「おはよう」
翌朝、なぜか恨めしそうにこちらを見るアリスとフェリ、そして頬を染めるカーラに爽やかな挨拶をする。
……もちろん、昨夜は楽しませていただきました。まず、例によってオレのお風呂上がりに、すっかり出来上がっていたカーラと一回。その後、心に誓った通り、アリスとフェリが気を失うまで容赦無く頑張った。すると、カーラがその様子に怯えた様子を見せるので、最後に優しく一回致して終了。
(うん、オレは悪くない)
なんだか絶倫になっているが、おそらくステータスの体力値などが関係しているのだろう。
「朝食後、もう一度リビングに集合ね」
そう言って、全員でお風呂で身体を流して宿の食堂へ向かう。
今日の朝食はテリーアの骨付き肉を焼いた物。
(乳、肉ときたからには、おそらくこの世界の牛的なものかな?)
旨味溢れる美味しい肉だった。本当に、この世界の食材は質が高い。と言っても、元の世界の高級肉なんて食べたことはないのだが……。
(いっそ創ってみるか? A5ランクの和牛。……ステーキで食べるならサーロインだっけ? うーん、創れるとは思うんだけど、それは何か違う気がする。でも、ちょっと味を比べるくらいなら……)
とても魅力的な思い付きだが、堕落してしまいそうだ。
「……アキラ様?」
「カーラ。主様は度々こうなられます。気にしない方が良いですよ」
ふと気付くと、隣にいるアリスがなぜかうんうんと頷いている。
(……何を考えてたんだっけ?)
まぁ、思い出せないなら大したことではあるまい。
「みんな食べ終わったね。じゃあ、部屋に行こう」
「はい♪」
「分かりました」
「あ、……はい」
リビングに三人を待たせ、冷蔵庫から昨夜作ったプリンを取り出す。
黒砂糖のせいか、やや茶色くなっているが、上手く出来ていると思う。
「これが今回用意したデザート。プリンという、オレの故郷の食べ物だよ」
「ご主人様の故郷の……」
「見た事のない食べ物ですね」
「へぇ。変わってますね」
オレが食べてみせると、おそるおそる口に運ぶ。
「うん。美味しい! 良い出来。後はカラメルソースだな。黒砂糖で作れたっけ?」
黒砂糖を使ったことで独特の風味がついているが、それもまた悪くない。むしろ想像以上に美味しく出来ている。やはり素材が良いのだろうが、器用値の補正も入っているのかもしれない。
ひとり満足していたが、周囲の反応がない。顔を上げて三人を見ると、三人ともスプーンを咥えて動きを止めていた。
(なんだ?)
オレは首をかしげる。すると、それをきっかけにしたかの様に揃って動き出し、飢えた獣並の勢いでプリンをかき込む。
オレの趣味でマグカップサイズに作ったプリンが、綺麗になくなるのに五秒かからなかった。
「こんなに美味しいもの知りません……」
「プリン、素晴らしい食べ物です」
「はぅ〜」
アリスはハラハラと涙を流し、フェリは瞑目し、カーラはスプーンを咥えて遠くを見ている。
「……お、おう。お気に召したようでなにより」
確かに、この世界の女性も甘い物がすきそうなので、間違いなく気に入ってもらえるだろうとは思っていた。しかし、想像以上の破壊力があったらしい。
その後、うわの空で足元の覚束ない三人を連れて出発する。
新たにカーラが仲間になったが、完全に後衛だし、レベル1でも冒険者としての経験がある。予定通り今日で鉱山の町セルエムを発ち、ジャバウォックを倒しに行っても大丈夫だろう。
ということで、向かうは北。大きな牧場のあるチルテ村だ。
ーーーーーー
「ご主人様。お話があります」
セルエムの北門を出てすぐに、再起動したアリスが小声で聞いてきた。
「先ほどのプリンは、ご主人様が創られたのですか?」
おそらく、《創造》の能力によるものかを聞きたいのだろう。
小声なのは、門を出て人が少なくなったとはいえ、オレたちと同じようにチルテ村へ行く人が数名近くにいるせいだと思う。
チルテ村までは徒歩二日あるのだ、いくらでも聞く機会はあるはずなのだが、気になり過ぎて我慢出来なかったということか。
「いや。セルエムで買った材料を調理したものだよ」
「そうなんですか!? では、作り方を教えて頂けませんか?」
そうとう気に入ったのだろう。さすがは至高のデザート、プリン。これほどお手軽で美味しいスイーツが他にあるだろうか。いや無い!
