103、宴
「皆の者、今日は良い出会いに恵まれた祝いである。存分に騒ぐがよい。ケロ」
長カエルさんの宣言で、他のカエルさんたちの真似をして木製のジョッキを掲げ。
「「良い出会いに感謝を。ケロ」」
満たされた発泡酒に口をつける。
これで後は好き勝手に飲み食いしていいようで、集まっていたカエルさんたちが広場へと散って行く。と言っても、オレたちは長カエルさんの近くにほぼ固定で、お世話をしてくれるカエルさんがついてくれるのだが。
「皆様は焼いた方がよろしいですか? ケロ」
聞いてきたのは雌、いや女性? なのか、首から頭頂へとリボンを巻いたカエルさん。気配から感じる成熟具合は中年くらいだろうか。ここまで案内してくれた方でもあるのだが、世話焼きなおばちゃんといった感じなのかもしれない。
「そうですね、お願いします」
沢山のかがり火で明々と照らされた広場の各所にはテーブルが置かれ、その上には山のように積まれた生肉とお酒が入っていると思われる樽。どうやらカエルさんたちは完全に肉食で料理をするような習慣もないらしく、拳大に切り分けた生肉をそのまま丸飲みにしているようだ。しかし、お肉は例の水牛の物のようだし、オレたち的にはきっと焼いた方が美味しいだろう。
「――なんと! 皆様はあの海を越えていらしたのか! ケロ」
長カエルさんとワンちゃん教授に挟まれたオレは、今度は長カエルさんにオレたちの話。先ほどのワンちゃん教授は北大陸に興味津々という感じだったが。
「とは言え、誰もが安全に海を渡れるようになったというわけではありませんが」
「ふむ、ならばドラゴンの御技を継ぐ方々が大挙していらっしゃるというようなことはないのですな。ケロ」
長カエルさんの方は、さすがと言うべきかこれからの集落のありようを考えたようだ。
その間嫁たちはというと、やはり好奇心旺盛なのかいち早く寄ってきた子供カエルたちに話を聞かせていて、請われるままに簡単な魔法も使って見せているようで、楽しそうな歓声も聞こえてくる。
「――なんと、それではドラゴンの御技、いや魔法は誰でも使えるようになると!? ガウ」
「なるほど、失われたのは種族ではなく知識であった、と。ケロ」
嫁たちが使う魔法も見えたということで、そのまま魔法の話をしてみた。
さすが《創造》製の翻訳の指輪。長カエルさんとワンちゃん教授どちらにも聞かせるつもりで喋ってみると、どちらにもちゃんとそれぞれが慣れた言語で聞こえている様子。
「な、ならば、ぜひ私に魔法を……。ガウ」
と、ここで止まってしまうワンちゃん教授。
きっと魔法を教えて欲しいと言いたかったのだろう。しかし、今は迫りくる災厄に関して調べている最中でそんな余裕がないことに途中で気づき、知識欲を満たせないショックで思考停止してしまった感じだろうか。
「「おおっーー!」」
そうこうしていると、嫁たちの方はいつの間にか武系の茶色いカエルさんたちと模擬戦など始めており、槍の部門でアリスが立て続けに何人かを下してどよめきが起きている。昼間助けた護衛カエルさんあたりに手合わせをお願いでもされたのだろうか。
(他の嫁たちも豊富な魔力の『身体能力強化』で力押しするんじゃなくて、ちゃんと技の応酬をしてる感じだね)
頻繁に早朝訓練はしているのだが、仲間内だけでやっているとどうしても技術的に行き詰まってしまう。こういう時に外からの刺激が入ることで、オレたちもさらに強くなれることだろう。
「うむむ、話は聞いておりましたが、皆様お強いですなあ。ケロ」
「ありがとうございます。いちおう北大陸ではトップクラスの強さだと自負していますよ」
「そんな皆様が友好的な方たちだというのは、まことにありがたいことですな。ケロ」
長カエルさんとそんな会話をしていると。
「……そ、そうだ。皆様はこれからどうなさるのですかな? ガウ」
やっとワンちゃん教授が再起動したようだ。
「これから……。そうですね、オレたちの基本的な目的は観光ですから、ここから東へ行くことになるでしょうか」
ワンちゃん教授的には、ケロッグ族の集落方面へ行くなら案内がてら魔法を学べないだろうか、といった思惑もあったのかもしれない。しかし南大陸の西端にあるこのケロッグ族の住む地域は、つい最近通ってきた北大陸南部地方のような湿地帯になっているらしいのだ。
それになにより。
(こと観光となると、あまりケロッグ族は魅力的じゃないんだよなぁ)
とても善良な気のいい種族のようではある。しかし、あまり住居にこだわりはないようなので集落ごとの違いなどもなさそうだし、食事は肉と酒さえあればいい感じ。ケロッグ族に関しては、この集落一ヶ所を見ればもう十分だろう。
「うむむ……。であれば、ご迷惑でなければ案内する者をご紹介させていただけまいか。そして、よろしければその者に、その……。ガウ」
「おお、案内をつけてくださるのは助かりますね。そして、その方に魔法を教えて欲しいということなら喜んで」
「な、なんと、よろしいのですか!? ガウ」
「おお、先生のお身内に魔法を伝授してくださるのか。それはいずれ我らケロッグ族にも利益となりましょう。ケロ」
南大陸は魔法が失われている上に災厄であまり技術が発展していないのに対して、北大陸では魔道具技術のブレイクスルーが起きたところである。このままではいずれ訪れるであろうオレたち以外の北大陸勢との接触時、南大陸の住人たちが一方的に不利な状況になりかねないのではないか。
(で、嫁たちと相談した結果、それなら南大陸にも魔法と魔道具を広めよう、ってなったんだよな)
ワンちゃんやウサちゃんネコちゃんなどなど、このままではきっと隷属されて愛玩動物のように扱われるに違いない。しかしそれは決して許されない。と、まだ存在を確認したわけでもない種族も混ぜてヒカリが力説していたが、確かにそうなりそうだとは思う。
(まぁ、同レベルで出会ったとして、それはそれで問題が起こりそうでもあるんだけどね)
南北大陸間で全面戦争になってしまうような、そんな最悪な出会いにはならないで欲しいものだ。