「良いよ。まだ材料はあるから、今夜にでも教えるよ」
「ありがとうございます♪」
非常識な能力によるものではなく、自分でも作れるものだということが嬉しいらしい。
ニコニコ顔のアリスを見て、この娘かわいいわ〜。なんて思っていたら、さらなる要求が来た。
「あの、……もし他にもご存知のレシピがあれば、教えて頂けませんか?」
これまたおそらくだが、アリスが聞きたいのはスイーツ系のレシピだろう。
しかし、プリンは家庭科の授業で作ったのを覚えていただけで、他には何も知らない。
(さて、どうしたものかな)
この世界のデザートといえば果物だ。蜂蜜や、黒砂糖をまぶした揚げ菓子などはあるが、正直、スイーツと呼べるほどのものではない。
甘党のオレは、そんな現状に満足出来なくてプリンを作った訳だが、この先プリンだけで満足出来るとは到底思えない。
もちろん、能力でケーキなどを創ればオレの食欲だけなら満たされると思う。
しかし、それではダメな気がするのだ。どうせなら、この世界で生産出来る物を。
(もしかしたら何とかなるか? ……でもなー)
いまいち踏ん切りがつかない。
「ご主人様?」
「あ、ごめん。もともと料理する方ではなかったから、今は思い出せないや」
そう言って誤魔化した。
考える時間はある。急ぐ必要はない。
ーーーーーー
「じゃあ、今から魔力操作を覚えてもらうよ」
昼食の後の休憩中。探知で周囲に誰も居ないことを確認し、カーラに話しかける。
「魔力操作?」
「そう。カーラにはカーラの考え方があるとは思うけど、取り敢えずやってみて」
オレは、カーラの持つ知識と経験が魔力操作習得の妨げになるのではないかと思っている。
とはいえ、勝算もある。学習能力上昇と、以前感じた奴隷契約による繋がりだ。
「……分かりました、頑張ります!」
――結果、カーラは魔力操作が使えるまで一時間ほどかかった。が、そのあと、無詠唱などはすぐに出来るようになる。
後で聞いたカーラの自己分析でも、持っていた常識さえ邪魔をしなければ、コツはつかみ易かったらしい。
「……こんなことが出来るなんて。……これでは、魔法語の意味が」
魔法に対するこれまでの努力が無駄になった気がしたのだろう。しょんぼりしている。が、大丈夫なはずだ。
「カーラ。『身体能力強化』しながら無詠唱で魔法は使える?」
しばらく、う〜ん……と唸りながらやっていたが。
「……ダメですね。二つ一緒には出来ません」
「じゃあ、『身体能力強化』しながら詠唱して魔法を使ってみて」
詠唱による魔法に対するオレの印象は半自動。つまり、魔力操作の負担が少ない詠唱でなら、《想像力強化》のチート無しでも大丈夫なのではないかと思ったのだ。
そして、オレの予想は見事的中する。
詠唱したカーラの指先に火が灯ったのだ。
「……出来ます! 出来ます!! アキラ様、ありがとうございます」
そうとう嬉しかったらしい。オレに飛び付き抱きついてきた。
「ぐえっ!」
『身体能力強化』された予期せぬ行動に、思わず変な声が出る。
(そういえば、防御フィールドは切りっぱなしだった)
オレのは他の三人のと違い、自動ではないのだ。
声に気付いたカーラは、少し拘束を緩めると、オレと目を合わせクスクス笑い出し、アリスとフェリは、こちらの様子をニコニコ顔でうんうんと頷きながら見ている。
(まぁ、楽しそうだし。今回に関しては問題無し)
ーーーーーー
「それでは、魔法語の講義を始めます」
明日には問題なくチルテ村へ到着するということで、その日の夜は早めにシェルターを設置した。
お風呂に入った後、アリスと一緒にプリンを作り、夕食を済ませると。オレ、アリス、フェリはカーラ先生の講義を受ける。
我ながら驚きの学習能力だが、最近のオレは日常会話において翻訳の指輪を必要としていない。この調子なら、魔法語の習得もさほど時間はかからないはずである。
「ご主人様は魔法語を習う意味があるんですか?」
と、聞いてくるのはアリス。フェリも同じ疑問を持ったのか、興味深々な様子でこちらを見ている。
しかし、カーラはオレが『身体能力強化』しながら無詠唱で魔法を使うところを見ていないので、キョトンとした顔をしている。
「回復魔法とか、いまいちイメージしにくいものがあるんだけど、最初に詠唱で発動するとイメージが明確になると思うんだよね」
と言ったが、回復魔法に関しては回復薬を創れるので、それほど困らない。
では何故かというと……。
(なんとなく恥ずかしいんだけど、……そう、自力で空を飛びたいんだよね)
『飛行』という魔法があるらしいので、無詠唱でも出来るはずなのだが、個人的に空を飛ぶのは回復よりもイメージしにくい。
「ご主人様、……何か隠してますね?」
ぐぬぬ。アリスに見透かされたらしい。
ここは話を逸らそう。
「そういえば。カーラの両親の実験って何だったの? あ、問題なければでいいんだけど」
話題の転換に成功。アリスも興味があるようだ。
「もう二年前ですから。問題ないですよ――」
少し遠い目をしながらだったが、話してくれた。
カーラの両親は、空間転移の研究をしていたらしい。が結局は、人の魔力ではコインサイズのものを数センチ移動させるのが精一杯、という結論が出た。
「そこで閃いたらしいのです。物質同士を転移で重ねれば、全く新しい物質が生まれるのではないかと……」
とんでもない思い付きだ。
(……え〜と、それってマズイですよね?)
元の世界では、核融合反応が起こり、大爆発すると推測されていたはずだ。
「もちろん、不測の事態に備えて厳重に結界を張ったはずなのですが……」
町から離れた場所での実験だったために、死者は両親だけだったが、半径50メートルのクレーターが出来たらしい。
よくその程度で済んだものだ。よほど厳重に結界を張ったのだろう。
(放射能とか大丈夫なのかな? う〜ん、……いざという時の為に健康を回復する手段を考えておくべきか)
話を聞いた後、何だかしんみしてしまい、珍しく何もせずに四人で寄り添って眠る。
「……うぅ」
夜中にふと目を覚ますと、カーラが眠ったまま涙を流していた。
やはり両親を思い出させたからだろうか。
そっと涙を拭い抱きしめると、安心したように頬をすり寄せてきたので、そのまま眠りにつく。




